終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第02章

第24話 冒険者パーティ

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耳をつんざく羽音。
巨大な影が、ホバリングしながら眼前に迫っていた。

一メートルはある――オオスズメバチ。

強力な毒は筋肉と臓器の活動を止め、細胞を破壊する。
熊ですら一撃で死に至らしめかねない。

魔法使いなら魔力の循環で、ある程度は神経毒の進行を遅らせられる。
だが、さすがにこのサイズともなれば命に関わる。

虚勢を張ったものの、目の前の威圧に梨々花はたじろいだ。

そこに、怒声が飛ぶ。

「バカかよ教官!!」

来奈が俺の横を抜け、梨々花の隣に並ぶ。

「梨々花、風属性! あたしたち、仲間だろ。
違うのかよ?! 一人で出るんじゃないよ!」

突き出した拳に、梨々花はこくんと頷き、手を添える――が。

「……え?」

薄い光が霧散した。

「ご、ごめん来奈。あれ? おかしいわ……」

属性付与は精密な魔力同期が要る。
今の心の揺れでは、噛み合わない。

焦る二人に、影が襲いかかる。

由利衣の弾丸が即応で飛ぶ。
だが彼女自身も動揺しており、弾に込めた魔力が薄い。
それでも一体の頭を撃ち抜き、地に墜とした。

だが――数が多い。

一体が羽を掠めただけで持ちこたえ、巨大な針を梨々花と来奈へ向ける。

俺は飛燕を抜き、来奈を突き飛ばして針から庇う。
短刀を一閃。蜂は縦に裂けて落ちた。

同時に、右腕に焼ける痛み。――刺さった。

……大丈夫。毒消しは由利衣が持っている。

視線をやると、由利衣は真っ青な顔で固まり、引き金に指をかけたまま動けていない。

――俺は、馬鹿野郎だ。

才能があっても、三人は訓練を始めたばかり。
すぐ上位に並べるだの、お役御免だの……。
時間をかけて育むべきものを、俺は急ぎすぎた。

俺は自業自得。
だが、こいつらは――守らなくては。

上着を脱ぎ捨て、素早く短刀でシャツを裂く。
それを腕にきつく巻きつけると、左手を突き出した。

礫が形成され、風魔法でマシンガンのように撃ち出す。

たちまちオオスズメバチの群れはミンチと化すが、すり抜けた一体が俺の腹を刺した。

焼けるような熱さ。
意識を失いかけるが、梨々花の悲鳴で持ちこたえた。

右腕を無理やり動かし、飛燕で首を飛ばし、本体と尾を切り離す。
そのまま尾を引き抜くと、鮮血が溢れた。

色を失った目で上空を確認。残っていた二体を礫で落とす。

――まずは、討伐完了。

俺は思わず膝をつく。

だが、まったく油断はできない。
俺は由利衣に指示をかけた。思ったように声が出ない。

「撤退しろ。索敵を怠るんじゃないぞ。
……落ち着いて行くんだ。このエリアでものを言うのはステータスじゃない。
冷静な判断だ。黒澤なら……できるだろ?」

由利衣は我に返ったような顔をすると、すぐに俺のそばに駆け寄り毒消しを打つ。
二度刺されているからな……。効いてくれるといいんだが。

「……俺は撤退しろ、と言ったんだ。行け」

「何言ってるんですか、先生!! 由利衣、回復魔法お願い!」
梨々花が叫ぶようにすがりついてくる。

「いいか桐生院」
朦朧とする意識の中、梨々花を諭すように言葉をかける。

「戦いは冒険者の日常だ。こういうこともある。
まずは自身が生き延びることを優先してくれ……。もうお前もこの世界に足を踏み入れたんだ。非常時には甘さを捨てろ」

そして、来奈を見やる。膝が震えていた。

「悪かったな。入江の言う通り、俺は馬鹿だ。
ただ……そんなつもりじゃなかったんだ。お前たちの成長が嬉しい、それだけなんだ。
SSRが世界を沸かせる日を、俺だって間近で見たいんだぜ」

……まずいな。いよいよ体が動かない。
必死で絞り出した。

「わかっただろ。ここは一瞬の油断でこうなるんだ。
帰還まで気を緩めるなよ。黒澤、みんなを先導してくれ。俺はここでいい。行ってくれ」

梨々花がかぶりを振って俺の胸に顔を埋める。
「私も残ります。どこにも行きません。先生も行かないで……お願い……」

途切れ途切れな意識の中、来奈と政臣の呼びかける声が耳鳴りのように響く。
梨々花も何か言っているようだったが、よく聞き取れない。
ただ、俺の胸元に温かい雫が落ち続けていた。

――そこに、落ち着いた声がかかる。

「そんなことできるわけないでしょう。
やっぱり馬鹿なんですか、コーチ。カッコつけて」

ゆっくりと視線をやると、ぼやけた視界の先に由利衣の瞳の光だけがやけに鮮明に映っていた。

梨々花も振り返り、ぐしゃぐしゃになった顔を見せる。
由利衣は微笑んだ。

「男なら、梨々花を泣かせないで欲しいんですよね。
……でも、わたしも守るって宣言したのに何もできなかった」

黄金の輝き。“女教皇”の魔眼の解放。

瞬時に俺たち五人の周囲に結界が生まれる。
それは徐々に範囲を広げ……触れたそばから木々が消滅し、逃げ惑う生物を巻き込んでいく。

呆然と森林が消えていく様子を眺める俺たち。

「人間の反応はわたしたちの他になかったから……大丈夫じゃないですかー。たぶん」

気が付くと、文字通り草木一本ない空間。遠く入口が見えていた。

由利衣はニコリと俺に声をかけた。

「これが“守る”ってやつですよね!」

……ちがう、ような気がする。
そして、俺の意識はそこで途切れた。

***

気が付くと、目の前に梨々花の顔があった。

第二層の入り口か。
もう森林は復活していた。――まったく、魔眼がでたらめならダンジョンもでたらめだ。

そしてこの状態は……。

来奈がニヤニヤした顔で声をかけてきた。

「おじさーん、女子高生のひざまくらなんて、高くつくよー?
梨々花ずっと泣いてたしさー。由利衣だって回復続けてたし」

体は……なんとか動く。毒消しが効いてくれたか。

俺はゆっくり体を起こし、頭をかいた。

「……かっこわりいな。
まあ、この年になるといろいろ恥もなくってくるけどな」

そして、全身を見るとシャツとズボンは血まみれ。
上着もドロドロ。

「着替え、アロハしかないんだけど……」

思わず呟くと、皆の笑いが響いた。

ふう、と息をつく。
すると、後頭部に衝撃。

梨々花の杖がクリティカルヒットしていた。

「先生。本当に死んだらどうするんですか。
あの毒だって……毒消しが効いてくれたから良かったですけど」

まあ、そうなんだが。
だが俺も実は、そんなヒロイックなわけでもなかった。

「いや、大丈夫……でもないんだけど。
俺の人狼化、あれの影響で死んでも死なないんだ、これが」

何を言っているのか理解できないといった一同の顔。

「放っておいてもじわじわと治るんだけど、ひと思いに死んだ方が復活が早いんだよな。
瀕死とか麻痺がやばいんだ、何もできないから」

梨々花はブルブルと震えながら言葉を発した。

「……じゃあ、あのシリアスなシーンは一体」

「俺はなんとかなるけど、お前らは危ないだろ。だから撤退しろって言ったのに。
そういや、桐生院、何か言ってたけど、何だったんだ?」

梨々花が俺の頭に再びクリティカルヒットを叩き込み、思わずしゃがみ込んだ。

来奈が呆れたように声を張る。

「はあ? 不死身とかありえないんだけど! こっちがどんだけ心配したと思ってんの!」

不死身――とは、少し違う。
ダンジョン内にいる限り、精霊エネルギーの供給を受けて回復する。
モンスターの特性に近いのだが……これを言うとまたややこしいので、黙っておくことにした。

「説明しなかったのは悪かったけどな。
でも、あの場合はあまり余裕もなかったんだ。次からは、とっとと撤退していいからさ」

そう言う俺のこめかみに、魔力弾の一撃が正確にヒット。

由利衣が銃の引き金から手を離す。
さらに頭を抱えて呻く俺を見ながら、珍しく怒りの声を上げた。

「だから、そんなことができるわけないでしょう!
コーチだってパーティの一員なんです。
復活しようが何だろうが……血だって出てたし、痛みだってあるんでしょ?」

ぐっと詰まる。

その通りだ。
普通に感覚はあるし、毒を受ければ身を蝕む苦痛に悶えながら死を迎えなければならない。
それを平気で見捨てて逃げろというのも、酷な話だ。

こめかみをさする俺に、来奈が言葉を重ねてくる。

「そう、あたしらパーティじゃん。
仲間だろ。教官も、ついでに委員長も。
さっきの話だけどさ。なんであたしらが強くなったら離れちゃうのか分かんないんだよね。
一緒に世界取ってくんじゃないの? 五人でさ」

梨々花、由利衣、政臣の視線も俺に向けられていた。

……そうか、冒険者パーティ。

命を預け、互いに夢を分かち合う。
俺は勝手に引いて見ていたが、こいつらは俺に預けてくれていたんだ。

小さく息を吐き、立ち上がる。
来奈の言葉に答えた。

「そうだな。最強になったお前らと冒険。そいつも楽しそうだ」

「だろー、教官! でも、それを言う相手はあたしじゃないんじゃないの?」
来奈が顔を横に振る。その目線の先には――

俺は梨々花に正面から向かい合う。
伏目がちに、杖を両手で握りしめていた。

こんな顔をさせてしまったのは、俺の不用意な一言だ。

だが、それを蒸し返しても仕方ないだろう。
前を向いて進まなければならない。

だから、わざと呆れたような声を出した。

「さっきの戦闘だけど……全然なってなかったな。大口叩いといて、なんだありゃ」

梨々花はうつむき、いまにも消え入りそうな気配。
ぽつり、「ごめんなさい……」と口の端から漏れる。

「でも、まあ。俺たちはパーティだからな。
そいつをフォローするのも仲間だ」

その言葉に、顔を上げる梨々花。
視線が合う。瞳が揺れていた。だが、さっきの不安感のものとは違う。

俺は力強く、穏やかに言葉を継ぐ。

「全員でダンジョン制覇だ。レイドもな。次からは勝手なことするんじゃないぞ」

花が咲いたような笑顔が視線の先にあった。

ダンジョン制覇か……ガキの頃の夢。
この年で再び目指すことになるとはな。

でも、それも悪くない。

今は、素直にそう思えた。
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