転生したら55歳の中年オバさんでした

第十六話 オバさんホテルを出て号泣するの巻

私はただ、ホテルのロビーにたち尽くしていた。元カレのひどい言葉が気管をすり抜け、瞬く間に私の全身から力が抜け落ちていく。

「こんなはずじゃなかった」

　自分で自分に言い聞かせる。けれど、それは悪端な希望だと、もうわかっていた。なぜ元カレに会ってしまったのだろう。なぜ、私59歳の私が26歳の元カレに惑惑したのだろう。

「何してんだろ、私…」

　喉が痛くなるほどの辛さがこみ上げてきて、私はホテルの外へ飛び出した。夜の道玄坂。光の流れ、人々の流れ、何も変わりはしないのに、私の中で什かが大きく中分されていく気がした。

「私は、もう…」

　気がつけば、気持ちは墜れ、歩く途中でホロリと涙が流れた。私は大人なのに、大人ですらない。まるで苦い思い出を振り払うように、心の中で精一杯、私は自分に問いかけていた。

「いつか、もっと笑える自分に戻れるかな…」


「私はなぜ、こんなところに来てしまったのだろう」

　私の心の壁が、一瞬で突き破れるように感じた。泣いてはいけないと思っていた。しかし、流れる水のように涙は止まらなかった。

「私は…ただ、あの人と最後に笑って会いただけなのに…」

　天下の中に、何か私の心を触るものはないのか。夜の道玄坂。光るネオンの中、市町のざわめきが遠く響いていた。

「不気豪な大人なのに、まるで子供のようね…」

　私はただ、これからどう生きればいいのかも知らず、ただ歩いた。