【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

文字の大きさ
36 / 56

お嫁様は口付けを受け入れる1

しおりを挟む


 

 マーガレットは現在、王宮の一角にある人気もなく、1番高い場所に位置するバルコニーにいた。

 そして 明日の華祭り前夜祭への思いを馳せる。
 

 華祭り前夜祭は王族による儀式が行われる。翌日である華祭り当日は皆が屋台やダンス等で心置きなく祭りの雰囲気を楽しむ日だ。

 まず前夜祭当日、王が演説して華祭りの始まりを告げる。城下で歓声をあげる民達に向かい、王族は手を振って答える。

 この後の役割と言えば、王子は他国からきた王侯貴族や、国内の有力貴族達に挨拶をしに行く。

 私も途中までは一緒に行くのだけれど、途中からは恒例の華園廻りをしなければならない。

 華園廻りとは、その名の通り王城の周りにある数多の華園を廻るのだ。

 それを本来王妃が華園に咲く花を一本ずつ手折って籠に入れて廻り、最後に今年の代表華が咲く華園を廻り終えると、次は清らかな聖水の流れるセルス川に行く。華園はこのセルス川に沿って作られているので何処の華園が最後でも直ぐにつく。

 平和の祈りを込めながら、籠に入れた花々を川へ流すのだ。

 そして川の周囲には抽選で当たった民がいて、それぞれ持ち寄った代表華である花を今年1年素晴らしい年であるようにと願いをのせて、今度は民が川に花を流す。
 儀式が完了してから、その報告が王宮に届いてすぐに上がる花火もまた、大輪の華のようで、王宮の周辺には多くの民が見物にくる。


 そして王妃不在の現在は、マーガレットが代理として華園を廻事になっている。



(今年の代表華はペチュニアか……)



 この儀式は亡くなられた王妃様が決めた手順で行われる。

 まず、道中は洋燈が夜道を照らす中、一本道を1人で歩く事になる。

 警護面の異論については、王妃であり神聖な力を持っていた亡き王妃がヒロイン力を行使しながら「神聖な儀式ですから。心配いりません」と、説き伏せたそうだ。

 実際今までは何ともなかった。故に儀式中は神の御加護があると言われている。

 各華園は荒らされないよう儀式中は特に、前夜祭での出入りは基本的に許されていない。

 それでも警護面を強化したかった陛下の願いを亡き王妃が承諾した事により、護衛騎士がそれぞれの華園につき1人だけ存在する事を許されている。

 これは、爵位を持つ騎士がボランティアも同然でやってくれているが、王家に信頼されている証拠として名誉な事だから皆やりたがる。



 そこで先日の辺境伯様の言葉を思い出した。


『我人生において、この上なき誉となりましょう。アネモネの咲く華園にてお待ちしております。』


(辺境伯様はアネモネの華園の護衛騎士として参加されるのね…儀式の終わった後に待ってると言う意味よね。きっと。)


 儀式が終わった後、民達は終わったモードに入るけれど、王妃は元来た道をなぞりながら帰るのだ。その道中も1人だけになる。


 亡き王妃は、その1人になる時間を大切にしていた。
 好きな花々だけに囲まれて、王妃の義務から解放される安らぎの時間と言っていたと陛下が話してくれた事がある。

 陛下は付け加えてこう言った。
〝だから、帰り道はゆっくり鑑賞してきなさい〟と。私を労るように。

 儀式から帰ると再び賓客への挨拶回りの支度をしなければならない私に、少し休んでからおいでと言うわけだ。

 

 遠く高い所からでも分かる程、華祭りに向けて、民がその日の為懸命に華やかに飾り付けた街並みと、王城を囲う一部の華園が見え、それを眺めながら感傷に浸った。


 どこも、思い出の詰まった華園ばかりだ。王子が幼い頃は、ほぼ毎日のように何処かしらの華園に出掛けては、花冠を作ってやったり。手遊びをしたり、隠れんぼをしたり、花の蜜を吸ったりして遊んでいた。

(金髪碧眼の整った顔をした幼い王子に被せた花冠は、本当に似合っいて可愛かった…天使の輪みいだったわ。)


『マーガレット、この花、やっぱり君に1番似合うね。僕のお嫁さんはこの世で1番綺麗だ。』


 この季節になると、そう言って私の頭に一輪の花を飾ってくれた王子を思い出す。

 その花のもつ意味も知らない小さな子供がやった事。だけど私の中では大切で、それからその華園は一等特別で宝物みたいに思っていた。


 だから今まで儀式をおこなった帰りには、その花が咲き乱れる華園で、ゆっくりと花を鑑賞して過ごしていた。

 


『変えられたのは他者の心ではなく。



〝自分の気持ちだけ〟だった』
  



    先日のナーディアの言葉が、頭を離れなくて、マーガレットは静かに目を閉じた。




しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...