婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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元令嬢は納得しない

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ノリエッタはとても納得いかない。
物心つくかどうかの頃から、父は彼女を甘やかした。欲しいものは何でも買い与えられ、甘いおやつや綺麗なドレス等、素敵なものをたくさん贈ってくれた。
時には他の人間に陰口を叩かれたり面と向かって罵られることもあったが、皆おまえが羨ましいから嫉妬してるんだよ、と父が言ったその言葉を信じていた。
実際、自分に冷たく当たったり叱責したりしてくるのは揃って自分より可愛くない女やおっかない男で、親しく付き合いたい者はいなかった。中でも一番口煩く鬱陶しいのが、侯爵家の義母。
義母の侯爵夫人は、自分も身体が弱いとかで滅多に王都に出て来ないくせに、ノリエッタに対し貴族令嬢として品位ある振る舞いをしろ、とやかましい。異性に軽々しく声を掛けたり、ましてや自分から相手に触れるなんてとんでもない、としばしば目を吊り上げて叱りつけた。
その癖侯爵家に代々伝わる宝石だのの高価な品は持たせてくれないし、ドレスを新調するのもいい顔をしない。たまに許可しても許されるのは趣味の悪い古臭くて地味な代わり映えしない代物で、ノリエッタはさっさと見切りをつけた。
何も煩い彼女に頼らずとも、父に甘えれば幾らでも素敵なドレスを誂えてくれる。ただし宝飾品は、「おまえに魅力があれば、きっと素敵な男性が貢いでくれるさ」と言われたので、知り合った男性に強請ねだってみたら本当に買ってくれた。
彼は末の王子に仕える侍従で、見た目も良かったが、何よりその王子に紹介してくれたのが良かった。末っ子のフィリシウス王子は義姉の婚約者だと聞いてはいたが、ノリエッタは面識がなかったのだ。
まさに絵に描いたような美貌の王子に彼女は夢中になり、それまでに得た技能を駆使して彼の心を奪った。元々義姉のセイラとは政略上の、互いに好意どころか興味もないような付き合いだったらしい。
それをいいことに「セイラ姉様は私のことが嫌いなの」とか「『魔女』に人間の気持ちなどわからないわ」とか涙ぐんで訴えれば全部真に受けてくれた。正直ちょろいとも思ったが、やり易いのは確かだった。
何しろこの末の王子は、高位貴族の子弟が側仕えとして付いていて、彼等もノリエッタに好意を示してくれる。揃って見目麗しい貴公子達にちやほやされるのは例えようもない快感だ。
(ノリエッタ自身は未だに理解していないが、フィリシウス王子につけられていた側仕え達は確かにそこそこ有力な貴族子弟ではあるが、いずれも三男以下の家督を継ぐ可能性はない者ばかりだ。今はともかく将来は自分で食い扶持を稼がねばならない不安定な立場で、しかも彼等自身大した技能がある訳ではない)
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