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第三章 アレクの誤算編
追放と沈黙
ウェスタリス公爵家に到着して、門番に皇太子が来た事を伝える。暫くした後に通された先で聞いたのは思いがけもしないことだった。
「追放刑を受け入れたーー?」
耳を疑い、公爵から告げられた言葉を繰り返すと、公爵は頷く。
「はい。
もうあれから三日ほどたちます。
皇帝陛下には即日申し上げましたが、まだ聞いておられませんでしたか」
聞いていない。
というか、恐らく父もここまでウェスタリス公爵家を蔑ろにする措置をとったことに、頭を悩ませているのだろう。
宰相を務める公爵が私的な恨みで、下手なことはしないと思うが、恨みを買って良い人物でもない。
というよりもーー
「何故ですか!?
公爵が反対なされば、この様な馬鹿げたこと…っ」
「娘が、皇家の命令を受け入れることを望んだのです」
「アリスが?」
(そんな馬鹿な。刑罰を受け入れるなど、前科がつくようなものだ。
そんなことをしたら、私と結婚出来なくなるじゃないか)
「ーーそうだ、アリスは、どこに…アリス!私と話をしよう!!」
使用人の目も気にせず、アリスの部屋に上がろうと階段の方へと足を進める。途中、何人かの使用人が避けるように両サイドへどく。
扉を何度かノックするも、中から返事はない。
「アリス!ごめんよ、話をしよう。
命令は私から母上に言って早急に撤回させるから!!」
声をかけてみるも、返事はない。
すると、追いついてきた公爵が言った。
「娘はもう家におりません」
その言葉にアレクは振り向く。
「いない?」
(出かけているのか?)
「皇家から追放刑を命じられてすぐ、ごく僅かな荷物を手に家を出ました」
「な…なん、まさかーーそれから三日家に戻っていないのか!?」
アレクの問いかけに、公爵は肯定するように目を伏せる。
「馬鹿な!何故…ぁあいい。全ては私の責任だ、私が迎えに行く。アリスは何処に行ったのですか?」
「わかりません」
「わーーわからない?
お共につけた者…護衛から連絡は!?」
「娘は誰にも行き先を告げず、誰もつれず、一人で出て行きました」
公爵の述べる事実に、悲鳴にも近い息が喉を塞ぐ
「一人で!?あの、見目麗しい年頃の少女を、一人で出て行かせたと!?
何故そんなことをっ…彼女に何かあったらどうするんですか!?
公爵、流石にそれはいくら何でも貴方らしくないですよね?」
「これについては、流石に私も予想外だったんです。
今探しているところで…途中まで、市井までは当家の馬車に乗ったようなのですが、その先は一人で行ったようなのです。
娘が私の許可なく突飛な行動をする訳がないと思い込んでいた使用人は、娘に言われるままに馬車を出してしまったと…」
「………っ」
アレクは顔を青ざめさせ、前髪をぐしゃりとかき上げてどうしたら良いのかを考えた。
指先が震えていることに、自分で気づいた。
「私は、追放するにしても、当家の管理が行き届いた教会にと考えていたんです。なのにどうして…考えも無くこのようなことをする子ではないのですがーー」
「追放…そうだ。
追放先はどこだ!?受け入れたのなら、そこに一人で向かった可能性が」
「可能性は低いかと…」
公爵は懐から手紙を出して、アレクの方に向けた。
「皇家が追放先に選んだのは、スクワード港地区です」
「スクワード港地区…だと。母上ーー」
スクワード港地区。二年前、聖女が現れるのと同時期に起こった津波と瘴気災害被災地域。
未だ瘴気はただよい、近くの孤島には魔物が増殖して、将来的なことを加味して危険区域に指定された。
他国の貿易として使わなければならない拠点故に、多少は復興してきているとはいえ、そのようなところに、最近まで皇太子の婚約者として蝶よ花よと育てられた令嬢が身一つで行くとも考えにくい。
考えを巡らせているアレクの視界に、ある侍女がこちらをじっと見ている姿がうつる。
アリスがいつも連れていた侍女だ。
「…確か、君は、ナタリーとか言ったか?」
目を合わせて名前を呼ばれたナタリーはビクッとした。
「君はアリスの行き場を知らないか?」
「…いえ、私もお嬢様の居場所はわかりません。わかったらついていきました」
「…そうか」
嘘と本当の気持ちを乗せた嘘は、アレクに見破られることはなく、ナタリーはほっと胸を撫で下ろす。
(ふんっ。
あんなに仲良くしておきながら、聖女が現れたら掌返したあんたに教えるわけないでしょ。今更なんなの。
この皇太子)
アレクはあらゆる場所を思い起こそうとしていた。もしかしたら、思い出の場所などにいるかも知れないと考えたのだ。その中で可能性の高いところを探そうと思いたっていた。
片手でぐしゃりと頭を掻きむしったとき、アリスの専属侍女ナタリーが視界に入る。
そこで、卒業式で抱いたアリスの反応への違和感を思い出した。
あの時のアリスはまるで、自分の手紙を読んでおらず突然婚約破棄を伝えられ狼狽えていた様に見えた。
ひといきついていたナタリーを見据えて、再び問いかける。
「ーーアリスは私の手紙に何と言っていた?
卒業式の前日と当日に送った…」
ナタリーは疑問符を浮かべながら言った。
「アレク殿下からのお手紙は、半年前から届いておりませんが…」
「追放刑を受け入れたーー?」
耳を疑い、公爵から告げられた言葉を繰り返すと、公爵は頷く。
「はい。
もうあれから三日ほどたちます。
皇帝陛下には即日申し上げましたが、まだ聞いておられませんでしたか」
聞いていない。
というか、恐らく父もここまでウェスタリス公爵家を蔑ろにする措置をとったことに、頭を悩ませているのだろう。
宰相を務める公爵が私的な恨みで、下手なことはしないと思うが、恨みを買って良い人物でもない。
というよりもーー
「何故ですか!?
公爵が反対なされば、この様な馬鹿げたこと…っ」
「娘が、皇家の命令を受け入れることを望んだのです」
「アリスが?」
(そんな馬鹿な。刑罰を受け入れるなど、前科がつくようなものだ。
そんなことをしたら、私と結婚出来なくなるじゃないか)
「ーーそうだ、アリスは、どこに…アリス!私と話をしよう!!」
使用人の目も気にせず、アリスの部屋に上がろうと階段の方へと足を進める。途中、何人かの使用人が避けるように両サイドへどく。
扉を何度かノックするも、中から返事はない。
「アリス!ごめんよ、話をしよう。
命令は私から母上に言って早急に撤回させるから!!」
声をかけてみるも、返事はない。
すると、追いついてきた公爵が言った。
「娘はもう家におりません」
その言葉にアレクは振り向く。
「いない?」
(出かけているのか?)
「皇家から追放刑を命じられてすぐ、ごく僅かな荷物を手に家を出ました」
「な…なん、まさかーーそれから三日家に戻っていないのか!?」
アレクの問いかけに、公爵は肯定するように目を伏せる。
「馬鹿な!何故…ぁあいい。全ては私の責任だ、私が迎えに行く。アリスは何処に行ったのですか?」
「わかりません」
「わーーわからない?
お共につけた者…護衛から連絡は!?」
「娘は誰にも行き先を告げず、誰もつれず、一人で出て行きました」
公爵の述べる事実に、悲鳴にも近い息が喉を塞ぐ
「一人で!?あの、見目麗しい年頃の少女を、一人で出て行かせたと!?
何故そんなことをっ…彼女に何かあったらどうするんですか!?
公爵、流石にそれはいくら何でも貴方らしくないですよね?」
「これについては、流石に私も予想外だったんです。
今探しているところで…途中まで、市井までは当家の馬車に乗ったようなのですが、その先は一人で行ったようなのです。
娘が私の許可なく突飛な行動をする訳がないと思い込んでいた使用人は、娘に言われるままに馬車を出してしまったと…」
「………っ」
アレクは顔を青ざめさせ、前髪をぐしゃりとかき上げてどうしたら良いのかを考えた。
指先が震えていることに、自分で気づいた。
「私は、追放するにしても、当家の管理が行き届いた教会にと考えていたんです。なのにどうして…考えも無くこのようなことをする子ではないのですがーー」
「追放…そうだ。
追放先はどこだ!?受け入れたのなら、そこに一人で向かった可能性が」
「可能性は低いかと…」
公爵は懐から手紙を出して、アレクの方に向けた。
「皇家が追放先に選んだのは、スクワード港地区です」
「スクワード港地区…だと。母上ーー」
スクワード港地区。二年前、聖女が現れるのと同時期に起こった津波と瘴気災害被災地域。
未だ瘴気はただよい、近くの孤島には魔物が増殖して、将来的なことを加味して危険区域に指定された。
他国の貿易として使わなければならない拠点故に、多少は復興してきているとはいえ、そのようなところに、最近まで皇太子の婚約者として蝶よ花よと育てられた令嬢が身一つで行くとも考えにくい。
考えを巡らせているアレクの視界に、ある侍女がこちらをじっと見ている姿がうつる。
アリスがいつも連れていた侍女だ。
「…確か、君は、ナタリーとか言ったか?」
目を合わせて名前を呼ばれたナタリーはビクッとした。
「君はアリスの行き場を知らないか?」
「…いえ、私もお嬢様の居場所はわかりません。わかったらついていきました」
「…そうか」
嘘と本当の気持ちを乗せた嘘は、アレクに見破られることはなく、ナタリーはほっと胸を撫で下ろす。
(ふんっ。
あんなに仲良くしておきながら、聖女が現れたら掌返したあんたに教えるわけないでしょ。今更なんなの。
この皇太子)
アレクはあらゆる場所を思い起こそうとしていた。もしかしたら、思い出の場所などにいるかも知れないと考えたのだ。その中で可能性の高いところを探そうと思いたっていた。
片手でぐしゃりと頭を掻きむしったとき、アリスの専属侍女ナタリーが視界に入る。
そこで、卒業式で抱いたアリスの反応への違和感を思い出した。
あの時のアリスはまるで、自分の手紙を読んでおらず突然婚約破棄を伝えられ狼狽えていた様に見えた。
ひといきついていたナタリーを見据えて、再び問いかける。
「ーーアリスは私の手紙に何と言っていた?
卒業式の前日と当日に送った…」
ナタリーは疑問符を浮かべながら言った。
「アレク殿下からのお手紙は、半年前から届いておりませんが…」
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