終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第02章

第36話 第二層ボス攻略(2)

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第二層ダンジョンボスの巨大毒蛇に対峙するのは、欧州SSRの三人。
アリサ、リュシアン、マルグリット。

おそらく、あれからレベルの積み上げを重ねたとしても、アリサのレベルはせいぜい二十前後。
第二層どころか、第一層ボスすら危うい。

――普通なら、無謀。

だが、“普通”という言葉はSSRには通用しない。

アリサの魔眼によるバフ――ステータス三倍があれば、数値上はあの毒蛇を凌ぐかもしれない。

おそらく、彼女もその目論見だろう。

一歩踏み出し、ロンギヌスに風魔法を纏わせる。
まだ制御は粗い。
だが、ロンギヌスの異常なまでの魔力伝導率がそれを補い、斬撃が大蛇の胴を裂いた。

途端に吹き出す、紫色の血。

「やった!!」 
来奈が思わず声を上げる。

そこに、山本先生の冷静な声が重なる。

「入江さん……やったと思ったときは、やっていない。それが戦いの法則。
第二層ボスに中途半端な攻撃は悪手。
よく見ておきなさい」

そのメタな一言に呼応するように、毒蛇の血がシュウシュウと音を立て、地面から白い蒸気を立ち昇らせる。

「強力な毒と酸。浴びたら溶かされるわよ。
吸い込むのも危険。
それに、あの回復力……」

山本先生の言葉が終わるより早く、毒蛇の傷は塞がっていた。

……毒蛇はまだ比較的組みやすい相手。
それでもこの脅威。

有効な対処法は、一撃で首を飛ばし、火炎で焼き払うこと。
下層に棲むヒドラは首を落としても再生するが、第二層のボスは、さすがにそこまでの理不尽仕様ではない。

それでも――駆け出しの冒険者にとっては、あまりにも苛烈すぎる相手だった。

毒の血が蒸発し、紫の霧が立ちこめる。
しかし、その有毒な瘴気は――瞬く間に清められていった。

さすが魔導ギア・ルミナス。
リュシアンがいる限り、毒攻撃は致命的にはならないだろう。

由利衣が感嘆の息を漏らす

「すごい……あの魔法は私には無理だな」

本来なら、女教皇の魔眼能力は防御と回復特化。
だが、俺が下手に索敵を教えたせいで、いまや索敵アンド殲滅マシーン。ついでに防御と回復。

「黒澤は今からでも、防御と回復をメインに伸ばす手もあるんだが……」

だが、俺の呟きは見事にスルーされた。

そうこうしている間にも、ボスエリアでは激戦が続いていた。

だが、アリサは今ひとつ踏み切れない。
毒蛇の尾や牙は、ステータス強化のおかげで反射的にかわしているものの、
回避するだけで、攻撃にはつながっていなかった。

……やはり、こうなるか。
これがパワーレベリングの弊害だ。

ダンジョンモンスターや魔法使い同士の戦闘でモノを言うのは、単なるステータス値ではない。

魔力の制御。
自らの魔力をどう練り、相手の魔力をどう読むか。
それが噛み合ったとき、初めて有効打が生まれる。

うちの三人には、レベル上げよりも先にそれを叩き込んだ。
それでもまだ、練度は上級冒険者どころか中堅にも届かない。

クラリス主導でモンスター狩りに励んでいた欧州チームには、魔力制御の練度が決定的に欠けている。

とはいえ――クラリスほどの強者ならば、それくらい百も承知のはずだ。

問題は、周囲のお偉方だろう。
星だのレベルだの、分かりやすい数値ばかりを重視して。
「SSRにふさわしいステータスを整えよ」
――そんな指示をクラリスに押しつけたに違いない。

戦闘魔法使いは、即席では育たない。
だが、いまはそんなことを言っても始まらない。
手持ちのカードで勝負するしかないのだ。

そのとき、マルグリットがウインドブレーカーをバッと翻した。

――何か仕掛ける気か?

見ると、彼女の腰には三十センチほどの短い杖が数本、ベルトに差し込まれている。

「あれは……マジックロッドか。
まさか、あんな高級品まで揃えているとは。欧州も本気だな」

俺の言葉に、梨々花の肩がピクリと動いた。
その反応を見て、俺は簡単に解説を添える。

「高威力の攻撃魔法を展開できる、一種の消費アイテムだ。
一度使うと八割の確率で壊れる。
だから、本当にピンチのときしか使わない代物なんだが――」

「アリサ! 下がれ!」
マルグリットの叫びと同時に、一本のロッドが抜かれる。

振り下ろされた瞬間、毒蛇の周囲を炎が包んだ。
熱風が吹き荒れ、巨体がのたうつ。

マルグリットは間髪を入れず、次々とロッドを振るう。
炎の柱が連続して立ち上がり、地面を焦がしていく。

「……全然壊れないんですけど」

梨々花が疑いの眼差しで俺を見た。

「普通は、本当に壊れるんだ……」

あまりのデタラメぶりに、俺は頭を抱えるしかなかった。

そんな俺たちの反応に気づいたのか、マルグリットは大声を出す。

「あたいの魔眼、“運命の輪”(The Wheel of Fortune)は――確率の偏在。
幸運のあとには反動もある」

そう言い放つと、彼女の両眼が黄金の光を帯びた。

次の瞬間、アリサに襲いかからんと鎌首をもたげた毒蛇の頭に、どこからともなく飛んできた巨大な栗のイガが直撃。
音を立てて巨体が沈んだ。

「――けど、その不運を相手に押しつけちまうのが、あたいの能力なんだけどな!!」

豪快な笑い声が、森に響き渡る。

……なんだそれは。
チートにもほどがある。

そこへ、政臣の感心したような声がかかった。

「あのマルグリットさん。
あれから調べたんですけど、有名なギャンブラーみたいですね。
いくつものネットカジノ出禁伝説があるとか」

魔眼能力で荒稼ぎとは……。
また頭が痛くなる。

「でも、稼いだお金は全額寄付していて、“ひじり・賭博姐さん”とか呼ばれてるらしいですよ」

……悪い人間ではないんだろうが。
やっていることが破天荒すぎる。

それにしても、その二つ名のセンスは一体なんなんだ。

そこまで言って、政臣がナイスアイデアとばかりに手を叩く。

「そうだ! マルグリットさんの競馬予想コーナー作りましょう!!
これは人気コンテンツになりますよ!!」

チャンネルの趣旨が変わってるだろ。
それに、予想でもなんでもない。何を言い出すんだか。

毒蛇が焼かれる臭いが、こちらまで漂ってくる。
のたうち回るたび、ジュウジュウと皮膚がただれ――それが再生しては、また焼ける。
ベリベリと古い皮が剥がれ落ちる音が、森の奥にこだまする。

「いいなー。マジックアイテム使いたい放題なんて。
あれだけの炎なら、勝てるかも――」

そこまで言いかけた来奈が、ハッとして振り返る。
そこには、大きく頷く山本先生の姿があった。

「勘が冴えてきたようね、入江さん。
“勝てるかも”――のときは、勝てない。これも法則よ」

謎のやりとり。
だが、その直後に山本先生が俺に呼びかけてくる。

「佐伯さん……まずいと思います」

俺も同意見だった。

「首を落としてからの火炎なら有効だが……
あの調子で再生を許していると、いずれ耐性がつく。
決定的な一撃に欠けるのが、いまの欧州チームの泣きどころだな」

だが、マルグリットの支援を得たアリサは意を決して動いた。

炎の熱をものともせず、風魔法を纏った斬撃を叩き込む。
毒蛇の側面――頭部に風圧が走り、片目が潰れた。
そこを狙い、彼女は躊躇なく毒蛇の目の奥にロンギヌスを突き立てる。

ビシャッと、紫の血がアリサに降りかかる。
リュシアンのシールドが瞬時に展開し守るが、耐えきれず破砕。
毒血のしぶきがアリサの腕に触れ、皮膚が焼け焦げる。

おそらく、毒霧を吸い込んで肺もただれているはずだ。
すぐに浄化が始まり、傷は塞がっていく。

だが、回復すると分かっていても――なかなか踏み込めるものではない。

見かけによらず、無謀なほどに真っ向勝負のファイターだ。

「アリサ、あたしのスタイルに似てるなー。
ガンガン攻める感じ、いいじゃん」

どうやら来奈は親近感を覚えたらしい。
拳をグッと握り、瞳が輝いている。

……とはいえ、あれはリュシアンの支援があってこそだ。
由利衣の防御結界を頼りに同じことをすれば、命がいくつあっても足りない。

そう思ったが――ライバルに触発されるのは悪くない。
俺は何も言わなかった。

そこに、マルグリットの叫びが響いた。

「アリサ! ロンギヌスを離せ!!」

アリサは反射的にロンギヌスを手放し、後方へ大きくバックステップ。

直後――
マルグリットが別のロッドを抜き放ち、勢いよく振り下ろす。

青白い閃光が走った。
薄暗い森を白昼のように照らし、雷がロンギヌスを伝って毒蛇の脳を貫く。

巨体が痙攣し、轟音とともに地面が震えた。

アリサはすかさずロンギヌスを引き抜くと、数歩離れて構える。
しばらく、険しい表情を崩さなかったが――
くるりと振り返ったときには、いつもの笑顔だった。

「マルグリットさん! ナイス攻撃でしたー!!」

その顔には、確かな手応えがあった。
クラリスがいなくても、格上と渡り合える――そう実感した表情だった。

そして、アリサはリュシアンを見つめる。
その瞳は、まっすぐに温かい。

「私、リュシアンがいるから怖くないんだよ。
これからもずっと一緒。
クラリス先輩と四人で、ずっと冒険したい。
――これが私のわがまま。……聞いてくれるかな?」

リュシアンの瞳がわずかに揺れ、やがて静かに頷いた。

二人の間に優しい風が吹き抜け、オレンジがかった金髪と透き通るような銀髪を揺らした。

マルグリットは、そんな二人に一瞬目尻を緩めるが、すぐにキッと眼差しを鋭くする。

「おい、アリサ! 油断すんな! 焼いちまうから離れろ!」

ロッドを振り抜くと、灼熱の炎が奔る。
追撃の火炎が毒蛇を包み込み、焦げる臭気がエリア全体を満たした。

……これでボスが崩れ落ちれば、アリサたちの勝利。

誰もが息を詰めて見守る。
来奈でさえ、余計なフラグを立てまいと唇を固く結んでいた。

――だが、やはり第二層のボスは甘くなかった。
首を落とすまでは、終わらない。

突如、毒蛇は身を縮めると、バネのように大きく跳躍した。
空気が弾け、鱗が光を弾く。

再生した表皮には、焦げひとつない。
炎耐性の獲得だった。

「アリサ、逃げろ!」

マルグリットの叫びが響く。
アリサは大きく後退した。

そのとき――
巨大な口から、毒液が噴射された。

火炎をかき消しながら、紫の霧が爆ぜる。
地面がジュウと音を立てて腐蝕していく。

「っ……!」

三人が、ほぼ同時に膝をついた。

リュシアンの魔導ギア・ルミナスの浄化光が周囲を包む。
だが、それでも毒の侵食は止まらない。

見れば毒蛇の潰れた片目が、ブクブクと再生を始めている。

やはり、一撃で首を飛ばす有効打が必要。
梨々花の属性付与と、来奈の魔力のこもった斬撃の連携なら可能だろうが……。
いまのアリサでは、やはり練度が足りない。

ここまでか。
このままでは――間違いなく、誰かが倒れる。

「撤退を――」
そう言いかけたときだった。

梨々花の声が、静かに割り込んできた。

「……先生って。
自分はさんざん無茶をするくせに、人の無茶は見ていられない性分なんですね」

視線を向けると、梨々花は風に髪を揺らしながら、少しだけ微笑んでいた。
呆れたような、それでいてどこか慈しむような――複雑な表情。

風が黒髪をそっと撫でる。
それをかきあげると、梨々花は俺をまっすぐに見た。

「みんなワガママを通す気なんです。この世界に足を踏み入れたときから。
……アリサさんだって、ほら」

梨々花は、俺の視線を超えて指を差した。

ボスに対峙するアリサの水色の瞳が、強く、はっきりと輝いていた。

諦めない力を光に変えて。
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