【完結】で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?

Debby

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24 僕は君が嫌いだよ

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「あの女・・・?それってクラレットのこと?」

 ビアンカがクラレット貶める言葉を吐いたその瞬間、ジェードの気配が変わった。
 その変化にビアンカがジェードの顔を見ると、そこにあったのはいつもの優しい気な雰囲気はなく──冷たく嫌なものを見るような瞳。

「じ、ジェード様?」
「今日は機嫌がよかったんだよ。だから君の口から何度僕の名が紡がれようとも許そうと思っていたんだが、いい加減不快だからやめてくれないか?大体許可も得ずに人の名を呼ぶなんて、君は本当に貴族なのか?」

 ビアンカが何も言えずにいることに構いもせずジェードは続ける。

「で、なんだっけ?『無表情で感情のない人形』?クラレットの笑顔は僕だけのモノなんだよ。君なんかに向けられるわけがないだろう。
 そして『あの年まで婚約者のなり手がいなかった』だっけ?
 君は本当に考え無しだな。
 次男三男があふれている貴族社会で当時頭角を現していたメイズ伯爵家の一人娘への婿入りだよ。誰もいなかったなどと本気で思っていたのか?」

 ジェードはビアンカを冷たく見下ろすとその頃を思い出すかのように薄く笑って言った。

「──そんな縁談メイズ伯爵家に届く前に、僕がつぶしていたに決まっているじゃないか」
「!」

 ビアンカはもうどうしたらよいのか分からなかった。
 憧れ、好きだと思っていたジェード像が音を立てて崩れていく。

「いいかい?物わかりの悪い君にもわかるように話してあげるよ。
 君が何をどう伝え聞いたのかは分からないけれど、さっきも言ったように僕は「商会を持つ家への婿入り」を望んだのではなくて、「クラレットがいるから商会への婿入り」を望んだんだよ」

 実際は「大小関わらず当時商会を持つ貴族家で婚約者がいない令嬢がクラレットだけになるように両親に商会を持つ家への婿入りを望んだ」のだがそこまで説明する義理も必要も無いだろう。
 別に親の権力を遣わずともそれくらい容易にできるだろうから。

 今度こそ話が終わったとばかりにジェードがビアンカに背を向けようとする。
 ジェードが行ってしまう。
 ビアンカはジェードに向かって苦しまぎれの言葉を投げかけた。

「メイズ伯爵令嬢もあなたの容姿を好ましく思っているのではないですか?」
 ──『気持ち悪い』のでしょう?と。

 ジェードは残念な者を見るような目をビアンカに向けた。

「クラレットが僕の容姿を?──もしそうだとしたら嬉しいに決まっているじゃないか」

 好きな令嬢が自身の容姿を好いてくれる──嬉しい以外に何があるというのか。

「・・・まぁ、残念ながらクラレットは僕のことなんか、なんとも思ってないけどね」

 いつでも彼女の一番はキャナリィだ。

「そんな子のどこがいいのですか!!!?」

「どこ」がいいのか。
 そもそも人を好きになるならないは感情論のはずである。
 明確な理由があるものは全て打算だ。
 ジェードは理由を並べて好きだと言われる度にそこに令嬢の打算が見えて不快な思いをしてきた。

「何故それを君なんかに話して聞かせないといけないんだ?」
「でもっ・・・」

 そのしつこさにジェードは大きなため息をついた。
 断ってもしつこく釣書を送り付け、学園でもたかってきてはいたが、ここまで言っても食い下がってくるとは正直思わなかった。

「しつこいなぁ・・・ああ──」

 その時ジェードが何か閃いたと言わんばかりに笑顔になった。
 こんな時でもビアンカは自身に向けられたジェードの笑顔に期待してしまっていた。
 わずかに頬が染まる。

「こう言ったら君にも分かるんじゃないかな」

 ジェードはそのままビアンカの方に顔を寄せ、笑顔のまま耳元で囁いたのだ。
 そして──

「僕は君が嫌いだよ」
「え?」

「もう顔も見たくないほどに、大嫌いなんだ」

 ジェードはビアンカにしか届かない声で、そう言った。

 ジェードのその言葉に余程ショックを受けたのか、ビアンカは放心している様だった。
 ジェードはそのまま項垂うなだれ動かなくなったビアンカを確認した。
 そしていつの間にかそばに来ていたスカーレットに視線を向けると、目を向け微笑み、言外に任せたよと告げ、会場から退出するため今度こそ踵を返した。




 どれくらい時間が経ったのか──夢、だったのだろうか。
 全く会うことの出来ない、愛するジェード様に会う夢。

(悪夢だったけれど──)

 ビアンカはふと顔を上げた。

「あら。ビアンカ・ルーベルム侯爵令嬢、お目覚め?」

 ビアンカは目の前で優雅に微笑むスカーレットを目にすると「夢の続き・・・?」と呟いた。

「残念ながら現実よ」

 スカーレットにそう言われ、正気に戻る。
 周囲を見渡すと周囲の生徒からは注目を浴びている様だったが、遠目にグレイが生徒たちと交流しているようで、ほとんどの生徒はそちらに気を取られているようだった。
 しかしスカーレットはいつからそこに立っていたのか。

「お、王女でん──「わたくし、あなたに聞きたいことがあったの」

 慌てて挨拶をしようとしたビアンカの言葉を制して、スカーレットは言った。

 先ほどのジェードとのやり取りは現実だったのだろうか──
 一体どこから聞かれていたのだろうか。
 聞かれた内容、そしてこれから話す内容によってはこれまで培ってきた信頼を失ってしまうかもしれない。

「あなたが言っていた二つの品物なのだけど──」

 なんだそのことか、そうビアンカは思った。
 それならばジェードが今しがた納品したと言っていた。あの商品の情報を提供したとのことでお褒めの言葉でも頂けるのだろうか。

「あの商品を選んだ理由を教えて頂戴」
「?──あれらの品は今我が国で流行り出したばかりで大変珍しい商品です。王太子殿下も喜ばれるかと思いました」
「それだけなの?」
「はい」

 それだけではない。
 しっかりした他意があるのだが、無事納品されている以上スカーレットには害はないはずだ。

「そう。ではその二つの商品をあなたの商会で納品してわたくしに収めてもらってよろしいかしら」

 無理だ。そんなことをしたらルーベルム侯爵家が大打撃を受けてしまう。
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