21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん

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第2章 騎士学校

第37話 密命

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 マーフの神経質そうにみえる叔父が挨拶をする。
「この度は、時計塔の修理に尽力をいただき誠に感謝の至りです。ささやかではありますが、宴に参加していただき誠にありがとうございます」

 エリンは表情を崩さず、冷淡という印象を与えるような口ぶりで答える。
「いえ、大したことはありません。ただの魔石の出力調整をしただけですので」
「それでも我々にはできないことです。誠に感謝します」
 俺はそのやり取りをただぼーっと眺め、シャウラは緊張しているのが微動だにしていない。
 そうしてエリンは着席をする。

 メイドたちがグラスに飲み物を注ぎ、料理の入ったワゴンをついてやってくる。そして俺達の前に白いお皿に赤いトマトと少し白いチーズが鮮やかに盛り付けられた前菜が置かれる。

 俺はトマトとチーズを口に運ぶ。トマトの酸味がチーズ独特のまろやかな風味が口の中で混じり合い絶妙な味を醸し出す。

 マーフの奴、毎日こんな美味いもん食ってんのか…すまし顔で前菜を食べているマーフを見て少し羨ましく思う。
 前菜を食べ終えるとスープが運ばれてくる。
 芋や人参、玉ねぎなどがふんだんに入り、ほんのりと湯気があがる。温く食欲をそそるような野菜の匂いが漂ってくる。
 スプーンですくい一口口にいれると、すべての野菜が長い時間をかけてゆっくりと煮込まれ手間暇かけて作られたことがすぐに分かる柔らかさと、野菜に染み込んだ辛すぎず野菜本来の甘さが生きるスープの絶妙な味付け…こんな野菜スープってこんなに美味しいものだったんだと改めて再認識してしまった。
 そしてこのレベルの食事が次々と運ばれ、舌鼓を打つ。

 あらかたお腹も膨れてきたところで、マーフの叔父さんがエリンに声を掛ける。
「どうですか?私どもの食事は?」
 エリンはナプキンで口を拭き話し出す。
「私がペンタグラムを離れ1年半程立ちますが、これほどの食事に出会えてことはありません」
「そう言っていただけるとは、おもてなしの甲斐がありますな」
 満足そうな顔を見せる。

 扉が突然開き、剣聖が苦笑いをしながら現れ
「すいません、仕事が立て込んでて遅れちゃいました」
 そういって剣聖は俺の横に座わる。

 メイドにあれこれ指示を出しグラスに注がれたワインを一口のみ話し始める。
「いやぁもう今日は諦めようかと思ったのですがね、ペンタグラムの客人ということで仕事も中座してきた次第ですよ」
 そう言って剣聖はエリンの方を向いて頭を下げる。

 エリンもちょこんと頭を下げる。
 マーフの叔父は再びエリンに話しかける。
「して貴殿は何故ペンタグラムを離れられたので?」
 エリンは特に表情も変えず話し始める。
「私が与えられた任務は2つ、外野に散らばるペンタグラム人の帰還と密命です」
「ほう…それは鎖国政策と関連のあることなので」
「はい、これ以上は国策になりますゆえご勘弁を」
「なるほど…」

 剣聖が興味津々といった感じでエリンに話しかける。
「魔法というものはどんな感じのものなので?後学のためにみせていただきたいのですが」
 叔父が表情を曇らせ
「これレグルス、如何に剣聖といえどそれは失礼に当たりますよ」
「そうですね、申し訳ありません」
 剣聖はつまらなそうな顔をして謝罪をする。

 エリンは表情を変えずに淡々と答える。
「魔法が使えない人間にとって、魔法とは興味深いもの致し方ないでしょう。私は特に構わないのでご覧に入れましょう」
 エリンはそう言うその場で立ち上がりと腰に下げた小枝のようなものを取り出しブツブツと何か呪文のようなものを唱える。
 そうそれは俺が昔、唱えていた火の魔法の呪文だ…

 呪文の詠唱が終わると部屋の壁の中心にあった暖炉の火が灯る。
 俺とエリン以外の人間はその様子に目を丸くし驚いている。

 エリンが口を開く。
「この魔法は火の魔法で初歩中の初歩の魔法です」
 そういうと表情変えずにそのまま椅子に座る。 

 俺以外の全員が開いた口が塞がらないといった様子。

 沈黙が流れたあと剣聖が真剣な表情で呟く。
「これは凄い…これをペンタグラムではみんな使えるのか…」
 エリンは当然といった顔で
「ええ、そうです。この魔法は子供ですら使えます」
 俺以外の全員がそれを聞いて息を飲んだ。

 そうして雑談が始まり剣聖やマーフの叔父さんが話をしている。俺やマーフ、シャウラは何も言わずその話を聞いている。

 すると少し酔ったのかマーフの叔父さんエリンさんに話しかけ
「これは私の姪のマーフなのだが、女だてらに剣術などに現を抜かしおってな騎士団に入るなどと抜かしておる、エリン殿からも言ってやってくれないか?」
「ちょっと、叔父さん!」
「マーフは黙っていなさい!」
 エリンは相変わらずの無表情で
「そうですか、私の国では剣術など体を使うような野蛮な行為はいたしませんが…女であろうが子供であろうが能力のあるものはその能力のある仕事に付きます故」

 剣聖は大きく頷き、
「能力至上主義ですか、我が国もそうなればいいのですがな」
 そういってマーフの叔父さんを見る。

 エリンはそのまま続ける。
「ただ、魔力の強さは血脈の強さですので、貴族と言われる者たちが力を得るということには変わりません」
 シャウラがやっと口を開く。
「なるほど…魔力の強さね…」
 そう言って俺を見て
「ラグウェルは…」

 その名前を言った瞬間、エリンは表情を一変させシャウラの方見る。この少女が見せる初めての感情の揺れだ。
「ラグウェル!ラグウェルといいましたか?」
 シャウラはあっけにとられ頷く。
「その名前を持つものはどちらに?」
 シャウラは俺の方を見る。
「あなたがラグウェル、ラグウェル・アルタイルですか!?」
 周囲はそのやり取りを唖然としながら見ている。

「いや。俺はラグウェル・ベガルタです」
 そのエリンの感情の変化に嫌な予感を覚え、咄嗟に嘘をついた。
 シャウラやマーフもその事に気づいていたが、エリンの感情の揺れに違和感を覚えたのか何も言わなかった。
「そうですか…人違いですね。取り乱してすいません」
 エリンはそう言うと再び鉄仮面のような無表情な顔に戻った。




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