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第3章 鴉
第64話 壁への帰還
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俺の声はシーンと静まり返った観客達の中に響く。
観客の中の誰か一人が叫んだ。
祖人語はわからない…わからないが俺たちにとって良いことではないということだけ分かる。
その声が聞こえてから観客達は皆一様に興奮し、雄叫びをあげる者、地面を踏み鳴らしたりしている。
不穏な空気を感じ、立ち上がろうとするが力が体に入らない。
腹部へのダメージは思ったよりも深刻だったってことか…それを無理に動かしたんだ体にどんなことがあってもおかしくない…
祖人たちがリリカとバルジを連れて俺のところにやってくる。
そして群衆に向かってなにか喚いている。
リリカが俺の方を見て話しかけてくる。
「良い根性をみせてもらった。よくやった」
「い、いえ。しかしこの状況なんとかしないと…」
俺がリリカの方を向いて答えると彼女はぼそっと呟く。
「全員皆殺し。鴉俺たち敵」
「副長言葉がわかるんですか?」
「ああ、単語ぐらいなら理解できる」
その叫びに群衆の興奮はどんどんと大きくなっていく。
「ロレンツォの計算通りってことだな」
リリカが冷静に呟く。
「俺が勝ったとしたら群衆を煽動すると…」
「ああ、我々は祖人の恨みをかっているからな。煽動するのも容易いってことだな」
「打つ手なしですか…」
「お前も立つのがやっという感じだな」
「残念ながらそうです」
「まあいい。仕方ない」
リリカは時を伺うように群衆たちを眺めている。
すると銅鑼が鳴り響き、静寂が訪れすぐにイゴソの大声が聞こえた。
イゴソの方をみると鬼のような形相で顔を赤くしこちらに真っ直ぐに歩いてきている。
そして俺たちの前に立つと、イゴソは手に持った斧で煽動をした祖人の首を撥ね飛ばし、髪を掴み大声で叫んだ。
それをリリカがたどたどしく訳す。
「俺、言うこと、聞けない。お前達、死ぬか」
そして俺の体を持ち上げ、指を差しながらなにか叫んでいる。
すると、それまで興奮していた祖人たちは興奮とはまた違った雰囲気になり、拍手こそなかったが俺を称えるような眼差しに変わってきている。
ドルイドは焦ったような表情でイゴソの元に飛んできて祖人の言葉で必死に話しかけている。
それをイゴソはドルイドの胸ぐらを掴み、睨みつけながらなにか言う。するとドルイドはすぐに目を逸す。そして手を離され、そして俺たちの元にやってきてリリカやバルジの縄を解きながら話しかけてくる。
「俺の負けだ…お前たちは自由だ。イゴソの言うことを聞かなければ俺が殺されるからな」
リリカはイゴソをみて頭を下げる。
俺はバルジに背負われ、リリカが先頭を歩きはじめる。すると祖人の群衆がさっと二つに分かれ、俺たちはその真中を歩く。
「ここからだと2,3日で壁だな」
祖人のキャンプ地を離れ数時間が経ちリリカがそういった。
「場所がわかるんですか」
「ああ」
「イゴソは俺の体を持ち上げてなんて言ったんです?」
「強者を称えることができない者はゴーライ族の資格はない」
「だからか…」
「もし、あそこでイゴソが出てこないのであれば、連中は空中分解しただろう。ロレンツォは上に立つような人間ではないからな」
「…」
「数年後にはイゴゾは祖人をまとめ上げ全面対決になる。あいつにはその資格がある」
「強敵ですね…」
「ああ…」
リリカはいつもの冷静な表情で淡々とそういった。
――2日後
幸いにも天候が崩れることもなく。昼間の2日間歩き続けた。
俺は歩くことはできるぐらいまでは回復したのだが、内臓のダメージまだ残っており、進む速度が遅いという理由からバルジに背負われたまま2日が経った。
遠くにそびえ立つ壁が見え始める。その頂上付近には雲がかかっている。
「やっとここまできたな」
リリカが俺に話しかけてくる。
俺は緊張が和らぎ本音がポロッと溢れる。
「疲れました…」
「とりあえずお前を医者に見せないとな。私の見立てでは1週間は動けないはずだ」
「え?1週間ですか」
「まあ地獄だな」
そういってリリカは笑い出す。
「見舞いには行ってやるからな」
「はい…」
数時間かけ近くまで歩いていくと壁からパオーンという笛の音が鳴り響き、地下へ続く道が開くと同時に大柄な隊長とアルクの姿がみえそして他の連中もいるのが見える。
俺はそのまま担架に乗せられ、医務室に連れて行かれた。
「すごいね、これで良く生きてるよ」
医者は俺の腹をみてそういった。
「もう大分動けるんですけど…」
「ダメダメ!1週間は動いちゃだめ!」
副長の見立て通り…あの人なにもんだよ…
俺はそのまま医務室で1週間過ごす羽目になってしまった。
観客の中の誰か一人が叫んだ。
祖人語はわからない…わからないが俺たちにとって良いことではないということだけ分かる。
その声が聞こえてから観客達は皆一様に興奮し、雄叫びをあげる者、地面を踏み鳴らしたりしている。
不穏な空気を感じ、立ち上がろうとするが力が体に入らない。
腹部へのダメージは思ったよりも深刻だったってことか…それを無理に動かしたんだ体にどんなことがあってもおかしくない…
祖人たちがリリカとバルジを連れて俺のところにやってくる。
そして群衆に向かってなにか喚いている。
リリカが俺の方を見て話しかけてくる。
「良い根性をみせてもらった。よくやった」
「い、いえ。しかしこの状況なんとかしないと…」
俺がリリカの方を向いて答えると彼女はぼそっと呟く。
「全員皆殺し。鴉俺たち敵」
「副長言葉がわかるんですか?」
「ああ、単語ぐらいなら理解できる」
その叫びに群衆の興奮はどんどんと大きくなっていく。
「ロレンツォの計算通りってことだな」
リリカが冷静に呟く。
「俺が勝ったとしたら群衆を煽動すると…」
「ああ、我々は祖人の恨みをかっているからな。煽動するのも容易いってことだな」
「打つ手なしですか…」
「お前も立つのがやっという感じだな」
「残念ながらそうです」
「まあいい。仕方ない」
リリカは時を伺うように群衆たちを眺めている。
すると銅鑼が鳴り響き、静寂が訪れすぐにイゴソの大声が聞こえた。
イゴソの方をみると鬼のような形相で顔を赤くしこちらに真っ直ぐに歩いてきている。
そして俺たちの前に立つと、イゴソは手に持った斧で煽動をした祖人の首を撥ね飛ばし、髪を掴み大声で叫んだ。
それをリリカがたどたどしく訳す。
「俺、言うこと、聞けない。お前達、死ぬか」
そして俺の体を持ち上げ、指を差しながらなにか叫んでいる。
すると、それまで興奮していた祖人たちは興奮とはまた違った雰囲気になり、拍手こそなかったが俺を称えるような眼差しに変わってきている。
ドルイドは焦ったような表情でイゴソの元に飛んできて祖人の言葉で必死に話しかけている。
それをイゴソはドルイドの胸ぐらを掴み、睨みつけながらなにか言う。するとドルイドはすぐに目を逸す。そして手を離され、そして俺たちの元にやってきてリリカやバルジの縄を解きながら話しかけてくる。
「俺の負けだ…お前たちは自由だ。イゴソの言うことを聞かなければ俺が殺されるからな」
リリカはイゴソをみて頭を下げる。
俺はバルジに背負われ、リリカが先頭を歩きはじめる。すると祖人の群衆がさっと二つに分かれ、俺たちはその真中を歩く。
「ここからだと2,3日で壁だな」
祖人のキャンプ地を離れ数時間が経ちリリカがそういった。
「場所がわかるんですか」
「ああ」
「イゴソは俺の体を持ち上げてなんて言ったんです?」
「強者を称えることができない者はゴーライ族の資格はない」
「だからか…」
「もし、あそこでイゴソが出てこないのであれば、連中は空中分解しただろう。ロレンツォは上に立つような人間ではないからな」
「…」
「数年後にはイゴゾは祖人をまとめ上げ全面対決になる。あいつにはその資格がある」
「強敵ですね…」
「ああ…」
リリカはいつもの冷静な表情で淡々とそういった。
――2日後
幸いにも天候が崩れることもなく。昼間の2日間歩き続けた。
俺は歩くことはできるぐらいまでは回復したのだが、内臓のダメージまだ残っており、進む速度が遅いという理由からバルジに背負われたまま2日が経った。
遠くにそびえ立つ壁が見え始める。その頂上付近には雲がかかっている。
「やっとここまできたな」
リリカが俺に話しかけてくる。
俺は緊張が和らぎ本音がポロッと溢れる。
「疲れました…」
「とりあえずお前を医者に見せないとな。私の見立てでは1週間は動けないはずだ」
「え?1週間ですか」
「まあ地獄だな」
そういってリリカは笑い出す。
「見舞いには行ってやるからな」
「はい…」
数時間かけ近くまで歩いていくと壁からパオーンという笛の音が鳴り響き、地下へ続く道が開くと同時に大柄な隊長とアルクの姿がみえそして他の連中もいるのが見える。
俺はそのまま担架に乗せられ、医務室に連れて行かれた。
「すごいね、これで良く生きてるよ」
医者は俺の腹をみてそういった。
「もう大分動けるんですけど…」
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俺はそのまま医務室で1週間過ごす羽目になってしまった。
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