くつろぎ庵へようこそ

あきづきみなと

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私のお店・3.5

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「鈴ちゃん、今日のお昼は何があるの?」
 「鰤安かったから、魚定食は照り焼きにしようと思うんですけど」
 「あー、いいねえ。この前のフライも悪くないんだけどさ、歳とると揚げ物はなかなかねえ」
 鈴は割と早くに実家を出て長く帰らなかった。長期休暇には戻ることもあったが、生活実態はこちらにはなく、そのせいかその頃以降に覚えた料理の味はこの辺では目新しいものであるらしい。
 農家は多いしズッキーニやバジルなど、流行りの洒落た野菜を作っている家も少なくない。けれどあまり自宅では使わないとか、食べ方が今一つ分からないとかで実際に料理をする側が保守的だそうだ。
 鈴もあまり得意ではなかったがズッキーニの肉巻きやオイスター炒めとかバジルならガパオとか、その程度の目新しいメニューを作るとそれなりに受けはいい。ただまあ、ありがちな照り焼きとかしょうが焼きの方が人気はある。
この地域は汁物なら味噌汁、煮物は醤油味、たまに酢の物程度が一般的だ。保守的で面白味に欠ける。特に煮物は砂糖で甘みを付け濃い醤油で真っ黒に仕上げる、糖分塩分共に多めの味付けが普通だ。
もちろん各家庭でもう少し薄味にしたり工夫を凝らしているところもあるし、それなりには美味しいが、歳を重ねた夫婦二人暮らしだとか一人身だと、慣れ親しんだその味から離れることがまずない。新しい味に興味はあっても面倒だったり尻込みしたりして試してみる気持ちはないらしい。特に男性は、女性と比べれば珍しい味には拒否反応が強いようで、これは実は異世界でも同じだった。 
くつろぎ庵に良く来る女性客は大概主婦で、普段は自分で料理をしている。そのせいもあるのだろう、外で食べるときは自分では作らないような味も試すだけは試してみる人も多い。
外食くらい物珍しいものを食べたいという気持ちはわかるし、どうせならそれが美味しければ得をした気になるというものだろう。
それは、『ここ』に限った話でもないと思う。
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