転生したら55歳の中年オバさんでした

綾羽 ミカ

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第二十五話 オバさん窮地に陥るの巻

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ホストクラブの燃えるようなネオン光の中、私はただ座っていた。グラスが溢れをするように並べられたシャンパンボタンの数。手に残るゴッドシャンの香りが、まだ眠れない夜を征する。

「オバサン、今夜は楽しめましたか?」

 私の前に座ったホストのアキラが満面の笑顔で聞いてくる。私はこのイケメンな男たちと過ごした夜に、ごく自然な笑顔をこぼしていた。しかし、次の瞬間、アキラの手から高級ペーパーホルダーに紙を押し付けられる。

「こちら今日の会計でございます」

 私の手の中にしっかり付き続ける真白な伝票。そこにデカデカなフォントで書かれていた。

「2,500,000円」

 私の時間が止まった。 

私は、目の前の白い伝票を怖る怖いと思いながら視た。「2,500,000円」。その数字が一度頭に入ってきて、そして次の瞬間に、気持ちが真っ白になった。

「お客様、どうされますか?」

 ホストが笑顔を残しながら、やけに優しい声で言った。しかし、この声の背後には「逃げることなんて考えせんほうがいいよ」と言われている気がした。

 その時、私は思った。「逃げるしかない」と。

 私は手を振るえながら、まずトイレに行くふりをした。「あ、ちょっとごめんなさい、少しトイレに行ってきます。」涙笑で言うと、ホスト達は一瞬他のホスト達と目を交わせ、その後に私に笑顔を向けた。

「いいですよ。ご利用ください。ただ、長いことはなさらないでくださいね」

 その言葉は、「私たちはもうとっくにあなたの考えはお見通しなのよ」と言われているようだった。私はまずいと思ったが、でも行くしかなかった。

 私はトイレに駆け込んだ。手に付いた滑らかな染め抜きのカウンターに親指で付いたりしながら、一歩、また一歩と小さく進む。「トイレの窓、窓は…」

 私は振り返ってドアを見た。「少し時間をくれ」。とにかく、逃げる方法を探さねばならない。

トイレのドアを閉めた私は、激しく動く自分の心臓を押さえながら周りを見回した。「窓…窓…」すぐさまに親指をつき出し、身長ほどあるハイスをたどる。

 あった。小さな小窓が。しかしこの上なしの場所、どう考えても私が通れるサイズじゃない。それでも、海考えでのもちゃない。ふと小さな目のところから外の光が流れ込む。

「やってやるわ」

 自分自身を動かせながら、指をかけてトイレの柄に乗り、つま先で倒れないように注意しつつ、体を持ち上げた。

「くっ…怖い…」

 生死の境界で私は身体を窓に乗せ、外の光にきらめきながら失敗を恐れる。しかし、会計は待ってくれない。私は動かねばならない。

「私は…この窓を通れるの?」

 手で窓の張りを伸ばし、どうにか逃げる手段を求める。この夜を生き抜けるために。
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