【完結】公爵令嬢は勇者への恩返しを試みる〜サブヒロインとして頑張ります〜

マロン株式

文字の大きさ
34 / 38

南の魔王

しおりを挟む
 例により、ロイドは勝手にダークの記憶をトレースして、天空の城へ行く祠に転移する。

 勿論、今回もユウフェをともに連れてきた。
 王都も危険だと理解した勇者は、ならば近くにいた方が守りやすいからと、それについては特に物申す気はないようだ。

「それで、今回はどのようにして倒すの?」

 ロイドがユウフェに問いかける。

「えっと・・今回は・・」

 ちらりと、マユラと、勇者をそれぞれに目をやり言い淀むが、ポツリポツリと語りだす。

「・・南の魔王は、洞窟の最奥にいるのですが、その間人の精神に干渉してきます。ただ、その精神干渉による〝絶望〟が功を奏して、魔剣グラムが思わぬ急成長を遂げ、その暴走する力で洞窟全体を破壊して、魔王を倒せるのです。

成長しすぎて、勇者様を取り込んで蝕み、次の魔王にしようとしようとします。そして、天空の城は崩壊してゆきます」

 勇者はそれを聞いて、ギョッとした。

「え・・それはまずいな。
でも、何か止める方法があるんだろ?」

「・・・・・・はい。
浸食され斬る前に・・
その・・聖なる力を持つ、その・・ヒロインとのキスにより浸食が止まります。そしてーー魔王化が止まったことを確認したロイド様の魔法で転移して、皆地上に戻れます」

 〝ヒロイン〟が何なのかわからないマユラをはじめとする勇者一行を見て、説明しようと口を開いたユウフェを遮るように、勇者はユウフェの手を握った。

「ようするに、俺とユウフェが一緒に居たら大丈夫ってことだ」

「え?いえ、私には魔の浄化などーー」

「大丈夫、横に居てくれるだけで良いから」


 そのまま手を繋いで歩いていく二人を、マユラは暗い表情で見つめていた。
 その姿を見たオルフェは、わざとマユラの気持ちに気付かないふりをして、「早く行こうぜ」と声をかける。




♢♢♢




 洞窟の中は、暗がりで、ロイドが明かりをともしながら奥へと進んでゆく。

「案外、何の変哲もないね」

 オルフェが欠伸をしながらいう。いつもは此処でマユラが窘めるのだが、先に歩く勇者とユウフェを見ているせいか、何の反応もない。
 オルフェは頬をかいてロイドに言った。

「なぁ、最奥まで、後どんくらーー


 言葉の途中で、洞窟は強く揺れる。


 そして、全員の頭の中に声が響いた。


〝この中で、闇の感情をより多く持つ者よ、我が配下として、敵を駆逐しろ〟


「闇の感情?これか、勇者、おい平気か?」
「・・ぁあ、俺は何とも・・・・」

 勇者が言い終わる前に、反応の追い付かない速度で暗い瘴気が鋭さを持ち、勇者を貫こうとしていたが、それまで〝彼女〟を気にしていたユウフェが気付いて間に割り込む。
 そして、それはユウフェの胸を刺すように通り抜け、意識を失ったユウフェは崩れ落ちた。

「ユウフェ!」

 勇者が悲痛な声を上げて叫ぶ。

 瘴気ーー否。
 瘴気と思っていたそれは、黒く染まった神聖なる力。

「マユラ?」

 オルフェがそう呟いたのは、今勇者を攻撃したのが巫女であるマユラだったからだ。

「ゆう、・・私のほうが、好き・・違う。待って。
私感情のコントロールがーー出来ない」


 そう言いながら涙するマユラは、、必死に抵抗している様にも見えた。

 その時、床にユウフェを寝かせた勇者は、静かに立ち上がり、マユラへ構える。

「待て、勇者。マユラは操られているだけだ」
「ーー関係ない。俺に・・ユウフェに、攻撃をした。
勇者一行に参加することを自ら決めたんだ。こういう時はどうなるか、覚悟はできているだろう」

 ロイドとオルフェは息を呑む。
 勇者の顔の一部が、黒い魔力に浸食されている。

 魔剣グラムが、未だかつてなく黒い剣気を帯びていた。


「ゆ・・勇者、だめだ、落ち着け。

魔剣に支配されたら、おまえ、魔王になっちまうだろ」


 そう述べるが、勇者の魔の浸食は止まらずーー
 ロイドはオルフェとマユラをシールドで囲うと、次の瞬間には洞窟が爆発したように周りの壁が吹き飛んでゆく。

「ロ・・ロイド、公女は・・」
「公女は大丈夫だ。勇者がこうなっている原因だからな」
「ど、どゆうこと?」
「勇者は公女だけは傷つけないということだよ」



 地面の割れてゆく音が響き、ユウフェが言っていたように勇者の絶望で崩落が始まった。洞窟から外に投げ出されて正気を取り戻したマユラは、「ご、ごめんなさい、私」と頭を抱える。

「あとはーー」


 ロイドは、勇者の方へと顔を向けた。



♢♢♢




 勇者の魔王化が始まっていた時、ユウフェは目を覚ました。

「勇者、様?」

 ユウフェが声をかけると、表情をなくして、黒く浸食の進む勇者が見えた。
 天空の城が崩落して、地面がないことに気が付いたユウフェは、自分が勇者に姫抱きにされていることに気付く。

(た・・大変。マユラ様に・・っ)

 ユウフェが勇者の肩越しにマユラの姿を探そうとした時、胸元にあった聖剣が光る。

〝兄さんを、頼んだよ〟


 頭の中に響いた声に、手を額に当てた。聖剣が、マユラの瘴気から守ってくれたのだと気が付く。
 
(もし、光の力が聖剣のものでも良いならば・・)


 どうか、お願いです。魔王にならないでください、勇者様ーー


 ユウフェは、勇者の肩に手をかけて、頬に手を添えると。

 そっと、唇に口づけをする。

 その瞬間ーー胸元の聖剣が光を増した。
 胸元にあった十字架は、勇者の中に取り込まれてゆく。




「勇者様」




 光に包まれると、魔王化の黒ずみは止まって、勇者はユウフェをぎゅうっと抱きしめたあと、ユウフェの肩に頭を預けるように気絶して、力が抜ける。

 二人は地上に落下しているが、魔法使いが杖をこちらに向けているのが見えてほっと胸を撫でおろす。


 そして、ロイドが転移魔法を行使して、勇者一行は勇者の邸宅に転移を成功させた。





♢♢♢






 皆を転移させたロイドは、辺りを見渡して、頭を抱えた。


「公女がーーいない」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

処理中です...