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勇者はサブヒロインの意味を知る
俺の婚約者は、何処のお店が良いやら、討伐する龍は炎龍だから、火傷に効くものと体熱を下げる効果のあるポーションや装備一式。そして特殊な炎を弾く外套を見繕ってくれた。
俺の金銭的価値観からすると、まず買おうとはしなかっただろう買い物の数々で高額にはなったが、西の魔王を倒した褒賞から払えない額ではなかったが…。
「勇者様!これも持って行くと良いです!灼熱でも破れません!」
くるりとこちらを確認してくるけれど、灼熱の溶岩に囲まれても平気な品物って…と。
──またこの桁か。
装備一式とほぼ同じ額。今日だけで、もう何個目だ。
(ううん。…いや、まだ払えるには払えるけど)
ユウフェのお付きの執事からのアドバイスで『礼儀として、今晩の食事会で婚約指輪の1つでも差し上げると、少々相手がお忙しくても女性は心穏やかで待っておられます』と教えてくれた。流石公爵家の専属執事。気が利いていると感心したが。
やはり公爵令嬢に渡すアクセサリーは、生半可な金額の物ではダメだろう。幾らするか分からないけど、出来るだけ資金は残しておきたいところだ…。
勇者はチラリとユウフェを見て言った。
「これは良いや。もう充分買ったよ。俺ではどれが良いか分からず安い物を買うところだった。有難う助かった」
「でも。鞄は大事ですよ。溶岩で溶けてしまったら…
そうでした!婚約の祝いとして私に贈らせていただけませんか?」
「え!?いや、いいよ。俺も手持ちが無いわけじゃなくて…」
「勇者様はこの龍討伐で深傷を負うかもしれないんですよ!
炎龍は思いの外強くて、生死を彷徨い過去の辛い事を彷彿とさせたり…。自分もボロボロなのに、ヒロインを庇ったり…」
(また出たな。前世用語。でも何となく今のは言ってる事わかったぞ)
「俺、誰か庇うの?」
「庇います!このしょ…あー。いえ。運命的なあれを邪魔する訳には参りませんので。これ以上は言いませんけれど!」
「????」
「とにかく、勇者様がいっときでも生死を彷徨うなんて……私、耐えられません!」
(生死を彷徨うのか。
じゃあ、本来なら俺が……誰かを庇って死にかけるってこと?)
「…あ、ありがとう」
とにかく、今回俺が死にかけるらしいので、ユウフェの言葉に甘えて充分にお金をかけて旅の準備をする事にした。
気が付けば、もうすっかり夕暮れどきで日が沈んできていた。
心地よい風を受けながら、道すがらその茜色の空を見つめていたユウフェがおもむろに振り返って言った。
「今日のところは此処までで私は帰りますね。
晩餐の身支度の他にも色々あるので」
「?帰る方向同じだろ?俺も一緒に帰るよ」
そう言った俺に、驚いた表情をしているユウフェ。
(何か俺。変な事言ったか?)
「ゆ…勇者様。あの、お住まいは別宅をご用意なさりますよね。
まだ晩餐までにはお時間もありますので…。大丈夫です。今から行くと直ぐご希望の部屋が見つかりますよ?」
「???自分の屋敷があるのに。何でわざわざ別宅を借りなきゃダメなんだ?」
「いえ、ダメという訳ではなくて。勇者様が居心地の良い…それに…」
「あの屋敷は別に居心地悪く無いぞ?ユウフェが人員を手配してくれたしな」
「で、ですがこの先、婚約者が同じ邸宅に住んでいたら今後出会うヒロインが…」
勇者は首を傾げで考える。
(確か、この間も言ってたな。えーと、『勇者様は主人公で私はサブヒロイン』とか言ってたか?)
「ヒロインって。ユウフェの事だろ?
ユウフェとはもう会ってるじゃないか」
「ち、違います!私は〝サブ〟ヒロインなんです」
「何が違うのそれ」
(何か慌ててる…可愛いなぁ)
「違うんですよ。響きは似てますけど。
私はあくまで勇者様のサポートです。でも、ヒロインは勇者様の運命のお方です」
「運命?」
「最後に勇者様と結ばれるお方でして…」
「え?だからそれって、ユウフェだよね?」
眉を顰めて本気の顔で言うと、ユウフェが固まった。
ユウフェの顔は見る間に赤くなってもじもじしだして、両手で頬を包んでいる。
「た、確かにその…。私は勘違いされやすいのですが…そうではなくて。
私はあくまで勇者様のサポートです。……その位置に立てる方じゃ」
(…可愛いなぁ)
「似たようなものならヒロインはユウフェで良いじゃないか」
「この小説はそんな訳にいかないんです!」
「そんな事よりも、この後用事が他にもあるんだろう?
邸宅に帰ろう」
「!いえ。勇者様は別宅をー…」
そっと手を握ると、ユウフェの動きがふっと止まった。
その温度が、何故か胸の奥までじんわり広がる。
(こう言うのは、まだ早いと思ったんだけど………)
何となく。今握りたくなったのだ。
そのまま足を進めて、つられて歩くユウフェを傍に、勇者は馬車を待たせている場所に向かった。
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