3 / 38
勇者とサブヒロインは同居する 勇者side
しおりを挟む俺は昨日、婚約者ができた。
次は二人で食事をする約束を取りつけ、初めての顔合わせを終えたばかりだ。
相手が貴族の令嬢──しかも王族に次ぐ権威を持つ公爵令嬢だと聞いていたから、もっと礼儀だの作法だのに気を配り、肩肘張った付き合いになると思っていた。
内心(面倒だなぁ…)って気持ちもあった。
だが、礼儀を先に破ってくれたおかげで気持ちは幾らか楽になった。
これなら次の食事会も、そこまで億劫にならずに済みそうだ。
何より、もっと高慢で、プライドの高いオーラで存在ごと押し返されるような相手を想像していただけに……あの真っ赤になって頭の中がぐるぐるしていそうな姿には、何というか、和んだ。
「おーい、昨日の顔合わせどうだった?」
そう言って部屋に入ってきたのは、魔王討伐のパーティー仲間、弓使いのオルフェだ。
「オルフェ。勝手に入ってくるなよ」
「何度も門先で声をかけたさ」
「…この屋敷広過ぎなんだよな。何室あるんだよって。
要らないって言いたいけど、陛下から貰ったものだし、色々不味いだろうなぁ。
よし、此処は誰かに管理を任せて別の所探すか」
「まぁレイヴンは勇者だから、身軽な方が良いもんな。
そこんとこはほら、レイヴンの婚約者になった方に相談したらどうにかなるさ。
そうそう!どうだった?〝戦場に舞い降りた天使〟様は」
「戦場に舞い降りた天使?」
「あぁ、聞いた話だとヴィクレシア公爵令嬢は、先日突如魔物に襲われた自領を守り傷ついた兵士達を医療人に混ざって看護していたそうだ。それで助からない筈の者が多く生かされた。
普通の貴族の令嬢なら安全な所でお茶を飲んでりゃ良いのにな。治癒師の勉強熱心だった公女様に多くの兵士が救われたらしい。
だから〝戦場に舞い降りた天使〟」
「へぇ、それだけ聞くと何か俺とは違って意識高そうだな」
「他国に引き抜かれたくない勇者に当てがわれる人物な訳だから、やっぱり良い子を見繕われてるんだろう。
でも、レイヴンはそう言う肩書とか名誉とか興味ないのも固っ苦しいのも嫌いな事、僕は知ってるしな」
「勝手に決めるな」
「お?何。脈あるの?」
「そうじゃなくて…」
「〝そう言う意図で当てがわれた相手は萎える〟と言ったなかった?」
「〝萎える〟とは言ってない。〝そんな気にならない〟と言っただけだ」
「同じじゃん」
「…良いから、オルフェとは明日王城で会うだろう。今日俺は非常に疲れてるんだ。早く帰れよ」
オルフェをぐいぐい押し出して、部屋から出そうとした時、扉の後ろに立っていた人物に動きが固まった。
両手を胸元に握り、アメジストの瞳が視線をこちらに向けている。勇者とオルフェの話を聞いていた事がその視線の動揺から伝わってきた。
「ユウフェ…殿」
勇者がその名を口にすると、反応に困っている勇者達に気を使ったのか、声を掛けてきたのはユウフェだった。
「あ…あの!
すみません、昨日説明を忘れてまして。
門先で声を掛けたのですが案の定誰も出なくて…。」
「?説明?」
「私、婚約者として、この邸宅を維持するべく此処に住まわせてもらうのです。公爵家から人材も数人連れてきました!勇者様はお屋敷の事は考えなくとも大丈夫です!」
「?」
「今夜は勇者様も此処でお泊まりになるとは存じてますが、やはり挨拶もなくと言う訳には…」
「いやいや、待って」
勇者は話について行けずに思わず遮った。
「住むって、此処に?」
「はい!なので勇者様は此処のことを気にせず、明日に見つける別宅への準備をしてください!」
「俺が別の所に住むのがわかってても此処に残るの?」
「はい、実は此処を放っておくと、後々勇者様に良く無い状況になるのです。ですが、安心してください!私が此処を管理しますので!勇者様はどうぞご自由にしてください!」
100
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる