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第02章
第26話 国際戦
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第六層は、ダンジョン内でも特異なエリアだ。
天井は果てなく高く、見上げれば空が無限に続くかのように広がっている。
階層ボスは存在せず、単一フロアのみ。
ただし、そのフロアは巨大な闘技場で構築されている。
ここは定期開催のレイドが行われ、魔法使いが夢を掴む戦いの聖地――そして、世界の視線が注がれる場所だ。
第六層は、レイドのない期間は予約制で闘技場を自由に利用できる。
とはいえ、常に何かしらのイベントが組まれており、静まることは滅多にない。
もっとも、ここに足を踏み入れられるのは魔法使いだけだ。
それでも、戦いの様子はテレビやネット配信を通じて世界中へと届けられる。
魔法使いの力を示す「ショーケース」――同時に、各国が威信を競い合う舞台でもあった。
また、この階層には不可侵協定が適用されている。
各国の冒険者活動は制限され、政治的衝突を避けるため国連のSR魔法使いが常駐。
レイド以外ではモンスターは出現せず、資源も存在しないが、それでも常に監視の目が光っていた。
今回、SSR三人にイベント観戦の許可が下りたのは――
俺と山本先生の同行を条件とし、かつこの第六層が“比較的安全なエリア”と見なされていたからだ。
そして今夜は、日中魔法使い親善試合。
互いに日頃研鑽した技を披露し、友情と信頼を深め合う――
そんな平和的なイベントだ。
……なわけがない。それは建前に過ぎない。
これは国と国の、意地とプライドを懸けた代理戦争。
右手で握手しながら、左手では刃を研ぐ。それが、国家というやつだ。
本日の競技形式はタッグ戦。
日本代表は、レイド戦のツートップ――麗良と尾形。
ともに魔法使いランクSR。
麗良は★3・Lv.99。尾形は★3・Lv.70。
世界トップには一歩及ばぬが、現時点での日本最強戦力だ。
対する中国代表は、黄世羅(セラ)と李美亜(ミア)。
登録はSR。両名とも★2・Lv.99。
つい最近まで無名だったが、ここ数か月で一気に頭角を現し、いまや国際舞台の実力コンビとして注目を集めている。
同じSRなら★の多いこちらが有利――
だが、俺はその“常識”を信じていなかった。
九条が昼間漏らした言葉が本当なら、彼女たちはSRではなくSSR。
うちの三人が★1でレベル三十台でも、あれほどの力を見せる。
ならば、★2・Lv.99のSSRなど――どう考えても、化け物だ。
観客席上空に浮かぶ巨大スクリーンが、次々と選手紹介の映像を映し出す。
セラは、艶やかな黒髪を腰まで伸ばした、すらりとした美女。
その瞳は冷たい光を宿した蒼。
射抜くような輝きに、一瞬、息を呑む。
――梨々花と、どこか似ている。
思わずそんなことを考えたが、“あちらの方が洗練されている”などと口にしたら、間違いなく杖で殴られるだろう。
彼女の手に握られた武器を見て、再び息を呑む。
魔導ギア・青龍偃月刀。
長らく行方不明だったが、昨年、千八百年ぶりに復刻した精霊武器ガチャから排出された一振り。
かの武将が愛用したことで知られる、あまりにも有名な刃。
そして相棒のミア。
どこか気だるげで、常に薄笑いを浮かべている。
外はねのショートカット。セラとは対照的なギャル気質で、服の着こなしもゆるやかだ。
武装は魔導ギア・火尖槍。
遠い昔、伝説の道士が振るったとされる炎の槍。
さすがは悠久の歴史を誇る国。
神話伝承級の武具が、いまだ現役で息づいている。
対する日本代表。
近藤麗良。
――かつてのパーティメンバーであり、俺の妹弟子。
赤髪をなびかせ、カメラに微笑みを向ける。
その姿に、日本中のオーディエンスがどよめいた。
彼の国は、我が国にとって長らく“見上げる存在”だった。
だが――威信のかかったこの舞台で、後れを取るわけにはいかない。
麗良の気迫は、火花のように闘気へと変わっていた。
そして、尾形悟志。
若干二十三歳。
新世代を象徴する若きエースにして、政臣の大学時代の先輩。
テレビで見る爽やかイケメンの顔は封印し、そこにあるのは――戦う男の表情。
スクリーンに映し出された瞬間、俺の左隣に座る山本先生が祈るように両手を組んだ。
……が、すぐにハッとして俺の方を向く。
「いまのは違いますから。んもう、妬いちゃって」
そう言いながら、人差し指でグリグリ突いてくる。
ふたりの武器はいずれも刀。
麗良の手にあるのは魔導ギア・雷切。
名の通り、雷をも斬り裂く魔性の刃。
刀身に魔力を流すことで高度な魔法障壁を展開。
攻撃魔法の無効化と、斬撃によるバフ魔法の打ち消し――その両方を可能にする。
尾形の装備は魔導ギア・薄緑。
日本が誇る天才武将、義経公の愛刀。
能力は“神速”のバフ。無効化不能。
風のように駆け、跳び、敵はただ残像を追うのみ。
両国の戦力は以上。
――そして、舞台となる闘技場について。
レイド戦の際は、フィールド全域が解放される。
だが本日は、規模を縮小してサッカー場ほどの広さに設定されていた。
事前に申請しておけば、観客席の大きさもフィールドに合わせて再構成してくれるという。
精霊たちはサービス精神旺盛……いや、単にヒマなのかもしれない。
魔法使い同士の戦闘は基本的に“なんでもあり”。
ダンジョン内でのPK――プレイヤーキルすら、精霊に認められている。
ただし、その代償はレベルリセット。
とはいえ、今回はあくまで“親善試合”。
命懸けというのは、言葉のあやだ。
もし本当に誰かが死ねば、両国間だけの問題では済まない。
どれほど血の気の多い戦闘狂でも、その程度の常識は弁えている。
観客も、運営も、すべて魔法使い。
どこにこんなにいたのかと思うほど、世界各国から詰めかけている。
それぞれの国のダンジョンゲートから転移陣を使えば、気軽に来られる。
トップ層の実力を間近で見られる、またとない機会だ。
チケットは即完売。
これもまた、開催国にとっては貴重な収入源――。
あらためて、強き魔法使いこそ国を潤す存在だと思い知らされる。
そして本日の来賓は――
アメリカ合衆国大統領にして、先日“SSR魔法使い”であることを公表したベアトリス・リリエンタール。
プラチナの髪に、アメジストのように深く輝く瞳。
その立ち居振る舞いは優雅にして、まさしく国際舞台の華。
元女優でもモデルでもない。政治家一筋の人生。
五十を超えているはずだが、どう見ても二十代。
「お若く見えますね」どころではなく、本当にそうとしか見えない――まさに魔女。
その美貌とカリスマは世界を魅了し、各国にファンクラブが存在する。
国際サミットのあとは、握手を求める長蛇の列ができるほどだ。
彼女が来賓席に姿を現した瞬間、巨大スクリーンが右斜め四十五度のアップを映し出す。
観客席がどよめきで揺れた。
おそらく、メインイベントそっちのけで視聴率の山を叩き出しているに違いない。
後ろの席で由利衣が、ほぅ……とため息を漏らした。
「やっぱり、ベア様は今日もお綺麗……」
普段はおっとりした顔をしているが、意外とミーハーなのだ。
そうして、セレモニーは粛々と進んでいく。
右隣の梨々花が、そっと俺に声をかけてきた。
その瞳には、わずかな疑念の色が宿っている。
「先生。……何かあったんですか?
あの九条さん、お知り合いなんですよね。それなのに、一言も喋らないなんて。
お店のときから、様子が変です」
――よく見ている。
いや、俺のほうが態度に出すぎているのかもしれない。
それでも来奈なんかは、政臣に奢らせたポップコーンを楽しそうにモリモリ頬張っている。
何も考えていない顔。その無邪気さに、少しだけ救われる。
「いや……」
そう返すのが精一杯だった。
梨々花は、それ以上追及しなかった。
ただ、俺の裾をキュッと握る感触だけが伝わってくる。
少し心が軽くなるような気がした。
フィールドでは両国代表が礼をかわし、それぞれの陣地へとつく。
試合開始を前に、会場の熱気と魔力が陽炎のように空気を揺らしていた。
天井は果てなく高く、見上げれば空が無限に続くかのように広がっている。
階層ボスは存在せず、単一フロアのみ。
ただし、そのフロアは巨大な闘技場で構築されている。
ここは定期開催のレイドが行われ、魔法使いが夢を掴む戦いの聖地――そして、世界の視線が注がれる場所だ。
第六層は、レイドのない期間は予約制で闘技場を自由に利用できる。
とはいえ、常に何かしらのイベントが組まれており、静まることは滅多にない。
もっとも、ここに足を踏み入れられるのは魔法使いだけだ。
それでも、戦いの様子はテレビやネット配信を通じて世界中へと届けられる。
魔法使いの力を示す「ショーケース」――同時に、各国が威信を競い合う舞台でもあった。
また、この階層には不可侵協定が適用されている。
各国の冒険者活動は制限され、政治的衝突を避けるため国連のSR魔法使いが常駐。
レイド以外ではモンスターは出現せず、資源も存在しないが、それでも常に監視の目が光っていた。
今回、SSR三人にイベント観戦の許可が下りたのは――
俺と山本先生の同行を条件とし、かつこの第六層が“比較的安全なエリア”と見なされていたからだ。
そして今夜は、日中魔法使い親善試合。
互いに日頃研鑽した技を披露し、友情と信頼を深め合う――
そんな平和的なイベントだ。
……なわけがない。それは建前に過ぎない。
これは国と国の、意地とプライドを懸けた代理戦争。
右手で握手しながら、左手では刃を研ぐ。それが、国家というやつだ。
本日の競技形式はタッグ戦。
日本代表は、レイド戦のツートップ――麗良と尾形。
ともに魔法使いランクSR。
麗良は★3・Lv.99。尾形は★3・Lv.70。
世界トップには一歩及ばぬが、現時点での日本最強戦力だ。
対する中国代表は、黄世羅(セラ)と李美亜(ミア)。
登録はSR。両名とも★2・Lv.99。
つい最近まで無名だったが、ここ数か月で一気に頭角を現し、いまや国際舞台の実力コンビとして注目を集めている。
同じSRなら★の多いこちらが有利――
だが、俺はその“常識”を信じていなかった。
九条が昼間漏らした言葉が本当なら、彼女たちはSRではなくSSR。
うちの三人が★1でレベル三十台でも、あれほどの力を見せる。
ならば、★2・Lv.99のSSRなど――どう考えても、化け物だ。
観客席上空に浮かぶ巨大スクリーンが、次々と選手紹介の映像を映し出す。
セラは、艶やかな黒髪を腰まで伸ばした、すらりとした美女。
その瞳は冷たい光を宿した蒼。
射抜くような輝きに、一瞬、息を呑む。
――梨々花と、どこか似ている。
思わずそんなことを考えたが、“あちらの方が洗練されている”などと口にしたら、間違いなく杖で殴られるだろう。
彼女の手に握られた武器を見て、再び息を呑む。
魔導ギア・青龍偃月刀。
長らく行方不明だったが、昨年、千八百年ぶりに復刻した精霊武器ガチャから排出された一振り。
かの武将が愛用したことで知られる、あまりにも有名な刃。
そして相棒のミア。
どこか気だるげで、常に薄笑いを浮かべている。
外はねのショートカット。セラとは対照的なギャル気質で、服の着こなしもゆるやかだ。
武装は魔導ギア・火尖槍。
遠い昔、伝説の道士が振るったとされる炎の槍。
さすがは悠久の歴史を誇る国。
神話伝承級の武具が、いまだ現役で息づいている。
対する日本代表。
近藤麗良。
――かつてのパーティメンバーであり、俺の妹弟子。
赤髪をなびかせ、カメラに微笑みを向ける。
その姿に、日本中のオーディエンスがどよめいた。
彼の国は、我が国にとって長らく“見上げる存在”だった。
だが――威信のかかったこの舞台で、後れを取るわけにはいかない。
麗良の気迫は、火花のように闘気へと変わっていた。
そして、尾形悟志。
若干二十三歳。
新世代を象徴する若きエースにして、政臣の大学時代の先輩。
テレビで見る爽やかイケメンの顔は封印し、そこにあるのは――戦う男の表情。
スクリーンに映し出された瞬間、俺の左隣に座る山本先生が祈るように両手を組んだ。
……が、すぐにハッとして俺の方を向く。
「いまのは違いますから。んもう、妬いちゃって」
そう言いながら、人差し指でグリグリ突いてくる。
ふたりの武器はいずれも刀。
麗良の手にあるのは魔導ギア・雷切。
名の通り、雷をも斬り裂く魔性の刃。
刀身に魔力を流すことで高度な魔法障壁を展開。
攻撃魔法の無効化と、斬撃によるバフ魔法の打ち消し――その両方を可能にする。
尾形の装備は魔導ギア・薄緑。
日本が誇る天才武将、義経公の愛刀。
能力は“神速”のバフ。無効化不能。
風のように駆け、跳び、敵はただ残像を追うのみ。
両国の戦力は以上。
――そして、舞台となる闘技場について。
レイド戦の際は、フィールド全域が解放される。
だが本日は、規模を縮小してサッカー場ほどの広さに設定されていた。
事前に申請しておけば、観客席の大きさもフィールドに合わせて再構成してくれるという。
精霊たちはサービス精神旺盛……いや、単にヒマなのかもしれない。
魔法使い同士の戦闘は基本的に“なんでもあり”。
ダンジョン内でのPK――プレイヤーキルすら、精霊に認められている。
ただし、その代償はレベルリセット。
とはいえ、今回はあくまで“親善試合”。
命懸けというのは、言葉のあやだ。
もし本当に誰かが死ねば、両国間だけの問題では済まない。
どれほど血の気の多い戦闘狂でも、その程度の常識は弁えている。
観客も、運営も、すべて魔法使い。
どこにこんなにいたのかと思うほど、世界各国から詰めかけている。
それぞれの国のダンジョンゲートから転移陣を使えば、気軽に来られる。
トップ層の実力を間近で見られる、またとない機会だ。
チケットは即完売。
これもまた、開催国にとっては貴重な収入源――。
あらためて、強き魔法使いこそ国を潤す存在だと思い知らされる。
そして本日の来賓は――
アメリカ合衆国大統領にして、先日“SSR魔法使い”であることを公表したベアトリス・リリエンタール。
プラチナの髪に、アメジストのように深く輝く瞳。
その立ち居振る舞いは優雅にして、まさしく国際舞台の華。
元女優でもモデルでもない。政治家一筋の人生。
五十を超えているはずだが、どう見ても二十代。
「お若く見えますね」どころではなく、本当にそうとしか見えない――まさに魔女。
その美貌とカリスマは世界を魅了し、各国にファンクラブが存在する。
国際サミットのあとは、握手を求める長蛇の列ができるほどだ。
彼女が来賓席に姿を現した瞬間、巨大スクリーンが右斜め四十五度のアップを映し出す。
観客席がどよめきで揺れた。
おそらく、メインイベントそっちのけで視聴率の山を叩き出しているに違いない。
後ろの席で由利衣が、ほぅ……とため息を漏らした。
「やっぱり、ベア様は今日もお綺麗……」
普段はおっとりした顔をしているが、意外とミーハーなのだ。
そうして、セレモニーは粛々と進んでいく。
右隣の梨々花が、そっと俺に声をかけてきた。
その瞳には、わずかな疑念の色が宿っている。
「先生。……何かあったんですか?
あの九条さん、お知り合いなんですよね。それなのに、一言も喋らないなんて。
お店のときから、様子が変です」
――よく見ている。
いや、俺のほうが態度に出すぎているのかもしれない。
それでも来奈なんかは、政臣に奢らせたポップコーンを楽しそうにモリモリ頬張っている。
何も考えていない顔。その無邪気さに、少しだけ救われる。
「いや……」
そう返すのが精一杯だった。
梨々花は、それ以上追及しなかった。
ただ、俺の裾をキュッと握る感触だけが伝わってくる。
少し心が軽くなるような気がした。
フィールドでは両国代表が礼をかわし、それぞれの陣地へとつく。
試合開始を前に、会場の熱気と魔力が陽炎のように空気を揺らしていた。
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