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第2章 騎士学校

第39話 隠れ家

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 俺は走った。後ろを振り返らず、脱兎の如く全力で駆け抜けた。

路地裏を10分程走り、後ろを振り返るが誰もいない。

 ほっと胸を撫で下ろし壁に寄りかかる。体はあちこち擦り傷があるが大きな傷はない。剣聖の奴は大丈夫だろうか?あいつのことだから大丈夫だとは思うが…

 あいつの戦いが頭をよぎる。しかしあの魔法障壁どうすれば…剣聖と俺の全力の攻撃をも無にする。あいつには勝てないのか…俺は頭を振り、今はあいつと合わないようにすることだけを考えよう…

 満月の明かりの下、俺は周囲を伺いながら歩き始める。
 一旦寮に向かうことにしたのだが、安全のために路地を曲がり敢えて遠回りをする。

 10分ほどかけて歩くと寮が見えてきた。寮の前には心配そうな顔をしたマーフとシャウラの姿がある。俺を見かけて2人駆け寄ってくる。
 マーフは晩餐会のままの格好で、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「良かった…生きてる…」
そう言ってマーフは目から溢れる涙を拭っている。

「ああ、剣聖の奴が逃してくれた」
「うん…」
「マーフはどうしてここに?」

 そういうとマーフはシャウラの方を見て
「シャウラがあなたが襲われたと屋敷に戻ってきたのよ」
「それで慌てて行っててみたら、エリンとあんたの姿がなくて、レグルスしか居なくて」
「剣聖は大丈夫?」
「ええ、怪我は大したことなさそよ。減らず口叩いてたから」
 それを聞いて俺は少し安心をする。

 あいつの狙いは俺だ。恐らく無駄な殺しなどはしないということ…もしそういう奴であれば、剣聖はもうこの世には居ないはず。

「ここもじき危険になる。ここにはいられない」
 シャウラとマーフ二人同時に頷く。

「ちょっと準備してくる」
「ええ」
 俺は寮に入っていき、制服を脱ぎ鎖帷子を纏い、剣を腰に差す。そしてここに来たときに身に着けていたボロボロの外套を羽織、部屋を後にする。部屋の外ではシャウラとマーフが待っている。

 マーフは相変わらず心配そうな顔をしたまま
「どこに行くの?」
「この街にいるのは危険だ…あいつに勝てる手段が浮かばない…それにお前らにも巻き添えで迷惑をかけるかもしれない…俺は十王国から出ていく」

 俺がそういうとマーフはキッと目を吊り上げ怒っているよな表情になり、俺の前に立ち。

 パチーン!

「このバカ!ちょっと自分より強い相手ができたからって弱気になって!!!」
 俺の頬を叩く。

 叩いたあとしまったというような顔を見せ
「ごめんなさい。怪我してるのに」
 手で顔を隠している。
「いや…マーフの言う通りだ…柄にもなく弱気になっちまった。ただお前らになにかあれば…」
「私は…迷惑じゃない…」
 マーフはそうポツリと呟く。

 シャウラも口を挟み
「何言ってんの、僕と君の仲でしょ。何が合っても君を恨むことはないよ」
「ありがとな…」
「でも、この寮にいるわけには行かないよね…そうだ!僕についてきて」
「分かった。」 

 そういったシャウラについていく。
 以前にやってきた貧民街の入り口立つ。
「ここならあのエリンって人も簡単に近寄れないはず」
「私はこの格好だから…」
「そうだね」
 マーフはドレス姿のため、貧民街には入らずの入り口で分かれる。

 シャウラとともに貧民街に入っていく。ゴロツキ共が絡んでくることがあるが俺の顔をみると逃げていく。前のスタンツ事件のときにこの辺のゴロツキが集められていたせいか、妙に俺の顔が売れている。もっとも名前まで知らないからあいつには、バレないとは思うが…

 15分ほど歩く。

「ここならいいか」
 シャウラがそういって指差した場所は、何年も人が住んでいないようなボロボロの小屋だった。
「ああ、そうだな」
 そういって小屋の中に入る。カビ臭い匂いと床には穴が空き草がはえたりしており、とても人が住めるような場所には見えない。
「いい部屋だな」
「でしょ?」
 そういってシャウラはニコッと笑った。
「じゃあ、明日食事とか持ってくるね。あとマーフにだけ教えるから」
「分かった…お前らも注意しろよ」
「うん…でもあの人、君以外を傷つけるような人には見えなくて…」
「油断するな」
「うん」
 シャウラは周囲を伺いながらボロ小屋を後にした。

 俺は比較的丈夫そうな床の上の埃を手で払い、剣を抱くような形で座り込む。穴の空いた屋根から大きな満月が見える。
 その月を見て、今になって体に痛みが生じていることに気がつく。

 最後のあれは詠唱がなかった。詠唱なしの魔法も使えるのか…近距離、遠距離全てにおいて完璧…か。

 こうやって寝るのも1年ぶりだな…そういえばアルファルドは元気かな…

 顔に光が辺り眩しさで目が覚める。
 立ち上がり体を伸ばす。体の痛みはほぼ無くなっている。昔から傷の治りも早かった気がする。家からでて暫く歩くと共同の井戸があり、顔を洗う。

 そして家に戻ると、制服姿のマーフとシャウラの姿がある。
 マーフはまた心配そうな表情で
「もう!どこに行ってたのよ心配したじゃない」

 顔を洗いに行っていただけなのに怒られてしまった…
「顔を洗いに行ってただけだって」
「朝、私達が来るって行ってたでしょ」
「こんなに早くに来ると思って無くて」
「まあ、いいわ」
 シャウラの手には袋があり、家の中に入って袋の中の食料を取り出す。
「とりあえずはこれだけね」
「ありがとう」

 マーフは家の中のキョロキョロと見回し丸い目をしている。
「あんた…よくこんなところにいられるわね…」
「屋根があるだけマシだよ」
「あるだけマシって穴あいてるじゃない」

 シャウラが口を挟む。
「マーフさんそろそろ行かないと」
「あっもうそんな時間?」
「うん」
 俺は右手を挙げ
「おう、気をつけてな」
 そういった瞬間、俺はあることを思いつきシャウラに話しかける。
「あっ!」
「ん?どうしたの?」
「できれば…魔法障壁ってやつのことを調べてほしい」
「分かったよ。それじゃまた学校終わったらここに来るよ」

 シャウラとマーフは学校に向かった。

 俺は一人ボロ屋の掃除を始めた。
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