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第03章
第57話 セレモニー
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セリーナ大塚こと――大塚 芹那(旧姓・山本)。
世界的な魔法衣装家にして、政府のアドバイザーも務めているらしい。
ただ――具体的に何をアドバイスしているのかは知らない。興味もなかった。
分かったのは、恐ろしく強引で、自分本位だということだけ。
……それが“芸術肌”というやつなのだろうか。俺が一番苦手とするタイプだ。
芹那は、俺が元々着ていたスーツが紙袋に入っているのをちらりと見ると、「捨てなさい」と一言。
だが、それだけは断固拒否した。
鋭い視線を寄こされたが、譲る気配がないのを見て取ると、彼女は小さく舌打ちし、つぶやいた。
「こんなことしてる場合じゃないのに……」
そのまま俺を再び控室に押し込み、今度は芹那自らの手で髪をセットし始めた。
ドライヤーとクシを操りながら、文句が止まらない。
「まったく……冒険者ってこれだから。野蛮で汗臭くて。
いい? 配信時代は“見た目”が命なの。
あなたみたいなのが画面に映ると、それだけで視聴者数三割減。
顔の造形のことは可哀想だから言わないけど……せめて身だしなみくらい整えなさい。わかる?」
ルッキズムと失礼のオンパレード。
この世界には、“おじさん相手なら何を言っても許される法”でもあるのか。
……だが、面倒なので黙っていることにした。
やがて身なりが整うと、ようやく解放された。
「それじゃあ、後でね」
そう言い残すと、芹那はさっさと立ち去っていった。
できれば、もう二度と会いたくはなかった。
***
会議室に戻ると、全員の視線が一斉にこちらへ向いた。
来奈がニヤニヤしながら口を開く。
「教官! どしたの!? 三十歳は若返ったんじゃね?」
俺はまだ三十八だ。
「先生……まともな格好もできるんですね。意外です」
梨々花が目を見開いていた。
どういう意味だ? いつもスーツ姿だろうに。
そこへ、山本先生がにこにこと近づいてきた。
「佐伯さん、それ、ぴったりですね。
姉さんにサイズ伝えておいたんですよ。よかったです」
……なぜ俺の服のサイズを知っているのか。
気にはなるが、聞くのが怖かった。
「それ、第七層の金羊から取れる毛に、竜の表皮、毒蜘蛛の糸を織り合わせてあるんです。
物理も攻撃魔法も、幻術も呪術も……全部に耐性がありますよ」
……そいつはすごい。
すごいんだが――。
俺は、いつものスーツのほうが体になじむ。
今日はセレモニーだというから、仕方なく着ているだけなのだ。
そんな俺の表情を見て取ったのか、由利衣が、気持ちを代弁するように口を開いた。
「でも、コーチはあまり小洒落た格好じゃなくて、ちょっとくたびれてる方が落ち着きますよねー」
……ちょっと引っかかるが。
おおむね、間違いではない。
そうこうしているうちに、迎えの職員が入室し、俺たちは会場へと招かれた。
***
セレモニーは、両国首脳の挨拶に始まり、ミスリル売買契約の調印、記者団による写真撮影――と、流れるように滞りなく進んでいった。
……などと、第三者の俺から見れば実にスムーズだが、準備期間はたったの二日。
それでこの段取り。
冒険者をやっていた頃は想像もしなかったが、今では営業職も経験している身として、裏方職員たちの地獄のタスクが偲ばれてならない。
この世界は、魔法使いの超常の力だけで回っているわけではない。
むしろ、こういう“人間の底力”があってこそ成り立っている。
まさに――精霊も照覧あれ、という仕事っぷりだった。
SSRの三人は、今回のミスリル鉱床発見の立役者として、両国首脳と並び、カメラに囲まれて撮影に臨んでいた。
政臣もちゃっかり撮影側に混じっている。
いつも配信で姿を晒しているのとは勝手が違う。
来奈の笑顔は引きつり、梨々花は冷静を装っているものの――その口角の角度は明らかにテンパっている。
そして唯一、由利衣だけが陶然とした表情で、憧れの“ベア様”を見つめていた。
幸い、写真撮影だけでスピーチはなかった。
打ち合わせの時間もなく、まだこういう場に慣れていない学生だという点を、向こうも配慮してくれたのだろう。
来奈が下手に口を滑らせるような事態にならなくて――本当に良かった。
***
セレモニーの締めくくりは、立食形式のパーティ。
そこで、アメリカ側は“サプライズ”を仕掛けてきた。
リスティア・フェレナ。
世界的アーティストにして、SSR魔法使い。
彼女の登場により、会場の空気は一変した。
一瞬でライトが落ち、音楽が流れ、スポットライトが一点に集まる。
さながらコンサート会場だ。
だが、それよりも異様だったのは――。
この空間に、世界でわずか二十二名しかいないSSR魔法使いが、五人も揃っているという事実。
前代未聞の光景だった。
当然、報道陣の視線はすべてそこに集中する。
来奈や由利衣は目を輝かせていたが――
政治的に見れば、これは極めてしたたかな演出だ。
日本がミスリル鉱床を発見したタイミングで、アメリカがちゃっかり便乗。
その式典で自国のスターSSRを送り込み、お祭り騒ぎ。
翌日のニュースで報じられるのは、批判か、それとも“日米蜜月”か。
……そこまでは考えすぎかもしれないが、熱狂の輪の外で冷めた目をしている自分に、少しだけ年を感じた。
俺は常にSSRの三人のそばにいた。
特に周囲と口をきくこともなく、ただ淡々とボディガードに徹する。
飲み食いは一切しなかったが、三人には「気にせず好きなものを食べろ」と声をかけておいた。
最初は遠慮がちだったが、そのうち皿を抱えて談笑し始める。
人類最強の魔法使いといえども――まだ高校生だ。
無邪気な笑顔を見ていると、保護者気分になってしまう。
そんなふうに、すっかり後見人モードで周囲を眺めていたその時。
「修二!」
芹那の声。
また何か文句を言われるのかと思いきや、彼女の隣には一人の老紳士が立っていた。
男は英語で何かを言う。
芹那がすかさず通訳した。
「あなたが、あの“村正使い”の剣士か?……だって。
ゼファスさん、知ってるわよね?」
知っているも何も――。
ゼファス・レイヴン。
アメリカが誇る伝説のガンマンにして、SR魔法使い。
俺が子供の頃に読んでいた冒険者マガジンの特集記事を、今でも覚えている。
銃一丁でグリフォンの群れを撃退する早撃ちの技。
ページをめくるたび、胸が高鳴ったものだ。
その英雄が、目の前にいる。
当時のフリンジ付きカウボーイスタイルは影もなく、いまは落ち着いたダークグレーのスーツに身を包み、銀縁メガネに長髪オールバック。
……理想的な歳の重ね方だった。
俺は思わず声が上擦った。
「ゼファスさん、子供の頃ずっと応援していました!
格好を真似して、ビニール紐を脇に縫い付けたりなんかして!!」
芹那が途端に嫌な顔をした。
どうやら通訳する気はあるらしいが、どこまで正確に伝えているのかは怪しい。
ゼファスは軽く笑うと眼鏡をクイっと押し上げる。
芹那が次の言葉を継いだ。
「日本の少年が知っていてくれて光栄だって。
それと、先日の巨竜戦。あれには久々に血が騒いだ……って。
良かったわね、ヒーローが観てくれてたじゃない。
だから、もっとマシな格好で映れって言ってるのよ」
通訳のくせに一言余計だ。
そして、ゼファスはまた芹那に向かって苦笑まじりに何か話しかけた。
リスティア――確かにその名が聞こえた。
「あなた、たしか第一層ボスエリアでリスティアさんと会ってたわよね?
あのときは失礼したって。
いま、彼女のマネージャー兼トレーナーをやってるのよ」
……あのとき。
リスティアの石化能力を動画で配信して、世界が混乱に陥ったあの日。
通話の向こうで彼女を叱っていた、あの声――
そうだ、あれは“ゼファス”と呼ばれていた。
だが、そのときはそんな余裕もなかったのだ。
ゼファスは、こちらの視線に気づくと、軽く肩をすくめて笑った。
芹那がすぐに通訳を添える。
「やり過ぎには困ってるけど、日本のSSRと会えて嬉しそうだったって。
リスティアさん、それまでダンジョンにもバトルにもあまり興味なかったけど、今はやる気を出してるの。
“トレーナー同士、レイドの舞台で、お互いの弟子がいい勝負をできるように、よろしく”――だって」
まさか、子供の頃の英雄が――ライバルになるとは。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
ゼファスが静かに手を差し出す。
その大きな手を、両手で力いっぱい握りしめた。
「日本のSSRを――誰にも負けない戦闘魔法使いに育ててみせます。
あなたのように、強く、優しく、フェアな戦いで……世界中の子供たちに夢を与えてみせます」
自分でも驚くほど自然に、その言葉が口をついて出た。
芹那は一瞬だけ瞳を揺らし、そして――初めて、優しい目をした。
正確に、丁寧に、言葉を伝える。
ゼファスは軽く手を挙げ、穏やかな笑みを残して去っていった。
「言うじゃない。――さすが私の義弟だわ」
芹那が唐突に口を開く。
そして、まるで当然のように続けた。
「で、式はいつなのかしら? もう関係各所に招待状を送る準備ができてるんだけど」
……何を言っているのか分からない。
俺が口を開きかけたところで、山本先生がにこにこと近づいてきた。
「姉さん。すっかり佐伯さんと仲良くなって」
仲良くなってなんかいない。
しかし、山本先生を見ると、芹那は破顔した。
妹には甘いらしい。
「美鈴抽。姉さんはね、そこらの頭の固い人たちとは違うの。
小汚いオッサンでも受け入れる度量はあるわ。
でも――ものには限度があるじゃない? ねえ。
任せておきなさい、磨いてあげるから」
勝手に話を進められるのは困る。
「あの……何か誤解があるようだけど。俺と山本先生は別に、そういう関係じゃ――」
その瞬間だった。
姉妹の瞳から光がすっと失せ、黒目だけが広がる。
二人の視線が、同時に俺を射抜いた。
「佐伯さん。……私と指輪交換して、“姫と永遠に”って誓ってくれたじゃないですか」
「あなた。――美鈴抽に手を出しておいて、まさか逃げる気じゃないでしょうね?」
どちらも心当たりが一ミリもない。
背中にも視線を感じる。
来奈と由利衣が、修羅場にワクワクした目を向けていた。
梨々花は、半ば呆れ顔だった。
そこに、おずおずとした声がかかった。
「……あの、お取込み中申し訳ありません。……うぅ」
一見して気の弱そうな女性だった。
長い前髪に隠れた瞳、少し猫背で、声も小さい。
こちらを上目遣いで見上げている。
芹那が慌てて取り繕う。
「セルジュさん! す、すみません。お見苦しいところを!」
セルジュ駐日大使――
アメリカの代表者でありながら、この覇気と存在感のなさ。
“超”が三つはつくほどの有能な実務家らしいのだが、おそらくその穏当すぎる性格ゆえに、“最も衝突の少ない同盟国”――日本に派遣されたのだろう。
セルジュはオドオドと、消え入りそうな声で続けた。
「……あの、ベアトリス大統領が、日本のSSRとお話ししたいと。
付き添いのみなさんも……どうぞ」
――大使自らが使いっ走りとは、どうなっているんだ。
だがそんな俺のツッコミをよそに、場の空気が一変する。
一瞬で緊張が走った。
そしてその中で、
由利衣だけが――天にも昇りそうな顔をしていた。
世界的な魔法衣装家にして、政府のアドバイザーも務めているらしい。
ただ――具体的に何をアドバイスしているのかは知らない。興味もなかった。
分かったのは、恐ろしく強引で、自分本位だということだけ。
……それが“芸術肌”というやつなのだろうか。俺が一番苦手とするタイプだ。
芹那は、俺が元々着ていたスーツが紙袋に入っているのをちらりと見ると、「捨てなさい」と一言。
だが、それだけは断固拒否した。
鋭い視線を寄こされたが、譲る気配がないのを見て取ると、彼女は小さく舌打ちし、つぶやいた。
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顔の造形のことは可哀想だから言わないけど……せめて身だしなみくらい整えなさい。わかる?」
ルッキズムと失礼のオンパレード。
この世界には、“おじさん相手なら何を言っても許される法”でもあるのか。
……だが、面倒なので黙っていることにした。
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そう言い残すと、芹那はさっさと立ち去っていった。
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***
会議室に戻ると、全員の視線が一斉にこちらへ向いた。
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俺はまだ三十八だ。
「先生……まともな格好もできるんですね。意外です」
梨々花が目を見開いていた。
どういう意味だ? いつもスーツ姿だろうに。
そこへ、山本先生がにこにこと近づいてきた。
「佐伯さん、それ、ぴったりですね。
姉さんにサイズ伝えておいたんですよ。よかったです」
……なぜ俺の服のサイズを知っているのか。
気にはなるが、聞くのが怖かった。
「それ、第七層の金羊から取れる毛に、竜の表皮、毒蜘蛛の糸を織り合わせてあるんです。
物理も攻撃魔法も、幻術も呪術も……全部に耐性がありますよ」
……そいつはすごい。
すごいんだが――。
俺は、いつものスーツのほうが体になじむ。
今日はセレモニーだというから、仕方なく着ているだけなのだ。
そんな俺の表情を見て取ったのか、由利衣が、気持ちを代弁するように口を開いた。
「でも、コーチはあまり小洒落た格好じゃなくて、ちょっとくたびれてる方が落ち着きますよねー」
……ちょっと引っかかるが。
おおむね、間違いではない。
そうこうしているうちに、迎えの職員が入室し、俺たちは会場へと招かれた。
***
セレモニーは、両国首脳の挨拶に始まり、ミスリル売買契約の調印、記者団による写真撮影――と、流れるように滞りなく進んでいった。
……などと、第三者の俺から見れば実にスムーズだが、準備期間はたったの二日。
それでこの段取り。
冒険者をやっていた頃は想像もしなかったが、今では営業職も経験している身として、裏方職員たちの地獄のタスクが偲ばれてならない。
この世界は、魔法使いの超常の力だけで回っているわけではない。
むしろ、こういう“人間の底力”があってこそ成り立っている。
まさに――精霊も照覧あれ、という仕事っぷりだった。
SSRの三人は、今回のミスリル鉱床発見の立役者として、両国首脳と並び、カメラに囲まれて撮影に臨んでいた。
政臣もちゃっかり撮影側に混じっている。
いつも配信で姿を晒しているのとは勝手が違う。
来奈の笑顔は引きつり、梨々花は冷静を装っているものの――その口角の角度は明らかにテンパっている。
そして唯一、由利衣だけが陶然とした表情で、憧れの“ベア様”を見つめていた。
幸い、写真撮影だけでスピーチはなかった。
打ち合わせの時間もなく、まだこういう場に慣れていない学生だという点を、向こうも配慮してくれたのだろう。
来奈が下手に口を滑らせるような事態にならなくて――本当に良かった。
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セレモニーの締めくくりは、立食形式のパーティ。
そこで、アメリカ側は“サプライズ”を仕掛けてきた。
リスティア・フェレナ。
世界的アーティストにして、SSR魔法使い。
彼女の登場により、会場の空気は一変した。
一瞬でライトが落ち、音楽が流れ、スポットライトが一点に集まる。
さながらコンサート会場だ。
だが、それよりも異様だったのは――。
この空間に、世界でわずか二十二名しかいないSSR魔法使いが、五人も揃っているという事実。
前代未聞の光景だった。
当然、報道陣の視線はすべてそこに集中する。
来奈や由利衣は目を輝かせていたが――
政治的に見れば、これは極めてしたたかな演出だ。
日本がミスリル鉱床を発見したタイミングで、アメリカがちゃっかり便乗。
その式典で自国のスターSSRを送り込み、お祭り騒ぎ。
翌日のニュースで報じられるのは、批判か、それとも“日米蜜月”か。
……そこまでは考えすぎかもしれないが、熱狂の輪の外で冷めた目をしている自分に、少しだけ年を感じた。
俺は常にSSRの三人のそばにいた。
特に周囲と口をきくこともなく、ただ淡々とボディガードに徹する。
飲み食いは一切しなかったが、三人には「気にせず好きなものを食べろ」と声をかけておいた。
最初は遠慮がちだったが、そのうち皿を抱えて談笑し始める。
人類最強の魔法使いといえども――まだ高校生だ。
無邪気な笑顔を見ていると、保護者気分になってしまう。
そんなふうに、すっかり後見人モードで周囲を眺めていたその時。
「修二!」
芹那の声。
また何か文句を言われるのかと思いきや、彼女の隣には一人の老紳士が立っていた。
男は英語で何かを言う。
芹那がすかさず通訳した。
「あなたが、あの“村正使い”の剣士か?……だって。
ゼファスさん、知ってるわよね?」
知っているも何も――。
ゼファス・レイヴン。
アメリカが誇る伝説のガンマンにして、SR魔法使い。
俺が子供の頃に読んでいた冒険者マガジンの特集記事を、今でも覚えている。
銃一丁でグリフォンの群れを撃退する早撃ちの技。
ページをめくるたび、胸が高鳴ったものだ。
その英雄が、目の前にいる。
当時のフリンジ付きカウボーイスタイルは影もなく、いまは落ち着いたダークグレーのスーツに身を包み、銀縁メガネに長髪オールバック。
……理想的な歳の重ね方だった。
俺は思わず声が上擦った。
「ゼファスさん、子供の頃ずっと応援していました!
格好を真似して、ビニール紐を脇に縫い付けたりなんかして!!」
芹那が途端に嫌な顔をした。
どうやら通訳する気はあるらしいが、どこまで正確に伝えているのかは怪しい。
ゼファスは軽く笑うと眼鏡をクイっと押し上げる。
芹那が次の言葉を継いだ。
「日本の少年が知っていてくれて光栄だって。
それと、先日の巨竜戦。あれには久々に血が騒いだ……って。
良かったわね、ヒーローが観てくれてたじゃない。
だから、もっとマシな格好で映れって言ってるのよ」
通訳のくせに一言余計だ。
そして、ゼファスはまた芹那に向かって苦笑まじりに何か話しかけた。
リスティア――確かにその名が聞こえた。
「あなた、たしか第一層ボスエリアでリスティアさんと会ってたわよね?
あのときは失礼したって。
いま、彼女のマネージャー兼トレーナーをやってるのよ」
……あのとき。
リスティアの石化能力を動画で配信して、世界が混乱に陥ったあの日。
通話の向こうで彼女を叱っていた、あの声――
そうだ、あれは“ゼファス”と呼ばれていた。
だが、そのときはそんな余裕もなかったのだ。
ゼファスは、こちらの視線に気づくと、軽く肩をすくめて笑った。
芹那がすぐに通訳を添える。
「やり過ぎには困ってるけど、日本のSSRと会えて嬉しそうだったって。
リスティアさん、それまでダンジョンにもバトルにもあまり興味なかったけど、今はやる気を出してるの。
“トレーナー同士、レイドの舞台で、お互いの弟子がいい勝負をできるように、よろしく”――だって」
まさか、子供の頃の英雄が――ライバルになるとは。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
ゼファスが静かに手を差し出す。
その大きな手を、両手で力いっぱい握りしめた。
「日本のSSRを――誰にも負けない戦闘魔法使いに育ててみせます。
あなたのように、強く、優しく、フェアな戦いで……世界中の子供たちに夢を与えてみせます」
自分でも驚くほど自然に、その言葉が口をついて出た。
芹那は一瞬だけ瞳を揺らし、そして――初めて、優しい目をした。
正確に、丁寧に、言葉を伝える。
ゼファスは軽く手を挙げ、穏やかな笑みを残して去っていった。
「言うじゃない。――さすが私の義弟だわ」
芹那が唐突に口を開く。
そして、まるで当然のように続けた。
「で、式はいつなのかしら? もう関係各所に招待状を送る準備ができてるんだけど」
……何を言っているのか分からない。
俺が口を開きかけたところで、山本先生がにこにこと近づいてきた。
「姉さん。すっかり佐伯さんと仲良くなって」
仲良くなってなんかいない。
しかし、山本先生を見ると、芹那は破顔した。
妹には甘いらしい。
「美鈴抽。姉さんはね、そこらの頭の固い人たちとは違うの。
小汚いオッサンでも受け入れる度量はあるわ。
でも――ものには限度があるじゃない? ねえ。
任せておきなさい、磨いてあげるから」
勝手に話を進められるのは困る。
「あの……何か誤解があるようだけど。俺と山本先生は別に、そういう関係じゃ――」
その瞬間だった。
姉妹の瞳から光がすっと失せ、黒目だけが広がる。
二人の視線が、同時に俺を射抜いた。
「佐伯さん。……私と指輪交換して、“姫と永遠に”って誓ってくれたじゃないですか」
「あなた。――美鈴抽に手を出しておいて、まさか逃げる気じゃないでしょうね?」
どちらも心当たりが一ミリもない。
背中にも視線を感じる。
来奈と由利衣が、修羅場にワクワクした目を向けていた。
梨々花は、半ば呆れ顔だった。
そこに、おずおずとした声がかかった。
「……あの、お取込み中申し訳ありません。……うぅ」
一見して気の弱そうな女性だった。
長い前髪に隠れた瞳、少し猫背で、声も小さい。
こちらを上目遣いで見上げている。
芹那が慌てて取り繕う。
「セルジュさん! す、すみません。お見苦しいところを!」
セルジュ駐日大使――
アメリカの代表者でありながら、この覇気と存在感のなさ。
“超”が三つはつくほどの有能な実務家らしいのだが、おそらくその穏当すぎる性格ゆえに、“最も衝突の少ない同盟国”――日本に派遣されたのだろう。
セルジュはオドオドと、消え入りそうな声で続けた。
「……あの、ベアトリス大統領が、日本のSSRとお話ししたいと。
付き添いのみなさんも……どうぞ」
――大使自らが使いっ走りとは、どうなっているんだ。
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ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
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