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6.希望と全自動世界
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「それでそのまま帰ったの」
希望は私の幸福ではない幸福な男の話を聞いて、訊ねてきた。お前は不幸にしたままその国を出て行ったのかと。
「いや、やれるだけなことはやったつもりだよ」
「ふふっ、愛ならそうに決まっているよね」
私はあの後、朱里にも空の絵を描いてもらって、町民に宣言した。
「この絵を超えられる絵描きが出なければ、次の画家として認めない」
私が認める権限は持っていないだろうが一方的に宣言した。
朱里の絵は青から橙、橙から黒とグラデーションで移り変わり、その上を白い雲が波のように青い世界を伝播していき、橙のエリアでもくもくと雲が噴きだし、波とぶつかってしぶきが夜闇に浮かぶ星となる。そんな絵だった。
朱里が描いたとか関係なく、とても好きな絵だった。
「すごいよ。朱里」
「ありがとう」
照れる朱里はそれでも誇らしげで、先程のショゲショゲしていた感じがなくなっていた。
「私、どうしても芸術家になりたい。美大を受験するって言ってみるよ」
「朱里なら大丈夫だね」
「もし、愛が大金持ちになったら、パトロンになってね。たっぷり美化した肖像画を描いてあげるから」
朱里は先程は言えなかった軽口を叩いた。
朱里の絵を見て町民たちはその出来栄えに驚愕しており、その絵には説得力があったのだろう。今のままでは誰もこの絵に勝てるとは思えまい。そして、私たちはそのまま町を出て、洞窟を進んでいくことにした。
画家という目的を持って行動している町民たちは幸せそうにみえたので、それが続くのであればきっとよかったのだろう。
「すごいよ。やっぱり愛はさすがだね」
希望は私たちの解決策を聞いてそう言った。でも、さすがなのは私じゃない。
「すごいのは朱里だけどね」
「違う、私は愛がすごいって言って褒めたの。愛の感性で感じたことで、愛が考えて行動してさせて、その結果が町の人が幸せになったんでしょ。愛がすごいんだよ」
そう言われてしまったら、ありがとうと言って引き下がるしかない。
「それにしても、何にしても、何を得るにも対価が必要ってことだね。労働の対価にお金だとか、今回の愛の話は名声が報酬ってところだね。それで結局不幸のほうが大きいって言うのであれば意味がないけれど」
「何にしても不幸を対価にして幸せを得ているってことなの」
「そう。いいこと言うね」
いいことは言っていないのだけれども。
「それで差し引してプラスになれば幸せだし、マイナスになれば生きている価値を考え直さなければならないかもしれない」
「苦痛を取り除けば幸せになるのかな? 嫌なことは全部ロボットがやってくれるよとか」
「どうかな、それって。昔に読んだSFでそんな話があったけれど」
「どんな話?」
希望は「うーんとね」と前置きをつけたが、抑揚良く立て板に水を流し始めた。
不幸というものは目には見えないけれど多分に感じるもので、それによって自ら命を絶つなんて最悪な結論を下す人もいる。
しかし、今の技術、環境は不幸と言えるものだろうか。歴史の授業を受けるに今の時代は幸せであることは想像に難くない。戦争も飢餓も見える範囲にはないのだ。
ではなぜ人は不幸と感じるのだろうか。その大きな要因として人間関係があげられ、仕事で気に病む人も多い。
そこで政府は新たな方策を打ち立てた。それこそがロボット移行化計画だ。
簡単にいえばすべての仕事をロボットに任せてしまうというものだ。それだと新たな発想は生まれないかもしれない。しかし、現状維持で十分である。その代わり自由な時間が持てるのであれば。それは今の人類に欠けているものだ。
というのも、現状だって十分幸せではないか。なのに、発展を求めることで朝は起こされ、トラブルが起こり、人に怒られる。部下との溝は深くなり、不可能なスケジュールで夜は深くなり、体に負荷がかかり、不快な思いをする。それで不幸になっているのだ。
そういった考えで国民からも支持され、ロボット移行化担当大臣が新任され政府肝いりで進められた。
「ロボットであれば人間がいやがる仕事も進んでやり、人間より効率的にやることだろう」と大臣は言った。
まずは現在行われている様々な仕事の内容の把握が進められた。資料を集め解析を進めた。それに一年かかった。つぎに専用のロボットの設計・開発に三年。システムのデバックに一年。量産に二年。それでも、未来の幸せのためと頑張れた。
ついにお披露目となったがひとつ問題が生じた。ロボットがやる仕事が七年前のレベルの仕事なのである。それもそのはず、仕事の内容を調査したのは七年前。現状維持ならいいが七年前の水準に戻れと言われれば国民も納得できない。
そして、大臣は担当者に向けて考えてやれと言う意味で言った「ロボットのような仕事をするな」と。そして、国民からは国会議員を最初にロボットにしろと言われたとさ。
「ほんとにすべての仕事が機械化されたらどうなると思う?」
「仕事ってそんなに嫌なのかな」
「子供には嫌なように見えないようにしてるだけなのかもしれないよ。愛は子供?」
小学生の頃よりかは性格が合わない人との付き合い方とか穏便なやり過ごし方とかがわかるようになってきた。大人になればもっとわかるようになってしまうのだろうか。
小学生の頃には将来の夢として、当たり前のように職業名を書かされる。働くことを夢とされるわけだ。
高校に入ってからは、まだ一年生にもかかわらず早くから具体的な大学名を意識しておきましょうと言われているのでどっちがいいかはわからないが。
そういえば、私が小学生の時の夢にはなんて書いていただろうか。
「そういえば、なんで洞窟にいたの?」
先ほどの空の絵の町に行くのに洞窟を進み辿り着いたと言っていたのが気になっていたようだ。
「しかも、服装が寝巻きだったんだよ」
「何それ。聞きたい」
「別にオチのない話だけどいい?」
希望は人差し指を立てた手を左右に振りながら、口で音を立てる。
チッ、チッ
「私は愛の話が好きなんだよ。全然構わないよ」
地下世界の洞窟を見つけるまでのオチのない話とその後に起きた幸せを求める王様の話をしよう。
希望は私の幸福ではない幸福な男の話を聞いて、訊ねてきた。お前は不幸にしたままその国を出て行ったのかと。
「いや、やれるだけなことはやったつもりだよ」
「ふふっ、愛ならそうに決まっているよね」
私はあの後、朱里にも空の絵を描いてもらって、町民に宣言した。
「この絵を超えられる絵描きが出なければ、次の画家として認めない」
私が認める権限は持っていないだろうが一方的に宣言した。
朱里の絵は青から橙、橙から黒とグラデーションで移り変わり、その上を白い雲が波のように青い世界を伝播していき、橙のエリアでもくもくと雲が噴きだし、波とぶつかってしぶきが夜闇に浮かぶ星となる。そんな絵だった。
朱里が描いたとか関係なく、とても好きな絵だった。
「すごいよ。朱里」
「ありがとう」
照れる朱里はそれでも誇らしげで、先程のショゲショゲしていた感じがなくなっていた。
「私、どうしても芸術家になりたい。美大を受験するって言ってみるよ」
「朱里なら大丈夫だね」
「もし、愛が大金持ちになったら、パトロンになってね。たっぷり美化した肖像画を描いてあげるから」
朱里は先程は言えなかった軽口を叩いた。
朱里の絵を見て町民たちはその出来栄えに驚愕しており、その絵には説得力があったのだろう。今のままでは誰もこの絵に勝てるとは思えまい。そして、私たちはそのまま町を出て、洞窟を進んでいくことにした。
画家という目的を持って行動している町民たちは幸せそうにみえたので、それが続くのであればきっとよかったのだろう。
「すごいよ。やっぱり愛はさすがだね」
希望は私たちの解決策を聞いてそう言った。でも、さすがなのは私じゃない。
「すごいのは朱里だけどね」
「違う、私は愛がすごいって言って褒めたの。愛の感性で感じたことで、愛が考えて行動してさせて、その結果が町の人が幸せになったんでしょ。愛がすごいんだよ」
そう言われてしまったら、ありがとうと言って引き下がるしかない。
「それにしても、何にしても、何を得るにも対価が必要ってことだね。労働の対価にお金だとか、今回の愛の話は名声が報酬ってところだね。それで結局不幸のほうが大きいって言うのであれば意味がないけれど」
「何にしても不幸を対価にして幸せを得ているってことなの」
「そう。いいこと言うね」
いいことは言っていないのだけれども。
「それで差し引してプラスになれば幸せだし、マイナスになれば生きている価値を考え直さなければならないかもしれない」
「苦痛を取り除けば幸せになるのかな? 嫌なことは全部ロボットがやってくれるよとか」
「どうかな、それって。昔に読んだSFでそんな話があったけれど」
「どんな話?」
希望は「うーんとね」と前置きをつけたが、抑揚良く立て板に水を流し始めた。
不幸というものは目には見えないけれど多分に感じるもので、それによって自ら命を絶つなんて最悪な結論を下す人もいる。
しかし、今の技術、環境は不幸と言えるものだろうか。歴史の授業を受けるに今の時代は幸せであることは想像に難くない。戦争も飢餓も見える範囲にはないのだ。
ではなぜ人は不幸と感じるのだろうか。その大きな要因として人間関係があげられ、仕事で気に病む人も多い。
そこで政府は新たな方策を打ち立てた。それこそがロボット移行化計画だ。
簡単にいえばすべての仕事をロボットに任せてしまうというものだ。それだと新たな発想は生まれないかもしれない。しかし、現状維持で十分である。その代わり自由な時間が持てるのであれば。それは今の人類に欠けているものだ。
というのも、現状だって十分幸せではないか。なのに、発展を求めることで朝は起こされ、トラブルが起こり、人に怒られる。部下との溝は深くなり、不可能なスケジュールで夜は深くなり、体に負荷がかかり、不快な思いをする。それで不幸になっているのだ。
そういった考えで国民からも支持され、ロボット移行化担当大臣が新任され政府肝いりで進められた。
「ロボットであれば人間がいやがる仕事も進んでやり、人間より効率的にやることだろう」と大臣は言った。
まずは現在行われている様々な仕事の内容の把握が進められた。資料を集め解析を進めた。それに一年かかった。つぎに専用のロボットの設計・開発に三年。システムのデバックに一年。量産に二年。それでも、未来の幸せのためと頑張れた。
ついにお披露目となったがひとつ問題が生じた。ロボットがやる仕事が七年前のレベルの仕事なのである。それもそのはず、仕事の内容を調査したのは七年前。現状維持ならいいが七年前の水準に戻れと言われれば国民も納得できない。
そして、大臣は担当者に向けて考えてやれと言う意味で言った「ロボットのような仕事をするな」と。そして、国民からは国会議員を最初にロボットにしろと言われたとさ。
「ほんとにすべての仕事が機械化されたらどうなると思う?」
「仕事ってそんなに嫌なのかな」
「子供には嫌なように見えないようにしてるだけなのかもしれないよ。愛は子供?」
小学生の頃よりかは性格が合わない人との付き合い方とか穏便なやり過ごし方とかがわかるようになってきた。大人になればもっとわかるようになってしまうのだろうか。
小学生の頃には将来の夢として、当たり前のように職業名を書かされる。働くことを夢とされるわけだ。
高校に入ってからは、まだ一年生にもかかわらず早くから具体的な大学名を意識しておきましょうと言われているのでどっちがいいかはわからないが。
そういえば、私が小学生の時の夢にはなんて書いていただろうか。
「そういえば、なんで洞窟にいたの?」
先ほどの空の絵の町に行くのに洞窟を進み辿り着いたと言っていたのが気になっていたようだ。
「しかも、服装が寝巻きだったんだよ」
「何それ。聞きたい」
「別にオチのない話だけどいい?」
希望は人差し指を立てた手を左右に振りながら、口で音を立てる。
チッ、チッ
「私は愛の話が好きなんだよ。全然構わないよ」
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