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8 逢瀬への誘い
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婚約者のいない隣国の王女とその国に二年間留学していた婚約者を持つ公爵令息の二人きりの逢瀬──。
そうなるとやはり何かしらの噂はたつ。
しかし、渦中の人物は隣国の王女殿下。下手に騒いでまた外交問題になってしまえば大問題だ。
例えスカーレットの言動に問題があろうとも彼女の意図が分からぬ以上、こちらが不敬にとられ処罰されることもある。
特別クラスの生徒は口をつぐんだ。
「どういうおつもりですか。王女殿下」
「これから長い付き合いになるのですもの。スカーレットと呼んで構わないわよ」
「謹んでお断りいたします。婚約者と家族以外を名で呼ぶ気は更々ないので」
「そう?」
王女殿下相手であるにも関わらず、言葉の端々が乱れてしまう程度にはシアンは腹を立てていた。
しかしスカーレットはどこ吹く風。
王侯貴族の婚約など所詮『家と家』で『国と国』。
シアンの気持ちなど関係ない。
スカーレットは何かしら正当な理由をつけてシアンをそばに置いておくだけで良いのだ。
ただそれだけ。
しかし、決して強制してはならない。
それでは権力を笠に着た略奪になってしまうからだ。
あくまでも勝手にスカーレットの気持ちを慮った世間が噂し、フロスティ公爵家とウィスタリア侯爵家という二つの貴族家が家の繁栄のために動き、結果二つの国も動く──という形に持っていかなければならない。
キャナリィがフリーになれば、王家は必ずキャナリィをグレイの婚約者に定めるだろう。
全て計画通りだ。
スカーレットはそう考えて、目の前に座るシアンを見た。
学園内とはいえスカーレットに対して不愉快を隠そうともせず、触れるとこちらが凍ってしまうのではと思わずにはいられないほど冷え冷えとした空気を醸し出している。
これが祖国の学園でも一目置かれていたあのシアンなのかと目を疑う。
隠してはいるようだが裏のありそうな兄のジェードと違い、シアンは真っすぐだ。
そう言う意味ではどちらかというとジェードの方が次期公爵に向いていると思うのだが、後継を選ぶのは当主。スカーレットが口を出すことではない。
どちらかというと、シアンが次期公爵であるおかげでスカーレットの嫁ぎ先として誰も文句が言えないのだからこちらとしては好都合だ。
しかし、シアンは余程キャナリィを大切に思っているらしい。
確かにかの令嬢は容姿も所作も美しかった。
しかしスカーレットにはシアンがそこまでキャナリィを想う理由がわからなかった。
『美しい』ことは結構だが、それだけで社交界で立ち回れるほど貴族社会は甘くないのだ。
ある日の放課後。
シアンがキャナリィと共に帰るために二学年のフロアに迎えに行く道中、人通りのある廊下でスカーレットはシアンに声を掛けた。
「いいところで会ったわ。フロスティ公爵令息。今から買い物に付き合って頂戴」と。
声を掛けられ身構えるシアンにスカーレットは笑顔で言った。
「安心して頂戴。侍女も護衛も一緒よ」
二人きりではないと言いたいようだが、だから何だというのか。侍女も護衛も貴族の逢瀬では数に数えられることはない。
王族であるスカーレットはシアンの留学中、このような接触の仕方をしてきたことは一度もない。
多数の目がある場所での不用意な誘いも何か裏があるに違いないのだが、不本意ながら何度お茶を共にしてもシアンはスカーレットが何を考えているのか、全く掴めなかった。
しかもキャナリィをその場に呼ぶことを許さなかったにも関わらず情報では彼女を気にしているようなのだ。
シアンはスカーレットの目的は自分ではなくキャナリィかもしれないと思い始めていた。
例え相手が王女であろうともキャナリィには手は出させない。シアンは気持ちを切り替えスカーレットに対峙した。
「私より同性のご友人とご一緒した方が良いのではないでしょうか」
「男性の意見を伺いたいの。だけど令息の知り合いはあなただけ・・・それにホームシックというわけではないけれど隣国での学園生活の話をしたいだけなのよ。他意は無いわ」
他意がなければ未婚の王女が婚約者持ちの令息を誘うことはないと思うのだが──と、周囲で固唾をのんで見守っていた者たちは考えた。
ではどんな他意があるのだろうと。
スカーレットは、他意があることを匂わせる為にわざわざ人目のある学園で声を掛けているのだから計画は順調に進んでいると言える。
シアンと仲良くする必要も、好意を持ってもらう必要もない。
ただ、スカーレットがシアンを望んでいるのではないかと周囲に思わせるだけでいい。
スカーレットがそう思い微笑んだその時──
「失礼ながら王女殿下、私がお供いたしましょう。丁度殿下にご注文いただいた商品が納品いたしましたので離宮にお持ちしようかと思っておりました。
男性の意見が必要であれば私の婚約者も呼べますし、当商会であれば王女殿下に買い物もお楽しみいただけるかと──」
クラレットがその場に割って入った。
そうなるとやはり何かしらの噂はたつ。
しかし、渦中の人物は隣国の王女殿下。下手に騒いでまた外交問題になってしまえば大問題だ。
例えスカーレットの言動に問題があろうとも彼女の意図が分からぬ以上、こちらが不敬にとられ処罰されることもある。
特別クラスの生徒は口をつぐんだ。
「どういうおつもりですか。王女殿下」
「これから長い付き合いになるのですもの。スカーレットと呼んで構わないわよ」
「謹んでお断りいたします。婚約者と家族以外を名で呼ぶ気は更々ないので」
「そう?」
王女殿下相手であるにも関わらず、言葉の端々が乱れてしまう程度にはシアンは腹を立てていた。
しかしスカーレットはどこ吹く風。
王侯貴族の婚約など所詮『家と家』で『国と国』。
シアンの気持ちなど関係ない。
スカーレットは何かしら正当な理由をつけてシアンをそばに置いておくだけで良いのだ。
ただそれだけ。
しかし、決して強制してはならない。
それでは権力を笠に着た略奪になってしまうからだ。
あくまでも勝手にスカーレットの気持ちを慮った世間が噂し、フロスティ公爵家とウィスタリア侯爵家という二つの貴族家が家の繁栄のために動き、結果二つの国も動く──という形に持っていかなければならない。
キャナリィがフリーになれば、王家は必ずキャナリィをグレイの婚約者に定めるだろう。
全て計画通りだ。
スカーレットはそう考えて、目の前に座るシアンを見た。
学園内とはいえスカーレットに対して不愉快を隠そうともせず、触れるとこちらが凍ってしまうのではと思わずにはいられないほど冷え冷えとした空気を醸し出している。
これが祖国の学園でも一目置かれていたあのシアンなのかと目を疑う。
隠してはいるようだが裏のありそうな兄のジェードと違い、シアンは真っすぐだ。
そう言う意味ではどちらかというとジェードの方が次期公爵に向いていると思うのだが、後継を選ぶのは当主。スカーレットが口を出すことではない。
どちらかというと、シアンが次期公爵であるおかげでスカーレットの嫁ぎ先として誰も文句が言えないのだからこちらとしては好都合だ。
しかし、シアンは余程キャナリィを大切に思っているらしい。
確かにかの令嬢は容姿も所作も美しかった。
しかしスカーレットにはシアンがそこまでキャナリィを想う理由がわからなかった。
『美しい』ことは結構だが、それだけで社交界で立ち回れるほど貴族社会は甘くないのだ。
ある日の放課後。
シアンがキャナリィと共に帰るために二学年のフロアに迎えに行く道中、人通りのある廊下でスカーレットはシアンに声を掛けた。
「いいところで会ったわ。フロスティ公爵令息。今から買い物に付き合って頂戴」と。
声を掛けられ身構えるシアンにスカーレットは笑顔で言った。
「安心して頂戴。侍女も護衛も一緒よ」
二人きりではないと言いたいようだが、だから何だというのか。侍女も護衛も貴族の逢瀬では数に数えられることはない。
王族であるスカーレットはシアンの留学中、このような接触の仕方をしてきたことは一度もない。
多数の目がある場所での不用意な誘いも何か裏があるに違いないのだが、不本意ながら何度お茶を共にしてもシアンはスカーレットが何を考えているのか、全く掴めなかった。
しかもキャナリィをその場に呼ぶことを許さなかったにも関わらず情報では彼女を気にしているようなのだ。
シアンはスカーレットの目的は自分ではなくキャナリィかもしれないと思い始めていた。
例え相手が王女であろうともキャナリィには手は出させない。シアンは気持ちを切り替えスカーレットに対峙した。
「私より同性のご友人とご一緒した方が良いのではないでしょうか」
「男性の意見を伺いたいの。だけど令息の知り合いはあなただけ・・・それにホームシックというわけではないけれど隣国での学園生活の話をしたいだけなのよ。他意は無いわ」
他意がなければ未婚の王女が婚約者持ちの令息を誘うことはないと思うのだが──と、周囲で固唾をのんで見守っていた者たちは考えた。
ではどんな他意があるのだろうと。
スカーレットは、他意があることを匂わせる為にわざわざ人目のある学園で声を掛けているのだから計画は順調に進んでいると言える。
シアンと仲良くする必要も、好意を持ってもらう必要もない。
ただ、スカーレットがシアンを望んでいるのではないかと周囲に思わせるだけでいい。
スカーレットがそう思い微笑んだその時──
「失礼ながら王女殿下、私がお供いたしましょう。丁度殿下にご注文いただいた商品が納品いたしましたので離宮にお持ちしようかと思っておりました。
男性の意見が必要であれば私の婚約者も呼べますし、当商会であれば王女殿下に買い物もお楽しみいただけるかと──」
クラレットがその場に割って入った。
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