【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby

文字の大きさ
32 / 48
第四章 憧れないからヤってしまおうと思います・編

4-8

しおりを挟む
「その通りだな」

(おや)

 私がそう言うと、国王が同意してくれた。第二王子は羞恥から顔を赤らめ、引き下がった。
 さて、きっとピヨさんに任せたら一瞬なんだろうけど、そんなことをしても第二王子のピヨさんへの執着はなくならないだろう。だから次は私の番。

 私が小隊に向き直ると、気を取り直した騎士数名が剣を抜く、ミモザさんを迎えに来た人と王女宮で騎士団長の後ろにいた人・・・あとは他の治癒魔法の使い手さんたちをお迎えに行った人達なのかな?
 その他の人は、剣を抜いた人を信じられないと言う目で見ている。

 冒険者としての素養を試す的な建前があったようだけれど、そんな建前はもうどこかに吹き飛んでしまった様だ。第二王子の愛する人云々の設定と共に。

 でもこの人達もこんな小娘に対して剣を抜くとはね。まぁ今まで普通に剣を抜こうとしてたから不思議はないけれど、国王や王女様の前だよ?お話の世界なら、こういうときは木剣を使うものでは?
 そう思って考え直す。
 いや、コレは現実だ。散々反省したじゃないか。だからそっちがその気ならこっちもその気で行かせてもらう。後悔するなよ。
 エルナトの街で騎士をはたいた時に、新たな結界の使い方を考え付いたから、こうなることを予測して練習しておいたのだ。

──お。星良、る気になったのか?

 そうです。ります。
 こんな小娘に瞬殺されたという事実が、死ぬ程恥ずかしいというもの!

「そう、恥ずか死ねっ!!!!!」

 私は身体から十センチ程の所に結界を張ると、ちょっと怖いけど丸腰で剣を持つ騎士の中に突っ込んでいった。
 結界に触れたら電流が走り痺れ、気絶し、その恐怖から剣が持てなくなるという呪い──いや効果おまじないをつけてね。
 向こうから飛びかかってきてくれるのだ。私の必殺!結界パンチが当たらなくとも問題ない。

──主の結界は何でもありだな。

 倒れた騎士を見下ろし、ピヨさんが感心したように言った。

「なっ!」

 私が駆け抜けた後に広がる屍──息はしてる──の山に、第二王子が思わず立ち上がった。国王や赤髪のおじさん、王女様は動じた様子がない。

「き、騎士団長!!!なんとかしろ!」

 第二王子は終始落ち着いた様子で戦況を見ていた騎士団長に声を荒げた。
 その声に騎士団長はニヤッと笑うと、私に言った。

「気は済んだか?」と。

「もちろん」と答えた私は小さな声で屍と化した人達の状況を説明した。すると騎士団長はちょっと引き気味に「俺にはその技は使わないでくれよ」とつぶやいた。
 もちろん!騎士団長が剣を持てなくなったら困るもんね。

「さて、スピカ殿。この国には俺と同等に打ち合える者はいない。それはとてもつまらないことなんだ。
 しかし、君に初めて会った時、一瞬強者が持つ何かを感じた。
 確かにその従魔は見た目に反し強い。きっとこの王宮を瞬時に瓦礫にしてしまうほどの力を持っているのだろう」

(え。ピヨさんそうなの?)

 ──そんな下らないことはしないがな。

「しかし、その従魔ではない、別の力を感じたんだ。もし、君が私のこの剣と打ち合える何かの力を持っているのなら──」

 そう言いながら騎士団長は腰の剣を静かに抜いた。ほのかに黄色い光を帯びた剣だ。

 ──どことなく紅さんに似ている気がする。

「是非、相手をしてくれないだろうか」

 私たちのやり取りを黙ってみていた国王が、声を上げた。

「ほう、騎士団長があの剣を抜いたのを見たのはいつぶりだろうか」

 その言葉を聞いた第二王子は勝機を見出したのか、

「良いぞ!騎士団長。その娘を殺し、その従魔を私のモノにしろ!!!」

 そう、叫んだ。

 その時──

「!」

 ゴゴゴゴゴ──!と効果音はしなかったけど、大人しく収納に入っているハズの紅さんの気配が急に強くなった。

<主様、次は私の番ですよねぇ。あの第二王子無礼者の息の根を止めるのは私の仕事です>

 そう、言っているような、凄まじい怒りの感情が伝わってきた。

「押さえられないっ!」

 赤い光が周囲を包み込んだかと思うと、異空間からあふれ出す力の奔流を感じた。それが収まると、いつの間にか収納から無理矢理出てきたらしい紅さんが私のにいた。
 派手な登場の仕方ではあったが、宙に浮いたりせず、一応私に気を遣ってくれたらしい。

 紅さんは、今すぐ第二王子の息の根を止めるつもりなのか王族席に飛んで行こうとするので必死に押さえる。

(駄目、駄目だよ紅さん!王子をヤるのは絶対駄目!!)

<じゃぁなんか代わりに鬱憤を晴らさせてよ>

 紅さんの感情が流れ込んでくるけど、いきなりそんなことを言われても~。

──ほら、紅。そこにお前の相手をしてくれそうな屈強な男がおるであろう。あやつの剣なら紅と多少やり合っても死に折れやしまい。

 ピヨさんがなんかちょっと物騒な響きを含んだようなことを言うと、紅さんの意識が騎士団長に向き歓喜に満ちたのが分かった。

「それがスピカ殿の剣か!」

 騎士団長が期待に満ちた視線を紅さんに向けている。こっちにも歓喜してる人がいた!

 その後すぐに剣と剣のぶつかり合いが始まった。
 私は紅さんを握っているため、目茶苦茶振り回されています。
 結界のおかげで怪我こそはしないものの、既に体力の限界を迎えています。

 私は一旦騎士団長から距離を取り、呼吸を整える。

「スピカ殿、そんなものでは無いはずだ」

 いえ、私は既に色々限界を超えています。

──星良、気持ちは分かるがそれでは目的は果たせまい。

 目的──私にもエルナトの街にも手出しをする気にならなくなる程完膚なきまで叩きのめす。

 そうだった。
 ピヨさんの言葉で目的を思い出す。この国には私から手を引いて貰うために、力ずくでわかってもらわなければならないのだ。
『手に入れたい』ではなく、『敵に回してはいけない』と。

「では騎士団長、本気で行きます!」

 私はそう言って紅さんから手を離した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

処理中です...