11 / 35
愛してるという言葉
しおりを挟む
あれから、一週間が経とうとしていた。あの日。私は初めて彼という一人の人間に会い、一つの愛という形を知った。たった一度だけ。彼に会ったのはたった一度だけれど、私にはそれで十分だった。私は彼を愛している。その言葉に迷いはない。
もちろん、彼に奥さんがいることも、子どもがいることも知っている。でも、これは不倫ではない。わたしは彼の愛人では決してないと、そう断言できる。その証拠に私たちは、一ミリたりとも交わっていない。私たちの愛にそんなものは必要なかった。ただ、彼の愛し方が特殊だっただけだ。
彼は私を必要としているわけではない。はっきりとそう思う。誰でもよかったのだ。ただ、よりどころになる場所が欲しかっただけだ。知っている。それでもいいのだ。
だって私は彼という人間を愛しているのではない。彼を愛していると言っている私を私は愛しているのだ。
そうだ。これは所詮は上辺だけの愛なのだ。でも私たちは確かに愛し合っているのだ。それは世の中の恋人や、夫婦が使う、「愛している」という言葉ではないかもしれない。それでもいいのだ。彼には私が必要で、私には彼が必要だ。それを愛と呼ばずに、どう呼ぶのだろうか。
土曜日、もう一度会いませんかという旨のメッセージを日野さんに送った。午後九時ごろに、返信が届いていた。その返信は最初のころと変わらない、社会人らしい、どこか事務的な内容だった。きちんとしていると言えば、聞こえはいいが、つまりは空っぽということだ。中身のない、感情のない、冷たい返信。
そんな感情をもったのも、彼の返信がyesではなかったからだと思う。八つ当たりもいいところだ。わたしは、子どもなのだ。自分の思い通りにいかないと駄々をこねる子どもと同じなのだ。
返信の内容はこうだった。
「すみません。次の日曜日に家族との予定があり、自宅に戻ります。そのこともあり、今度の土曜日は会えません。また、来週にでも会いませんか。綾香さんの都合の良い日でいいです。」
なんとなく、腹立たしい気持ちにさえなった。彼を愛していると言っている私を私は愛しているのだと、言いながら、結局わたしは彼に会いたがっていた。恋人として会いたかったわけでは、もちろんない。ただ、気の合う友達として会いたいと思ったのだ。
自分を愛したいだけだったら、週一で会わなくても何も心は痛まなかっただろう。でも、彼はそれだけの存在ではなかった。たった一度会っただけだ。それなのに、なぜ私はこんなに彼に会いたいなんて、人を恋しいと思うなんて、そんな人間らしいことを考えるようになっているのだろうか。
ずっと、一人でよいと思っていたのに、ずっと私だけいればそれで事足りると思っていたというのに。
また、本の話がしたいと思ってしまった。
もちろん、彼に奥さんがいることも、子どもがいることも知っている。でも、これは不倫ではない。わたしは彼の愛人では決してないと、そう断言できる。その証拠に私たちは、一ミリたりとも交わっていない。私たちの愛にそんなものは必要なかった。ただ、彼の愛し方が特殊だっただけだ。
彼は私を必要としているわけではない。はっきりとそう思う。誰でもよかったのだ。ただ、よりどころになる場所が欲しかっただけだ。知っている。それでもいいのだ。
だって私は彼という人間を愛しているのではない。彼を愛していると言っている私を私は愛しているのだ。
そうだ。これは所詮は上辺だけの愛なのだ。でも私たちは確かに愛し合っているのだ。それは世の中の恋人や、夫婦が使う、「愛している」という言葉ではないかもしれない。それでもいいのだ。彼には私が必要で、私には彼が必要だ。それを愛と呼ばずに、どう呼ぶのだろうか。
土曜日、もう一度会いませんかという旨のメッセージを日野さんに送った。午後九時ごろに、返信が届いていた。その返信は最初のころと変わらない、社会人らしい、どこか事務的な内容だった。きちんとしていると言えば、聞こえはいいが、つまりは空っぽということだ。中身のない、感情のない、冷たい返信。
そんな感情をもったのも、彼の返信がyesではなかったからだと思う。八つ当たりもいいところだ。わたしは、子どもなのだ。自分の思い通りにいかないと駄々をこねる子どもと同じなのだ。
返信の内容はこうだった。
「すみません。次の日曜日に家族との予定があり、自宅に戻ります。そのこともあり、今度の土曜日は会えません。また、来週にでも会いませんか。綾香さんの都合の良い日でいいです。」
なんとなく、腹立たしい気持ちにさえなった。彼を愛していると言っている私を私は愛しているのだと、言いながら、結局わたしは彼に会いたがっていた。恋人として会いたかったわけでは、もちろんない。ただ、気の合う友達として会いたいと思ったのだ。
自分を愛したいだけだったら、週一で会わなくても何も心は痛まなかっただろう。でも、彼はそれだけの存在ではなかった。たった一度会っただけだ。それなのに、なぜ私はこんなに彼に会いたいなんて、人を恋しいと思うなんて、そんな人間らしいことを考えるようになっているのだろうか。
ずっと、一人でよいと思っていたのに、ずっと私だけいればそれで事足りると思っていたというのに。
また、本の話がしたいと思ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる