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第6章 剣聖剥奪
第106話 自分にこそできること
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カツ、カツ、カツと石畳を歩く音が聞こえる。いつもと同じ音ではない、それだけは分かる。
もう何日経ったのだろう。悪夢のような拷問の日々。もはや誰がやってこようが関係ないし、俺はこのまま死ぬのだろう。いやもはや死んだほうが楽なのかも知れない。
「セネバ様!」
拷問をする処刑人が驚きの声を上げる。
「ここにペンタグラム人がいると聞いたのだが?」
「ええ、私が拷問をしております」
「少し話をさせてもらっていいかな?」
「どうぞ」
ギーーっという金属がこすれる音がし、鉄格子の扉が開かれる。
俺の前で足音が止まる。
「私はセネバ第2王子だ」
「せ、ね……ば……」
首をもたげるのも辛い。なんとか顔を上げセネバと名乗る男の顔を見る。どこかで見たことのある顔。
「君にはマーフの夫と言ったほうがいいかな」
セネバそう言うと俺の前を離れ、壁に掛けられている拷問用のナイフに手を伸ばす。
「このナイフで拷問を?」
処刑人にそう話しかける。
「ええ、そうです。いつも使ってる訳ではないですが」
「そうか……」
そういうとそのナイフを手に俺の前に立つ。
「彼女はね……私と一緒に住んでいてもどこか寂しげで陰があった」
そういいながらナイフを俺にチラチラと見せる。
「なぜか? この前やっと分かった事があってね。それは君が原因だと。君が殺されそうになったときの彼女の表情……それは愛する者を失うという表情……私には見せてくれたことのないものだ」
この告白で俺は悟った。この男俺を殺すだと……もういい。こんな苦しみが続くなら死んだほうがマシだ……
「……殺せ……俺が憎いんだろ……」
「でもね……私は彼女が悲しむ顔は見たくないんだ」
そう言った瞬間、手に持ったナイフを処刑人目掛けて投げた。不意を突かれた処刑人は眉間にナイフを生やしそのまま仰向けに倒れる。
「私は今王都の最高責任者。国王みたいなものなんだ」
そう言うと処刑人が腰に下げていた鍵を手に取り、俺の手枷、足枷を外す。
「……どうして俺を助ける?」
「私の行動原理は唯一つ彼女を悲しませたくない。君が死ぬと彼女が泣くただそれだけさ。それにこの戦争、君にしかできない、君だからこそできることがあるんじゃないか?」
俺にしかできないこと……俺だからこそできること……
「ある……俺にだからこそできること……」
「そうだ。いい目だ。その瞳に彼女は惚れたんだろう。ここに君の荷物を用意してある」
そう言うと王子は袋を俺に渡す。
中には鎖帷子とボロ布の外套。そして父からもらった剣が入っている。俺はそれらを身に纏う。
「行くんだろう? ペンタグラムに」
「はい……自分は今からペンタグラムに行きます」
「それが君にできること……」
「ええ……妹のスピカに会って話をする。これが今の俺にこそできることです」
「そんなことだろうと思ったよ。あの現れた少女、どことなく君に似ていた」
「はい……あれは妹のスピカです」
そして彼が言ったことで一つ引っ掛けることがあった。王都の最高責任者、彼はこう言ったのだ。
「さっきあなたは王都の最高責任者って……」
「ああ、言い忘れていたがカルテー平原で主力部隊は敗北した。あと1日足らずでここにペンタグラムの軍勢が到達する。国王や他の重臣は王都を放棄した。まあ私がさせたと言ってもいいがな……」
セネバ王子はそう自嘲気味に笑う。
「……主力が壊滅……」
その言葉が意味することは騎士団の壊滅……
「君の仲間たちも……」
「……はい。騎士の誓いを立てた時から国に殉ずる覚悟は皆しているはずです」
「さすがは騎士といったところか……」
「あなたもです。あなたも王都に残ることを決めた。死ぬ覚悟をして」
「買いかぶらないでくれ、私は自らの手で君を殺す為にここに残っただけだ」
そういってセネバは笑う。
「ただね。君を殺すと私は彼女に生涯愛されることはない。そう気づいただけだよ」
「あなたはそこまでマーフのことを……」
「必ず生きて帰ってこい。マーフが私のことを好きになったところを見せてやる」
俺はセネバの顔を真っ直ぐにみながら答える。
「俺もマーフのことが好きです! そして必ず生きて帰ってマーフに気持ちを伝えます!! あなたも必ず生きていて下さい。あなたが死ぬと絶対にマーフが悲しむから」
「ああ。君が帰ってきたらマーフにどちらを選ぶかきめてもらうとするか」
俺は力強く頷き、剣を腰に携え牢獄を後にした。
もう何日経ったのだろう。悪夢のような拷問の日々。もはや誰がやってこようが関係ないし、俺はこのまま死ぬのだろう。いやもはや死んだほうが楽なのかも知れない。
「セネバ様!」
拷問をする処刑人が驚きの声を上げる。
「ここにペンタグラム人がいると聞いたのだが?」
「ええ、私が拷問をしております」
「少し話をさせてもらっていいかな?」
「どうぞ」
ギーーっという金属がこすれる音がし、鉄格子の扉が開かれる。
俺の前で足音が止まる。
「私はセネバ第2王子だ」
「せ、ね……ば……」
首をもたげるのも辛い。なんとか顔を上げセネバと名乗る男の顔を見る。どこかで見たことのある顔。
「君にはマーフの夫と言ったほうがいいかな」
セネバそう言うと俺の前を離れ、壁に掛けられている拷問用のナイフに手を伸ばす。
「このナイフで拷問を?」
処刑人にそう話しかける。
「ええ、そうです。いつも使ってる訳ではないですが」
「そうか……」
そういうとそのナイフを手に俺の前に立つ。
「彼女はね……私と一緒に住んでいてもどこか寂しげで陰があった」
そういいながらナイフを俺にチラチラと見せる。
「なぜか? この前やっと分かった事があってね。それは君が原因だと。君が殺されそうになったときの彼女の表情……それは愛する者を失うという表情……私には見せてくれたことのないものだ」
この告白で俺は悟った。この男俺を殺すだと……もういい。こんな苦しみが続くなら死んだほうがマシだ……
「……殺せ……俺が憎いんだろ……」
「でもね……私は彼女が悲しむ顔は見たくないんだ」
そう言った瞬間、手に持ったナイフを処刑人目掛けて投げた。不意を突かれた処刑人は眉間にナイフを生やしそのまま仰向けに倒れる。
「私は今王都の最高責任者。国王みたいなものなんだ」
そう言うと処刑人が腰に下げていた鍵を手に取り、俺の手枷、足枷を外す。
「……どうして俺を助ける?」
「私の行動原理は唯一つ彼女を悲しませたくない。君が死ぬと彼女が泣くただそれだけさ。それにこの戦争、君にしかできない、君だからこそできることがあるんじゃないか?」
俺にしかできないこと……俺だからこそできること……
「ある……俺にだからこそできること……」
「そうだ。いい目だ。その瞳に彼女は惚れたんだろう。ここに君の荷物を用意してある」
そう言うと王子は袋を俺に渡す。
中には鎖帷子とボロ布の外套。そして父からもらった剣が入っている。俺はそれらを身に纏う。
「行くんだろう? ペンタグラムに」
「はい……自分は今からペンタグラムに行きます」
「それが君にできること……」
「ええ……妹のスピカに会って話をする。これが今の俺にこそできることです」
「そんなことだろうと思ったよ。あの現れた少女、どことなく君に似ていた」
「はい……あれは妹のスピカです」
そして彼が言ったことで一つ引っ掛けることがあった。王都の最高責任者、彼はこう言ったのだ。
「さっきあなたは王都の最高責任者って……」
「ああ、言い忘れていたがカルテー平原で主力部隊は敗北した。あと1日足らずでここにペンタグラムの軍勢が到達する。国王や他の重臣は王都を放棄した。まあ私がさせたと言ってもいいがな……」
セネバ王子はそう自嘲気味に笑う。
「……主力が壊滅……」
その言葉が意味することは騎士団の壊滅……
「君の仲間たちも……」
「……はい。騎士の誓いを立てた時から国に殉ずる覚悟は皆しているはずです」
「さすがは騎士といったところか……」
「あなたもです。あなたも王都に残ることを決めた。死ぬ覚悟をして」
「買いかぶらないでくれ、私は自らの手で君を殺す為にここに残っただけだ」
そういってセネバは笑う。
「ただね。君を殺すと私は彼女に生涯愛されることはない。そう気づいただけだよ」
「あなたはそこまでマーフのことを……」
「必ず生きて帰ってこい。マーフが私のことを好きになったところを見せてやる」
俺はセネバの顔を真っ直ぐにみながら答える。
「俺もマーフのことが好きです! そして必ず生きて帰ってマーフに気持ちを伝えます!! あなたも必ず生きていて下さい。あなたが死ぬと絶対にマーフが悲しむから」
「ああ。君が帰ってきたらマーフにどちらを選ぶかきめてもらうとするか」
俺は力強く頷き、剣を腰に携え牢獄を後にした。
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