転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

終章 復讐の果て

第33話 魚料理

　晩餐会には当然、宰相である父や母、エイル、そしてお腹の大きくなったクレアも参加していた。
　クレアとエイルの結婚以降、時折目に映るクレアの幸せそうな表情をみて、復讐を果たすべきなのか否か、最愛の人の幸せを願うことが一番ではないのか？その心に葛藤が起こる。

　そんなときは決まってあの時の夢をみる、あの決闘裁判で見た時の夢を…私が復讐を覚悟した時の夢を。
　まるでパパリモが私の復讐を望んでいるようにすら思う。


「ちょっとお前、そこのお前だよ、なにぼーっとしてんの？これ見て？」
　我に返ると、円卓に座る太った貴族が横柄な物言いで料理を指さす。

「こんなクソ不味い魚料理だしてからに、皇帝陛下、国王陛下に対して失礼ではないのか？」
　その皿にはメインディッシュの一つである、魚料理が置かれており、その貴族はそれに腹を立てている様子である。
「お前たちはこんな魚をだすのか？え？ここは庶民のくるところではないのだぞ」
　そういってその貴族は魚料理の皿をひっくり返し魚料理が床の上に落ちた。

　貴族は腕を組み、偉そうに話を続ける
「そもそも、こういった席で魚を出すこと自体がありえぬ、まことにありえぬどういった神経をしているのかしんじられぬわ！！」
　私は床に落ちた魚を見つめる…
「おい、お前、聞いているのか？この私が教えてやっているだぞ私の方を向いて話を聞かんか！！」

　ーーこの魚は確か…

　私はキッとその貴族をにらみ返す。
「ん？なんだお前執事のくせにやるのか？え？」
　その太った貴族は立ち上がり、私の胸倉をつかむ。
　侍従長が青い顔をしながら飛んでくる。

「申し訳ありません、ベイリッシュ公、いったいどうなされました？」
「この宮殿の教育はどうなってんだ」
　ベイリッシュ公と呼ばれた貴族は胸倉をつかんだ手をゆする。

「この私が料理について講釈をしているのにも関わらず、この侍従の男は私をにらみつけたんだぞ、いったいどういうことだ侍従長、貴様の責任だぞ」

「大変申し訳ありません」
　侍従長は平身低頭に謝り続ける
「おい、ちゃんと謝れ」
「…」
「謝ることもできないのかお前は私が教育してやる！」
　ベイリッシュ公はそういって右で拳を作り、私に殴りかかる。
　殴ってきた手首つかむ。
　その貴族の手の先がどんどんと紫に色に変色していく。
　貴族は真っ赤な顔して
「お、おい貴様その汚い手、手を放せ…」
　と助けを乞うよな物言いをしている。

「申し訳ございません！！おい何をしている手を離せ！」
　その言葉を聞いて私は手を放す。

　侍従長は平謝りで、ベイリッシュ公は増長しわめき散らしている。
「もう許さん、こいつは私に対する不敬罪で死罪だ！死罪！」
「本当に申し訳ございません、ほらお前もちゃんと謝れ、土下座してお詫びしろ」
「どんなわびをもらおうが、貴族に対する態度ではない、侍従長、貴様もこやつと連帯責任だ侍従長の任を解くよう進言いたすわ！！」
「おい！早く謝れ、頼むから早く謝れ」
　侍従長は真っ青な顔して私に謝れの一点張りである。

　ここは侍従長のためにも謝るべきか…謝ったところで許してくれそうな相手ではないがな…

「なんだその態度、死罪になっても構わないということだな！！」


　様子を見かね宰相である父がその場にやってきた。
「どうなさいましたか、ベイリッシュ公」
「どうもこうも、この侍従が私に対して不敬な態度をとりおってからに」
「ふむ、侍従長それはまことか」
「左様でございます」
「ならば、このような席で騒ぎを起こすなど言語道断！侍従の教育は侍従長の責任である」
　父は侍従長を叱り飛ばす
　ベイリッシュ公は当然というような顔つきで
「ノーベル公、この侍従を貴族に対する不敬罪で死罪に致すべきかと」
　そういって赤くなった手首を父に見せる。

　父は表情を変えず、床に落ちた魚を見つめている。
「そうだな、侍従でありながら貴族に対する不敬、万死に値するな」

　すると父は床に落ちた魚を素手で拾い上げ、
「この魚はどうされたもので？」
「ああ、この魚はこのような席で出すにはふさわしくないと、この侍従に教育してやっていたのだ、どうもそれが気にくわなかったみたいであのような態度をとったのだ」
「なるほど、この魚がこの席にふさわしくないと」

「ああ、そんな低級な魚など、皇帝陛下、国王陛下に出すのは失礼ではないか？ノーベル公もそう思われるであろう？」
「なるほど…」
　父は眉間にしわをよせ、魚を皿に戻し話し始めた。
「この魚はザナビル特産のものでな…ソルフィン陛下自らが晩餐会でふるまってほしいと持ち込まれたものだ、最初の挨拶のときにそうおっしゃっていたはずであるのだが？」
　ベイリッシュ公は顔面蒼白となり急に口を閉ざし下を向いた。
　父は話を続ける
「国王陛下の挨拶も聞かず、そしてそのお気持ちを無下にした貴殿こそ不敬罪であろう！」
　ベイリッシュ公は父が拾い上げ皿に戻した魚を震えながら食べ
「さ、さすがソルフィン陛下がお持ちした魚大変おいしゅうございますな…」
　と一言いいうつむいた。

　父は私に
「貴様の貴族への態度は不敬罪に値する…が国王陛下のお気持ちをくんでしたことであれば今回の件は不問にふす」
　と言い残し、自分の席に戻っていた。
　侍従長はため息をつき
「はぁ助かった、さすがフリューゲル様だ、丸く収めてくださった」
「すいません侍従長」
「とにかく今回はフリューゲル様も不問にするとおっしゃっているから、不問にするがもうこんな騒ぎは起こすなよ」
「はい」
　そういって侍従長は私のもとから去っていった。

　やはり父は昔から変わっていない、宰相になってもその人柄、清廉潔白な人物と評されている通りの人物だ。