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神楽様はピンチ?!②

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「ないよ。もちろん、暇だよ。」
「もちろんってなんだよ。じゃあ、教室で待ってろよ。」
 冗談のつまりでもちろんと言ったわけではなかったが、神楽様のその冗談を、バカだなお前というように笑うあの笑顔が見られたので、満足だった。もちろんと思っていた、数秒前の自分をほめてあげたい気持ちでいっぱいである。
 神楽様は床にいつの間にか落ちていた、僕の数学の教科書を拾って「落とし物」と言うと、ほこりを払ってくれた。今の僕にはそれだけでキュンと来てしまう。僕はいったい、いつからこんな風に思うようになってしまったのだろうか。僕はもう、神楽様を本当に好きになっているのだと今更ながらに気が付かされる。このごろ、そんな風に思うことばかりだ。ふとしたことで、ドキッとする。ちょっとしたしぐさが、かっこよく見えてたまらない。
 「ありがとう」と言って僕がその教科書を受け取ろうとした。その時、取ろうとした手がかすった。神楽様が僕の教科書を受け取るタイミングを見計らって、手を上にあげたのだ。こういうところは子どもっぽいななんて思うのだ。僕は結構な重症だ。自分でそう思うのだ。神楽様は僕のことをどう思っているのだろうか。からかわれているだけなんてことは、この期に及んでないと思うが、いや、無いと信じたいが、僕はまだ、神楽様が心の中でどんなことを思っているのかがよくわからない。僕にとって神楽様はまだ謎が多いのだ。あの、きれいな外見とは裏腹に内にドロドロしたものを秘めていたりするのだろうか。そう思うと怖い気もする。神楽様を知ることが。少しだけ。
 教科書を渡された後、神楽様は自分の席に戻っていった。それから、まもなくして、クラスメートが次から次へと教室に入ってきた。ああ、授業が始まるのだと、すこし僕はしんみりした気分になる。いつもだったら、そんなこと一ミリたりとも思わないのに。たったひとり、神楽様という存在が僕の意識まで変えていったのだ。神楽様はやっぱり僕にとってインフルエンサーなのだ。ちなみになにか言われる前にいっておくけどね、インフルエンザじゃないからね。
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