婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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母子は再会する

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「着いたぞ、ノリエッタ」
王都から領地に向かう道中でも、ノリエッタは不貞腐れたままで馬車の中の空気は最悪だった。機嫌をとろうと話しかけるフィリシウスにもまともに応じないので、彼も途中で会話を諦めた。
これまでの侍従達は揃って実家に帰った。王族から籍を抜かれ、名ばかりの侯爵家を継ぐ彼に先の見込みはないと判断された形だ。フィリシウス自身、薄々その事実は察して彼も落ち込み気味で到底恋人の不機嫌を宥める程余裕はない。
硬い声音にノリエッタは不機嫌な一瞥を投げるが、フィリシウスは既に馬車を降りていた。彼女の反応等どうでもいい、とばかりに。
それでも、自分が降りてから彼女に手を差し出してきたのはこれまでの教育の賜物だろう。臣籍に下ったとは言え、王子として最低限の礼儀作法は心得ている。同乗する女性をエスコートしないことは考えられない。ノリエッタの方はその辺り全く考えが及んでおらず、不機嫌な膨れっ面のまま馬車を降りた。その刹那、声を掛けられる。
「フィリシウス殿下、いえ、フィリシウス・ハーリット侯爵」
思いがけない呼び掛けに、彼は驚愕の視線を投げた。そこに佇んでいるのは中年の婦人二人だ。一人はフィリシウスも顔を見たことがある、ハーリット侯爵夫人、つまりノリエッタの義母だ。
「……侯爵夫人ではないか」
わたくしの立場は既に変わっております。そう呼ばれるべき者は、貴方の隣に」
ノリエッタとフィリシウスは、建前上既に結婚したことになっている。だが彼女の望んだ華やかなお披露目が許されるはずもなく、王宮に滞在していた期間も互いに厳重な監視下にあり、接触する機会もろくになかった。
それでも元侯爵夫人の言う通り、フィリシウスが現侯爵となった以上ノリエッタが侯爵夫人なのだ。それに思い至ってノリエッタは表情を輝かせるが、義母は至って平静に続けた。
「私はしばらくこちらの領地について説明などさせていただきます。その他侯爵家の経営状況等、ご質問ございましたらお申し付けください」
「あ、ああ……世話をかけるな」
鷹揚に頷いたフィリシウスだったが、ふとそこで気づく。
「……では、貴女はその後はどうなさるのだ?侯爵は新しい領地へ向かわれたと聞くが、そちらへ行かれるのか」
「お気遣いありがとうございます。私は王太后殿下の許で女官としてお仕えする旨、決まっておりますので。彼女と、共に」
実質は療養ついでの話し相手として、であり王太后の庇護下に入ることで社会的に身を守る意味もあった。そこまでこの若夫婦には理解が及ばないかもしれないが。
「そちらの……?」
元侯爵夫人の半歩後ろに控えたのは同じ年頃の婦人だ。だが質素なワンピースドレスは明らかに使用人階級のもの、わざわざ王族の許へ連れていく人物には見えない。
「こちらは『先読みの魔女』。ノリエッタ嬢の産みの親でらっしゃいます」
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