鉢嶺愛はショートショートによく出会う

飛鳥井 京

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12.続幸せになれる薬

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 私たちは国家暴力によって変わり果てた国を抜け出した。

「どうしましたか。不幸そうですね。そんな先輩に幸せグッズをあげましょう」

 花が取り出したのは幸せになれる薬であった。見たところ三〇人分くらいありそうだ。

「盗んできたの」
「違いますよ」
 花が不服そうな態度を示す。
「じゃあ、どうしたの?」
「知らない間にポケットに入っていました。でも、他に幸せになった方がいい人がいますよね」
 悪びれる様子もなく花は言う。面白さ第一主義といったところだろうか。

「それで、どうするの?」
「誰に届けたら、いーと思いますか」
 ノープランだった。なんでだよ。

「とりあえず、戦争のない平和の国でも目指そうか。その人達にこの薬を届けよう」
 私の提案に花も賛同した。同じ轍を踏ませるわけにはいかないのだ。

 私たちは遠くまで移動するために仮想空間上からある乗り物を取り出した。
 それは人が乗れる三角形のプレート。三人乗りだ。手を離すと地面から二十センチほど浮かんだ状態で静止した。草原の青い香りを感じながら、宙を浮く三角形のプレートに乗って進んだ。

「あの正面のところは町ですかね?」
 しばらく草原を進んで行くと、テントが集まった集落が見えてきた。

 集落の手前で停止して、近づいていく。テントの外で家畜の世話をしている人たちに向かって「すいません」と呼びかける。立派なツノのついた茶色い山羊と共にその男性が振り向いた。

「あれ、どうされましたか? 旅のお方ですか?」
「はい。向こうの国から来ました」
「お疲れですか? 村で休まれていきますか? それともお急ぎでしょうか?」
「いえ、少し休ませてもらえますか」
「もちろん喜んで」
 山羊飼いはそれが自分にとっての幸福であるかのように微笑んだ。

「この人たちにあげることにしたんですか?」
 幸せになれる薬の使い道を花が私にだけ聞こえるように耳打ちしてくる。
「まだ決めてないけど」
「チッ」
「なんで舌打ちするの」
「耳打ちで舌打ちしただけですよ。意味なしです」
「しないでよ」
「すいません。幸せになれる薬は先輩の好きに使っていいんで許してください」
「別にそんな怒ってないけどさ」
「じゃあ、これで手打ちですね」
 私は花を肘で軽くこずく。花は嬉しそうにした。

「しかし、旅のお方がこんな何もないところまで足を運ばれるなんてどうされたんですか?」
 山羊飼いが私たちの一連のやり取りが終わると見ると質問をしてくる。
「それが向こうの国で戦争が起きまして逃げてきました」

 まだ、薬のことは黙っておこう。

「そうですか。向こうでも戦争ですか。嫌な世の中ですね。またここも移動することになるかもしれないな」
  その山羊飼いは、最後は独り言のように呟く。

「移動して暮らしているのですか」
 気になったことを訊ねる。

「ああ、はい。戦争なんて関わるだけ損なんで、逃げながら暮らしています。それでも幸せになれてるとは言えないですね。幸せを求めているというより、どうにか不幸にならないように必死という感じになっていますね」

 話を聞いていくと、この集落は戦争を避け移動をしている流浪の民であった。この人達が求めていた戦争のない世界を求めている人々なのかも知れない。

「どうしても、幸せになりたいですか」
 当たり前のことを聞いてしまう。

「でも、どうすれば幸せになれるんでしょうね。幸せになれる薬と言うものがあるとは聞いたことがありますが、こんな貧しい集落では調達することも作ることもできませんし。すいません。今会ったばかりの旅人さんにこんなこと」

 私と花の顔を見て頷き合図を送る。花はもう自分には関係ないと素知らぬふりをしている。
「大事な話があるのですけれど」
 私が話を切り出すと、周りの住民が集まってくる。

「ここに幸せになれる薬というものがあります」
 盗んできたとは言わない。いや、言えない。

「これをあなた方が望むのであれば、渡したいと思います」
 私が手にしている薬を見て、住民達は一斉に歓声をあげた。皆一様に喜んでいる。薬を飲むことに反対のものは誰一人いなかった。

 周囲で話を聞いていた人たちが住民を集めるために駆け出していく。住民たちは何らかの作業を途中で止めて集まってくる。
 改めて見ると子供から老人まですべての住人が食事の準備や編み物など何かしらの仕事をしていた。どの住民も話を聞いて喜んでいるようだった。

 住民が集まってきた中、そのうちの一人が声を上げる。
「モモカが水を汲みに行って、まだ帰って来ないぞ」

 話を聞くと一人の少女が往復三時間かかる川に水を汲みに行っているという。まだ三十分前に出発したところで帰ってくるのはだいぶ先になる。

「私が一走りして連れてきます」
 その場にいた青年が申し出る。
 しかし、三十分前に出てしまっているとなると。行って帰ってで、急いだとしても一時間で済むかどうか。そんなに待ちたくない。

「早い乗り物を持ってますので、場所さえ教えてもらえれば私たちが行きますよ」
「申し訳ありませんが、旅のお方。お願いできますでしょうか」
 来る時に使った空飛ぶ三角形に乗って行けば、早く呼び戻すことができる。三人乗りなので帰りにモモカを乗せるのとしても、花も連れて行ける。そうすれば、暇が潰せる。

 私たちは水場があるという方向を教えてもらい、まっすぐ進むことになる。轍ができているのでその通り進める。住民たちが何度も歩いたのだろう。

 しばらくすると長い棒の両端に大きな甕が二つついたものを肩にかけた少女の姿が見えた。彼女がモモカだろう。
「モモカさんですか?」
 その少女は驚いた表情を見せたが「そうです」と答えた。

 モモカをボードに乗せて集落に戻る。大きな甕はまた汲みにくるからといってその場に置いてきた。

「ここの人たちは皆が働き者ですね」
 私がモモカに話しかける。
 ここの集落の人たちは皆が何かの仕事をしていて何もしていない人を見ていない。

「そうですね。私たちの神様は働き者が好きで、より働いている者から幸せにしてくれます。だからってわけでも無いですが皆が積極的に働いているのですよ。神様が見ていますからね」

 宗教の教えは実用的というか秩序を保つために使われることも多い気がする。この教えもそういったもののようだ。

「あっ、すいません。急に連れてきてしまって。その話をしていなかったですよね。私たちが幸せになれる薬と言うのを持っていて、それをこの村の住民へあげようかと話していて」
「幸せになれるんですよ」
 花が合いの手を入れる。
 しかし、モモカは疑問を浮かべた顔をまだしている。

「でも、正直なところ幸せというのがうまく想像できません。水汲みに行かなくても済むようになるのでしょうか」
 いや、水汲みは誰かがやらないと死んでしまう。

「勉強ができる時間が取れるのでしょうか。私は勉強してこの村をもっと豊かなものにしたいのです」
 時間が取れるようになるのかと言われれば、それは変わらないのではないか。あれ、幸せになるってなんだろうか。あの薬を飲むとどうなってしまうのか。


「おぉーい」

 村に近づくと、先程呼びに行くと進み出ていた青年がこちらに向かっているのが見える。
 念の為に跡を追ってきていたのだろう。お仕事ポイントを神から獲得しようとして。

「ごめんなさい。定員オーバーで乗れないです」
 すれ違い様に青年に声をかける。
 青年は嫌な顔をせず、踵を返し走って追いかけてくる。必死に走っているが、差はどんどん広がるばかりだ。
 青年が戻るまで、余計時間かかってしまうだろう。しかし、彼は仕事熱心なだけなので責めることなどできない。

 集落に戻ると先ほどまで集まっていた住民も仕事に戻っていた。しかし、私たちの姿を見つけるとすぐに他の住民に声をかけ集まった。青年も全速力で走り続けたのかすぐに帰ってきた。

 村の人たちは全力で浮かれていた。モモカの話を聞いて、薬を渡すことに疑問が生まれてしまったが、もう取り消しができないほどだ。

 薬を飲むには水が必要だが、モモカが汲みに行かなくても大丈夫だろうか。
 もしかして、一度止めるチャンスかと思うが、水甕は空になったが、なんとか全員に水が行き渡ったようだ。
 もう薬を飲んでも大丈夫であってくれと願うしかない。

 住民達が水に溶かして薬を飲む。薬の苦味に一瞬顔を顰めるが、すぐににこやかな顔になる。

「苦いけど、すごい。こんな科学的な味のものを食べたのは初めてだ」
「幸せが今食道を通っているよ」
「心がぽかぽかする」
「今までの苦労が全て報われた」とか言っている。

 薬を飲んだ人たちが次々と声をげて喜ぶ。今まで何かに怯えているような張り詰めた空気が集落全体に広がっていたが、それがなくなり暖かい空気へと入れ替わっている。

「モモカさんはどうですか?」
「うん、幸せ。今までの苦労が全て報われた気分」
 これは、よかったんではないか。
 住民の全てが今まで見たことないほどに幸せそうな笑顔に変わっている。何をやるにもモチベーションが大事だ。幸せと思う中で仕事や生活をしていった方が充実した日々になることだろう。


「あっそうだ、モモカさん。水汲みに行く途中ですよね。水汲みばまで送って行きましょうか?」
「いや、大丈夫」

 やっぱり仕事に対するモチベーションが高いのだろう。私の手を借りなくても、幸せになってルンルンで水を汲みに行くのだろうか。

 しかし、モモカは何もせずにボーとしている。さっきまでの勤勉の様子とは打って変わった姿だ。

「水を汲みにいかなくてもいいんですか?」
「別にいい。今幸せだから」
「でももう甕は空ですよ」
「喉がカラカラで噛めなくなってしまいますよ」
 花も追随という名のやっかみかを入れる。

 他の住民も働いている様子はなく、みんなダラダラしている。

「モモカさん」
「幸せなんだもん。何もしなくても」
 だからって、何もしないで生きていけるわけではない。アイテムボックスから水と食べ物を取り出す。

「これあげますよ」
「うん」
 モモカは感謝をする様子もなく受け取る。
 今が幸せなので、より幸せになったと言っても何も感じないと言った具合に。でも、幸せそうだ。

 幸せになれる薬を飲んだ住民達は幸せに慣れていた。
 そういえば、イランドも抵抗をせず、侵略されていた。


「わたしはあの人たちを不幸にしてしまったのかなぁ」
 そんな私の問いに花はおどけた口調で返した。

「でも、あの人たちは幸せそうですよ。ほら、笑っています」
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