くつろぎ庵へようこそ

あきづきみなと

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出店要請1

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店の扉は、この辺りの家屋に多いガラスの引き戸だ。模様や桟が入って中は見え難い。
その上の電灯を消し、鍵を掛けると閉店。店の営業時間は九時から六時。昼休みはないが、客が一人もいない時間帯もある。その意味では気楽だ。 もっともそうでなければ、一人では切り盛りできないに違いない。
 灯りを消して鍵を掛け、それを確認して振り返る。
と同時に、声が掛かった。
 「お疲れ様」
 「はい、お疲れ……って、ええ?!」
 反射的に応じてから鈴は悲鳴をあげる。他に雇う者もいない閉店した店内に、彼女以外の人間がいること自体おかしいのだ。
 咄嗟に巡らせた視線の先、カウンターの端に腰をおろした青年。
 後で考えると、『彼』を『彼』と認識した理由は自分でもよくわからなかった。
 掛けられた声も顔立ちも、男とも女ともつかない無個性さで、まるでマネキン人形のよう。容姿は整っているが、やはりどこか人形めいた生き物の体温を感じさせない。年の頃なら小学生高学年くらい。シャツとパンツも無個性極まりないテクスチャー、それが彼の作り物めいた感をいっそう強めている。
この上なく怪しい存在だが、恐怖は感じなかった。作り物っぽ過ぎて却って現実感がないというか、よくわからない精神状態だったとはいえる。
 「……あのー……どちら様ですか?」
 鈴の問いに相手は至極当たり前のように頷く。
 「うむ、肝の据わった者だな。こういうときはこう言うのだったか。『はじめまして』」
あくまで真面目に返されて再度反射的に鈴も応じてしまう。
 「はじめまして……それで、あなたは?」
 「私は、リンティス・トゥトゥミーアという。君は?」
 「……私は、遠江鈴、です。ご用件はなんでしょうか」
 人が出入りする店だからこそ、防犯には気をつけている。誰もいなかったはずの閉店後の店内に唐突に現れた存在が真っ当なものであるはずがない。
ぐるりと店内を見回した『彼』はあくまで淡々と告げた。
 「あなたのお店を、私の世界でも営んでもらえませんか」
 「……はい?」
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