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ペン回し選手権

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「神楽君!!それ!やり方教えてー」
 清水神楽に甘えたような声で話しかけてきたのは彼女だった。
「おー。はるちゃん、いいよ、教える。て言うか、どうせあれだろ?」
 そう言って彼は、例のもう一人の彼を指差した。その返答に少し、頬を染め、ごにょごにょと口ごもる。
「そうだよ?どうせ、私はダーリンのことしか見てないよーだ」
 やけになって言う言葉。しかし、それはほとんど惚気のようなものだった。そして、口がまだ尖ったままだ。
「あーはい、はい。わかったよ。呼べばいいんだろう?京二ーー!ちょっと付き合え!」
 斜め前の三浦京二は振り向くと、ほんの一瞬だけ、嫌そうな顔をしたあと、すぐにいつもの屈託のない表情というのに相応しい笑顔で応えた。
「ナニナニー?神楽君?俺のこと呼んだ??付き合えって、もしかして、デート???えーどうしよっかな?俺にははるちゃんがいるからなー。ねえ、はるちゃん?」
 先ほどと反対に、今度は清水神楽がいやな顔をする番だった。ただ先ほどとは違うのは、彼は心の中で苦い顔をしただけで、表には王子スマイルが映っている。
「お前なあ、それ、わざとだろ?」
「ん?なに?どうしたの?神楽?笑いながら怒らないでよー!!怖いよ怖いじゃん!」
 彼女には見えないバトルの火花がバチバチと音をたてる。空気を読まないはるちゃんがまだ火花が散っている最中に、声をかけた。
「ペン回し!今から神楽君に習おうと思ってね!!一緒に教わろうよー。」
 教わる?こいつに?冗談じゃない。幼なじみだからわかるのだ。こいつは、努力しなくてもなんでもできるタイプの人間だ。ただでさえ、比較対照にいつも母さんが出してくるのに、それをコレに教わるなんてそんな頭を自らさげるなんて絶対に…
 違うか。はるちゃんは僕と一緒にいたいだけだ。ペン回しなんてどうでもいいはずだ。それにさっきから、僕を物凄く澄んだ目で見てきている。嗚呼、俺はこの目に弱い。
「ペン回し?!いいねいいね!どうせなら、勝負しようよ!誰が上手く回せるかとかでさ?」
「楽しそうだね!!でも、上手く回せるかってちょっと判断難しくない?まあ、回せられる時間とかだと、神楽君がずっと休み時間回せられちゃうから、それはそれで問題なんだけどさー。」
 その言葉を待っていましたと言わんばかりの、笑顔でダーリンが笑う。ありがとうという意味で、ウィンクまでしてもらえて、キュン死しそうだ。やっぱりダーリンはかわいい。
「ほら、あそこにいるだろう?暇そうに、本読んでいる奴がね!!」
 
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