転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん

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序章 貴族転落

第1話 千年に1人の逸材

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 金や銀で装飾された窓枠から朝日がのぞく、3人はゆうに横になれそうな大きなベッドで私は目を覚ました、テロテロした白い絹のパジャマに身を包まれ、ゆっくりとベッドから起き上がり朝日を浴びる。

 寝室の扉を開けると、初老のすらっとしたタキシード姿の執事が一礼をする。
「おはよう」
「おはようございます。アレクシアさま」

 彼はノーベル家に仕える執事の1人セバスチャンで、私が生まれる前からこの家に仕えている。

 セバスチャンからタオルを貰い洗面所に向かう。
 大理石でできた洗面台があり、鏡で自分の姿を確認する。
 金色の肩まで伸びた美し髪に、碧く透き通った、サファイアのような瞳、端正に整った顔は、まさに国の至宝とも呼ばれたこともあった。
 私にとってはいつもの顔がそこにあるだけで、自分の顔に特別な思い入れなどはあるはずもない。

 私の名前はアレクシア・ノーベル。
 ガレオン帝国の名門貴族であるノーベル家に長男として生を受け、現在は帝立騎士学校で勉学に励んでいる。

 洗面台の近くには、透き通った水をたたえた水瓶があり、そこで水をすくい洗顔をする。
 洗顔を終えると、セバスチャンが用意してくれたフカフカのタオルで顔を拭く。

 自室にもどり騎士学校の制服に着替える、この制服は、上下黒で上着のボタンは隠れるようになっており私がこの制服に袖を通すのもあと3か月である。

 私は、騎士学校の最上級生で、3か月後に卒業を控えている。
 私の騎士学校での成績は極めて優秀で、1000年に一人の逸材などともてはやされており、その卒業後の進路に注目が集まったが、帝都騎士団の皇国親衛隊と呼ばれるところに、内定をもらっている。

 この皇国親衛隊は、エリート集団である帝都騎士団の中でも、トップクラスの人間が集まるところで、学生から直接、皇国親衛隊に入るということは前例がないことであると、騎士学校の校長から直接言われた。

 自室から食堂に向かう、食堂の扉に手をかけたときに背後から話かけられ振り返ると、そこには私と同じ服に身を包んだ男が立っている。

「おはようござます。お兄様」
「おはよう、エイル」

 話し掛けてきた男は、双子の弟、エイル・ノーベル。私はどちらかといえば華奢な感じであるが彼は対照的で短く黒い髪に、燃えるような真っ赤な瞳を持ち、がっちりとした筋肉質な身体付きをしている。

 騎士学校においては、私に次ぐ成績で、もし私がいなければ、彼が100年に1人の逸材といわれてもおかしくないと言われるほどである。

 先に食堂に入ると、黒い髪にところどころ白いものがまじった父フリューゲルが、長方形のテーブルの端に座っており、父上の近くに、美しく長い金髪をうしろで一つに編み込んでいる、母のノインが座っている
 エイルより先に食堂に入った私は父上と母上にに挨拶をする。

「おはようございます、お父様、お母様」
「うむ、おはよう」
「おはようございます」
 ついでエイルも食堂に入ってきて挨拶を交わす

 家族全員がテーブルにつくと執事やメイドたちが、パンやスープの入ったワゴンを押してくる。
 焼きたてのやわらかなパンに、よく煮込まれとろけるような野菜が入った温かなスープ
 父上の方から順に食事がテーブルに並ばれていき、全員分がテーブルに並ぶと父上が胸の前で手を組み口を開く
「われらが神に感謝します」
 私たちも父につづいて、同じように胸の前で手を組み祈りを捧げる

 父上が手をほどき
「それではいただこう」

 それを合図に自分たちも手をほどき、食事をとり始める。
 ある程度食べ終わると、執事がティーカップに紅茶を注ぎはじめる、紅茶の心地よい香りが食堂を満ちていく。
 父上が口を開く
「アレクシア、クレア様とはうまくいっているのか?」
「はい、順調です」
「うむ、それならばよい」

 第3皇女クレア、現皇帝の3番目の娘にして、絶世の美女と評されている。
 私たち兄弟とは幼馴染で、私の婚約者でもある。

 わがノーベル家にしてみても、現皇帝と血縁関係になりより強固な関係がもて、皇帝としても、次期宰相と噂されるフリューゲル・ノーベルと血縁関係を結べることは利益になり、半ば政略結婚のような形ではあったが、少なくとも私はクレアを愛していた。

「それでは私は学校へ向かいますので」
 食事をすませたエイルが立ち上がり、食堂を後にする
 それに続いて、私も席を立ち、父上と母上に一礼をし食堂を後にした。

 一旦自室に戻り、学校へ行く準備を整える。黒い革でてきた鞄に必要なものを入れ、腰には剣をさす。学生とはいえ騎士の端くれであるため、帯刀が許されているのである。

 エントランスに向かい、獅子の紋様がある扉をあけると、目の前には丹念に整備された中庭が広がっている、今季節は秋であるが、中庭には落ち葉一つなく、秋に花をつける植物たちが咲き誇っている。
 中庭を通って、外に通じる門を開き、学校へと向かったのであった。



 ◇◆◇

 帝立騎士学校、多くの貴族が通う騎士を養成する学校であり、城を思わせるような石造りの校舎から、ナイツオブキャッスルともよばれている。

 お昼も終わり、午後の剣術の授業が始まる、今日は座学ということで、教室に生徒が集まっている。
 上を向いた特徴的な黒い口ひげを生やし、でっぷりとしたお腹で服がはち切れそうな、教師のアルベルト・ミライが教壇に立ち、授業を始める。

 もうすぐ授業が終わるというときにミライが告げた。
「では、最後に一言、言っておくことがある明日の剣術大会をもって、剣術の成績の最終判定となり、その成績が各就職先に伝えられるから、後々の出世に響くことになる、おのおのしっかりと励むように」

 そう明日、騎士学校、全員参加の剣術大会が開かれる。
 木剣を使って行われるこの大会は、実戦形式で行われ、毎年恒例の行事であり、現皇帝であるリア陛下も見に来られる由緒ただしい大会である。

 私は入学以来、5年連続優勝している。

 ミライが私の前に立ち話し始めた。
「アレクシア、君には前人未到の6連覇がかかっているからな、期待しているぞ」
「はい、ご期待に沿えるよう頑張ります」
「弟のエイルとの名勝負も期待しているぞ」
「ありがとうございます」

 過去5年にわたる、エイルとの戦いは、大会史にのこる、名勝負と言われており、今年で最後となるため、前評判が高かった。

 授業が終わり、教室を後にしようとすると、白い髪が目にかかるほどの長さの男が私の前に立ち、話しかけてきた。

「アレクシアさん、明日の勝負掛けませんか?」
「えっと確か……」
「明日1回戦で当たる、パパリモです、パパリモ・リッカ」
「あーパパリモくんね」
「ひとつ賭けをしませんか?」
「賭け?」
 怪訝な顔をしてパパリモの目を見ると前髪に隠れた目はとても冷ややかで、人間のそれとは思えなかった。
「明日の試合、俺が勝ったらひとつのお願いを聞いてくれますか?」

 本来ならば、このような下賤な賭けなど受けることはない、だがパパリモの冷ややか目が気になる…

「いや、私はそのような下賤な賭けなど受けない」
「へぇぇ、あのアレクシアさんともあろうお方が、負けるのが怖くて賭けを受けないんですか、ああ残念だ。残念なお人だ」
「ま、待て私が負けるはずはない」

「ならば賭けを受けても問題ないでしょう?それともやはり負けるのが怖いんですか?クレア様もこのような臆病者と婚約されるとは、嘆かわしいことですな」

 私の中で何かがはじけるような音がした。

「おい!パパリモ言っていいことと悪いことがあるぞ」
 パパリモの胸倉をつかむ。
 それを見て周囲の人間たちが私たち2人を注視する。
「おい、おいなんだ、なんだ」
「おい、あれアレクシアじゃないか」

 やられた!これで私が賭けを受けなければ、私が逃げたと周りの人間に知られてしまう。
 パパリモは周囲に聞こえるような声で

「アレクシアさんは明日の剣術大…」
 私はとっさにパパリモの口をふさぎ、これ以上話せないようにする。
 わたしがパパリモの耳元でささやく。

「わかった、どんな魂胆があるかはしらんが、その賭けを受けよう」

「ヒヒヒ、わかりました、それじゃ私が明日の試合勝ったら、一つだけ言うことを聞いてもらいます」
 私が負けるはずはない、自分を信じろ

「わかった、お前の言うことを一つだけ聞く」
「じゃあ、私が負けたらどうしましょうか」
「…そうだな私の前に二度と姿を現すな」

「フヒヒ、そんな簡単なことでいいんですね」
 私はパパリモをつかんでいた手を放す。
「それじゃ私は行きます、賭けを受けてくれてありがとうございました」
 パパリモそういうと教室からでていく。

 クラスメート達が話しをしているのが耳に入る
「あれ?あんなやつクラスにいた?」
「いたような、いなかったような、アレクシアに絡むってよっぽど目立ちたいんだな」
「そうだな、俺達じゃ恐れおおくて声もかけられないぞ」
私が話している方をみるて、話しをしていた連中はバツが悪そうに出て行った。

 私が負けるはずない千年に一人の逸材だぞ…

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