いつか、あなたを

夕時 蒼衣

文字の大きさ
13 / 19

観覧車2

しおりを挟む
 「皆で一緒に乗る?どうする?」
「いや、暑いしー。ほらせっかくだから二人で乗りなよー。」
「え、いや…」
俺の返事を聞かずに、サキは俺の耳元でお前まだ渡してないだろ。と言ってきた。やっぱり、サキはよく人のことを見ている。気が利く奴で、こいつがもし女だったら惚れていたかもしれないと、ふと思った。

「じゃあ、お二人さん楽しんでねー。」
「え、サキ!ちょっと、どこ行くんだよ!!」
振り返って、サキは白い歯を見せて爽やかに笑った。
「僕、高所恐怖症だからさー。観覧車はパスね!!飲み物でも買ってくるよー。」
聞いていない。何だよそれ!!時限爆弾だけ、仕掛けやがって。この男は。
「よかったのかな?」
まあ、よかったのだろうと思うけど。サキは空気を読もうとする奴だ。高所恐怖症が、果たして本当に事実なのかは疑わしい。今は感謝しよう。今日1日渡せなかった、このプレゼントを渡さなくてはならない。

沈黙。何か話さなくてはならないのはわかっているのだが、いつものような雑学が全く頭に浮かばない。サキがいなくなってから、まだ2、3分しか経っていないはずなのだが、この待っている時間がとても長く感じる。
「あのさ。」
沈黙を破ったのは郁の方だった。
「今日は楽しかったね。ありがとう。」
「そういうのは、サキに言えよ。俺はなにも。」
なんていう返し方だ。我ながらそう思った。他に返し方があったはずだ。
 そしてまた沈黙。気がつけば、順番がまわってきた。

 二人っきり。簡単には降りることのできない密室。しかし今渡さなくては、サキになんて言われるかわかったもんじゃない。今しかない。今しかないのだ。
「郁。」
「ん?なに?」
鞄のポッケに入っている包みを、出した。
「これ、誕生日プレゼント。いつもは渡してないけど、たまには悪くないと思って。」
郁は俺からプレゼントを受け取ると、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。あのね、実はね。」
そう言うと、今度は郁の方が鞄をあさった。その可能性は考えていなかった。
「はい。これお返し。」
「あ、ありがとう。」
「カップケーキ、焼いてきたの。帰ったら、食べてね。」
「うん。嬉しいよ、郁」

 いつも料理なんて全然しない私が、カップケーキを焼いた。誕生日プレゼントなんて、今まで渡したことなかったけど、サキちゃんがこっそりと私に彼が用意していることを教えてくれたから作ってみた。
 喜んでくれるか不安だったけど、ちゃんと渡せた。ちゃんとと言っても、すごくたどたどしくって、その前もろくに会話もできなかった。彼と同じ空間にこれから、入るんだと思うと気が気でなかった。心臓が鳴り止まなかった。サキちゃんも急にいなくなってしまうし、今日に限って、彼も全然話さないし、考えれば考えるほど、ドキドキした。彼に名前を呼ばれるのが、いつも以上に嬉しかった。彼の声がくすぐたかった。

「開けてみてもいい?」
そう聞いてから、すぐに包みを開けた。
 かわいい。それは綺麗な髪留めだった。
「綺麗!せっかくだからつけてみようかな」
「ちょっと待って。」
え?彼は私の手から髪留めをとると、抱きしめるようにして、髪留めをつけようとした。彼の匂いがした。柔らかくて、温かくて、優しい香り。気がつかなかった。声と同じ匂いがする。でも、ちょっと近すぎる。
「あの、ちょっと近いんですけど…」
「ん?ごめん、今何か言った?ちょっと待ってね。もう少しでつけられそうだから。」
 やっぱり、もう少しこのままがいいなと思った。このまま。あともう少しだけ、この密室で、この距離で一緒にいたい。

「ついた。うん。似合ってるよ、郁。」
「あ、ありがとう。」
「そう言えば、中学の頃、郁、言ってたよね。赤いカゴのどこかにハートがあるって。確か赤だったよね。探してみよっか。」
覚えていてくれたのだと思うと嬉しかった。素直に嬉しかった。
「あった?」
「うーん、なさそう。」
「そっか、残念だなー。せっかく赤だったのにな」
「俺は赤じゃなくても、ハートが見つからなくても、十分ラッキーだったよ。郁と二人で乗れて。…郁、俺また二人で郁と一緒に乗りたい。郁と二人で…」

 ドアが開いた。開いてしまった。もう少し、あとほんの少しだけで良かったから、あの空間を味わっていたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...