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17. ジレンマ
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『───そうですね、彼ら“異能者”は、一般人にとって、間違いなく脅威であると私には断言できます』
大型画面に映し出された動画の中の女性が、スタジオに設置されたコメンテーター席から厳しい表情で辛辣な意見をした。
白シャツとパンツスタイルで身を包んだその女性は、肩ほどの長さの黒髪と、憂いを帯びた黒目が印象的な美人だ。時々耳にかかる髪をそっと手で上げる仕草が艶っぽく、モデルや女優も顔負けの整った顔立ちをしている。
『な、なかなか過激な御意見ですね』
進行役を務めるアナウンサーらしき男性が、鼻白んだ様子で相槌を打つ。
『過激でしょうか?近年、彼らの中に凶悪な無法者が増えつつあるのは、先ほどデータが示した通りですが?』
畳みかけるように女性は言う。
たじたじのアナウンサーに代わって、壮年の男性が手を軽く挙げて口を挟んだ。確か、その男性は俗に『人権派』と呼ばれる類いの、舌鋒鋭い現役弁護士だったと私は記憶している。
『ちょっと待ってください。それを言うなら、異能者と異能者以外の犯罪比率も紹介されましたよね?どちらの数字も等しく上昇しているこの状況で、ことさら異能者だけの部分を切り取って結論づけるのもいかがなものかと。同じ人間同士、当然彼らにもそんな偏見にさらされることなく普通に生活する権利がありますよ?!』
弁護士は激しい口調だったが、女性はまったく怯むことなく返した。
『南村先生、私は人権問題を論じているわけではありません。“異能者が異能で凶悪な犯罪を犯している”という事実を事実として指摘しているだけです。危険な能力を持つ彼らに対して、何の備えもない一般人には“脅威”でしかないと思うのですが?』
南村、と呼ばれた弁護士は興奮した様子で女性にまくしたてた。
『そんなことなはい!第一、包丁を振り回して暴れる一般人がいるこの御時世、異能者も一般人も関係なく、思想や性格次第でいくらでも脅威となりえるんですよ!!結局、異能者がどうのではなくて個々の人間の問題でしょうが!!』
『───南村先生、落ち着いてください。興奮されるのはいいとして、論点ずらしをされては困ります。普通の人間ならあなたの仰る通り“凶器”を持たないと脅威にはなりえないのですが、比べて異能者たちはどうですか?素手でも人を傷つけ、殺めることができるような危険な能力を持った人間たちが、今も街をウロウロしているのですよ?国の定めた《異能者登録制》も抜け道の多い“ザル制度”と揶揄されていますし、今こそ何らかの法規制が必要なんじゃないですか?』
南村弁護士はさらにヒートアップする。
『話にならんなッ!!そんなことは国会に法案が提出されて論じられるべき事案で、君ごときが口を出す筋合いはないだろうッ!!!』
『へぇ?私が口を出してはいけないだなんて法律、六法全書のどこに記載があるというのですか?』
『なっ───バカか、貴様はっ?!!!───この、@*#∥※%*&$>──!!!』
南村弁護士が興奮しすぎて何を言っているかわからなくなった時点で、梓が録画映像の再生を止めつつ言った。
「───と、まぁこんな感じの御方のようです。ご覧の通り、この御崎杏花 女史は、なかなかの女傑のようですね」
有馬に雇われた凄腕の武術家・狩野の姿はすでにない。
有馬本人が私たちメンバーに後事の指示を与えてネット回線から姿を消すと、もう用はなくなったとばかりに狩野も志麻子の道場を去っていった。
ただし去り際に、
「オレは有馬の旦那との契約通りに働くが、あんたらとは別路線だ。荒事は代わりにきっちりこなしておいてやるから、せいぜいSPごっこでも頑張るんだな」
と、捨て台詞を吐くのは忘れなかったが。
その言葉に怒り狂った志麻子を、皆でなだめるのはなかなかに骨の折れる作業だったのだが、その苦労をどうか察してもらいたい。
その志麻子が、梓の感想にしかめ面をする。
「───なんだぃ、コイツも生意気そうな女だねぇ?──ったく、最近やたらと攻撃的な人間ばかりが出てきて嫌になるよ。ねぇ、みんな?」
同意を求める志麻子に対して、志麻子以外の、私を含めた全員が驚いた顔で彼女を見つめる。
もし、他の人が私とまったく同じ思いなら、
“それは自分を筆頭に、でしょうが!!!”
と思っているに違いない。
しかし、そんなことを口にしては話が進まないのは皆わかっているので、私はスルーして梓の話を引き継いだ。
「御崎杏花───28歳、権威ある文学賞の受賞歴がある作家でありながら、大学の特別非常勤講師を務める才媛。メディア出演も積極的で、政治・経済・歴史・スポーツと多方面の話題に強くてニュース、情報番組に重宝されていますが、最近の専門は───いわゆる、《異能問題》ですね」
「彼女、異能者全体に対してかなりとげがある言い方だったわね?ひょっとすると、何か個人的な恨みでもあるのかしら?」
梓が、形のいい顎に人差し指を当てながら首を傾げた。
「その可能性も否定できませんが、今はそれをゆっくり調べている場合でもないでしょう。重要なのは彼女がこれから行う講演で、私たちが彼女を守りきれるかどうか、です」
私の言葉に、志麻子が億劫な声を出す。
「やれやれ、郡司じゃないけども、なんだか面倒な状況だねぇ。──ったく、何の因果だぃ、あたしら異能持ちが“異能嫌いの女”を守らなくちゃいけないだなんてさぁ!」
志麻子の声は、この場の全員の思いを代弁していた。
───状況を整理しよう。
有馬が狩野に凶悪な野良異能者たちのことを任せてまで、私たちに与えた任務とは、
『言論会で《異能者統制論》の急先鋒と言われる御崎杏花を、私たち異能組織の手で護ること』
だった。
大きな矛盾を抱えていることは有馬自身がよく理解しているため、私たちに指示をした時の彼の声は、飲み込み難い苦さに満ちていた。
異能者に否定的な彼女を私たちが護る、という皮肉に満ち溢れたこの任務には、もちろんそれなりの事情がある。
遡ること数日前、有馬の情報網である警察筋関係者から、ネットのとある掲示板に“名も無き異能者”というハンドルネームの人間から、御崎杏花の殺害予告が出されたという情報が舞い込んだ。
殺害予告の内容は具体的で、彼女が講師を予定している講演会を挙げ、その場で正義の異能者である自分が御崎に裁きを下す───などと書き込まれていたという。
ネット掲示板とはいえやっていることは立派な『脅迫罪』に相当すること、これは明らかに警察が捜査を担当する事案であるが、私たち異能組織としてはこの行為を看過できない事情がある。
御崎杏花は『異能者統制論』という、異能者の排斥もしくは統制を訴える言論派の一員で、才能や実績だけではなく容姿端麗なことからテレビをはじめとしたメディアの露出も多い。いろんな意味で『目立つ』存在で、もし現実に彼女が異能者によって本当に殺害されるようなことがあれば────。
「間違いなく、事態は異能組織にとって、とても悪い方向に動き出すでしょうね」
すでにメンバー全員が共有している『認識』を梓が口にした。
御崎杏花のような影響力のある人物が白昼に堂々と異能者に殺害されたりすれば、おそらく繰り返しセンセーショナルに報道が行われ、世論が一気に異能者をネガティブな存在と見なすかもしれない。
今、私たち異能者は、かなり危ういバランスを保ちながらこの世界に存在していると言えるだろう。
以前から超常的な能力を引き合いに、異能者を危険視する声はあったのだが、私たちのような異能者自身による自警団的な集団や、異能を持った人間を公的機関が優先的に押さえて公務に就かせてきた政府の対応などもあって、世間的には異能者と普通の人間とは、危ういバランスの中で共存が行われてきた。
しかし、この所頻発している異能者が起こした大小様々な刑事事件は、少しずつ世間の風向きを変えつつあるように、私には感じられる。
客観的に見れば、御崎杏花たちのような議論が行われるのは当然のことだろうし、仕方ないとも思えるが───、だからといって、このまま異能者の立場が悪くなっていくのを手をこまねいて見ているわけにもいかない。
犯罪を繰り返す野良異能者の処置を外部の狩野に任せてまで、有馬が私たちに御崎杏花の護衛を命じたのは、そうした状況を大局的に判断したからだった。
「───しかし、本当に皮肉なものですね。俺たち異能者が、異能者排斥論の人を守らなければいけないだなんて───」
真吾が神妙な顔で呟いた。私は小さなため息とともに答えた。
「───仕方ないでしょうね。御崎杏花女史に異能者からのあからさまな危害が加えられれば、社会問題に発展するのは避けられないでしょうし」
「厄介な状況よね」
梓も同意して頷く。
今の状況を反映したかのように、場に微妙な空気が流れたが、志麻子が思いがけない言葉を口にした。
「御崎杏花の殺害予告───、それって本人、もしくは関係者の自作自演って可能性はないのかぃ?」
「自作自演?そんなことして彼女に何のメリットが?」
真吾が疑問を口にする。
「メリットならあるだろうさ。架空の脅迫とはいえ、形として講演会を強行してやりきってみせれば、御崎杏花は異能者の卑怯な脅迫にも決して屈しない、まさに『言論界のジャンヌダルクだ!』───なんて世間様から持ち上げてもらえるんじゃないのかぃ?」
志麻子の言い分に、遊佐が感心する。
「ふむ───、志麻子姐さんにしては鋭い意見っすね」
「ちょ、遊佐ぁ!! “にしては” が余計さね!!!」
「うへぇっ!」
遊佐の不要な一言で志麻子に火がついてしまい、まるで北米アニメの猫と鼠の関係よろしく、道場内で二人の追いかけっこが始まった。
そんな茶番劇を尻目に、私は志麻子の言葉に感心しながら梓に向かって言った。
「可能性としては、なきにしろあらず───と言えるでしょうか?あくまで志麻子さんの憶測であり、証拠もなく可能性も低い話かもしれませんが、そういう絵図もありうると頭に入れておくのはいいかもしれませんね」
梓と、さらに真吾・明莉の兄妹も頷いた。
「───さて。では、異能者嫌いの御崎女史を講演会でどう護衛するか、これから細部を詰めていきましょうか?」
「コラ、遊佐ぁ、待ちなッ!ちょこまかと逃げるんじゃあないよ!!!」
「ひぃーーー!!!」
まだ追いかけっこを続ける二人を白い目で眺め、私はやれやれとため息をつきながらも別のことを考えていた。
志麻子が喩えたジャンヌ・ダルク、彼女は火あぶりによる処刑という非業の死を遂げたが、御崎杏花は私たちの目の前で、むざむざと異能者に殺されるにはいかない。
この任務が、時代の大きなうねりの先駆けになることまでは、この時の私には知る由もないことだった───
大型画面に映し出された動画の中の女性が、スタジオに設置されたコメンテーター席から厳しい表情で辛辣な意見をした。
白シャツとパンツスタイルで身を包んだその女性は、肩ほどの長さの黒髪と、憂いを帯びた黒目が印象的な美人だ。時々耳にかかる髪をそっと手で上げる仕草が艶っぽく、モデルや女優も顔負けの整った顔立ちをしている。
『な、なかなか過激な御意見ですね』
進行役を務めるアナウンサーらしき男性が、鼻白んだ様子で相槌を打つ。
『過激でしょうか?近年、彼らの中に凶悪な無法者が増えつつあるのは、先ほどデータが示した通りですが?』
畳みかけるように女性は言う。
たじたじのアナウンサーに代わって、壮年の男性が手を軽く挙げて口を挟んだ。確か、その男性は俗に『人権派』と呼ばれる類いの、舌鋒鋭い現役弁護士だったと私は記憶している。
『ちょっと待ってください。それを言うなら、異能者と異能者以外の犯罪比率も紹介されましたよね?どちらの数字も等しく上昇しているこの状況で、ことさら異能者だけの部分を切り取って結論づけるのもいかがなものかと。同じ人間同士、当然彼らにもそんな偏見にさらされることなく普通に生活する権利がありますよ?!』
弁護士は激しい口調だったが、女性はまったく怯むことなく返した。
『南村先生、私は人権問題を論じているわけではありません。“異能者が異能で凶悪な犯罪を犯している”という事実を事実として指摘しているだけです。危険な能力を持つ彼らに対して、何の備えもない一般人には“脅威”でしかないと思うのですが?』
南村、と呼ばれた弁護士は興奮した様子で女性にまくしたてた。
『そんなことなはい!第一、包丁を振り回して暴れる一般人がいるこの御時世、異能者も一般人も関係なく、思想や性格次第でいくらでも脅威となりえるんですよ!!結局、異能者がどうのではなくて個々の人間の問題でしょうが!!』
『───南村先生、落ち着いてください。興奮されるのはいいとして、論点ずらしをされては困ります。普通の人間ならあなたの仰る通り“凶器”を持たないと脅威にはなりえないのですが、比べて異能者たちはどうですか?素手でも人を傷つけ、殺めることができるような危険な能力を持った人間たちが、今も街をウロウロしているのですよ?国の定めた《異能者登録制》も抜け道の多い“ザル制度”と揶揄されていますし、今こそ何らかの法規制が必要なんじゃないですか?』
南村弁護士はさらにヒートアップする。
『話にならんなッ!!そんなことは国会に法案が提出されて論じられるべき事案で、君ごときが口を出す筋合いはないだろうッ!!!』
『へぇ?私が口を出してはいけないだなんて法律、六法全書のどこに記載があるというのですか?』
『なっ───バカか、貴様はっ?!!!───この、@*#∥※%*&$>──!!!』
南村弁護士が興奮しすぎて何を言っているかわからなくなった時点で、梓が録画映像の再生を止めつつ言った。
「───と、まぁこんな感じの御方のようです。ご覧の通り、この御崎杏花 女史は、なかなかの女傑のようですね」
有馬に雇われた凄腕の武術家・狩野の姿はすでにない。
有馬本人が私たちメンバーに後事の指示を与えてネット回線から姿を消すと、もう用はなくなったとばかりに狩野も志麻子の道場を去っていった。
ただし去り際に、
「オレは有馬の旦那との契約通りに働くが、あんたらとは別路線だ。荒事は代わりにきっちりこなしておいてやるから、せいぜいSPごっこでも頑張るんだな」
と、捨て台詞を吐くのは忘れなかったが。
その言葉に怒り狂った志麻子を、皆でなだめるのはなかなかに骨の折れる作業だったのだが、その苦労をどうか察してもらいたい。
その志麻子が、梓の感想にしかめ面をする。
「───なんだぃ、コイツも生意気そうな女だねぇ?──ったく、最近やたらと攻撃的な人間ばかりが出てきて嫌になるよ。ねぇ、みんな?」
同意を求める志麻子に対して、志麻子以外の、私を含めた全員が驚いた顔で彼女を見つめる。
もし、他の人が私とまったく同じ思いなら、
“それは自分を筆頭に、でしょうが!!!”
と思っているに違いない。
しかし、そんなことを口にしては話が進まないのは皆わかっているので、私はスルーして梓の話を引き継いだ。
「御崎杏花───28歳、権威ある文学賞の受賞歴がある作家でありながら、大学の特別非常勤講師を務める才媛。メディア出演も積極的で、政治・経済・歴史・スポーツと多方面の話題に強くてニュース、情報番組に重宝されていますが、最近の専門は───いわゆる、《異能問題》ですね」
「彼女、異能者全体に対してかなりとげがある言い方だったわね?ひょっとすると、何か個人的な恨みでもあるのかしら?」
梓が、形のいい顎に人差し指を当てながら首を傾げた。
「その可能性も否定できませんが、今はそれをゆっくり調べている場合でもないでしょう。重要なのは彼女がこれから行う講演で、私たちが彼女を守りきれるかどうか、です」
私の言葉に、志麻子が億劫な声を出す。
「やれやれ、郡司じゃないけども、なんだか面倒な状況だねぇ。──ったく、何の因果だぃ、あたしら異能持ちが“異能嫌いの女”を守らなくちゃいけないだなんてさぁ!」
志麻子の声は、この場の全員の思いを代弁していた。
───状況を整理しよう。
有馬が狩野に凶悪な野良異能者たちのことを任せてまで、私たちに与えた任務とは、
『言論会で《異能者統制論》の急先鋒と言われる御崎杏花を、私たち異能組織の手で護ること』
だった。
大きな矛盾を抱えていることは有馬自身がよく理解しているため、私たちに指示をした時の彼の声は、飲み込み難い苦さに満ちていた。
異能者に否定的な彼女を私たちが護る、という皮肉に満ち溢れたこの任務には、もちろんそれなりの事情がある。
遡ること数日前、有馬の情報網である警察筋関係者から、ネットのとある掲示板に“名も無き異能者”というハンドルネームの人間から、御崎杏花の殺害予告が出されたという情報が舞い込んだ。
殺害予告の内容は具体的で、彼女が講師を予定している講演会を挙げ、その場で正義の異能者である自分が御崎に裁きを下す───などと書き込まれていたという。
ネット掲示板とはいえやっていることは立派な『脅迫罪』に相当すること、これは明らかに警察が捜査を担当する事案であるが、私たち異能組織としてはこの行為を看過できない事情がある。
御崎杏花は『異能者統制論』という、異能者の排斥もしくは統制を訴える言論派の一員で、才能や実績だけではなく容姿端麗なことからテレビをはじめとしたメディアの露出も多い。いろんな意味で『目立つ』存在で、もし現実に彼女が異能者によって本当に殺害されるようなことがあれば────。
「間違いなく、事態は異能組織にとって、とても悪い方向に動き出すでしょうね」
すでにメンバー全員が共有している『認識』を梓が口にした。
御崎杏花のような影響力のある人物が白昼に堂々と異能者に殺害されたりすれば、おそらく繰り返しセンセーショナルに報道が行われ、世論が一気に異能者をネガティブな存在と見なすかもしれない。
今、私たち異能者は、かなり危ういバランスを保ちながらこの世界に存在していると言えるだろう。
以前から超常的な能力を引き合いに、異能者を危険視する声はあったのだが、私たちのような異能者自身による自警団的な集団や、異能を持った人間を公的機関が優先的に押さえて公務に就かせてきた政府の対応などもあって、世間的には異能者と普通の人間とは、危ういバランスの中で共存が行われてきた。
しかし、この所頻発している異能者が起こした大小様々な刑事事件は、少しずつ世間の風向きを変えつつあるように、私には感じられる。
客観的に見れば、御崎杏花たちのような議論が行われるのは当然のことだろうし、仕方ないとも思えるが───、だからといって、このまま異能者の立場が悪くなっていくのを手をこまねいて見ているわけにもいかない。
犯罪を繰り返す野良異能者の処置を外部の狩野に任せてまで、有馬が私たちに御崎杏花の護衛を命じたのは、そうした状況を大局的に判断したからだった。
「───しかし、本当に皮肉なものですね。俺たち異能者が、異能者排斥論の人を守らなければいけないだなんて───」
真吾が神妙な顔で呟いた。私は小さなため息とともに答えた。
「───仕方ないでしょうね。御崎杏花女史に異能者からのあからさまな危害が加えられれば、社会問題に発展するのは避けられないでしょうし」
「厄介な状況よね」
梓も同意して頷く。
今の状況を反映したかのように、場に微妙な空気が流れたが、志麻子が思いがけない言葉を口にした。
「御崎杏花の殺害予告───、それって本人、もしくは関係者の自作自演って可能性はないのかぃ?」
「自作自演?そんなことして彼女に何のメリットが?」
真吾が疑問を口にする。
「メリットならあるだろうさ。架空の脅迫とはいえ、形として講演会を強行してやりきってみせれば、御崎杏花は異能者の卑怯な脅迫にも決して屈しない、まさに『言論界のジャンヌダルクだ!』───なんて世間様から持ち上げてもらえるんじゃないのかぃ?」
志麻子の言い分に、遊佐が感心する。
「ふむ───、志麻子姐さんにしては鋭い意見っすね」
「ちょ、遊佐ぁ!! “にしては” が余計さね!!!」
「うへぇっ!」
遊佐の不要な一言で志麻子に火がついてしまい、まるで北米アニメの猫と鼠の関係よろしく、道場内で二人の追いかけっこが始まった。
そんな茶番劇を尻目に、私は志麻子の言葉に感心しながら梓に向かって言った。
「可能性としては、なきにしろあらず───と言えるでしょうか?あくまで志麻子さんの憶測であり、証拠もなく可能性も低い話かもしれませんが、そういう絵図もありうると頭に入れておくのはいいかもしれませんね」
梓と、さらに真吾・明莉の兄妹も頷いた。
「───さて。では、異能者嫌いの御崎女史を講演会でどう護衛するか、これから細部を詰めていきましょうか?」
「コラ、遊佐ぁ、待ちなッ!ちょこまかと逃げるんじゃあないよ!!!」
「ひぃーーー!!!」
まだ追いかけっこを続ける二人を白い目で眺め、私はやれやれとため息をつきながらも別のことを考えていた。
志麻子が喩えたジャンヌ・ダルク、彼女は火あぶりによる処刑という非業の死を遂げたが、御崎杏花は私たちの目の前で、むざむざと異能者に殺されるにはいかない。
この任務が、時代の大きなうねりの先駆けになることまでは、この時の私には知る由もないことだった───
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