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3巻
3-1
しおりを挟む《プロローグ 石動愛美》
その日、いつも通り登校した私――石動愛美は、クラスごと異世界アースへと転移した。
私たちを召喚したのは、ステアニア帝国。召喚時にさまざまな能力を得る異世界人を、他国への侵略の戦力とするのが彼らの目的だった。
そのために課せられた訓練日には、週に一度の休日がある。
そして今日もまた、私は毎週通っている『ラーの甘味処』へ向かっていた。
辛い毎日を過ごしている私にとって、あの店でケーキを食べているときだけが、幸せを感じられる数少ない時間だ。
今日は、久し振りに昔の夢を見たなぁ。
今の私を形成することとなった、数々の記憶がちりばめられた夢の内容を思い出しながら、喧騒にまみれた道を歩く。
あれは、私がまだ幼い頃。
今でも鮮明に思い出せる――パパ、ママ、弟のたー君。
あの頃はいつも仲が良かった……
◇ ◇ ◇
夢の中で、私はふらふらと浮遊しながら、仲の良い四人の家族に近づいていく。
聞こえてくるのは、楽しげな家族の会話。
「まなみねー、大きくなったら、たー君のお嫁さんになるんだぁ。いつまでも守ってあげるからね?」
「なにそれー?」
幼かった私が話しかけ、お嫁さんという言葉の意味を理解していなかったであろうたー君が、それに首を傾げて返答する。
どこか既視感のある光景を見て、ここが夢の中なのだと改めて自覚した。
だって――これはもう、どんなに手を伸ばしても、どれだけ望んでも届かない幸せ。
このとき、私は五歳、たー君はまだ三歳だった。
優しい顔をしたパパが、小さな私の頭を撫でてくれている。あれは凄く気持ち良かったなぁ。
その様子を、ママが飛びっきりの笑顔で見ていた。
私の頭の上で動いていた手を止め、パパが口を開く。
「まなみは本当にたー坊のことが大好きだな」
「うん!! 大好き!」
「いつかは……もしかしたら、そうなるかもしれないわね」
「そうなるといいなぁ」
このときの私は、あまり深く考えないでお嫁さんになりたい、って言っていた。
パパ、幼い私、たー君、ママがいて、四人が手を繋いで歩いている、どこにでもいそうな、幸せに見える家族。
他愛のない話がしばらく続き、私はそれを胸が締め付けられるような想いで眺める。
「今日の晩御飯はすき焼きにしましょう」
「わーい!」
ママが私の好物だったすき焼きを提案してくれたのを凄く喜んだような記憶が、うっすらとある。
急に、場面が変わった。
これは確か、私が七歳の頃。
この日、ママはどうしても外せない用事があると言って、実家に帰省していた。
リビングにある柔らかいソファーの上で、パパが昼寝をしている。
夢の中の幼い私は、無邪気な顔をして弟に話しかけた。
「ねぇ、たー君。お家にいてもつまんないし、お外で遊ぼうよぉ」
「えー。パパはお家にいないとダメって言ってたよ?」
「少しくらいならバレないよー、いいでしょ? パパが寝てる間に戻ってくるなら大丈夫だって」
「うーん。しょうがないなぁ、まーちゃんは……」
二人のやり取りを見ていた私は、必死に叫ぶ。
『行かないで!』
だけどその言葉が届くはずはなく――二人は玄関から出て行った。
「公園に行こうよ」
「うん」
自宅の近くにあった公園でしばらく遊び、やがて疲れて飽きてきた幼い私が、口を開いた。
「そろそろ帰ろう。パパも起きちゃうかもしれないし」
「そうだねー」
「よーし、お家まで競争しよう!」
「えー、まーちゃんのほうが走るの速いのにー」
たー君は唇を尖らせて、頬を膨らませる。さらに、その後もずっと、無言で抗議していた。
この頃の私は、本当に考えなしの大馬鹿者だった。
「いいじゃん、いいじゃん。行くよー」
「待ってよー」
軽口を叩いて駆け出した私を、たー君が急いで追いかける。
そうして家が近くなってきたとき、車道の向こうの歩道の上に、首をせわしなく動かしているパパが見えてきた。
パパを見つけた幼い私とたー君は、信号も確認せず、横断歩道に侵入してしまう。
正面からパパが大声を上げながら走ってきた瞬間――私たち三人目掛けて車が突っ込んできた。
側まで来ると同時に、パパは私を抱き上げて力任せに放り投げる。
パパはさらに直進していき、たくましい腕でたー君を抱え込んだ。
――宙を舞う二人の身体。
幼い私はその絶望的な光景を見ながら、地面に落下した痛みでうずくまっている。
ああ、私は何回この夢を見たのだろう? いつになれば見なくなるのだろうか?
そんな私の葛藤などどうでもいいとばかりに、再び切り替わる場面。
パパとたー君を失って打ちひしがれている私の前には、これでもかと涙を流すママがいる。
彼女は顔を真っ赤にしながら、七歳の私に怒声を浴びせていた。
「あんた! ふざけないで! なんであんたなんかのために二人が犠牲にならないといけないの!?」
かつてない母親の剣幕に、無言で震える幼い私。
「なんとか言ったらどうなのよ!? なぜ本当の子どもが死んで――養子のあんたが生きているの? なんで私の夫が死んだの? どうしてなのよおぉぉ!!」
私は、なかなか子どもが出来ないからという理由で施設から引き取られた養子なのだと、このときに教えられた。
そして、そんな両親が奇跡的に授かったのが、たー君だったのだと……
「あんたの顔なんて見たくない!」
「ご、ごめんなさい」
「そんな言葉ですむわけがないでしょう!!」
「うぅぅ、うぁぁぁぁん!」
号泣し始めた幼い私を、母親が殴ったり蹴ったりしている。小さな身体をより小さくしてうずくまる私に降り掛かる、終わらない暴力の嵐。
「い、いたいよぉ、いたい、いたいいたい……」
「私の心の痛みはそんなものじゃないわ!!」
「ご、ごべんなざい……」
小さくて愚かな私は、そのまま気を失ってしまった。
三度切り替わった場面。今度現れたのは、小学校の校舎裏だった。
そこに男の子が三人と、小さな私がいる。
「ぷくく、こいつマジキモいんだけどぉ」
「何そのうざったいくらい長い髪、どうせ気持ち悪い顔を隠してるんだろ?」
「こいつおどおどし過ぎじゃね? 自分でイジめてほしいって言ってるみたいだなぁ」
男子たちがびくびくした私を揶揄したり、小突いたりしている。これは小学校四年生の頃だ。
母親に『あんたの顔なんて見たくない』と言われてしまった私は、髪を伸ばして常に顔を隠し、人と距離を取るよう心掛けていた。
そのせいもあって、イジメに遭うことは数えきれず。
しかしどんなにイジめられても、私は人を傷付けることが怖くて、相手に反撃することはなかったし、しようとも思わなかった。
私がそうしたせいで何かが起こり、あのときのように誰かが不幸になるのは嫌だったのだ。
ママは、私がイジめられていることに気付いていながら、見て見ぬ振りをしていた。
でも、それはしょうがないと思う。私が、あの人の最愛の二人を奪ってしまったのだから……
私に対してガミガミ言ったり暴力を振るったりしながらも育ててくれていたのだから、あの人は優しい。
あんなことがなければ、こんな愚か者である私にも笑顔を向けていてくれたはず。
なのに、私は壊してしまった……彼女の未来を……そして、生き甲斐さえも。
「顔は痣になると面倒だから、腹を殴ろうぜ」
「いいね。これが人間サンドバッグってやつか!」
「楽しそう!」
「ひっ!」
彼らの言葉に怯えて後退りをする小学生の私に、男の子たちは凄く楽しそうな笑みを浮かべながら、まるで獲物を追い詰めるかのように迫る。
と、そのとき――
「おい、お前ら何してんだ? 男が女の子イジめてんじゃねーよ」
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「あ? 誰だっていいだろう?」
「ふんっ、こんな根暗で気持ち悪い奴が女の子なわけねーだろ?」
たまたま近くを通りがかったのだろうその男の子は、腕をまくって、私をイジめていた三人に近寄っていく。
イジめっ子たちは、彼を見てひそひそと話し始める。
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男の子は薬指を折り曲げ、人差し指と中指が残る。
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そうして中指を折って人差し指だけを残し、彼は言う。
「最後の一つ。今すぐここから逃げ出して、今後一切この子にちょっかいを掛けないと誓う。もしそうするなら黙って逃げ出していいぞ。さあ、好きに選びな」
選択肢を提示された三人のイジめっ子たちは、一瞬顔を見合わせたものの、我先にと逃げ出した。
「最後のを選んでくれて助かった。俺も無駄な暴力を振るいたくないからなぁ」
独り言を呟いた少年は、怯えている私のほうにゆっくり近づいてくる。
小学生の私は恐怖から、背後には壁があるにもかかわらず、後退りしようとしている。
「別にイジめないって。ほら、これで顔を拭いておいたほうがいいぞ。泥がついているから。このハンカチは別に返してくれなくていいから。捨てるなり自分で使うなりしてくれ」
笑顔でそう言った彼は、震えている私の手を無理やり開いて、そこにハンカチを握らせてきた。
「あ、あ、ありがとう……」
「ん? いいって。気にするな」
「あ、あなたの名前は?」
「俺か? 俺は――――」
と、そこで小さな女の子が駆け寄ってきて大きな声を出す。
「あー! いたいた! 探したよー! 今日の稽古は少し早く始めるって伝えてくれって、パパから頼まれたの」
「おう、わかった。ならもう行くか。それじゃあお前、気を付けて家に帰れよ? 女の子なんだから、顔に傷を付けないようにしたほうがいいぞ」
「なーに格好つけてるの!?」
「うっせ! そんなんじゃねーよ」
突然やってきた女の子は、怯えている私のほうに一瞬視線を向ける。
「この子誰? 知り合い?」
「そんなのどうでもいいだろう? ほら、とっとと行くぞ!」
「あ、待ってよー」
男の子はそれだけ言い残して、颯爽と行ってしまった。
◇ ◇ ◇
私は道を歩きながら、夢で見た男の子に思いを巡らす。
あの男の子が誰だったのかは、未だにわかっていない。会えたのもあのときだけ。
ただ――
私は懐から、ある物を取り出す。それは一枚の古びたハンカチ。どこにでも売っているような、グレーのチェック柄。
それに視線を落とした私は、気持ちが少し温かくなるのを感じる。
これは私とあの人を繋ぐ唯一の物で……私の大事な大事な宝物。相手が誰であろうと、これだけは絶対に奪われないように守ってきた。
失くしちゃいけないとすぐにまたハンカチをしまった私は、周囲に視線を彷徨わせる。
至る所に奴隷がいて、酷い扱いを受けていた。
まるで私と同じだ。
異世界に転移してからもイジメはなくならない。いや、むしろ地球にいた頃より酷くなっていた。
幸いと言っていいのかわからないけど、私には耐久系のスキルがあり、ステータスの関係から肉体的にはなんとか耐えられているけど、精神的にはやはり疲弊する。
多分これは、私が死ぬ日まで続くのだろう。もう憂鬱だと感じることさえなくなってきている。
鏡を見れば自分の目が死んでいるってことが自分でもわかるし、今後もそれは変わらないと思う。
「ふぅ……」
こんなことを考えてもしょうがないよね。
今日は夢を見たせいもあって、少し感傷的になっているんだ。
そうしていつの間にかたどり着いていたお店の、古びた木製の扉を開く。
店内に足を踏み入れてすぐ――誰かにぶつかってしまう。
謝らないと、と思って視線を前に向ける。
するとそこには、同じく異世界に転移してきたクラスメイトの、天童さんがいた。
《1 予期せぬ出会い》
『ラーの甘味処』で彩花たちとの再会を果たした俺――ルイは、会計を済ませたところで店に入ってきた、彩花の知り合いと思われる少女の観察をしていった。
身に着けているのはよく見かけるようなライトアーマーで、所々に傷があって結構使い込んでいる印象だ。身長が低いため、いまいち似合っていない。
前髪が長くて顔の造形はよくわからないが、それでも髪の隙間から力のない瞳が見える。
おそらくこの子も、ステアニア帝国による〈異世界召喚の儀式〉でこの世界にやってきたのだろう。それは日本人らしい長い黒髪と、彩花が口にした『石動さん』という名前からも理解できた。その名前は先ほど彩花から聞いた話の中にも出てきたのだ。
あとは彩花、楓との関係性だが……凄く仲が良いとか、切っても切れない関係であるなら、もっと気軽な雰囲気になりそうなものだ。しかし、三人からそのような気配は感じられない。
さてさて、どうするか。ここで俺たちと会ったことを、帝国に報告されるとまずいか?
いや、どの道この店から出たら【ワープ】を使うんだ。そのときに彩花と楓を見張っているダークラス隊が俺たちを目撃するだろうから、別段気にすることもないか……
俺が一人思考を続けていると、彩花が石動に話しかけた。
「ぶつかってごめんね。石動さんもよくここを利用してるの?」
彩花の質問に対し、石動は沈黙したままだ。
「んー、相変わらず無口かぁ」
楓の言葉の内容からすると、この子は常日頃からこのような態度なのか。
まぁ、その辺は個性と言えば個性なので、特に気にしないが……
んー、話が終わってから転移するにしても、こうして店の入口を占拠しているのは居心地が悪すぎるな。そう思った俺は彩花と楓に声をかける。
「とりあえず外に出ないか? ここにいたら邪魔だろ?」
「そうね。石動さん、少し話したいんだけどいいかな?」
三人に続いて人の少なくない通りに出ると、先に店から出ていたエレノア、マリア、アイリ、リサが待っていた。
彼女たちは突如現れた少女に対してどのような態度を取ればいいのかわからないようで、首を傾げていた。
一方、やはり表情に変化が見られない石動は、特に自己主張がないのか、彩花の後を大人しくついていったものの未だ口を動かさない。
彩花が石動に再び話しかけている最中、俺のすぐ横に寄ってきた楓が耳元で囁いた。
「多分あやは、石動さんを一緒に連れていきたいんじゃないかな?」
「そうなのか?」
楓の言葉は、俺がまるで考えつかなかった内容だった。
「うん、私とあやは、あの子が男子たちに絡まれている現場に居合わせたことがあって、そのときはイジめられていた感じだったから……」
つまり、一緒に異世界に来た地球の奴らから酷い扱いを受けているってことか。
ただなぁ、今の面子は皆俺の知り合いだ。ここに石動を入れるのはどうなんだろう?
どうするべきか考えていると、楓はさらに言葉を続ける。
「私もあやと同じで、石動さんを一緒に連れていってほしいけど……」
「ふむ」
突然異世界に連れてこられた上、イジめられているってのは相当きついだろうな。
今も一人でこの店にやってきた様子から予想されるのは……彼女に味方はいないということ。
まず石動の能力を見てみるかと、俺は彼女に〈鑑定〉を使ってみた。
――ふむ、防御系に特化している感じか。
と、そこで彩花からチラチラと視線を向けられていることに気付いた。
どうやら先ほど楓が言った通り、彼女を旅の仲間に加えたいのだろうな。でも、自分からは言いにくいってところか。
まぁ、連れていくなら連れていくでもいいんだが……果たして石動本人がそれを望むのかどうか。
俺は楓に顔を向ける。
「もし彩花と楓が石動も連れていきたいっていうのなら、俺は構わない。それを彩花に言ってきてくれるか?」
俺の言葉を聞いて目を見開いた楓は、すぐに笑顔になり、元気に「うん!」と返事をした。それからすぐさま彩花の横に移動すると、彩花に耳打ちする。あとは石動の判断次第かな。
俺は彩花から視線を外して、周囲の観察を始める。
黒髪の女の子が三人も揃った今の状況は少し目立つみたいで、こちらに視線を向けている人たちが結構いるな。探った限り、ダークラス隊は少し離れた位置から様子を窺っているだけのようだった。
とはいえあまりここに長居はしたくないから、できればどうするかを早く決断してほしいものだ。
「私たちと一緒に帝国を離れない?」
彩花の言葉に対し、石動は初めて動揺したみたいで目を丸くしている。こんな表情もできたのか。
「誓約の腕輪があるけど……」
ずっと無言だった石動が初めて喋った。それは少し高く可愛らしい声だった。
「腕輪のことなら、取り外せるよ。ただ、ここだと目立つから、一緒に帝国から離れるって決断してもらってからになるけどね」
石動はチラチラと視線を彷徨わせ、俺たちをそれとなく観察している。彩花と楓は顔見知りなんだろうけど、それ以外に俺、エレノア、マリア、アイリ、リサがいることを警戒していそうだ。
こうやって石動の挙動を見ていると、彼女の態度が俺の古い記憶をなんとなく刺激するような気もするが……まぁ、きっと気のせいだろう。
しばらく彩花と楓が説得を繰り返すと、とうとう石動は首を縦に振り、俺たちとの同行に同意した。
予定外ではあったけど、石動がいるからといって害になることもないかな。どの道、彩花と楓がステアニア帝国から離れることは決まっていたのだし、一人増えたところで帝国からのチェックがより厳しくなることもないと思う。
俺は相談を終えた三人に向かって、抑えた声で話しかける。
「話はまとまったみたいだな。なら早速で悪いが、石動も含めて全員、俺か俺に触れている人の身体に手を置いてくれ。【ワープ】を使う」
「うん。類、ありがとね」
「石動さんも類君の身体のどこかに触ってー」
「はい」
彩花と楓と石動は返事をするなり俺に近づいてくる。それ以外の者はすでに俺の肩や手に触れていた。
もう使わないだろうけど、アイリとリサが乗ってきた馬車も【アイテムボックス】に入れてあるし、忘れ物はないな。
「行こう。【ワープ】!」
――刹那、視界が暗転した。
◇ ◇ ◇
転移してすぐ目に入ってきたのは、野ざらしになっているダラスの街の跡地。俺の両親であるダンとサラ、そしてその仲間のガルウィンが罠にかけられ、儚く散った場所。
彩花たちを見張っていたステアニア帝国の連中に気付かれることなく、無事に移動できたようだ。
皆の存在を確認した後、色々とこの場所に感じることがある俺、アイリ、リサはしばらくの間、荒れ果てた故郷を眺め続けた。
そんな俺たちを、エレノア、マリア、彩花、楓が心配そうな表情で見ている。
まだ何も知らない石動だけは、無表情のまま。
数分後、石動の誓約の腕輪を取り外して【アイテムボックス】に収納する。その際、彼女が目を丸くして小さな声で「ありがとう」と言ったのが印象的だった。
少し歩いた所に、以前魔道具店で買った認識阻害効果のある魔道具をセットして、そこの地面に〈土魔法〉で作った十字の形の岩を三本突き刺す。それをダン、サラ、ガルウィンのお墓とした。
できれば世界樹の枝やミスリルなどの素材も使いたいところだが、万が一誰かにお墓を見つけられると荒らされる可能性があるから、質素にせざるを得なかった。
それから全員で、三本の十字架に向かって手を合わせる。
なぜここにお墓を作るのかわかっていなかった石動には、彩花が説明しておいてくれたらしい。
ダン、サラ……俺を五歳まで育ててくれてありがとう。ガルウィンの豪快な笑い声は忘れないよ。
こんな俺に愛情をたっぷり注いでくれた両親のおかげで、俺は親からの愛情を知ることができた。
ダンとサラとはもっともっと一緒に笑顔で過ごしていたかった。
スタンピードのときは力になれなくてごめん。
俺はこれから力強く生きていきたい。
黙祷が終わった後、【サモンワールド】から狼の召喚獣であるフェンリルを呼び出し、また【アイテムボックス】から俺が作った馬車を出して地面に置く。
全員が乗り込んだのを確認してから、フェンリルに牽かれて馬車が動き出す。
馬車の中で彩花と楓、そしてアイリとリサから、フェンリルについての説明を求められたのは言うまでもない。
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