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第02章
第27話 皇帝と戦車
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親善試合が、ついに始まった。
サッカー場ほどの広さを持つフィールドが中央で仕切られ、
その両端――それぞれの陣地に、日中両国の魔法使いが配置につく。
勝利条件は、たった三つ。単純明快だ。
1. 相手陣地に設置された巨大な水晶球を破壊する。
2. 相手チームの魔法使いを全員、戦闘不能にする。
3. 相手チームが棄権を宣言する。
なお、2.については――
五分以上の戦闘不能状態、または味方からの申請があった場合、その時点で“リタイア”と見なされる。
そもそも、これは――力と力のぶつかり合いだ。
観客が求めているのは、飾り気のないガチンコの魔法戦闘。
複雑なルールなど、誰も望んでいない。
そして――。
単に「水晶球を割ればいい」というものでもない。
選手たちも、そのことは重々承知している。
尾形の“神速”のバフを使えば、ほんの数秒で相手の水晶球を粉砕し、試合を終わらせることだってできるかもしれない。
だが、そんな勝ち方では意味がない。
観客が求めているのは、限界を超えた魔法同士の激突――その熱狂だ。
観客を沸かせる戦いを。
それが、この場に立つ者たちに課せられた“暗黙のルール”だった。
***
まず動いたのは――麗良。
雷切を閃かせ、稲妻の軌跡を描きながらセラに斬りかかる。
セラはすらりとした体をひねり、青龍偃月刀を軽々と掲げて応じた。
あの武器は相当な重量があり、しかもリーチも長い。
それをまるで棒きれでも振るうように扱うとは……。
――筋力強化のバフか。
ならば、雷切がかすりでもすれば、そのバフは解除され、一気に形勢は麗良の側に傾くはず。
だが、麗良はなかなか距離を詰められない。
セラの一撃が雷切とぶつかるたび、激しい衝撃波が闘技場全体を揺らす。
雷切の魔法障壁がなければ、麗良はその一撃で吹き飛ばされていただろう。
青龍偃月刀――その真価は、魔力を込めた刀身から放たれる凶烈な衝撃波。
かの武将がこれを振るい、並みいる大軍を馬ごと薙ぎ払ったという逸話も、誇張ではなかった。
麗良は純粋な打ち合いでは分が悪いと悟ったのか、
二、三歩の距離を取り――雷切に魔力を込める。
刀身に雷属性が宿り、稲光がほとばしった。
次の瞬間、一気に踏み込む。
雷切は魔力伝達性が高く、付与術師でなくとも属性を乗せやすい。
しかも、刀身を走る魔力がそのまま魔法障壁を形成するため――
攻撃と防御を同時にこなす、まるで反則のような性能を誇っていた。
セラは青龍偃月刀でその雷撃を受け止める。
刃と刃がぶつかった瞬間、空間がきしみ、光の残滓が視界を焼いた。
セラの眉が、ほんのわずかに動く。
だがその無表情のまなざしからは、ダメージが通っているのか判断がつかない。
「おおー!! どっちもすげー!!」
来奈が観客席で、興奮の声を上げた。
一方その頃、ミアと向かい合う尾形は助走もなしに跳躍し、数メートルの上空から連続で水弾を撃ち込んでいた。
空中からさらに空中へ――まるで風を踏むように跳ぶ。
魔剣・薄緑の能力だ。
ミアは火尖槍をぐるりと振り回した。
瞬間、彼女の周囲に紅蓮の壁が立ち上がる。
尾形の水弾はその炎に呑まれ、次々と蒸発していった。
一瞬だけ、炎の壁が揺らぐ。
だがすぐに勢いを取り戻し、音を立てて燃え盛る。
「あれが――火尖槍。
ちょっとやそっとの水魔法じゃ、通りそうにないな……」
思わず、声が漏れた。
上位魔法使いともなれば、本人の能力に加えてその武装の性能も、もはや別格だ。
いまの俺たちのパーティは、まだその域には遠い。
課題は多いな……そう思っていた、そのとき。
隣の山本先生が、突然エキサイトしはじめた。
「尾形ぁーー!! チンタラやってんじゃねぇぞコラ!!
もっとガンガンぶっ込んで、崩していかんかい!!」
数列先まで突き刺さる大声。
由利衣と梨々花の肩が、ビクッと震えた。
いまでこそ山本先生は副顧問で尾形の下だが、学生時代は彼の先輩だったと聞いたことがある。
……なるほど。そういうノリか。
その檄が聞こえたわけではないだろうが、尾形はすぐに動いた。
上空から、炎の壁の内側へと急降下。
薄緑の斬撃が火尖槍に叩き込まれ、金属音とともに火花が飛び散る。
青龍偃月刀ほどの重量ではないにせよ、火尖槍も容易に扱える代物ではない。
だがミアは、それを意にも介さず振るう。
そのたびに、火炎の軌跡が弧を描き、空中に紅蓮の花を咲かせた。
ミアは、ヘラヘラと緩んだ笑みを崩さないまま、追撃の手を止めなかった。
片手で火尖槍を突き込み、もう片方の手で炎弾を次々と上空へ撃ち上げる。
爆ぜた炎が尾形を包み、爆音と熱風が観客席にまで届く。
「バトルは派手に行かないとねー!」
マイクが彼女の声を拾い、スピーカー越しに会場を揺らした。
観客が一斉にどよめく。
プロフィールには「好きな魔法:爆炎」とあった。
火尖槍も、彼女のたっての希望で与えられたものだという。
強力な火炎に加えて、まだ見せていない“魔眼”の能力……セラも、だ。
あの二人が本気を出したとき、どんな光景になるのか想像すらつかない。
魔法使いとしての戦闘力は、いまの三人では足元にも及ばないだろう。
だが、尾形も負けてはいなかった。
神速のバフを纏い、襲い来る火炎を紙一重でかわす。
反撃の斬撃は光の閃き。視認すら困難だ。
訓練を積んだ魔法使いでさえ、見切るのは至難の業。
ミアは火尖槍で受け流そうとするが――頬をかすめ、紅い線が走った。
一拍遅れて、鮮血が散る。
回復魔法があるとはいえ、容赦がない。
女性相手でも、一切手を緩めないタイプらしい。
洗剤のテレビCMで見せていた“爽やか好青年”の面影は、どこにもなかった。
「うっしゃあ!! 尾形、首を飛ばせぇぇーー!!
血を見せろぉぉ!!」
ジャージ姿から放たれる絶叫が、会場中にこだました。
……いや、それはダメだろう。
尾形が連撃を叩き込む――だが、突如あらわれた剣に弾かれた。
剣? どこから?
観客席がざわつく。
尾形は攻撃の手を止め、一歩――いや、瞬時に後方へ跳んだ。
次の瞬間、彼のいた空間に無数の矢が降り注ぐ。
まるで、何もない虚空から生まれたかのように。
……これがミアの能力。剣や矢を空中に出すというものか?
「痛いなー。乙女の柔肌に、何してくれてんの?」
ミアは言葉とは裏腹に、怒るでもなく薄笑いを崩さない。
だが――それが、かえって不穏だった。
そのとき、セラが麗良との打ち合いから距離を取り、
「ミアさん!!」
と、その涼やかな風貌に似つかわしくない怒声を上げた。
一瞬にして空気が張りつめる。
その声には、まさしく“帝王の威圧”があった。
観客席の一部では、思わず首をすくめる者さえいた。
だが、ミアは一切怯む気配を見せない。
相変わらず、薄笑いのまま。
「なによー、セラ。
いいじゃん、どうせ公表予定だったんでしょ?
遅いか早いかの違いじゃん。
おあつらえ向きに、オーディエンスも多いしさ」
そう言って、中継ドローンに不敵な笑みを向けた。
「日本のSSRサプライズ、あれ――なかなか良かったよね。
弱っちいくせに、度胸は買うよ。そういうの、嫌いじゃないしー」
何を言っているのか理解できず、眉をひそめる尾形と麗良。
ミアは、楽しげに肩をすくめた。
「でもさぁ。私を差し置いて目立つなんて、生意気ー。
派手に発表して騒がせてやろうと思ってたのに、先に持ってかれちゃったじゃん。
それ――ちょっと、ムカつくかなー」
カメラは、ミアの瞳の輝きをとらえ、スクリーンに映し出していた。
会場中が騒然となる。
だが、それで終わらなかった。
突如、尾形が血まみれになり、仰向けに倒れた。
山本先生の悲鳴が響き、麗良はセラとの間合いを切って尾形に駆け寄る。
「剣とか矢とか、そんな古臭いのしか出せないと思った?」
ミアがコロコロと笑う。
声音に、ぞくりとするほどの愉悦が混じっていた。
火尖槍を地面に突き刺し――かわりにその手にあったのは、マシンガン。
ダンジョン内では軍の兵器の持ち込みは禁止されている。
そもそも、通常兵器はモンスター相手には通用しない。
だからこそ、持ち込む意味などないはずだ。
だが――あれは違う。
ミアが魔力で創り出した兵器だった。
尾形も、弾丸程度なら来ると分かっていれば避けられただろう。
しかし、まったく予想外の攻撃。
初動が遅れたのが致命的だった。
「――で。魔眼の力が、こんな銃一丁で終わりかっていうと……そんなことはないんだな」
ミアが軽く手を振ると、闘技場全体に影が差した。
現れたのは――戦闘ヘリの群れ。
爆音が低く唸り、金属が光を反射してきらめく。
空中で静止したそれらの機銃が、一斉に麗良へと照準を合わせた。
「私の魔眼、戦車(The Chariot)の力は兵器創造。
……これでも、まだ一部だけどね」
そしてミアは、セラに向かっていたずらっぽく舌を出す。
セラはピクリと目尻を引きつらせたが、ここは国際試合の舞台。
取り乱す素振りは見せなかった。
「……仕方ありませんね」
低く、しかしよく通る声でセラが呟く。
そして麗良と観客に向かい、静かに宣言した。
「SSRの能力を明かした以上、我々に課せられたのは――完全なる勝利。
ここからは、私も魔眼を解放します」
続けて、麗良に向けて静かに頭を下げる。
「申し訳ありません。
本来、魔眼能力の公表は時期を見ての方針でした。
これまで日本に対して手を抜いていたわけではありません――そこは、どうか誤解なきよう」
ミアは楽しそうに笑う。
「自分だけいい子しちゃうんだー?
日本のSSRに実力を見せつけるんじゃないの?
“魔眼を使うにはふさわしい力量が必要”とか言ってたくせにー」
セラがちらりとミアをたしなめるように目線をやる。
「……それはこの場ではありません。
ミアさん――あなた、あの男に乗せられて軽率なことを」
その視線の先には、わざとらしく肩をすくめるミアの姿。
セラはそれ以上、ミアには構わず静かに目を閉じる。
そして――再び開かれた瞳に、黄金の光が灯った。
スクリーンがその輝きを映し出す。
刹那、セラの背後で無数の影が生まれた。
それらは次々と人の形を取り、実体化していく。
たちまち、中国側の陣地を埋め尽くすほどに膨れ上がり――整然と整列した。
セラは青龍偃月刀の柄をズンと地面に立て、高らかに宣言する。
「我が魔眼は、皇帝(The Emperor)。能力は――軍団の創造と統率」
そして、ミアに目線を向けた。
ミアは待ってましたと言わんばかりに手をひらりと振る。
すると、上空の戦闘ヘリは霧散し、代わりに兵士たちの手に武器が配備されていく。
「戦車でも戦闘機でも出せるけど、ここ狭すぎなんだよねー」
つまらなそうに、ヘラヘラと笑うミア。
……悪夢の組み合わせだ。
人造兵の軍団を生み出すセラ。
そして、その軍勢に兵器を与えるミア。
魔戦部の熊耳が使う召喚魔法――“魔力の物質化”と原理は同じ。
だが、次元がまるで違う。
闘技場の範囲こそ制限されているが、もしその制約が解かれたとしたら――彼女たちが生み出す軍勢の規模など、もはや想像すらできない。
会場が、水を打ったように静まり返る。
これほどの召喚魔法を、誰も見たことがなかった。
しかも、これで“まだ全力ではない”というミアの言葉――それを疑う者は、一人もいなかった。
魔法使いとしての高い戦闘能力。
伝説級の魔導ギア。
そして、魔眼。
誇張でも比喩でもなく――二人で一国を制圧できる戦力。
SSRが一人いれば、小国でも超大国と渡り合える。
それが、魔法使いたちの間でまことしやかに囁かれる“寓話”。
では、その力を手にしたのが超大国なら……?
闘技場に目をやると、麗良の眼前には完全武装の軍団。そして、その先頭で青龍偃月刀を軍旗のように立て悠然と構えるセラの姿。
黄金の視線が麗良を射抜いた。
セラは静かに言った。
「尾形さんはリタイアさせ、早急に回復魔法を。
あなたはどうされます?……降参をお勧めしますが」
「ごめんねー。イケメンのお兄さん。急所は外れてるからさ。たぶん」
ミアは再び火尖槍を携え、笑いながらセラの隣に並ぶ。
麗良は二人を鋭く睨み、ぐっと唇を噛む。
そして――静かな終了の合図が、闘技場に響いた。
サッカー場ほどの広さを持つフィールドが中央で仕切られ、
その両端――それぞれの陣地に、日中両国の魔法使いが配置につく。
勝利条件は、たった三つ。単純明快だ。
1. 相手陣地に設置された巨大な水晶球を破壊する。
2. 相手チームの魔法使いを全員、戦闘不能にする。
3. 相手チームが棄権を宣言する。
なお、2.については――
五分以上の戦闘不能状態、または味方からの申請があった場合、その時点で“リタイア”と見なされる。
そもそも、これは――力と力のぶつかり合いだ。
観客が求めているのは、飾り気のないガチンコの魔法戦闘。
複雑なルールなど、誰も望んでいない。
そして――。
単に「水晶球を割ればいい」というものでもない。
選手たちも、そのことは重々承知している。
尾形の“神速”のバフを使えば、ほんの数秒で相手の水晶球を粉砕し、試合を終わらせることだってできるかもしれない。
だが、そんな勝ち方では意味がない。
観客が求めているのは、限界を超えた魔法同士の激突――その熱狂だ。
観客を沸かせる戦いを。
それが、この場に立つ者たちに課せられた“暗黙のルール”だった。
***
まず動いたのは――麗良。
雷切を閃かせ、稲妻の軌跡を描きながらセラに斬りかかる。
セラはすらりとした体をひねり、青龍偃月刀を軽々と掲げて応じた。
あの武器は相当な重量があり、しかもリーチも長い。
それをまるで棒きれでも振るうように扱うとは……。
――筋力強化のバフか。
ならば、雷切がかすりでもすれば、そのバフは解除され、一気に形勢は麗良の側に傾くはず。
だが、麗良はなかなか距離を詰められない。
セラの一撃が雷切とぶつかるたび、激しい衝撃波が闘技場全体を揺らす。
雷切の魔法障壁がなければ、麗良はその一撃で吹き飛ばされていただろう。
青龍偃月刀――その真価は、魔力を込めた刀身から放たれる凶烈な衝撃波。
かの武将がこれを振るい、並みいる大軍を馬ごと薙ぎ払ったという逸話も、誇張ではなかった。
麗良は純粋な打ち合いでは分が悪いと悟ったのか、
二、三歩の距離を取り――雷切に魔力を込める。
刀身に雷属性が宿り、稲光がほとばしった。
次の瞬間、一気に踏み込む。
雷切は魔力伝達性が高く、付与術師でなくとも属性を乗せやすい。
しかも、刀身を走る魔力がそのまま魔法障壁を形成するため――
攻撃と防御を同時にこなす、まるで反則のような性能を誇っていた。
セラは青龍偃月刀でその雷撃を受け止める。
刃と刃がぶつかった瞬間、空間がきしみ、光の残滓が視界を焼いた。
セラの眉が、ほんのわずかに動く。
だがその無表情のまなざしからは、ダメージが通っているのか判断がつかない。
「おおー!! どっちもすげー!!」
来奈が観客席で、興奮の声を上げた。
一方その頃、ミアと向かい合う尾形は助走もなしに跳躍し、数メートルの上空から連続で水弾を撃ち込んでいた。
空中からさらに空中へ――まるで風を踏むように跳ぶ。
魔剣・薄緑の能力だ。
ミアは火尖槍をぐるりと振り回した。
瞬間、彼女の周囲に紅蓮の壁が立ち上がる。
尾形の水弾はその炎に呑まれ、次々と蒸発していった。
一瞬だけ、炎の壁が揺らぐ。
だがすぐに勢いを取り戻し、音を立てて燃え盛る。
「あれが――火尖槍。
ちょっとやそっとの水魔法じゃ、通りそうにないな……」
思わず、声が漏れた。
上位魔法使いともなれば、本人の能力に加えてその武装の性能も、もはや別格だ。
いまの俺たちのパーティは、まだその域には遠い。
課題は多いな……そう思っていた、そのとき。
隣の山本先生が、突然エキサイトしはじめた。
「尾形ぁーー!! チンタラやってんじゃねぇぞコラ!!
もっとガンガンぶっ込んで、崩していかんかい!!」
数列先まで突き刺さる大声。
由利衣と梨々花の肩が、ビクッと震えた。
いまでこそ山本先生は副顧問で尾形の下だが、学生時代は彼の先輩だったと聞いたことがある。
……なるほど。そういうノリか。
その檄が聞こえたわけではないだろうが、尾形はすぐに動いた。
上空から、炎の壁の内側へと急降下。
薄緑の斬撃が火尖槍に叩き込まれ、金属音とともに火花が飛び散る。
青龍偃月刀ほどの重量ではないにせよ、火尖槍も容易に扱える代物ではない。
だがミアは、それを意にも介さず振るう。
そのたびに、火炎の軌跡が弧を描き、空中に紅蓮の花を咲かせた。
ミアは、ヘラヘラと緩んだ笑みを崩さないまま、追撃の手を止めなかった。
片手で火尖槍を突き込み、もう片方の手で炎弾を次々と上空へ撃ち上げる。
爆ぜた炎が尾形を包み、爆音と熱風が観客席にまで届く。
「バトルは派手に行かないとねー!」
マイクが彼女の声を拾い、スピーカー越しに会場を揺らした。
観客が一斉にどよめく。
プロフィールには「好きな魔法:爆炎」とあった。
火尖槍も、彼女のたっての希望で与えられたものだという。
強力な火炎に加えて、まだ見せていない“魔眼”の能力……セラも、だ。
あの二人が本気を出したとき、どんな光景になるのか想像すらつかない。
魔法使いとしての戦闘力は、いまの三人では足元にも及ばないだろう。
だが、尾形も負けてはいなかった。
神速のバフを纏い、襲い来る火炎を紙一重でかわす。
反撃の斬撃は光の閃き。視認すら困難だ。
訓練を積んだ魔法使いでさえ、見切るのは至難の業。
ミアは火尖槍で受け流そうとするが――頬をかすめ、紅い線が走った。
一拍遅れて、鮮血が散る。
回復魔法があるとはいえ、容赦がない。
女性相手でも、一切手を緩めないタイプらしい。
洗剤のテレビCMで見せていた“爽やか好青年”の面影は、どこにもなかった。
「うっしゃあ!! 尾形、首を飛ばせぇぇーー!!
血を見せろぉぉ!!」
ジャージ姿から放たれる絶叫が、会場中にこだました。
……いや、それはダメだろう。
尾形が連撃を叩き込む――だが、突如あらわれた剣に弾かれた。
剣? どこから?
観客席がざわつく。
尾形は攻撃の手を止め、一歩――いや、瞬時に後方へ跳んだ。
次の瞬間、彼のいた空間に無数の矢が降り注ぐ。
まるで、何もない虚空から生まれたかのように。
……これがミアの能力。剣や矢を空中に出すというものか?
「痛いなー。乙女の柔肌に、何してくれてんの?」
ミアは言葉とは裏腹に、怒るでもなく薄笑いを崩さない。
だが――それが、かえって不穏だった。
そのとき、セラが麗良との打ち合いから距離を取り、
「ミアさん!!」
と、その涼やかな風貌に似つかわしくない怒声を上げた。
一瞬にして空気が張りつめる。
その声には、まさしく“帝王の威圧”があった。
観客席の一部では、思わず首をすくめる者さえいた。
だが、ミアは一切怯む気配を見せない。
相変わらず、薄笑いのまま。
「なによー、セラ。
いいじゃん、どうせ公表予定だったんでしょ?
遅いか早いかの違いじゃん。
おあつらえ向きに、オーディエンスも多いしさ」
そう言って、中継ドローンに不敵な笑みを向けた。
「日本のSSRサプライズ、あれ――なかなか良かったよね。
弱っちいくせに、度胸は買うよ。そういうの、嫌いじゃないしー」
何を言っているのか理解できず、眉をひそめる尾形と麗良。
ミアは、楽しげに肩をすくめた。
「でもさぁ。私を差し置いて目立つなんて、生意気ー。
派手に発表して騒がせてやろうと思ってたのに、先に持ってかれちゃったじゃん。
それ――ちょっと、ムカつくかなー」
カメラは、ミアの瞳の輝きをとらえ、スクリーンに映し出していた。
会場中が騒然となる。
だが、それで終わらなかった。
突如、尾形が血まみれになり、仰向けに倒れた。
山本先生の悲鳴が響き、麗良はセラとの間合いを切って尾形に駆け寄る。
「剣とか矢とか、そんな古臭いのしか出せないと思った?」
ミアがコロコロと笑う。
声音に、ぞくりとするほどの愉悦が混じっていた。
火尖槍を地面に突き刺し――かわりにその手にあったのは、マシンガン。
ダンジョン内では軍の兵器の持ち込みは禁止されている。
そもそも、通常兵器はモンスター相手には通用しない。
だからこそ、持ち込む意味などないはずだ。
だが――あれは違う。
ミアが魔力で創り出した兵器だった。
尾形も、弾丸程度なら来ると分かっていれば避けられただろう。
しかし、まったく予想外の攻撃。
初動が遅れたのが致命的だった。
「――で。魔眼の力が、こんな銃一丁で終わりかっていうと……そんなことはないんだな」
ミアが軽く手を振ると、闘技場全体に影が差した。
現れたのは――戦闘ヘリの群れ。
爆音が低く唸り、金属が光を反射してきらめく。
空中で静止したそれらの機銃が、一斉に麗良へと照準を合わせた。
「私の魔眼、戦車(The Chariot)の力は兵器創造。
……これでも、まだ一部だけどね」
そしてミアは、セラに向かっていたずらっぽく舌を出す。
セラはピクリと目尻を引きつらせたが、ここは国際試合の舞台。
取り乱す素振りは見せなかった。
「……仕方ありませんね」
低く、しかしよく通る声でセラが呟く。
そして麗良と観客に向かい、静かに宣言した。
「SSRの能力を明かした以上、我々に課せられたのは――完全なる勝利。
ここからは、私も魔眼を解放します」
続けて、麗良に向けて静かに頭を下げる。
「申し訳ありません。
本来、魔眼能力の公表は時期を見ての方針でした。
これまで日本に対して手を抜いていたわけではありません――そこは、どうか誤解なきよう」
ミアは楽しそうに笑う。
「自分だけいい子しちゃうんだー?
日本のSSRに実力を見せつけるんじゃないの?
“魔眼を使うにはふさわしい力量が必要”とか言ってたくせにー」
セラがちらりとミアをたしなめるように目線をやる。
「……それはこの場ではありません。
ミアさん――あなた、あの男に乗せられて軽率なことを」
その視線の先には、わざとらしく肩をすくめるミアの姿。
セラはそれ以上、ミアには構わず静かに目を閉じる。
そして――再び開かれた瞳に、黄金の光が灯った。
スクリーンがその輝きを映し出す。
刹那、セラの背後で無数の影が生まれた。
それらは次々と人の形を取り、実体化していく。
たちまち、中国側の陣地を埋め尽くすほどに膨れ上がり――整然と整列した。
セラは青龍偃月刀の柄をズンと地面に立て、高らかに宣言する。
「我が魔眼は、皇帝(The Emperor)。能力は――軍団の創造と統率」
そして、ミアに目線を向けた。
ミアは待ってましたと言わんばかりに手をひらりと振る。
すると、上空の戦闘ヘリは霧散し、代わりに兵士たちの手に武器が配備されていく。
「戦車でも戦闘機でも出せるけど、ここ狭すぎなんだよねー」
つまらなそうに、ヘラヘラと笑うミア。
……悪夢の組み合わせだ。
人造兵の軍団を生み出すセラ。
そして、その軍勢に兵器を与えるミア。
魔戦部の熊耳が使う召喚魔法――“魔力の物質化”と原理は同じ。
だが、次元がまるで違う。
闘技場の範囲こそ制限されているが、もしその制約が解かれたとしたら――彼女たちが生み出す軍勢の規模など、もはや想像すらできない。
会場が、水を打ったように静まり返る。
これほどの召喚魔法を、誰も見たことがなかった。
しかも、これで“まだ全力ではない”というミアの言葉――それを疑う者は、一人もいなかった。
魔法使いとしての高い戦闘能力。
伝説級の魔導ギア。
そして、魔眼。
誇張でも比喩でもなく――二人で一国を制圧できる戦力。
SSRが一人いれば、小国でも超大国と渡り合える。
それが、魔法使いたちの間でまことしやかに囁かれる“寓話”。
では、その力を手にしたのが超大国なら……?
闘技場に目をやると、麗良の眼前には完全武装の軍団。そして、その先頭で青龍偃月刀を軍旗のように立て悠然と構えるセラの姿。
黄金の視線が麗良を射抜いた。
セラは静かに言った。
「尾形さんはリタイアさせ、早急に回復魔法を。
あなたはどうされます?……降参をお勧めしますが」
「ごめんねー。イケメンのお兄さん。急所は外れてるからさ。たぶん」
ミアは再び火尖槍を携え、笑いながらセラの隣に並ぶ。
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そして――静かな終了の合図が、闘技場に響いた。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
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御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
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しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
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そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
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23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
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ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
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ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
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かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
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