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第一章 開店準備
一話 空腹少女
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私は花の14歳だ。14歳と言えば、恋愛に部活に友達付き合いにと、多忙を極める凄く楽しい時期だと思う。
私はその大事な時期に親からネグレクトを受けている。
「ほら、理子。10円、これで何か買って食べな」
「……ママ、10円じゃ、今時うまか棒も買えないよ……」
うまか棒は子供でも買える安価な棒状のスナック菓子だ。昔は10円で買えたらしいけど今は10円では買えなくなってしまった。
私は乱雑なテーブルに向かって投げつけられた10円玉を拾い上げ、悲痛な表情でママに訴えかけてみる。しかし返ってきた答えは想像を絶するものだった。
「そんな事、ママ知らない」
「……」
ママ知らないとかそうゆう問題ではない。育ち盛りの娘が飢えに苦しんでいるのに手を差し伸べてくれないなんて……。
「じゃあママ、あっくんの所に行ってくるから。留守番よろしく」
「……行ってらっしゃい」
あっくんというのは元ホストのチャラ男だ。年は28歳。担任の先生と同じ年なのに絶望的に幼くて、ママに取り入るのが凄く上手い。ホストだから貢がせるのは得意分野なのだと思う。
私はどんなに絶望的な状況でも必ず『行ってらっしゃい』とママに言う。どんなに愛のない親でも、親ガチャに失敗したとしても親は親だ。
それに、いつお互いに死ぬか解らない。だから挨拶はとても大切にしている。
バタンっと玄関のドアが乱暴に閉まる。ママの履いているサンダルのヒールが鳴らす音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は頭の中で考える。この10円でママが返ってくるまでどう過ごすか考えてみる。
そもそも最初は1000円だった。それが500円、100円と減っていき今や10円に……。ママが返ってくるまでの期間も1日から2日に。2日から3日に。どんどん間隔が広がっている。
他に小銭はないか、ママの服のポケットを漁ってみたが現金は見つかる気配がなかった。
(大丈夫かな私……。10円じゃさすがに訳あり品も買えないよ……)
さすがに不安になって冷蔵庫を除く、キャップが半開きになって絞り口がカピカピになっているマヨネーズと、蓋が開きっぱなしのマーガリン、それから麦茶が入ったピッチャーがあるだけ。
私の生きる糧であり希望でもある、訳あり品も底をついている。後は干からびた野菜の皮と、訳アリ品の袋に張られていたであろう、半額シールが冷蔵庫内に張り付いているだけだ。
ブーンという冷蔵庫のモーター音が耳について私をざわつかせる。夏休みになって3日目になる。学校がないから給食も食べられない。
お腹が空いたので冷蔵庫からマヨネーズとマーガリンを取り出す。残り少ないマヨネーズは押し出そうとしても、うんともすんとも言わない。中身までカピカピに固まってしまっている。じゃあ、マーガリンはどうだろう、マーガリンの匂いを嗅ぐとすっぱい匂いがする。良く見ると青いカビの様なものが点在している。
(マーガリンにカビは生えないって以前ネットで見たような……)
仕方なくマヨネーズとマーガリンを冷蔵庫に戻す。最後の望みをかけて麦茶をコップに注ぐと、表面に白カビのようなものが浮き上がってきたので驚いて流しに捨てる。
私は蛇口から水を手ですくって飲むと、空腹を紛らわす為に寝る事にした。
テレビもないし、スマホもママが持っている一台しかない。真っ暗になった部屋で私は神様にお願いする。
(神様、生まれ変わったら食に不自由しません様に。他にも願いはありますが、今日はこれだけにしておきます)
神様にお願いする時は謙虚に。神様も色々な願いを叶える為に忙しいと思うから。でも、もし私の願いを叶えてあげたいと思って下さったら凄く嬉しいです。
そして、これからは寝る前の楽しみな妄想タイム。モフモフなワンちゃんを飼ってみたいな、あと洋服が好きだから洋服を売るお店を経営してみたい。あと素敵な恋愛もしてみたい。
貴族の娘に生まれ代わるなんて大それた妄想はしない。自分の力でしっかり稼いで地に足をつけたい。
そして私の様な孤独な子供を助けてあげたい。他にはなんだろう、うーん、眠くなってきたな。
(神様、もう一つお願いがありました。夢の中で美味しいご飯が食べたいです。我儘言ってごめんなさい……)
私はテーブル一杯に並べられた好物を頬張っている自分を想像しながら眠りについた。
私はその大事な時期に親からネグレクトを受けている。
「ほら、理子。10円、これで何か買って食べな」
「……ママ、10円じゃ、今時うまか棒も買えないよ……」
うまか棒は子供でも買える安価な棒状のスナック菓子だ。昔は10円で買えたらしいけど今は10円では買えなくなってしまった。
私は乱雑なテーブルに向かって投げつけられた10円玉を拾い上げ、悲痛な表情でママに訴えかけてみる。しかし返ってきた答えは想像を絶するものだった。
「そんな事、ママ知らない」
「……」
ママ知らないとかそうゆう問題ではない。育ち盛りの娘が飢えに苦しんでいるのに手を差し伸べてくれないなんて……。
「じゃあママ、あっくんの所に行ってくるから。留守番よろしく」
「……行ってらっしゃい」
あっくんというのは元ホストのチャラ男だ。年は28歳。担任の先生と同じ年なのに絶望的に幼くて、ママに取り入るのが凄く上手い。ホストだから貢がせるのは得意分野なのだと思う。
私はどんなに絶望的な状況でも必ず『行ってらっしゃい』とママに言う。どんなに愛のない親でも、親ガチャに失敗したとしても親は親だ。
それに、いつお互いに死ぬか解らない。だから挨拶はとても大切にしている。
バタンっと玄関のドアが乱暴に閉まる。ママの履いているサンダルのヒールが鳴らす音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は頭の中で考える。この10円でママが返ってくるまでどう過ごすか考えてみる。
そもそも最初は1000円だった。それが500円、100円と減っていき今や10円に……。ママが返ってくるまでの期間も1日から2日に。2日から3日に。どんどん間隔が広がっている。
他に小銭はないか、ママの服のポケットを漁ってみたが現金は見つかる気配がなかった。
(大丈夫かな私……。10円じゃさすがに訳あり品も買えないよ……)
さすがに不安になって冷蔵庫を除く、キャップが半開きになって絞り口がカピカピになっているマヨネーズと、蓋が開きっぱなしのマーガリン、それから麦茶が入ったピッチャーがあるだけ。
私の生きる糧であり希望でもある、訳あり品も底をついている。後は干からびた野菜の皮と、訳アリ品の袋に張られていたであろう、半額シールが冷蔵庫内に張り付いているだけだ。
ブーンという冷蔵庫のモーター音が耳について私をざわつかせる。夏休みになって3日目になる。学校がないから給食も食べられない。
お腹が空いたので冷蔵庫からマヨネーズとマーガリンを取り出す。残り少ないマヨネーズは押し出そうとしても、うんともすんとも言わない。中身までカピカピに固まってしまっている。じゃあ、マーガリンはどうだろう、マーガリンの匂いを嗅ぐとすっぱい匂いがする。良く見ると青いカビの様なものが点在している。
(マーガリンにカビは生えないって以前ネットで見たような……)
仕方なくマヨネーズとマーガリンを冷蔵庫に戻す。最後の望みをかけて麦茶をコップに注ぐと、表面に白カビのようなものが浮き上がってきたので驚いて流しに捨てる。
私は蛇口から水を手ですくって飲むと、空腹を紛らわす為に寝る事にした。
テレビもないし、スマホもママが持っている一台しかない。真っ暗になった部屋で私は神様にお願いする。
(神様、生まれ変わったら食に不自由しません様に。他にも願いはありますが、今日はこれだけにしておきます)
神様にお願いする時は謙虚に。神様も色々な願いを叶える為に忙しいと思うから。でも、もし私の願いを叶えてあげたいと思って下さったら凄く嬉しいです。
そして、これからは寝る前の楽しみな妄想タイム。モフモフなワンちゃんを飼ってみたいな、あと洋服が好きだから洋服を売るお店を経営してみたい。あと素敵な恋愛もしてみたい。
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そして私の様な孤独な子供を助けてあげたい。他にはなんだろう、うーん、眠くなってきたな。
(神様、もう一つお願いがありました。夢の中で美味しいご飯が食べたいです。我儘言ってごめんなさい……)
私はテーブル一杯に並べられた好物を頬張っている自分を想像しながら眠りについた。
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