26 / 38
誤魔化せない1 ユウフェside
しおりを挟む──それは、これ以上の誤魔化しは不要だと語りかけられているようでした。
「ダークと会ってからずっと。
無理をして笑っているだろう?」
私には勇者様に嘘はつきたくないと思いつつも、隠さねばならないことが沢山あります。
王都の結界が壊されてしまうから、そうならない様作戦を立てようとして居るとか。
私の、後ろ暗いことだらけの気持ち。
それをこんな風に悟らせて簡単に見抜かれてしまうようでは、今作でのサブヒロイン失格も良いところなのにー…
どうしてだか、気付いてくださったことが嬉しいと言う想いが湧き上がってくる。
「無理しているなんて。そんなことはありませんよ。ーー・きっと、初めてお会いしたダーク様に些か緊張してしまっていたので、そう見えてしまったんですよ」
「本当にそれだけ?」
そんな風に、確信を得た表情で問いかけられてしまったら、これ以上隠したくないと思ってしまう。
流されて、これから待ち受けている出来事を全て、話したくなる。
(それだけは。絶対にダメです。でも……ーー)
じっと私を見据えて居るターコイズの瞳を、誤魔化せないとも感じている。
「勇者様…」
ーーコンコン
ユウフェが言葉を紡ぎかけた瞬間、部屋の扉を叩く音がした。
扉の外から、思いもよらない人物が声をかけてくる。
「勇者」
(ーーこのお声は、魔道士様…)
「東の空を見て」
この部屋は東側に位置しているので、ユウフェと勇者はそのまま部屋のカーテンを開けて空を見上げた。
雲一つない空には、先程まで星々と月だけが美しく輝いていた。しかし、東側の空は今、星一つ見えず黄色いオーロラが見えている。
一見美しく見えるそれに、ユウフェの顔は瞬く間に青ざめた。
「あれは、何だ?」
勇者は空を見上げて不吉な何かを感じて居るようだが、初めて見るあれが何かまでは知らなかった。
出来うるならば知らない方が良いと考えていたユウフェだったが、勇者の意識を旅先に持っていく為に重い口を開けて、説明をすることにした。
「ー・あれは、東の魔王の力で〝黄泉の道〟を開いているんです」
「〝黄泉の道〟?」
「東の魔王が、アンデッドと言われる所以です。死んだ魂を黄泉から探し求めているんです」
「何故そんなことを……」
「……。悲劇を、起こす為…です」
これ以上は、私の口からは言えません。
恐らく、東の魔王は今代勇者が己の元を訪れようとしていると察しているから、魔王は見せようとしているのです。
この旅で勇者様に、とっておきの絶望を。
「悲劇……」
「東の魔王は、年に一度だけ生を望む死者を蘇らせることが出来るんです、ーー…条件付きで」
「……条件?」
「〝東の魔王に逆らわないこと〟です」
これがどう言うことなのか、勇者様が実感するのは旅の先での話…。
けれど、良くないことだと言うのはこの話だけで伝わる筈。
ーー私が今言えるのはここまでです。
この先を言えば、勇者様はきっとヒロインのレベルアップの前に、東の魔王討伐へ挑もうとするでしょう。
何処に、どの様な方法で行けば東の魔王に会えるのか、彼の弱点は何かを、教えることは容易いです。
けれど、それは東の魔王を倒せるレベルに達っするための段階を踏まないで答えを知るということ。
それは、東の魔王、そしてその先に戦う北の魔王に挑む力を手に入れることも出来なくなる。
だから。
だからー…
「ユウフェ」
名前を呼ばれて我に返った。勇者がユウフェの目尻に滲んでいた涙を、親指で拭ってくれて、顔に手を添えていた。
「大丈夫、俺が行くから。何も心配いらないよ」
勇者は、ユウフェの様子を見て、東で悲劇が起こっていて、それに胸を痛めているのだと解釈をしているようだった。
私が、勇者様を傷付ける様なことを黙っている訳が無いと思ってくれているから。
信じてくれているから。
労りのその眼差しに、心が揺れる。
本当に、このまま、この先に起こることを黙っていて良いのかと。
全てを、言わなくて良いのかと。
別の方法が…勇者様を傷付けない別の方法があるのでは無いかって。
「…勇者様。そんな風に、私に優しくしないでください」
「え?」
「私は────…勇者様の住んでいた村が襲われることを知っていました。だけど…何も出来なかったんです。
私が何もしなかったから、勇者様が絶望して、その絶望により勇者様は魔剣グラムに選ばれたんです」
小説のユウフェ・ヴィクレシアは公爵令嬢として、国への忠誠心が高く、国のためになることだけを常に正しく選んでいた。
どれほど国への忠誠心が高いかというと、王からの願いで、貴族令嬢達の中から、勇者様の婚約者を選別する為集ったさい、勇者様が元平民という偏見もあって皆が手を挙げなかった。
そんな中、1人だけ、ユウフェのみが手を挙げた。
それが国の為に必要なことだからと、割り切っていた彼女。
そんな彼女も物語の途中から勇者様に惹かれはじめる。
ーーだけど、結局彼女は恋心よりも、公女として、貴族としての使命を優先し続けた。
勇者様をただ、見送ることしか出来ない。
私は、サブヒロインでしか無くて、側で一緒に戦うことも、支えることもない。
それがこんなにも辛くて苦しいことだなんて、思わなかった。
43
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる