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第3章 鴉

第61話 裏切り者

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 ペチペチ

 頬に当たる感触で目を覚ます。体を動かそうとするが手は後ろ手にされなにかに縛り付けられているようで、動かすことができない。

 目の前には髭面の見たことのない男がニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべ、俺の頬を叩いていた。
「ここはどこだ?」
 俺がその男に話しかける。
「さあ、あなたの隣にいる方に伺ってみたらどうでしょうか」
 その男はそう言って俺の隣に目をやる。

 周囲を見渡すと、周囲は布に囲まれており、テントのような建物の中に居ることが分かる。男の後ろには祖人がおり、ここが祖人の住処であることが直感的に分かった。そして俺のすぐ横にその男を睨み付けるように後ろ手にされ縛り付けられているリリカの姿があった。

 リリカがその男に噛み付くように話しかける。
「5年前に死んだと思っていたがロレンツォ」
「今の名はドルイドですよ」
 男はそう言ってリリカの顎を持ち上げる。
「相変わらず、綺麗な顔だ」

 ペッ!

 リリカはドルイドと名乗る男の顔に唾を吐きかける。
「その気の強さも、変わらんな」
 ドルイドの背後から別の祖人が現れ、なにやら耳打ちをしている。

 ドルイドは祖人の言葉を理解しているようで何やら頷き、そしてその祖人と一緒に出ていった。

「あの男は誰なんです?」
 俺はリリカに話しかける。
「あいつは鴉だった男ロレンツォ」
「鴉…」
「5年前、偵察任務中に消息不明になったのだ」
「消息不明…」
「ああ、偵察中に忽然と姿を消したということだ。祖人に殺されたのだろうというのが大半の見方だったがな」
「どんな人なんです?」
「とにかく頭が切れる…その頭脳で私とあいつが5年前の副長候補だった。そして何を考えているのかわからない奴だった。恐らくロレンツォと言う名も本名ではあるまい…」
「それじゃ副長のライバルだったってことですか?」

 そういうと含みのある笑いをするリリカ
「ライバルか…そういう見方もあるな。私はあいつが大っ嫌いだったがな」
 リリカの感情を感じる言い方に俺は少しだけおかしくなり、笑いがこぼれそうになる。
「ん?なにかおかしいことを言ったか?」

 そうするとドルイドが手足を縛られたバルジを連れてくる。
「こいつはお前の部下だろ?」
 体に傷は負っているものの、致命傷という感じでなく、大きな体をなんとか支えているような感じでフラフラとリリカの横に座らせられる。

 ホッとしたような表情をみせるリリカはいたわるような感じで話し掛ける。
「バルジ…」
 それを聞いたバルジはリリカの顔見て、しっかりと頷きリリカの無事を安堵するような顔を見せる。

 リリカはドルイドを再び睨み
「ロレンツォお前何を企んでいる!!」
 ドルイドはニヤリと笑い
「企む?いえ私は仕える主人を変えただけ。十王国の王から祖人の王にね。あと私はドルイドです」
「祖人の王だと?」
「ええ、祖人の部族を束ね祖人の王となる人物です」
「なんだと…今まで祖人にはそのような者は居なかったはずだ」
「十王国建国の歴史を知っているでしょ?」
「…ああ」

 俺も昔、チラッと聞いたことがある。恐らく騎士学校の授業で習っているはず。殆ど寝ていた授業だがこれだけは聞いていたような気がする。
 その昔、十王国は10の国に分かれていた。強力な外的が現れ、英雄王なる人物が現れ10の国を纏めその外敵と戦った。それが十王国の歴史。

その英雄王に仕えていたのが初代剣聖…と呼ばれる人物。

まさかその外敵が祖人ということか…

ドルイドは自慢げにリリカに話す。
「そもそも祖人には、絶対の王がいた。戦いに負け王家が滅び各部族に分かれたのだ。それを再び元の姿に戻す」

リリカはドルイドを睨みつけながら答える。
「お前は人間だろ?」
「15万の祖人。これだけいれば壁を越えることも容易い…そしてその先も」
「…お前の目的はまさか…」
「リリカ、私と一緒に来ませんか?あなたなら私の右腕として十分に働ける。今の腐りきった十王国になんの未練があるというのです?」
「あははははははは」
それまで睨みつけていたリリカは堰を切ったように笑い出す。

その笑いを聞いて不機嫌な顔で
「なにがおかしいんです?」
リリカに問い詰めるドルイド

「お前のことを頭が切れると思っていたが、ただのバカだったとおもってな…アハハこりゃ傑作だ」
顔を真赤にさせドルイドはリリカの顔をはたく。
バシッと言う音がテント内に響く。
テントにいる祖人達の視線が一気に集まる。

ドルイドは少し冷静になったのか、赤かった顔がもとに戻り
「まあ…いいでしょう…とにかく王に会ってもらいます…」
そういって祖人たちに声を掛けた。
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