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1.変わった女性
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ナイジェル・トルクは仕事中にも関わらず、退屈していた。
ここテイス王国の文官として、王宮で働いていたが、トルク家はよくある侯爵家であり、組織の一員としての執務しか求められていない。
だか、ナイジェルは元々頭の回転が速く、与えられた執務なんて、昼までに終わってしまう。
でも、誰よりも多い仕事を易々と終わらせると、午後はただ、ぼうっとして皆が執務を終わらせるまで時間を潰す。
そうそうに終わらせたと知られるとできないやつらが、嫌味を言って来てうるさいのだ。
そのため、今日もやることなく窓から、ぼんやりと外を眺めている。
すると、庭園の端の方で、ドレスを着た令嬢と思われる女性が危なっかしく木に登り、先に登って動けなくなってニャーニャー鳴いている猫を助けようとしているようだ。
人の背丈の二倍以上の木の高さがあるのに、女性は幹から、猫のいる細い枝先に手を伸ばしている。
すぐにも落ちそうで、見ているこっちがヒヤヒヤする。
そして、ただでさえ登りにくい細い枝の木なのに、令嬢特有の長いドレスの裾が木登りを完全に邪魔している。
もう少しで手が届くと言うところで、猫はサッと枝からジャンプし、幹をつたって、降りて逃げて行った。
猫が無事に地上に降りて安堵したようすのその女性も、降りようと動いた瞬間につかまっていた枝がバキっと折れ、女性は掴んでいたものを失い、バランスを崩し落ちそうになる。
「アッ」
と窓から見ていたナイジェルは、思わず声が出てしまった。
周りの人達が一斉にこちらを見る。
だか、ナイジェルにゆっくりとしている時間はない。
女性は、かろうじて、たまたま掴んだ細い枝にぶら下がった状態なのだ。
いつ枝から手が離れ、地面に降ちるかわからないし、細い枝だって折れかねない。
ナイジェルは女性を助けるために慌てて、走り出した。
きつっ、もう枝を掴んでいた腕が痺れて来て、力が入らない。
コーデリアは諦めて、最悪骨折しても仕方がないけれど、手を離そうと思った時、下から声がした。
「もう大丈夫だ。
その枝から手を離してごらん。」
下から声がする。
よくわからないけれど、もう枝を掴む腕の力は残っていない。
私は、その言葉を信じていいのかわからないけれど、そっと手を離した。
それと同時に落ちるが、下から支えられて間一髪のところで、男性に抱き抱えられたのがわかった。
私は落下の衝撃を免れ、下にゆっくりおろされた。
助かった。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます。」
振り返ってみると、そこには黄色い瞳の顔の綺麗な男性がいる。
親切な人がいて良かった。
私は嬉しくて、笑顔で笑いかけた。
するとその男性は、
「いえ、たいしたことではないです。」
と硬い表情のまま、ほとんど視線も合わせずに、立ち去ろうとする。
「待ってください。
お礼もちゃんとしてませんし、この後、お時間いただけませんか?」
するとその男性は、眉間に皺を寄せ、さっきより明らかに表情を硬くし、今度こそ振り向かずに去って行った。
女性に誘われたナイジェルは、ウンザリしていた。
ちょっと親切にすると、女ってものは何でもすぐ出会いの場に変えて、しつこく騒ぎ立てる。
そして、大したことないのに、恋だの愛だの運命の出会いなどと騒ぎ立てようとする面倒なやつらだ。
ここは、これ以上関わらないのが、一番だ。
ナイジェルは端正な顔と、冴えた頭脳、そして侯爵子息という身分のため、女性にモテるのを面倒に感じる拗れた考えを持つ男だった。
ここテイス王国の文官として、王宮で働いていたが、トルク家はよくある侯爵家であり、組織の一員としての執務しか求められていない。
だか、ナイジェルは元々頭の回転が速く、与えられた執務なんて、昼までに終わってしまう。
でも、誰よりも多い仕事を易々と終わらせると、午後はただ、ぼうっとして皆が執務を終わらせるまで時間を潰す。
そうそうに終わらせたと知られるとできないやつらが、嫌味を言って来てうるさいのだ。
そのため、今日もやることなく窓から、ぼんやりと外を眺めている。
すると、庭園の端の方で、ドレスを着た令嬢と思われる女性が危なっかしく木に登り、先に登って動けなくなってニャーニャー鳴いている猫を助けようとしているようだ。
人の背丈の二倍以上の木の高さがあるのに、女性は幹から、猫のいる細い枝先に手を伸ばしている。
すぐにも落ちそうで、見ているこっちがヒヤヒヤする。
そして、ただでさえ登りにくい細い枝の木なのに、令嬢特有の長いドレスの裾が木登りを完全に邪魔している。
もう少しで手が届くと言うところで、猫はサッと枝からジャンプし、幹をつたって、降りて逃げて行った。
猫が無事に地上に降りて安堵したようすのその女性も、降りようと動いた瞬間につかまっていた枝がバキっと折れ、女性は掴んでいたものを失い、バランスを崩し落ちそうになる。
「アッ」
と窓から見ていたナイジェルは、思わず声が出てしまった。
周りの人達が一斉にこちらを見る。
だか、ナイジェルにゆっくりとしている時間はない。
女性は、かろうじて、たまたま掴んだ細い枝にぶら下がった状態なのだ。
いつ枝から手が離れ、地面に降ちるかわからないし、細い枝だって折れかねない。
ナイジェルは女性を助けるために慌てて、走り出した。
きつっ、もう枝を掴んでいた腕が痺れて来て、力が入らない。
コーデリアは諦めて、最悪骨折しても仕方がないけれど、手を離そうと思った時、下から声がした。
「もう大丈夫だ。
その枝から手を離してごらん。」
下から声がする。
よくわからないけれど、もう枝を掴む腕の力は残っていない。
私は、その言葉を信じていいのかわからないけれど、そっと手を離した。
それと同時に落ちるが、下から支えられて間一髪のところで、男性に抱き抱えられたのがわかった。
私は落下の衝撃を免れ、下にゆっくりおろされた。
助かった。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます。」
振り返ってみると、そこには黄色い瞳の顔の綺麗な男性がいる。
親切な人がいて良かった。
私は嬉しくて、笑顔で笑いかけた。
するとその男性は、
「いえ、たいしたことではないです。」
と硬い表情のまま、ほとんど視線も合わせずに、立ち去ろうとする。
「待ってください。
お礼もちゃんとしてませんし、この後、お時間いただけませんか?」
するとその男性は、眉間に皺を寄せ、さっきより明らかに表情を硬くし、今度こそ振り向かずに去って行った。
女性に誘われたナイジェルは、ウンザリしていた。
ちょっと親切にすると、女ってものは何でもすぐ出会いの場に変えて、しつこく騒ぎ立てる。
そして、大したことないのに、恋だの愛だの運命の出会いなどと騒ぎ立てようとする面倒なやつらだ。
ここは、これ以上関わらないのが、一番だ。
ナイジェルは端正な顔と、冴えた頭脳、そして侯爵子息という身分のため、女性にモテるのを面倒に感じる拗れた考えを持つ男だった。
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