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話し合いで解決しましょう
しおりを挟むまさか、もっと後にお会いするはずだった〝北の魔王〟に遭遇するなんて…
ユウフェが後ずさろうとすると、北の魔王はふっと笑う。
「大丈夫、君がこれからやろうとしてることを邪魔するつもりはないよ。
僕は暇でね、あまりに月が綺麗で長眺めたいから偶然、〝止めていた〟にすぎない」
「偶然…」
(……この方が、北の魔王。
だから衛兵が見当たらないはずです)
「そう。だから君の存在には驚いたけどーーもう帰るところなんだ、君も行く?」
ユウフェが首を横に強く振ると、「だよね」と言って、歪んだ時空へ入るとそのまま姿は消えていった。
「……ふぅ」
北の魔王が姿を消して、ほっとしたのも束の間、元の目的を思い出して先へと進んだ。
(目的を達成する前に緊張が解けてしまいました…)
等間隔で備え置かれた蝋を頼りに、長い螺旋階段を駆け降りてゆく。やっと地下の一番奥深くまで足を踏み入れることが出来た。
重厚な扉は開かれたままで、部屋の中に灯りが見える。
(やっぱり、もういらっしゃるのね)
扉付近に置かれていた杖が見えてきた。
父から貰った護符を杖に向けて「えい」っとばかりに投げつけると、棒はそのままユウフェと勇者が住んでいる邸宅へと転移してゆく。
(やりました!これで何も心配いりませんわ)
今転移させたのは、ダークの〝破壊の杖〟。
紫水晶の周辺には結界がある。
破壊の杖を持って中へ入ろうとすると、結界が杖を拒み、扉の内側で必ず落とされてしまうのだ。
だからダークは、あそこで杖を一度置くしかない。
そして──今も例外ではなかった。
にらんでいた通り、〝破壊の杖〟は扉付近に置かれていた。
それに加えて、ダークは武器として師から継いだ“破壊の杖”しか持たないから、これで死相も回避できる。
それは彼の流儀であり、彼の戦い方でもある──他の武器は、絶対に持たない男だ。
ダークは話を最後まで聞く前に衝動的に杖を使う可能性が高い。
(今なら……私の話を最後まで聞くしかありません)
復讐のためなら手段を選ばない男だ。
だが今は武器がない。
だからこそ今だけは、私の言葉を最後まで聞くしかない──。
(あとは。
話すときにはわかりやすく!
初めから結論を言う必要がーー)
部屋に入る前に、もう一度練習しようとしていたけれど、〝破壊の杖〟が消えたことに気付いたダークが興奮気味に声を上げた。
「誰だ!」
びくっと肩を揺らしながら、ユウフェは勢いよく中へと入る。何度も練習した冒頭のフレーズを述べると共に。
「東の魔王は、勇者様が倒して帰ってくるので無駄ですよ!」
仁王立ちする勢いで言い放つ。
ダークが紫水晶を既に手にしている姿が目に入った。
「!だ、だから。あなたのやろうとしている事は、悪戯に人々を傷付けるだけの結果になりますから…とにかく、それを元の位置に置いてください」
剥き出しになっている紫水晶に気を取られ動揺したせいか、予定通りの台詞とは言い難いが、言いたかったことを最後まで述べる。
「ーー君、この間のヨークシティで会った女か」
手に持っている紫水晶を気配は微塵もない。
先日会った時の剽軽な姿はなりを顰め、姿勢を正してこちらを見ていた。
「俺の杖はーーどこにある?」
「転移…しました」
そろり、そろりと紫水晶を回収するチャンスを伺いながら、ユウフェは近寄る。
「転移させた?どこに」
「紫水晶を、元に戻…いえーーこちらに回収させていただければお伝えします」
そう言った瞬間ーーダークの手元から紫水晶が転がり落ちる。
集中して紫水晶を見ていたユウフェは、〝あぁっ!〟と声をあげて駆け寄ろうとした。
ーーしかし。
紫水晶に触れる寸前で首根っこを掴まれて、勢いよく壁に叩きつけられる。
「っ……!!」
背中の痛みに顔を歪めたのも束の間、顔の左横に勢いよく手をつかれて、ダークの右手で顎を掴まれた。
「何処かって聞いてるんだよ」
「教えません!あれを使って水晶を破壊するつもりでしょう?」
「どうしてわかったかわからないが、邪魔をするなら、綺麗な顔に傷がつくぞ?」
ダークの右腕を両手で掴んで引き離そうとするも、びくりともせず、無駄な抵抗におわる。
「…っさっきも言いましたが!
勇者様が東の魔王を倒して帰ってきます!!
だから、東の魔王から信用を貰いたくてやろうとしている、あなたのやっている事は無意味です!」
ユウフェの渾身の叫び声を聞いた瞬間、目を見開いた。
そして、今度は直情的なものでなく、冷静さを宿した眼差しでダークは目を細めた。
「本当に…どうこまでおまえは知ってるんだ?
ーー勇者が魔王を倒す?近代で東の魔王を倒せた勇者はいない。
おまえの信仰を俺に押し付けて、邪魔をするというのなら。
ーー殺す」
ダークは頭に血が昇っているのか、ユウフェの首に手をそえて、締めつけ始めた。
(破壊の杖や、他に武器が無ければ多少怪我しても大丈夫と思っていたけど……ダメ。力が強過ぎます。
多分、私を殺す気はないのでしょうがーー)
力加減を知らないのだ。
ダークに殺す気はない。
だが、長きにわたり、魔物に混じり生活してきた故に、人間の身体の脆さを見誤っている。
それに気付いたユウフェは青ざめてゆき、必死に抵抗をはじめた。
身体が締め上げられて、足が身体が宙にうく。
視界の端が白くなる。
(ーー勇者様ーー)
白い背景に、魔王討伐の朝見送った勇者の姿が脳裏に浮かんだ。
涙が滲んだ、その瞬間。
「っ……!っっ!!」
「いえ!俺の武器をどこへやーーー」
ザシュッ
一瞬何が起きたかわからなかった。
ダークが最後まで言葉を紡ぐ前に、ユウフェの首を絞めていた右腕が切断された。
やっと、軌道を塞いでいた圧迫感から解放されて、ユウフェは膝に力が入りそうもない。
崩れ落ちそうになるのを、支えながらしゃがみこみ、片膝をついたのはーー東の魔王討伐へ向かった勇者だった。
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