悪魔

夕時 蒼衣

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昨日と今日

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 夢を見ている。黒板がゆがんでいる。まっさらな黒板の前で、教授がひとりでに話しているが、そんなものは右から左に流れていった。
 どこかで見たことのある景色のように感じた。デジャブ。というより毎日の繰り返しのように感じるこの日常に、どこかで違和感を感じているのかもしれない。違和感というより、むしろ不安感なのかもしれない。毎日、毎日、同じ黒板をおなじ教室で同じように退屈して、ただ眺めている。
 目が合った。何事もなかったかの様に、また視線がはずれる。教授が昨日と同じことを話している。いや、もしかしたら、これは、昨日の講義なのかもしれない。昨日は何曜日だっただろうか。覚えてない。昨日のプリントは、どれだろうか。ノートは。教科書のページは。今日が今日だという証拠はどこにあるのだろうか。日にちは、変わっているだろうか。今日のニュースはどんなものだっただろうか。夜は明けただろうか。朝はきただろうか。朝、誰かと話しただろうか。どんな話だったか。
 本当に今日はきたのだろうか。もし、これがドッキリだったら、それこそ今日が来たかどうかなどわからないだろう。誰かが故意に、時計を進めているかもしれないし、教授が、私が聞いていなかったことをいいことに、昨日と全く同じ講義をしているのかもしれない。私以外がわたしを見て、あざ笑っているのかもしれない。  
 後ろから誰が笑っている。くすくすと笑い声が聞えるのだ。ああ、きっとこれは夢の中だ。ここは夢の世界なのだ。この笑い声もすべて幻。誰かが、私が眠っているその横で、おしゃべりをして、たわいもないことで笑っているだけだ。ただ、私にはもう、わたしをおとしめて笑っている悪魔にしか聞こえない。
 ねえ。知りたい?
 悪魔が私に話かけた。薄気味悪く微笑んでいるように感じる。というのも私は寝ているからである。寝ているから、瞼を閉じているのである。閉じているから、私には悪魔の表情は見えないのである。ただ、私には薄気味悪く笑いながら、こちらをのぞきこんでいるように感じた。
 あなたは騙されているわ。ねえ、信じて、わたしを。
 悪魔のささやきだ。これは悪魔のささやきだ。誰が信じるものか。信じたら最後、私はこの悪魔に食われてしまうのだ。この言葉を聞き入れたらおしまいなのだ。どんだけ、寝ぼけた私でもその手には乗らないのだ。恐れ入ったか、悪魔よ、私はそこまで馬鹿ではないのだ。
 昨日のことを覚えている?あなたは覚えてないわね、きっと。なんでもない日だったもの。覚えているはずないわ。あなたの性格だもの。でもね。昨日はわたしにとって大切なひだった。
 昨日のことを、あたかも昨日があったことを確定するように、それを知っているかのように彼女は、悪魔は、私に話しかけている。なぜだろうか。今日が来たことをなぜこの悪魔は知っているのだろうか。今日という「き」の字も知らないような、私を食うのにしか頭のない、空っぽの悪魔が、なぜ、私がどうしても知りたいのにわからない、証明しようにも、その術さえない、この問いの答えを知っているのだろうか。私がこの悪魔に劣っているだと。そんなはずない。私がこんな奴に劣っているなんて、そんなはずはない。仮に本当に今日という日が来ていて、彼女の言うことが正しいとしても、この悪魔が、悪魔というこいつが、そのことを証明できるだろうか。答えは簡単だ。否。絶対にできるはすがない。私ができないのだ。こんな悪魔ごときに、そんなことができてたまるか。少なくとも私はこの悪魔より賢いのである。
 可笑しな人ね。もし、わたしが証明できると言ったら?言ったでしょ?昨日は、わたしにとって大切な日だった。
 かわいそうな悪魔だ。自分の愚かさにも気づいていないなんて。なんて愚かなんだろう。証明ができるだなんて。そんなのはったりに決まっている。でも、もしこの悪魔が、彼女ですら、容易に証明ができるとしたら。それ以上にもっと私が恐れるのは、私以外が、それをいとも簡単にそれができるとしたら。私はどんな人よりも劣っているとしたら。私が。私が。私が。私が。私が。私が。
 やめろ。やめてくれ。お願いだ。やめてくれ。
 わたしを見て。わたしを。ねえ、わたしをみて。
 やめてくれ。お願いだ。やめろ!

気が付くと私は叫んでいた。はっとした。目が覚めた。あたりを見回したがそこには誰もいなかった。ただ、長い間眠っていたのか、どっと、疲れが出た。
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