終末のSSR ―最強おじさんの戦闘アイドル育成プロジェクト―

白猫商工会

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第03章

第50話 メタルモンスター

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日曜はレベルアップ探索日。
山本先生も加わっての合同訓練だ。

昨日のことがあったので三人の様子が少し気がかりだったが、杞憂だったらしい。いつも通りの調子だ。
むしろ、山本先生が一緒にいることで、安心しているようにも見える。

梨々花も、最初の頃こそ「冒険部だけで攻略を」とこだわっていたが、今では訓練を素直に楽しんでいる。

とはいえ、この“日曜版コンテンツ”も第三層までかもしれない。
第四層ともなれば、モンスターの強さは一気に跳ね上がる。

多くのRランク魔法使いは、第三層を突破できた時点で満足する。
その先を諦めて、自分の限界と折り合いをつけるのだ。

山本先生はどちら側だろう。それはまだ分からなかった。

そして俺たちは今、レッドストーン採掘現場の休憩所にいる。
昨日と同じ洞窟に入る前に、作戦会議なのだ。

ギシギシと軋む椅子に腰を下ろし、これまた年季の入ったテーブルに手を置いた山本先生が、梨々花の“メタルモンスター狩り”案にうんうんと頷いていた。

「そうですね。確かにメタルモンスターは希少金属のドロップが期待できます。
経験値効率も悪くありません。ただし――手強いですよ」

由利衣がすぐに手を挙げる。
「鉱石を食べて、金属と融合してるんでしたっけ? 硬いとか?」

「それもあります」
山本先生は顎に手を当てて、ふと微笑んだ。

「……授業熱心な入江さんなら、知ってますよね?」

いきなり名指しされた来奈の目が泳ぐ。
「え? ええっと……胃腸が丈夫……とか?」

先生の笑顔がスッと深まる。
そのまま、手のひらをアイアンクローの形にして、指をゴキッと鳴らした。

「ひっ」
来奈の悲鳴ともつかない息が漏れる。

まったく、仕方ないやつだ。助け舟を出すか。

俺は来奈に顔を向け、昨日の戦闘のことを思い出させた。
「昨日、俺が最初に村正を振るったとき、モンスターがどうなったか覚えてるか?」

「えーと、なんか火が噴き出てたような……」

「そう。あのときの個体はまだメタル化していなかったが、あの種のモンスターの特徴はそこにある」

俺は指で机を軽く叩きながら説明を続けた。
「この火山帯のモンスターの多くは、溶岩を取り込んで血液が超高温だ。
外の生物とはまるで常識が違う」

下手に接近戦を仕掛ければ、煮えたぎる血を浴びることになる。
その危険を避けるには――遠距離、もしくは中距離での戦闘が基本だ。

だが、奴らの皮膚は金属質で硬く、内臓までもが鉱化している。
半端な土魔法や風魔法では貫けない。

とはいえ、手はある。
俺の村正の飛ぶ斬撃なら、装甲ごと切り裂けるはずだ。
山本先生の弓も、防御無視の貫通性能を持つ。
十分に勝機はある。

「えー? それじゃ、あたしやることないじゃん!!」

すかさず来奈が抗議。梨々花と由利衣も不満顔だ。

今日は山本先生のレベルアップが目的だが、それでも、戦闘にやる気を見せる三人は頼もしい。
その意気は買いたい。

俺は以前から考えていた、硬質モンスターへの対処法を試してみようかと思った。
ぶっつけ本番だが――こいつらのセンスなら、いける。

「黒澤。いまなら、目が覚めてるときも三重結界を張れるんじゃないか?」

俺の言葉に、由利衣はやや自信なさげに答える。
「できると思います。どこまで持続できるかは、やってみないと分からないですけど」

俺の見立てでは、五分は持つ。
それだけあれば大丈夫だろう。

「メタルモンスターは動きが速くない。ユニゾン技を練習がてら試してみるか」

その言葉に、それまで黙って機材チェックをしていた政臣の眼鏡が爛々と輝いた。
鼻息も荒い。

「佐伯さん!! なんですか、それ! 僕に黙って水臭いなぁ! もうっ!!!!!!
ライナ、リリカ、ユリィのユニゾンアタックなんて、最高すぎるじゃないですか!!」

……そうくると思って黙っていたんだ。

政臣はテーブルに身を乗り出し、俺に唾を浴びせかからんばかりの勢いで吠える。

「行きましょう! いますぐに! メタルモンスター狩りやで!!!」

口調が山本先生のエキサイトモードを受け継いでいる。

だがその前に。
俺は三人を手招きして、テーブルを離れた。
食い下がろうとする政臣は、来奈が制すると大人しく“ハウス”していた。

「いいか。考えはこうだ――」

簡単なレクチャーをする俺に、三人は顔を寄せ合って真剣に頷いていた。

***

一日ぶりに、第三層の火山洞窟へと踏み込む。
目的はメタルモンスターの調査――まずは索敵からだ。

由利衣の索敵を駆使して手当たり次第に探すと、一時間もたたずに“教材”が見つかった。
昨日、来奈がディメトロドンと呼んでいた亜竜。
金属質の外皮が溶岩の赤を反射して煌々と光っている。
サンプルとして申し分ない。

まずは比較のため、山本先生を後詰めに据えて三人は通常攻撃を試みた。
梨々花は風魔法、来奈は風属性を付与した斬撃、由利衣は魔力弾。

しかし、梨々花の大型モンスターすら輪切りにしたあの風の斬撃も、来奈の一撃も、由利衣の魔力弾も、まるで紙屑でも払うように弾き飛ばされる。
亜竜はためらうこともなく突進してきた。

喉元がプクッと膨らんだ瞬間、梨々花が叫ぶ。
「みんな!」

即座に三人が彼女の後ろへ下がる。
梨々花は氷の杖・アイシクルワンドに水属性の魔力を目一杯に流し込んだ。
亜竜との間に巨大な氷の壁が立ち上がり、その前に由利衣の結界が張られる。

防御態勢が整うのとほぼ同時――轟音とともに、火炎ブレス。
結界は一瞬で焼き切れ、氷壁も溶けて薄くなっていく。
だが、削れた端から二人の魔力で再生。
炎と氷がぶつかり合い、蒸気が白く吹き上がった。

亜竜の口から、ボボボッと音を残してブレスが止む。

……よく耐えた。
あの二重壁がなければ、骨まで残らなかっただろう。

肩で息をつく二人の前に、山本先生が静かに踏み出す。
亜竜はすでに、次のブレスを溜めはじめていた。

その口が再び開いた瞬間――

矢が放たれた音すら聞こえなかった。
ただ、洞窟に「ガキン」と硬質な衝突音が響き、次の瞬間、頭蓋を貫通する鈍い破裂音が重なる。

焦げた匂いが立ちこめる。
亜竜から吹き出した血が溶岩に散り、ジュウジュウと音を立てて地面を焼いていた。

――さすが山本先生。一撃とは。
俺は万が一に備えて戦闘態勢を取っていたが、出る幕すらなかった。

やがて炎が鎮まり、洞窟に一瞬の静寂が降りる。

その静けさを最初に破ったのは、来奈だった。

「やっぱ硬いなあ!! あたしの攻撃、全然通ってなかったし。
先生の弓、いいなー!」

そう言って、羨ましそうに山本先生の弓を見つめる。

山本先生は、すでに眠りかけている由利衣を背負いながら、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。

「入江さんもやってみる? 平日に魔戦部にくれば、手ほどきできるわよ」

「えー。やってみようかな。
あたし、意外と遠距離武器の才能あるかもしんないよ? チャクラムとか!!」

乗り気な来奈の横で、梨々花の口角がピクッと引きつった。

「殴る以外のことは、やらない方がいいと思うんだけど……」

梨々花の控えめなツッコミが入るが、来奈はまるで気にしていない。

「そうかなー?あたし、こう見えて器用だから!!
小学生のとき、兄貴に作ってもらって、プラモのコンテスト取ったし!!」

……いろいろと思うところはあるが、トライする姿勢は悪くない。

俺は苦笑しながら、そのやり取りを眺めていた。
さっきまでの戦闘の緊張が、すっかり霧散している。
溶岩の光の中で笑う三人を見て、ようやく息をついた。

そして、メタルモンスターのドロップ品だ。

俺と政臣は少し離れた場所で、その様子を眺めていた。

梨々花がモンスターの残骸から現れた“それ”を見て、山本先生に何かをヒソヒソと耳打ちする。

すぐに来奈が嬉しそうな声を上げる。

「おっ! これ――」

最後まで言わせず、由利衣を背負ったままの山本先生のアイアンクローが、来奈の顔面を完璧にとらえていた。

「入江さん……だめよ」

声のトーンは、いつもの柔らかい教師口調。
けれど空気が一瞬で凍りつく。

山本先生はそのまま振り向かずに言った。

「高柳くん……配信、切ってくれる?」

「え? どうしてですか?」

政臣の問いに、先生の肩がびくりと揺れる。
次の瞬間――

「はようせいや!! アホボン!!」

溶岩洞に反響する怒声。
政臣は「はいっ!」と情けない悲鳴を上げ、慌ててカメラの電源を切った。

沈黙。
そして、山本先生がようやく来奈を解放しながらぽつりと呟く。

「……ミスリル」

――ミスリル、だと?

軽く、そして強い。魔力伝導率に優れた希少金属。
流通量は極めて少なく、深層での採掘権をめぐって各国で争いが起きるほどの代物だ。

そんなものが、こんな浅い階層に?

俺と政臣は顔を見合わせ、無言のまま息を呑んだ。

メタルモンスターは、溶岩や鉱石を取り込んでいる。
そうすると、考えられるのは、この近くにミスリルの鉱床が存在する可能性。

これは極秘事項だ。全世界に配信なんかしたら、血みどろの争奪戦になる。

山本先生の判断は、まったくもって正しい。

あらためてドロップアイテムを確認すると――確かに。
ミスリル、五キロ。
これだけの量が一体のモンスターからドロップすることは、まずない。

俺が手に取ってしげしげと眺めていると、梨々花が冷静な調子で言葉を放った。

その切れ長の目に、確かな光が宿っている。

「……これは、チャンスです。
第三層でミスリル鉱床の発見なんて――
またしても、私が世界の視線を集めてしまうわ」

隠しきれない野心をこぼしながら、黒髪をさらりとかき上げた。

「ただし。私たちが発見して、日本政府が精霊から採掘権を得るまでは……。
これは秘密、ですよね?」

俺と山本先生は、同時に頷いた。

そして、静かに俺たちの極秘ミッションが始まるのだった。
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