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7.ピンクの薔薇
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「聖女様、こちらの花束をお受け取りください。」
夜、教会へ向かうと大きなピンクの薔薇の花束を神父様に渡された。
薔薇の香りが周りに満ちて、吸い込むだけで気持ちが華やぐ。
「これはどうしたのですか?」
「昼間に王子が視察にこちらにいらして、ぜひあなたに会いたいとおっしゃり、長く滞在しておりました。
ぜひ、あなたに花束を渡したいとのことでした。」
「えっ、そんな…困るわ。」
「心配はいりません。
聖女様のことは、絶対に秘密にしておきますから。
視察と言いながら、実際はあなたに会いにいらしたのです。」
「神父様がそう言ってくださって、ほっとしました。
私は月の出ている間しか、聖女の姿にならないので、聖女である私を期待される方には応えられません。」
「あなたが月の聖女様であることは、本当に気の毒に思います。
歴代の聖女様は、ずっと聖女の姿でいる方がほとんどなのに。
一日中聖女様の姿でいられたら、聖女様としての人生を送ることができたのですが。
半分は元の姿に戻ってしまうから、そのことを理解してくれる方でないと、つらい思いをするかもしれません。
たとえ、王子と結婚したとしても、元の姿の時にあなたを大切にしてくれるかは、わかりません。」
「はい、私もそう思います。
私は元の姿の方を好きになってくれる人でなければ、求婚されても受け入れるつもりはありません。」
「その気持ちはよくわかります。
では、こちらの花束だけでも、受け取りますか?」
「そうですね。
この花束は大きすぎて目立つから、とても家へ持って帰れないわ。
でも、ピンクの薔薇はとても素敵だから、一輪だけいただいてもいいかしら。」
そう言って、薔薇を一輪受け取り、グラスに入れて、部屋に飾っている。
とてもみずみずしくて、素敵な香りのする薔薇。
でも、私は一輪だけで充分。
半分普通の女性で、半分聖女。
聖女としての私を求める人にとって、昼間の地味な私の姿は、到底受け入れられないだろう。
それもあって、今までの聖女様より自分は、秘さなければいけない存在だと思う。
世間に秘密が知られたとしても、聖女の仕事があるから、ここを離れて逃げることさえできない。
おそらく、こんな中途半端な私を受け入れてくれる人は、現れないだろう。
シアナとデートを終えて、彼女の家まで送ると、部屋のテーブルの上に一輪のピンクの薔薇が飾られていた。
この薔薇は王宮で育てられている特別な薔薇ではないのか?
ニコラスはその薔薇を見た瞬間、王宮で見た記憶が蘇った。
魔獣討伐隊で、王命を賜ることがあり、その時に王宮の庭園で見かけていた。
何故、貴重な王宮の薔薇がここに?
「シアナ、この薔薇は?」
「これは薬草を納品した時に、店主からもらったの。」
「店主は王族と関わりがあるのかい?」
「…私はよくわからないわ。」
「そうか。」
シアナは知らなかった。
ニコラスがこの薔薇を一眼見ただけで、王宮の薔薇とわかることを。
王宮の薔薇は誰にでも渡すものではない。
王族の者だけが、特別な人に渡すことが許されていて、ただの贈り物にはなり得ないのだ。
だから、王都の店主が王族から渡されるはずはないし、もし特別な理由でもらったとしたら、その薔薇を違う誰かに贈ることなどあり得ない。
王族から愛を受け取り、その愛を違う人に向けることになり、不敬な行いとされる。
それもあって、教会にある残りの薔薇の花束は、神にたむけてられているだろう。
私はこの薔薇をニコラスが見ても、王宮の薔薇だと気づかないと思っていた。
けれども、彼は思っていた以上に鋭い観察力を持っていた。
王宮の薔薇がここにあると言うことは、本来ならあり得ない。
私が王子に求婚されていることを意味するから。
もし、このことをニコラスに追及されても、私にはうまく誤魔化ことなどできないから、ニコラスが疑問を持つその前に、彼との関係はもう終わりにしなければならないだろう。
今日で会うのを最後にして、私のことを忘れてもらうしかない。
でも、できるのなら彼と別れるのを、少しだけ待って欲しい。
私は何も話すことができず、じっと彼を見つめる。
彼の姿を目に焼き付けて、最後にこれから寂しく一人で生きる覚悟をする時間だけ欲しいと願う。
夜、教会へ向かうと大きなピンクの薔薇の花束を神父様に渡された。
薔薇の香りが周りに満ちて、吸い込むだけで気持ちが華やぐ。
「これはどうしたのですか?」
「昼間に王子が視察にこちらにいらして、ぜひあなたに会いたいとおっしゃり、長く滞在しておりました。
ぜひ、あなたに花束を渡したいとのことでした。」
「えっ、そんな…困るわ。」
「心配はいりません。
聖女様のことは、絶対に秘密にしておきますから。
視察と言いながら、実際はあなたに会いにいらしたのです。」
「神父様がそう言ってくださって、ほっとしました。
私は月の出ている間しか、聖女の姿にならないので、聖女である私を期待される方には応えられません。」
「あなたが月の聖女様であることは、本当に気の毒に思います。
歴代の聖女様は、ずっと聖女の姿でいる方がほとんどなのに。
一日中聖女様の姿でいられたら、聖女様としての人生を送ることができたのですが。
半分は元の姿に戻ってしまうから、そのことを理解してくれる方でないと、つらい思いをするかもしれません。
たとえ、王子と結婚したとしても、元の姿の時にあなたを大切にしてくれるかは、わかりません。」
「はい、私もそう思います。
私は元の姿の方を好きになってくれる人でなければ、求婚されても受け入れるつもりはありません。」
「その気持ちはよくわかります。
では、こちらの花束だけでも、受け取りますか?」
「そうですね。
この花束は大きすぎて目立つから、とても家へ持って帰れないわ。
でも、ピンクの薔薇はとても素敵だから、一輪だけいただいてもいいかしら。」
そう言って、薔薇を一輪受け取り、グラスに入れて、部屋に飾っている。
とてもみずみずしくて、素敵な香りのする薔薇。
でも、私は一輪だけで充分。
半分普通の女性で、半分聖女。
聖女としての私を求める人にとって、昼間の地味な私の姿は、到底受け入れられないだろう。
それもあって、今までの聖女様より自分は、秘さなければいけない存在だと思う。
世間に秘密が知られたとしても、聖女の仕事があるから、ここを離れて逃げることさえできない。
おそらく、こんな中途半端な私を受け入れてくれる人は、現れないだろう。
シアナとデートを終えて、彼女の家まで送ると、部屋のテーブルの上に一輪のピンクの薔薇が飾られていた。
この薔薇は王宮で育てられている特別な薔薇ではないのか?
ニコラスはその薔薇を見た瞬間、王宮で見た記憶が蘇った。
魔獣討伐隊で、王命を賜ることがあり、その時に王宮の庭園で見かけていた。
何故、貴重な王宮の薔薇がここに?
「シアナ、この薔薇は?」
「これは薬草を納品した時に、店主からもらったの。」
「店主は王族と関わりがあるのかい?」
「…私はよくわからないわ。」
「そうか。」
シアナは知らなかった。
ニコラスがこの薔薇を一眼見ただけで、王宮の薔薇とわかることを。
王宮の薔薇は誰にでも渡すものではない。
王族の者だけが、特別な人に渡すことが許されていて、ただの贈り物にはなり得ないのだ。
だから、王都の店主が王族から渡されるはずはないし、もし特別な理由でもらったとしたら、その薔薇を違う誰かに贈ることなどあり得ない。
王族から愛を受け取り、その愛を違う人に向けることになり、不敬な行いとされる。
それもあって、教会にある残りの薔薇の花束は、神にたむけてられているだろう。
私はこの薔薇をニコラスが見ても、王宮の薔薇だと気づかないと思っていた。
けれども、彼は思っていた以上に鋭い観察力を持っていた。
王宮の薔薇がここにあると言うことは、本来ならあり得ない。
私が王子に求婚されていることを意味するから。
もし、このことをニコラスに追及されても、私にはうまく誤魔化ことなどできないから、ニコラスが疑問を持つその前に、彼との関係はもう終わりにしなければならないだろう。
今日で会うのを最後にして、私のことを忘れてもらうしかない。
でも、できるのなら彼と別れるのを、少しだけ待って欲しい。
私は何も話すことができず、じっと彼を見つめる。
彼の姿を目に焼き付けて、最後にこれから寂しく一人で生きる覚悟をする時間だけ欲しいと願う。
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