32 / 38
東の魔王
しおりを挟むロイドにつられて勇者を見ると、それまで目を伏せて話を聞いていた勇者が、首を横に振った。
「いや、俺から話す。少し席を外してくれないか」
ロイドは頷いて、抵抗するダークを魔法で空中に浮かせながらも運び出してゆく。
二人きりの空間で、ユウフェと向き合った。
「勇者様?」
「・・・」
立ち上がったまま、少し考え込むように何も言わない勇者を心配して、覗き込むとーー
次の瞬間、勇者の胸元に頬がついていた。
背に手を回されて、ギュウッと抱きしめられている。
ユウフェは、驚いて瞼を瞬いた。
「ゆう・・」
「ーーもっと、ちゃんと、伝えるべきだった」
縋りつくように、背中に回された腕に力がこもる。
「危ういと、この間のヨークシティで。ダークに会ったとき思ったのに・・」
「そ、それは、ダーク様は、私を殺そうとして、ぁあしていたわけではなく。今回は力加減を間違えて・・」
「それでもユウフェに何かあったら、同じことだろ」
聞いているこちらが泣きそうなくらいに、切ない声をだすので、思わず胸が締め付けられる。
「ご、ごめんなさい。まさか、このように心配かけてしまうなんてーー魔王討伐の途中でしたのに・・ご面倒を」
ユウフェが全てを言い終わる前に、肩に手を置かれて、身を離されたかと思うと、勇者の顔が、表情が、あまりにも苦し気に歪められているので、ユウフェは口を閉ざした。
「面倒だって、俺がいつ言ったんだよ?
どうして面倒をかけちゃいけないって思ってるんだ?
俺達は婚約者なのに」
「それは・・」
それは、だって。
「俺は、ユウフェのことをまもーー」
「勇者、すまない。残してきた仲間の状況が芳しくない。今すぐ行くぞ」
唐突に扉を開けて入ってきた魔法使いが、手にしていた杖をかざして、部屋中がまばゆい光に包まれていく。
♢♢♢
光が収まると、そこは灰色の大地が広がる荒野だった。
つい先ほどまで温かい大広間にいたはずなのに、肌に触れる空気は冷たく乾いていた。
(あれ?もしかして、私まで転移を・・?)
ユウフェが思ったのもつかの間、マユラとオルフェが地面に倒れている姿が見えた。
(大変!)
駆け寄ろうとしたとき、勇者に腕を掴まれて、後ろへと引き寄せられる。
剣を構えている勇者の視線の先を辿ると、そこにはーー勇者の髪色より明るいブラウンの・・けれど、まるで鏡に写したかのように、輪郭も瞳も勇者と同じの人物が、聖剣を手にして立っていた。
「勇者様の・・双子の弟・・いえ、〝東の魔王〟ーー」
驚いているユウフェに、ロイドが話しかけた。
「さっき、公女様は〝本来斬らなくても良かった弟君を・・斬り〟その絶望で勇者の剣は成長すると言ってたよね。ということは、斬らなくても済む方法があるんでしょう?」
そう言われてはっとする。
さっきの会話で、魔剣グラムは絶望以外の何かで成長したことはわかった。
つまり、もう斬る必要はないのだ。
「ダーク様、〝魔結界〟の場所を教えてください」
転がされていたダークに話しかける。
ロイドは、ダークに手をかざした。
「・・喋る必要はないよ」
再び光に包まれた後、目を開けると、ユウフェや勇者一行達は洞窟の中にいた。
そして、目の前には魔石が置かれている。
「!これが、〝東の魔王〟の本体です!壊せば、こちらの勝ちです!」
ユウフェの声で、勇者は魔剣を振り翳して、魔石を薙ぎ払い、粉々に砕け散った魔石は、さらさらと砂になり消えていった。
すると、転移魔法で一緒に連れてこられていた、勇者の双子の弟はその手から聖剣が滑り落ちて、次には膝をつく。
そして、口元に安堵の様な笑みを浮かべたかと思うと、その身体も灰になり消えていった。
本来なら、勇者との戦闘で砕けてなくなるはずの聖剣だけが、その場に残っていた。
55
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる