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第02章
第35話 第二層ボス攻略(1)
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結局、初日のカブト狩りは不発――。
経験値も素材も伸びず、以後はオーソドックスにモンスターの巣を巡って、レベルと資金を地道に積み上げていくことになった。
その裏で、俺だけは黙々とソロでカブト狩り。
カブト装備は「黄金一式が揃うまで責任をもって保管すること」――梨々花からの厳命だ。売却も廃棄も不可。のちに視聴者参加オークションを開くつもりらしい。
おかげで、俺の部屋には今日も巨大カブトムシのフィギュアが鎮座している。
それはそれとして。
“健常の指輪”を八個そろえ終えた頃――
三人のレベルは、ついに48に到達していた。
---
【入江 来奈 ★】
ランク:SSR
レベル:48
体力 :A 624
攻撃力:S 991(+5%)
魔力 :C 299
耐久力:S 965
魔防 :B 460
敏捷 :S 922
幸運 :B 510
装備 :アイアングローブ(拳/攻撃+70・通常)
---
【桐生院 梨々花 ★】
ランク:SSR
レベル:48
体力 :B 507
攻撃力:D 161
魔力 :S 1,002
耐久力:B 500(+5%)
魔防 :S 1,011
敏捷 :A 701
幸運 :A 620
装備 :デモンズワンド(杖/魔力+280・魔導)
---
【黒澤 由利衣 ★】
ランク:SSR
レベル:48
体力 :A 656
攻撃力:B 539
魔力 :S 1,037
耐久力:B 478
魔防 :S 971
敏捷 :C 320(+5%)
幸運 :S 964
装備 :ライトニングブレイズ(銃/全ステータス+8%・魔導)
---
なお、山本先生はいつの間にかレベル80だった。
【山本 美鈴抽 ★】
ランク:R
レベル:80
体力 :B 1,020
攻撃力:B 1,078
魔力 :B 1,024
耐久力:C 885
魔防 :C 890(+5%)
敏捷 :B 1,044
幸運 :C 1,084
装備 :流星撃(弓/障壁無効・貫通/魔導)
---
バランス型で大きな穴がない。
それでいて幸運だけが評価以上に跳ねているのは、もはや固有の“クセ”と見るべきだろう。
火力も装備も、いまだSSR三人に引けを取らない。障壁無効と貫通――滅多に見ない逸品だ。
これだけの戦力なら、第二層ボスは射程圏内だ。
俺たちはさっそく、ゲンさんのところで予約を入れた。
***
スタートポイントの端末を操作する。
……見事にガラ空き。第二層ボスは相変わらずの不人気だ。
だが「毒モグラか毒サソリが出るまで粘る」と主張する三人+山本先生にとっては、むしろ好都合。
予約リストを眺めていると、ふと目に留まる名前があった。
「……アリサ、か」
イタリアからの申請。欧州SSRパーティの予約だ。
リーダーのクラリス名義ではなく、アリサ名義というのが少し気にかかる。
クラリスは★4のSSR。第二層ボスなど敵ではない。
だが、あのチームはまだ全員がそこまで育っていたわけではない。
急ぐ理由でもあるのだろうか。
多国籍チームは内部の関係が良くても、国の思惑が絡めば別だ。
そんなことを考えていると、来奈が目を輝かせる。
「ねえ教官! あたし、クラリスさんのバトル見たい!
聖剣エクスカリバー、めっちゃカッコいいじゃん!!」
梨々花も由利衣も、同意見だった。
……確かに。
世界最高峰の戦いを、間近で見られる機会などそうそうない。
「瞬殺かもしれんが、見ておいて損はないだろう」
俺も頷き、日本チームの予約をクラリスの直後に入れることにした。
前の挑戦者が撃破すれば、ボスは復活まで一日待ち。
クラリスが倒せないとは思えないが――
他メンバーの安全を優先して撤退、という可能性もある。
念のためだ。
***
ボスエリアに着くと、すでに欧州チームがいた。
配信は切っている。
彼女たちがSSRであることは、非公表だからだ。
アリサが俺たちに気づき、手を振ってきた。
「あーっ! また会いましたね!!」
俺たちは予約を見て見学に来たと告げると、アリサは嬉しそうに笑顔を見せ――
だがその笑みの奥に、かすかな影が差した。
「カッコいいところ見せるぞー! って言いたいんですけど……
ううん、頑張らないと」
クラリスがいれば、この階層のボスなど相手にもならない。
そう言いかけて――俺は気づいた。
そのクラリスの姿が、どこにもないことに。
アリサ、リュシアン、マルグリット。
そして、見物人のような数名。
リュシアンと同じ、聖職者風のローブをまとっている。
「クラリスは?」と聞くと、アリサは小さく首を横に振った。
「私たちだけです。先輩抜きでの攻略が条件なので……」
意味が飲み込めずにいると、マルグリットがやってきて吐き捨てるように言った。
「あの脳筋抜きでボスを倒せ、だとさ。聖魔術師教会のやつらの横やりでな」
聖魔術師教会――
欧州最大規模の宗教にして、超国家的権力を持つ組織。
マルグリットは苛立ちを隠さず続けた。
「リュシアンは、あいつらにとっちゃ“御子”なんだよ。
冒険者活動より、外の世界で影響力を行使させたいらしいんだ」
話を聞くうちに、少しずつ事情が見えてきた。
リュシアンの能力は戦闘向きではないが、極めて政治的な価値を持つ。
フランス政府としても、教会を敵に回してまで危険なダンジョンに潜らせる理由は薄い。
だが――問題はリュシアン本人の意思だ。
彼はアリサたちと共に冒険することを望んでいた。
ならば、冒険者としての実力を示すしかない。
クラリスの庇護抜きで結果を出せと。
それが、彼を諦めさせるために教会が突きつけた条件だった。
「あいつら、あたいらの協力は認めてるんだ。
どうせ大した戦力にはならないだろうってな……悔しいけどそうだ」
マルグリットは唇の端を歪める。
そのとき。
今まで俺たちの会話を静かに聞いていたローブ姿の若い男が、口を開いた。
穏やかだが、どこか冷ややかな声だった。
「人にはそれぞれの役割があるのです。
リュシアン様の居場所は、ダンジョンの中ではない。
しかし、こうして機会は用意しました。
意思を通されたいなら、困難に打ち克つことです」
そう言いながら、彼はため息をひとつつく。
「ただ……我々がいなければこのエリアにたどり着くこともできないのでは、とてもボスなど。
回復術師は控えさせていますので、無理だけはなさらぬよう」
その声音は、撤退を促すものだった。
駄々っ子を諭す大人。そんな眼差し。
見たところ、この男はなかなかの実力と見受けられる。
聖魔術師教会にも、高ランク魔法使いは多い。
一方で、アリサの決意は揺るがない。
戦う覚悟は、もう決まっていた。
リュシアンは震える指でアリサの袖をつまむ。
「……ごめんなさい、アリサさん。僕がわがままを――」
アリサは微笑み、弟をあやす姉のように頭を撫でる。
その空気を、来奈の一声が切り裂いた。
「冒険者が冒険して、何が悪いんだよ!」
全員の視線が集まる。
「役割とか知らないけどさ。せっかく魔法使いになれたんだ。夢、掴みに行かなきゃウソだろ!」
由利衣がやわらかく重ねる。
「仲間には、ちゃんと言っていいんだよ。やりたいこと、同じなんでしょ? だったら――堂々と行こ」
その声に、アリサは力強く頷いた。
「そうだね。リュシアンの夢、私も一緒に見たいな。
……こんなところで終われない。でしょ?」
その横で、マルグリットが八重歯をのぞかせ、にかっと笑う。
「あたいだって冒険者のつもりだぜ。
お前らと一緒にいると退屈しないからな。いっしょに行こうぜ」
リュシアンは顔を上げると、わずかに笑みを返す。
いいパーティだ。
それは実力どうこうでは語れない。
だが、ダンジョンボスは容赦がない。
俺としては、あのローブ姿の男と同意見だった。危険すぎる。
止めるべきか迷ったとき、梨々花の視線とぶつかった。
――“手を伸ばし続けるのが冒険者”。あの言葉を思い出す。
俺は黙って見守ることにした。
***
アリサ、マルグリット、リュシアンの三人がボスエリアへと足を踏み入れる。
その瞬間――
蠢く影が絡み合い、ボス候補たちの凄惨な殺し合いが始まった。
“蠱毒”の儀式だ。
異様な光景に、三人の顔はたちまち蒼白になる。
だが、誰も退かない。
見守る来奈たちもまた、息を呑む。
だが誰一人、顔を背けようとはしなかった。
アリサたちの戦いから目を離さない――その覚悟が、表情に刻まれていた。
やがて、毒気の渦の中心から“それ”が姿を現す。
選ばれたボスは――毒蛇。
「……悪くない」
俺は小さく呟いた。
トリッキーな動きをしてくるモンスターが多い中、毒蛇は比較的読みやすい部類だ。
一撃の威力は高いが、パターンさえ掴めば対処できる。
うちのメンバーは見た目重視で毒モグラか毒サソリを推していたが――。
毒モグラは神出鬼没。
由利衣の索敵があるとはいえ、地中からの奇襲にはまだ慣れていない。
陣形が崩れるリスクが高すぎる。
毒サソリに至っては、外骨格が硬すぎて貫通が難しい。
長期戦になれば、毒の蓄積で詰む。
油断ならない相手であることは間違いないが、それでも毒蛇は“比較的マシ”な部類――そう判断できた。
この選出はマルグリットの魔眼能力のおかげかもしれないな。
そう思った、そのときだった。
アリサの魔力が――爆ぜた。
高密度の魔力が彼女を中心に渦を巻き、空気が音もなく揺らめく。
強化バフが発動。
攻撃・防御、すべてのステータスが跳ね上がる。
こちらまで熱気が伝わってくるようだった。
毒蛇を前にした三人の顔色が、みるみるうちに生気を取り戻す。
恐怖は消え、瞳には戦意が宿っていた。
あれが“力”の魔眼――ただの数値上昇ではない。
仲間の心を昂らせ、立ち向かう精神へと導く。
もし、あの力が完全に覚醒したとき。
死線を超えた戦士たちが、彼女のもとに集うだろう。
その光景を想像して、俺は息をのむ。
――歴史に名を刻む、戦乙女の器だ。
そして、固まったまま動けなかったリュシアンも、ついに動いた。
手にあるのは、聖杯。
あれがもし俺の想像通りだとしたら、とんでもないものが出てきた。
魔導ギア・ルミナス。
支援系装備の最上位。
回復・防御系魔法の効果を飛躍的に高め、状態異常を瞬時に解除し、デバフも呪いも通さない。
リュシアンが静かに目を閉じ、聖杯を掲げる。
次の瞬間、ピィン……と澄んだ音が響いた。
その音を合図に、アリサたちの前にシールドが展開される。
薄膜のように空気を揺らし、三層に重なった光の壁が形成された。
三度がけ――。
ルミナスの能力なのか、それともリュシアン自身の詠唱速度が尋常ではないのか。
どこが冒険者に不向きだというのか。
純ヒーラーは数は少ないが、パーティの生命線だ。
アリサは前衛ファイター。
リュシアンはヒーラー。
――では、マルグリットは?
バランス的に攻撃魔法の使い手が欲しいところだが、彼女からは、そんな気配がまるで感じられない。
前回の戦いでは、最初から戦闘に参加する意思は見せていなかった。
パーティの陣形は、毒蛇にまっすぐ対峙するアリサ。
その背後に、リュシアンとマルグリット。
アリサがちらりと振り返る。
生気を取り戻したマルグリットが、不敵な笑みを浮かべていた。
「なんだよ。あたいだって冒険者だって言ったろ。
……よそ見してる暇なんて、ないぜ?」
その声が合図のように、アリサは正面を見据え、
手にした聖槍ロンギヌスを構える。
森の空気が、ぴんと張り詰めた。
毒蛇の眼が細まり、地を揺らすように尾を叩く。
アリサが息を吐き、一歩踏み出す。
欧州SSRの戦いが、始まった。
経験値も素材も伸びず、以後はオーソドックスにモンスターの巣を巡って、レベルと資金を地道に積み上げていくことになった。
その裏で、俺だけは黙々とソロでカブト狩り。
カブト装備は「黄金一式が揃うまで責任をもって保管すること」――梨々花からの厳命だ。売却も廃棄も不可。のちに視聴者参加オークションを開くつもりらしい。
おかげで、俺の部屋には今日も巨大カブトムシのフィギュアが鎮座している。
それはそれとして。
“健常の指輪”を八個そろえ終えた頃――
三人のレベルは、ついに48に到達していた。
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【入江 来奈 ★】
ランク:SSR
レベル:48
体力 :A 624
攻撃力:S 991(+5%)
魔力 :C 299
耐久力:S 965
魔防 :B 460
敏捷 :S 922
幸運 :B 510
装備 :アイアングローブ(拳/攻撃+70・通常)
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【桐生院 梨々花 ★】
ランク:SSR
レベル:48
体力 :B 507
攻撃力:D 161
魔力 :S 1,002
耐久力:B 500(+5%)
魔防 :S 1,011
敏捷 :A 701
幸運 :A 620
装備 :デモンズワンド(杖/魔力+280・魔導)
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【黒澤 由利衣 ★】
ランク:SSR
レベル:48
体力 :A 656
攻撃力:B 539
魔力 :S 1,037
耐久力:B 478
魔防 :S 971
敏捷 :C 320(+5%)
幸運 :S 964
装備 :ライトニングブレイズ(銃/全ステータス+8%・魔導)
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なお、山本先生はいつの間にかレベル80だった。
【山本 美鈴抽 ★】
ランク:R
レベル:80
体力 :B 1,020
攻撃力:B 1,078
魔力 :B 1,024
耐久力:C 885
魔防 :C 890(+5%)
敏捷 :B 1,044
幸運 :C 1,084
装備 :流星撃(弓/障壁無効・貫通/魔導)
---
バランス型で大きな穴がない。
それでいて幸運だけが評価以上に跳ねているのは、もはや固有の“クセ”と見るべきだろう。
火力も装備も、いまだSSR三人に引けを取らない。障壁無効と貫通――滅多に見ない逸品だ。
これだけの戦力なら、第二層ボスは射程圏内だ。
俺たちはさっそく、ゲンさんのところで予約を入れた。
***
スタートポイントの端末を操作する。
……見事にガラ空き。第二層ボスは相変わらずの不人気だ。
だが「毒モグラか毒サソリが出るまで粘る」と主張する三人+山本先生にとっては、むしろ好都合。
予約リストを眺めていると、ふと目に留まる名前があった。
「……アリサ、か」
イタリアからの申請。欧州SSRパーティの予約だ。
リーダーのクラリス名義ではなく、アリサ名義というのが少し気にかかる。
クラリスは★4のSSR。第二層ボスなど敵ではない。
だが、あのチームはまだ全員がそこまで育っていたわけではない。
急ぐ理由でもあるのだろうか。
多国籍チームは内部の関係が良くても、国の思惑が絡めば別だ。
そんなことを考えていると、来奈が目を輝かせる。
「ねえ教官! あたし、クラリスさんのバトル見たい!
聖剣エクスカリバー、めっちゃカッコいいじゃん!!」
梨々花も由利衣も、同意見だった。
……確かに。
世界最高峰の戦いを、間近で見られる機会などそうそうない。
「瞬殺かもしれんが、見ておいて損はないだろう」
俺も頷き、日本チームの予約をクラリスの直後に入れることにした。
前の挑戦者が撃破すれば、ボスは復活まで一日待ち。
クラリスが倒せないとは思えないが――
他メンバーの安全を優先して撤退、という可能性もある。
念のためだ。
***
ボスエリアに着くと、すでに欧州チームがいた。
配信は切っている。
彼女たちがSSRであることは、非公表だからだ。
アリサが俺たちに気づき、手を振ってきた。
「あーっ! また会いましたね!!」
俺たちは予約を見て見学に来たと告げると、アリサは嬉しそうに笑顔を見せ――
だがその笑みの奥に、かすかな影が差した。
「カッコいいところ見せるぞー! って言いたいんですけど……
ううん、頑張らないと」
クラリスがいれば、この階層のボスなど相手にもならない。
そう言いかけて――俺は気づいた。
そのクラリスの姿が、どこにもないことに。
アリサ、リュシアン、マルグリット。
そして、見物人のような数名。
リュシアンと同じ、聖職者風のローブをまとっている。
「クラリスは?」と聞くと、アリサは小さく首を横に振った。
「私たちだけです。先輩抜きでの攻略が条件なので……」
意味が飲み込めずにいると、マルグリットがやってきて吐き捨てるように言った。
「あの脳筋抜きでボスを倒せ、だとさ。聖魔術師教会のやつらの横やりでな」
聖魔術師教会――
欧州最大規模の宗教にして、超国家的権力を持つ組織。
マルグリットは苛立ちを隠さず続けた。
「リュシアンは、あいつらにとっちゃ“御子”なんだよ。
冒険者活動より、外の世界で影響力を行使させたいらしいんだ」
話を聞くうちに、少しずつ事情が見えてきた。
リュシアンの能力は戦闘向きではないが、極めて政治的な価値を持つ。
フランス政府としても、教会を敵に回してまで危険なダンジョンに潜らせる理由は薄い。
だが――問題はリュシアン本人の意思だ。
彼はアリサたちと共に冒険することを望んでいた。
ならば、冒険者としての実力を示すしかない。
クラリスの庇護抜きで結果を出せと。
それが、彼を諦めさせるために教会が突きつけた条件だった。
「あいつら、あたいらの協力は認めてるんだ。
どうせ大した戦力にはならないだろうってな……悔しいけどそうだ」
マルグリットは唇の端を歪める。
そのとき。
今まで俺たちの会話を静かに聞いていたローブ姿の若い男が、口を開いた。
穏やかだが、どこか冷ややかな声だった。
「人にはそれぞれの役割があるのです。
リュシアン様の居場所は、ダンジョンの中ではない。
しかし、こうして機会は用意しました。
意思を通されたいなら、困難に打ち克つことです」
そう言いながら、彼はため息をひとつつく。
「ただ……我々がいなければこのエリアにたどり着くこともできないのでは、とてもボスなど。
回復術師は控えさせていますので、無理だけはなさらぬよう」
その声音は、撤退を促すものだった。
駄々っ子を諭す大人。そんな眼差し。
見たところ、この男はなかなかの実力と見受けられる。
聖魔術師教会にも、高ランク魔法使いは多い。
一方で、アリサの決意は揺るがない。
戦う覚悟は、もう決まっていた。
リュシアンは震える指でアリサの袖をつまむ。
「……ごめんなさい、アリサさん。僕がわがままを――」
アリサは微笑み、弟をあやす姉のように頭を撫でる。
その空気を、来奈の一声が切り裂いた。
「冒険者が冒険して、何が悪いんだよ!」
全員の視線が集まる。
「役割とか知らないけどさ。せっかく魔法使いになれたんだ。夢、掴みに行かなきゃウソだろ!」
由利衣がやわらかく重ねる。
「仲間には、ちゃんと言っていいんだよ。やりたいこと、同じなんでしょ? だったら――堂々と行こ」
その声に、アリサは力強く頷いた。
「そうだね。リュシアンの夢、私も一緒に見たいな。
……こんなところで終われない。でしょ?」
その横で、マルグリットが八重歯をのぞかせ、にかっと笑う。
「あたいだって冒険者のつもりだぜ。
お前らと一緒にいると退屈しないからな。いっしょに行こうぜ」
リュシアンは顔を上げると、わずかに笑みを返す。
いいパーティだ。
それは実力どうこうでは語れない。
だが、ダンジョンボスは容赦がない。
俺としては、あのローブ姿の男と同意見だった。危険すぎる。
止めるべきか迷ったとき、梨々花の視線とぶつかった。
――“手を伸ばし続けるのが冒険者”。あの言葉を思い出す。
俺は黙って見守ることにした。
***
アリサ、マルグリット、リュシアンの三人がボスエリアへと足を踏み入れる。
その瞬間――
蠢く影が絡み合い、ボス候補たちの凄惨な殺し合いが始まった。
“蠱毒”の儀式だ。
異様な光景に、三人の顔はたちまち蒼白になる。
だが、誰も退かない。
見守る来奈たちもまた、息を呑む。
だが誰一人、顔を背けようとはしなかった。
アリサたちの戦いから目を離さない――その覚悟が、表情に刻まれていた。
やがて、毒気の渦の中心から“それ”が姿を現す。
選ばれたボスは――毒蛇。
「……悪くない」
俺は小さく呟いた。
トリッキーな動きをしてくるモンスターが多い中、毒蛇は比較的読みやすい部類だ。
一撃の威力は高いが、パターンさえ掴めば対処できる。
うちのメンバーは見た目重視で毒モグラか毒サソリを推していたが――。
毒モグラは神出鬼没。
由利衣の索敵があるとはいえ、地中からの奇襲にはまだ慣れていない。
陣形が崩れるリスクが高すぎる。
毒サソリに至っては、外骨格が硬すぎて貫通が難しい。
長期戦になれば、毒の蓄積で詰む。
油断ならない相手であることは間違いないが、それでも毒蛇は“比較的マシ”な部類――そう判断できた。
この選出はマルグリットの魔眼能力のおかげかもしれないな。
そう思った、そのときだった。
アリサの魔力が――爆ぜた。
高密度の魔力が彼女を中心に渦を巻き、空気が音もなく揺らめく。
強化バフが発動。
攻撃・防御、すべてのステータスが跳ね上がる。
こちらまで熱気が伝わってくるようだった。
毒蛇を前にした三人の顔色が、みるみるうちに生気を取り戻す。
恐怖は消え、瞳には戦意が宿っていた。
あれが“力”の魔眼――ただの数値上昇ではない。
仲間の心を昂らせ、立ち向かう精神へと導く。
もし、あの力が完全に覚醒したとき。
死線を超えた戦士たちが、彼女のもとに集うだろう。
その光景を想像して、俺は息をのむ。
――歴史に名を刻む、戦乙女の器だ。
そして、固まったまま動けなかったリュシアンも、ついに動いた。
手にあるのは、聖杯。
あれがもし俺の想像通りだとしたら、とんでもないものが出てきた。
魔導ギア・ルミナス。
支援系装備の最上位。
回復・防御系魔法の効果を飛躍的に高め、状態異常を瞬時に解除し、デバフも呪いも通さない。
リュシアンが静かに目を閉じ、聖杯を掲げる。
次の瞬間、ピィン……と澄んだ音が響いた。
その音を合図に、アリサたちの前にシールドが展開される。
薄膜のように空気を揺らし、三層に重なった光の壁が形成された。
三度がけ――。
ルミナスの能力なのか、それともリュシアン自身の詠唱速度が尋常ではないのか。
どこが冒険者に不向きだというのか。
純ヒーラーは数は少ないが、パーティの生命線だ。
アリサは前衛ファイター。
リュシアンはヒーラー。
――では、マルグリットは?
バランス的に攻撃魔法の使い手が欲しいところだが、彼女からは、そんな気配がまるで感じられない。
前回の戦いでは、最初から戦闘に参加する意思は見せていなかった。
パーティの陣形は、毒蛇にまっすぐ対峙するアリサ。
その背後に、リュシアンとマルグリット。
アリサがちらりと振り返る。
生気を取り戻したマルグリットが、不敵な笑みを浮かべていた。
「なんだよ。あたいだって冒険者だって言ったろ。
……よそ見してる暇なんて、ないぜ?」
その声が合図のように、アリサは正面を見据え、
手にした聖槍ロンギヌスを構える。
森の空気が、ぴんと張り詰めた。
毒蛇の眼が細まり、地を揺らすように尾を叩く。
アリサが息を吐き、一歩踏み出す。
欧州SSRの戦いが、始まった。
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23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
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ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
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ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
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かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
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