転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん

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序章 貴族転落

第2話 深淵の誓約

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 ーー翌日

 剣術大会は、その規模から騎士学校内での開催が難しく、そのため近くの闘技場を借りて行われる。参加学生は騎士学校に集まり、準備を行う。

 生徒たちは各自思い立った場所で準備を行う。私は学校の中庭で準備を行ことにした。
 真っ白な道着に身を通す、体が動かしやすいように体にフィットするようにできており、それぞれ体型にあわせたオーダーメイド品になっている。

 中庭は芝生が張られており、大きな木の下がちょうどいい木陰になっており、生徒たちにも人気の場所である
 目を閉じ、木剣を丹田の上で水平に構える。
 剣先に意識を集中する、小鳥のさえずり、他の生徒の練習の音、一切聞こえなくなり剣と体が一体になる感覚。
 その瞬間に、振りかぶり打つ

 ーーよし、絶好調だ。一流の剣士は、一振りするだけで、体の調子がわかる。今日の体調は完璧だこの体調であれば、絶対にまけることなどありえない…

 10分ほど同じ動作を繰り返し、体が熱くなってくるのを感じる。

 ゴーン、ゴーン

 学校の鐘が鳴った、闘技場に集合の合図である。
 ーー戦いがはじまる。
 闘技場に向かう生徒達は、みな一様に真剣な顔つきで、これから始まる大会の重さを理解しているようにみえる、私は温めた身体を、冷やさないように、身体を動かしながら闘技場に向かう。

 切り出された岩を積み上げて作られた、楕円形の闘技場の入り口に立ち入場を待つ
 真ん中に楕円形の試合スペースがあり、その周りをそびえるように観客席が囲んでいる。

 今日1日で300人の生徒が雌雄を決する、闘技場の競技場は10試合が一斉にできるほどの広さがあり、観客席も含めると、この国で一番大きな建造物である。


 私達が闘技場に入場すると、大歓声があがる。この剣術大会は、国民にとっても大人気の行事の一つであるのだ。

 ジャーン、ジャーンとドラが鳴り響く。
 座っていた観客、全員が立ち上がり、貴賓席の方をむき、一礼をする。
 貴賓席に、皇帝陛下が到着されたのだ。
 皇帝陛下が右手をあげると観客全員が着席する。

 私達生徒も左足を引き、右手を腹部のところで払い、皇帝陛下にむけてお辞儀をする

 その隣に、長く美しい黒髪をした、水色のドレスをまとった、美しい女性が皇帝陛下の隣の席につき、私の方を向き、ちょこんと頭を下げた。
 クレア第3皇女である。

 私もそれを見て、ちょこんと頭を下げた。

 父も皇帝陛下の近くに座っている。

 学校長の挨拶が始まった。
 これが終わると、試合開始となるのだが、いつも学校長の話は長い、皇帝陛下がおられるためさらに長くなっているようにも思えた。

「ーーこれで終わります」
 生徒や観客たちがやっと終わったというような表情をし、クレアも水色の肘まである手袋をした手で口元を隠し苦笑いをしているようにみえた。

 試合が始まる

 私の順番はまだであるが、エイルの試合があるので、隅から見学をする。
「はじめっ」
 審判である教師が合図をだした。

 瞬殺だった。今日のエイルは気合が違う。今までにないほど、気合感じ、私も身震いをした。

 これは凄い戦いになる。今までにないほどの
 この剣術大会はトーナメント形式であるが、私とエイルは決勝であたるように調整されている。私たちの実力を知る教師たちが決勝戦が一番盛り上がるようにと、粋な計らいである。

 この調子であれば、決勝でエイルと当たるのは確実、私の剣を持つ手にも力がはいる。
 エイルの戦いを見届け、控え室に向かう。
 木製の控室のドア開けると、15人程度が座れそうな長い石造りのベンチがある。
 私は端に座り目をつぶり集中力を高める

「アレクシアさん、次です」
 係員に呼ばれ、決戦の場に向かう。

 私の1回戦対戦相手、パパリモ・リッカが目が隠れるほどの髪で、私の目の前に立っている。

 やはり、昨日感じたような人間の物とは思えない冷ややか視線を私にぶつけてくる。

 私が負けるはずが無い、自分を鼓舞する。
 お互いに一礼をし、位置についた。

 この時、他の選手の試合も行われているのだが、観客たちは静まり返った、そう私の一挙手一投足をみのがしてはならないと、観客全員が私に注目をしているのだ。

 そうだ私は、ガレオンの希望、千年に一人の逸材。
 しかし、あのパパリモの自信、そしてあの視線、嫌な予感がする。
 さすれば、こういう場合は先手必勝、一気に攻めて後顧の憂いをなくす!

 審判の手が上がると同時に私はパパリモに斬りかかる。

 捉えた、確かにパパリモの体を木剣が捉えたはず…だった

 私の剣は空をきる、そんな馬鹿な確かに、確かにとらえたはずこの私が見誤るはずがない。

 いない?消えたのか?

 周囲を見回すが、パパリモの姿は見えない。


 すると目の前にパパリモの木剣が振り下ろされている。

 だめだ間に合わない!!

 頭にあたる直前で、木剣がとまった。
「俺の勝ちでいいですよね」
 パパリモが横を向き審判に話しかけている
 審判もなにがおこったのかわからなく信じられないといった顔をしていたが
「あ、ああ」
 パパリモの勝ちを認めたのであった

 場内を怒号、悲鳴が響く
 そう百戦錬磨の私が負けたのだ、だれもが予想をしなかった光景を目にしているのだ。
「そ、そんな馬鹿な何をしたパパリモ!」
「何をしたって?普通に剣術ですよ、剣術」
「私の剣は確かにお前をとらえていたはずだ」
「それは、本当にとらえていたのですか?眼の錯覚、妄想ということは考えられませんか?」
 私がパパリモを問いただしていると、場内からどよめきが聞こえる。
 ーーこれはまずい、私が負けたことを認めらず、抗議をしているように見られている。
「ほら、次の試合もありますので早く敗北をみとめてくださいな」
「わ、わかった…」
 アレクシア・ノーベル、千年に一人の逸材と呼ばれた男、この私が、1回戦で無残に敗北したのだ。

 私はパパリモの右手を持ち上げ、勝利をたたえたあと、顔を伏せ、クレアや父上の顔を見ることなど当然できるわけもなく、観客の視線から避けるように競技場を後にした。

 私が負けた…負けた私の人生の中で負けなどあり得るはずがない、勝って当たり前、私の人生に負けは存在していないはず。

 パパリモはあの一瞬どこに行ったのだ、私が見逃したのか?あの男の剣は私よりも優れていたのか?わからない、わからない。

 私が負けたという事実だけが両肩に重くのしかかってくる。

 茫然自失といった状態で、なんとか控室に戻り、震えながら長椅子に腰を落としうなだれていると、エイルが横に座り、今までにないほどのきつい口調で話しかけてきた。
「兄上が負けるとはな…慢心だな」

 そうか、私は慢心していたのかもしれない、エイルの言葉が胸を抉る。

「ああ、そう思われても仕方ないな」
「この1年、兄上に勝つことだけを目標にしてきたのだがな」

 そうだこの1年私に勝つという目標のために、エイルは血の滲むような鍛錬を行なってきた、その私が1回戦で負けたのだ、エイルに謝罪をするしかない。

「すまない、期待に応えることができなかった…」
「まあ、いい俺がこの大会優勝する」

「ああ、頑張ってくれ、パパリモは強いぞ」
「兄上と同じ轍は踏まぬゆえ安心してくれ」
 エイルは肩で風を切りながら、私の前から消えた。

「さあ、賭けの結果です」
 パパリモの声はするものの姿がみえず、俺は頭を上げ周囲を見渡す
 次の瞬間

 私はなにもない白い空間にいた。
「おい、なんだ!ここはなんなんだ!」
 大語で叫ぶが声がむなしく響く

 すーっと目の前にパパリモの姿が現れてくる
「お前何をした、あの勝負はいったいなんなんだ」
「もう過ぎたことを言っても過去には戻れません、例の賭けは私の勝ちです」
「私は負けていない」
「え?負けを認めないのですか?さっき私の勝利をたたえたくれたのは誰でしたか?」
「…それは…」
「もう潔く負けを認めましょう、騎士道ってやつですか?それに背いてないんですかねそれ」
「あ、ああ」
 そこまで言われてしまうとさすがに引き下がるしかない…
「そこで、私の願いですが、これにちゃっちゃとサインしてくれるだけでいいんですが」 

 パパリモが私に紙切れ1枚を渡した。
「こ、これは」
「ご存知でしょう、深淵の誓約証です」

 実物はみたことはないが、話だけはきいたことがある。
 遙か昔、深淵の魔女と呼ばれるものが存在し、人間に契約を守らせる為に、深淵の魔女は魔力を込めた誓約証を作った。
 その紙に書かれた誓約を破ると魔女に深淵に連れていかれるというもので、深淵に連れていかれたものは、死ぬこともなにもできない空間で永遠に生き続けるというものだ。

「この世界が…深淵か…」
「そうですここが、深淵です」
 ーーこのなにもない空間で死ぬこともできずに永遠に生き続ける……
「ふふ、誓約をやぶらなければ、ここにくることはありません」

その誓約証には1年間、辺境のザナビル王国のギルド、ヘブンズワークスで働くことと書かれていた。
「1年間も他国のギルドで働くなどできるわけがない、こんなもこうしてやる」

私はその誓約証を破り捨てようとする。
「あっと、その誓約証を破り捨てたものは、問答無用で深淵に行きです。ククク」
危ないところだった…もう少しで破り捨てるところだった…

「その1年間ってのは今からなので、その辺もよろしくお願いしますね」
「今から…もし断るということになれば」

「なぜ、あなたが今ここにいるんでしょうか?私一人だけで元の世界に帰ってもいいんですがね」

 パパリモは口元を歪ませ、笑いをこぼす

 1年間クレアに逢えないだと…

「その誓約証に署名はする、ただクレアにクレアに一目合わせてくれ」

「ダメです、あなたはその誓約証にサインした瞬間、ザナビル王国に転送されるのです、わたしからクレア皇女には伝えておきましょう、1年たったら戻ってくると…ね」
 パパリモは再び口元歪ませる。

「……わかった、ありがとう」
 私は、右手の震えを左手で抑えながら深淵の誓約証にサインをした。

 目を開けると、壁にランプがつるされており、明かりがゆらゆらと揺れる、薄暗い、薄い木の板でできた壁の部屋におり、目の前には、酒樽のように太い腹に、ウシガエルのような二重顎の男が、椅子にふんぞりかえり、手には一枚の紙を手にしていた。

「ふん、アレクシア・ノーベルね、お前があのガレオンの有名人か…」
 太った男は、かすれた声で言った。
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