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不倫
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「昨日は何をしてた。」
唐突にそうたずねられ、内心どきりとした。
「可笑しな人ですね、急にどうしたんですか。いつもと変わりませんよ。隣町に買い出しにいってましたよ。」
今までにないくらいに怖い顔をして、誠さんはこちらをにらんでいた。その目はわたしをほんの少しでも信じている目ではなかった。
「とぼけるな。」
有無も言わせぬ圧力。ねえ、誠さん。どうしてそんな言い方をするの。わからない、どうして。
「お前、昨日男と会っていただろう。あの男、『あいつは従順だから、俺に逆らわない。近いうちにあいつは、あなたにお金が必要になったと、言うだろう。そのときはぜひ協力してあげてくれ。やがて、それは俺の懐に入ることになるんだからな。』って笑いながら私に話しに来たよ。最初からお前は、あの男と、私から金を巻き上げようっていう魂胆だったんだな、そうだろ。」
違う。そんなことない。私にとって誠さんがすべてだった。もう頼れる人なんていなかった。わたしが唯一わたしでいられれたのはあなたといるときだけだった。それなのになぜ、わたしのことを信じてくれないの。どうしてそんな目でわたしをみるの。
「誠さん。あなたは、あの男に騙されているわ。ねえ、信じて、わたしを。昨日は、わたしにとって大切な日だった。」
そう、昨日はわたしにとって大切な日だった。あの呪縛を断ち切って、わたしは自由になった。そう思っていた。もう、あの家族からは縁を切った。やっと、あなたと、やっと誠さんと、うそ偽りのない家族になれるとおもった。もう、後ろめたいことなどなにもない。本当の無垢なわたしを誠さんは受け入れてくれる。誠さんと本当の家族に。そう、思っていたのに。
「そうだろうな。お前はあいつと、よろしくやっていたのだろう。」
そうじゃない、わたしはただ、あなたと一緒にいたかった。それだけなのに。
「違う。」
否定したその声はひどくかすれていた。心が折れそうで仕方がなかった。愛している人に信じてもらえないのが、こんなにも苦しいこととは想像もしていなかった。これが人を愛することだということを、わたしは初めて知った。
「信じてわたしを。あの人はわたしの兄なの。昨日は、あの人に確かにお金が必要になったと、言われた。母親が病気だとも言っていた。でも、わたしは断ったの。もう関わらないって。そう言ってやった。さんざんわたしは苦しめられてきた。だから、そんなのわたしには関係ない。もう、関わらないでって、わたし、そう言ってやった。」
本当は、どこまでは言えなかった。夢中になって抵抗するのが、やっとだった。
「そうか、それで最後のお別れだからと言って、兄さんを抱きしめたのか。家族そろって最低だな。本当に仲がいいんだな。」
何も言い返せなかった。かつてわたしが兄に怒りの矛先をむけられていたことなど言えなかった。わたしにとって、誠さんは古本屋の主人であり、その人の前では、わたしは普通の女の子でいたかった。暗い過去を彼に話したくなかった。疑われたくない。本当は信じてほしい。でも…
「この部屋は好きに使え。もう、私には用がないからな。」
そう言って、彼はどしどしと音を立てて玄関の方へ歩いて行った。「待ってお願い。」と必死にわたしは彼にすがった。おねがい、もう一度だけ私の目を見て。優しいあの目でわたしを。
「お前そはもう用はない。」
そう言って大切な、わたしの愛している人が行ってしまう。また、わたしは。もう、わたしは愛しい人を失いたくない。お願い。
「わたしを見て。わたしを。ねえ、わたしをみて。」ほんの一瞬こちらに顔が向いた。
「どうして、そんな顔を…」
彼はさみしそうだった。それとほぼ同時にわたしの目に涙がたまった。でも、もう、どうすることもできなかった。
唐突にそうたずねられ、内心どきりとした。
「可笑しな人ですね、急にどうしたんですか。いつもと変わりませんよ。隣町に買い出しにいってましたよ。」
今までにないくらいに怖い顔をして、誠さんはこちらをにらんでいた。その目はわたしをほんの少しでも信じている目ではなかった。
「とぼけるな。」
有無も言わせぬ圧力。ねえ、誠さん。どうしてそんな言い方をするの。わからない、どうして。
「お前、昨日男と会っていただろう。あの男、『あいつは従順だから、俺に逆らわない。近いうちにあいつは、あなたにお金が必要になったと、言うだろう。そのときはぜひ協力してあげてくれ。やがて、それは俺の懐に入ることになるんだからな。』って笑いながら私に話しに来たよ。最初からお前は、あの男と、私から金を巻き上げようっていう魂胆だったんだな、そうだろ。」
違う。そんなことない。私にとって誠さんがすべてだった。もう頼れる人なんていなかった。わたしが唯一わたしでいられれたのはあなたといるときだけだった。それなのになぜ、わたしのことを信じてくれないの。どうしてそんな目でわたしをみるの。
「誠さん。あなたは、あの男に騙されているわ。ねえ、信じて、わたしを。昨日は、わたしにとって大切な日だった。」
そう、昨日はわたしにとって大切な日だった。あの呪縛を断ち切って、わたしは自由になった。そう思っていた。もう、あの家族からは縁を切った。やっと、あなたと、やっと誠さんと、うそ偽りのない家族になれるとおもった。もう、後ろめたいことなどなにもない。本当の無垢なわたしを誠さんは受け入れてくれる。誠さんと本当の家族に。そう、思っていたのに。
「そうだろうな。お前はあいつと、よろしくやっていたのだろう。」
そうじゃない、わたしはただ、あなたと一緒にいたかった。それだけなのに。
「違う。」
否定したその声はひどくかすれていた。心が折れそうで仕方がなかった。愛している人に信じてもらえないのが、こんなにも苦しいこととは想像もしていなかった。これが人を愛することだということを、わたしは初めて知った。
「信じてわたしを。あの人はわたしの兄なの。昨日は、あの人に確かにお金が必要になったと、言われた。母親が病気だとも言っていた。でも、わたしは断ったの。もう関わらないって。そう言ってやった。さんざんわたしは苦しめられてきた。だから、そんなのわたしには関係ない。もう、関わらないでって、わたし、そう言ってやった。」
本当は、どこまでは言えなかった。夢中になって抵抗するのが、やっとだった。
「そうか、それで最後のお別れだからと言って、兄さんを抱きしめたのか。家族そろって最低だな。本当に仲がいいんだな。」
何も言い返せなかった。かつてわたしが兄に怒りの矛先をむけられていたことなど言えなかった。わたしにとって、誠さんは古本屋の主人であり、その人の前では、わたしは普通の女の子でいたかった。暗い過去を彼に話したくなかった。疑われたくない。本当は信じてほしい。でも…
「この部屋は好きに使え。もう、私には用がないからな。」
そう言って、彼はどしどしと音を立てて玄関の方へ歩いて行った。「待ってお願い。」と必死にわたしは彼にすがった。おねがい、もう一度だけ私の目を見て。優しいあの目でわたしを。
「お前そはもう用はない。」
そう言って大切な、わたしの愛している人が行ってしまう。また、わたしは。もう、わたしは愛しい人を失いたくない。お願い。
「わたしを見て。わたしを。ねえ、わたしをみて。」ほんの一瞬こちらに顔が向いた。
「どうして、そんな顔を…」
彼はさみしそうだった。それとほぼ同時にわたしの目に涙がたまった。でも、もう、どうすることもできなかった。
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