いつか、あなたを

夕時 蒼衣

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教室②

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 「三島ちゃーん、教科書忘れちゃったから、見せてー。」
 いつものゆったりとした声で、私に話しかけるのは隣のまひろ君だ。席替えから1週間経って、だいぶ、この天然イケメン君の上手なかわし方にも慣れてきた。一週間経って分かったことは、まひろ君は授業中はきちんと起きているということだ。体制は崩れ気味だが、ちゃんと起き、ノートも完ぺきにとっている。そういえば、まひろ君はああ見えて、勉強もスポーツもそこそこできるのよと、水野さんが言っていたことを思い出した。そうか、こう見えて、真面目なんだ。ただの、イケメン寝坊助ではないのだ。
「また、教科書忘れたのかよ、まひろちゃんは‼ていうかなんで、置き勉してないんだよ。ロッカーに入れとけば、絶対に忘れないっていうのに‼」
 相変わらず、この二人は仲が良い。休み時間も教室移動も、二人でいることが多い。だからと言って、よからぬ噂がたつこともないのだが。まあ、その理由はとても簡単で、二人ともモテるからだ。蛍君もまひろ君も、決して似たタイプのイケメンではない。見た目はチャラくて、話を盛り上げてくれる、合コンにいたら絶対的にモテだろうと思われる蛍君と、マスコット的キャラクターで癒し系男子の天然イケメンまひろ君。その確立された魅力に女の子達は釘付けで、二人そろうことでさらに尊さが増すのだという。
「家で勉強してるからねー。ほら、ほたると違ってね。それに、三島ちゃんは教科書忘れないから、つい頼っちゃうんだよねー。席もこうやってほら、近づけられるしねー。ほら、三島ちゃんとの距離がさらに近くなっちゃったー。」
 そうやって、まひろ君は机を私の机にぴったりとくっつけた。そんな素振りに思わず、きゅんと来てしまう私がどこかにいるのも事実だが、そっと胸の中にしまうことにする。

 教室の鐘がなり、それと同時に先生が教室に入ってきた。
「please,stand up.good morning everyone.」「Good morning,Mr.Tanaka.」
お決まりの文句を言って、英語の授業が始まる。
「また、津川!お前は、教科書を忘れたのか。全く何度目だ?」
 授業が始まるや否や、先生は私たちの机に近づき、そう、もう、怒る気さえないと言うように尋ねた。
「Mr.Tanaka,No probrem.」
 ふいに、まひろ君がそう答えて、教室は一斉に笑いにつつまれた。こういうところが、まひろ君のすごいところでもある。天然というのはおそろしいと常、日ごろから私は思い知らされているのであった。
「郁ちゃん、32ページだって。」
こそこそと、まひろ君が教えてくれた。たまに、三島ちゃん呼びが郁ちゃんになる。そうやって普段は苗字呼びなのに、ささやき声で名前呼びにシフトチェンジするところなんかも、女の子がきゃーきゃー騒いでいる理由のひとつだ。私だって、勘違いしそうになる。
「郁ちゃん、顔、赤いよ。どうしたの。」
 素でそうやって聞いてくるところなんかも、できれば控えてほしい。
「もう、うるさいよ、まひろちゃんのばか。」
 小声でそう、返事をした。これが、私の精いっぱいの反抗だ。
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