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16 諦めてくれ
バンッ!
レストがどこかのドアを開けたらしく、激しい音がした。
しかしレストの両腕は今、シエルを抱えているため塞がっているはずだ。
(ま、まさかレスト様が蹴って開けたの!?)
穏やかな彼らしからぬ行為に、そんなに怒らせてしまったのかと再び悲しくなってきてしまった。
「エッセさん!上の部屋、借りるよ」
「グレイ?ここは連れ込み宿じゃないぜ」
「バーカ、婚約者だよ!ちょっと秘密の話をしたいんだ」
え、え、え!?
ジャケットの向こうから聞こえる会話にシエルは耳を疑った。
確かにこの優しい香りはあの紅茶店の香りだし、さっきの声は確かにエッセだった。
しかし、だ。
(グレイ?グレイって何?)
ジャケットを被せられて視界が奪われている間に『王族の影』に捕まったということだろうか。『影』とは言わなくても「秘密がある」と表現するだけでも駄目だったということなのか。
ならばレストはどうなったのか。もしも自分の軽率な行いのせいで彼に何かあったら──!
シエルがグルグルと色々なことを考えている間にも、グレイ?はシエルを抱えたまま歩みを止めずに軽々と進んでいく。
「おろすぞ」
少し乱暴な言葉の後、シエルはゆっくりとソファーに降ろされた。ジャケットが取られ、視界が明るくなる。
「え・・・」
目の前にいたのはレストだった。
「・・・エッセさんはグレイって」
レストはシエルが座るソファーの背もたれに両手を当て、彼女が動けないように縫い留めると「そんなことは今どうでもいいから質問に答えろ」と言った。
レストとグレイ──。
シエルにとってはどうでも良くはなかったが、レストのその剣幕に押されて頷いてしまった──。
「俺との婚約自体は嫌じゃないんだな」
「は、はい」
「あんたの言う『話せないこと』って『影』のことか」
「そ、そうです」
「じゃぁ、『気になる人』ってのは誰だ」
「グレイで──あっ!」
そこまで言って、ハッとする。
「よ、良かった──」
シエルが口を押えるのとレストが崩れ落ちたのは同時だった。
レストはシエルが『影』であることははじめから知っていた。任務でラフィーに近付いたことも。
大司教がシエルに『彼女のフォローに回るのに適した人材があなただけなのですよ』と言ったのは『影』をしている同じクラスの女生徒がシエルだけだったからなのだが、ラフィーに第一王子がちょっかいを出していることが予め分かっていたため『王族の影』であるグレイことレストもその任務内容を把握していたらしいのだ。
同じ頃スキル保持者誘拐事件が起こった。
影はそれぞれスキルを持っているとはいえ万能ではないし、悪人の中にもスキル保持者は存在する。
犯人の中になにかしら隠匿系のスキルを持っている人物がいたのか、中々アジトが突き止められないでいた。
レストはシエルとアイスティーを飲んだ時のように積極的に、でもさり気なくスキルを使うことにより、犯人が自身を狙うように仕組み、アジトに案内させるためにわざと誘拐されたらしい。
そうだ。ラフィーの気配を探った時は建物の中にレストの気配を感じたのに、何故か救出した被害者の中にいなかったので不思議に思ったのだ。
そのあとすぐに気力の限界がきたし、翌日学園で会ったためすっかり失念していた。
レストの方はあの時任務のための友人関係のはずのシエルが現れたので驚いたらしい。
そしてあのわずかな関りでシエルに興味と好意を持ってくれたというのだ。
『影』であることは、家族、夫婦間でも秘密にしなければならないが、共に『影』である場合に限り秘密を共有できるそうなのだ。
そのためシエルに話そうとしたのだが、どうも様子がおかしい。話した後に婚約がなかったことになっては守秘義務違反になってしまうため、言えずにいたらしいのだ。
申し訳ないと、シエルは思った。
けれどレストのスキルはアイスティーを冷やしてくれたもので、グレイのスキルは『身体強化』だったはずだ。
「俺はスキルを2つ持ってるんだ」
レストが言う。
シエルは『スキル』について聞いたことを思い出した。スキルの中には魔法といってもおかしくないようなものがあれば、一人で二つの『スキル』を持っている人もいるという話だ。おとぎ話の類いだと思っていたが、本当にいたとは──
『根』を自在に操り気配探知までこなす──魔法のような『スキル』を持っている自覚のないシエルは、もうひとつ気になって仕方のないことをレストに尋ねた。
「あ、あの、俺って・・・」
さっきからレストがグレイ寄りなのが気になる。
「!ごめん、こっちが素なんだ。騙していたつもりはないんだが、『影』と『貴族令息』を使い分けないといけないもんでな」
キョトンとしてしまったシエルにレストは言った。
「これでお互い『影』だって知られたことになる。こうなった以上、あんたは俺から逃げられないから、諦めてくれ」
レストがどこかのドアを開けたらしく、激しい音がした。
しかしレストの両腕は今、シエルを抱えているため塞がっているはずだ。
(ま、まさかレスト様が蹴って開けたの!?)
穏やかな彼らしからぬ行為に、そんなに怒らせてしまったのかと再び悲しくなってきてしまった。
「エッセさん!上の部屋、借りるよ」
「グレイ?ここは連れ込み宿じゃないぜ」
「バーカ、婚約者だよ!ちょっと秘密の話をしたいんだ」
え、え、え!?
ジャケットの向こうから聞こえる会話にシエルは耳を疑った。
確かにこの優しい香りはあの紅茶店の香りだし、さっきの声は確かにエッセだった。
しかし、だ。
(グレイ?グレイって何?)
ジャケットを被せられて視界が奪われている間に『王族の影』に捕まったということだろうか。『影』とは言わなくても「秘密がある」と表現するだけでも駄目だったということなのか。
ならばレストはどうなったのか。もしも自分の軽率な行いのせいで彼に何かあったら──!
シエルがグルグルと色々なことを考えている間にも、グレイ?はシエルを抱えたまま歩みを止めずに軽々と進んでいく。
「おろすぞ」
少し乱暴な言葉の後、シエルはゆっくりとソファーに降ろされた。ジャケットが取られ、視界が明るくなる。
「え・・・」
目の前にいたのはレストだった。
「・・・エッセさんはグレイって」
レストはシエルが座るソファーの背もたれに両手を当て、彼女が動けないように縫い留めると「そんなことは今どうでもいいから質問に答えろ」と言った。
レストとグレイ──。
シエルにとってはどうでも良くはなかったが、レストのその剣幕に押されて頷いてしまった──。
「俺との婚約自体は嫌じゃないんだな」
「は、はい」
「あんたの言う『話せないこと』って『影』のことか」
「そ、そうです」
「じゃぁ、『気になる人』ってのは誰だ」
「グレイで──あっ!」
そこまで言って、ハッとする。
「よ、良かった──」
シエルが口を押えるのとレストが崩れ落ちたのは同時だった。
レストはシエルが『影』であることははじめから知っていた。任務でラフィーに近付いたことも。
大司教がシエルに『彼女のフォローに回るのに適した人材があなただけなのですよ』と言ったのは『影』をしている同じクラスの女生徒がシエルだけだったからなのだが、ラフィーに第一王子がちょっかいを出していることが予め分かっていたため『王族の影』であるグレイことレストもその任務内容を把握していたらしいのだ。
同じ頃スキル保持者誘拐事件が起こった。
影はそれぞれスキルを持っているとはいえ万能ではないし、悪人の中にもスキル保持者は存在する。
犯人の中になにかしら隠匿系のスキルを持っている人物がいたのか、中々アジトが突き止められないでいた。
レストはシエルとアイスティーを飲んだ時のように積極的に、でもさり気なくスキルを使うことにより、犯人が自身を狙うように仕組み、アジトに案内させるためにわざと誘拐されたらしい。
そうだ。ラフィーの気配を探った時は建物の中にレストの気配を感じたのに、何故か救出した被害者の中にいなかったので不思議に思ったのだ。
そのあとすぐに気力の限界がきたし、翌日学園で会ったためすっかり失念していた。
レストの方はあの時任務のための友人関係のはずのシエルが現れたので驚いたらしい。
そしてあのわずかな関りでシエルに興味と好意を持ってくれたというのだ。
『影』であることは、家族、夫婦間でも秘密にしなければならないが、共に『影』である場合に限り秘密を共有できるそうなのだ。
そのためシエルに話そうとしたのだが、どうも様子がおかしい。話した後に婚約がなかったことになっては守秘義務違反になってしまうため、言えずにいたらしいのだ。
申し訳ないと、シエルは思った。
けれどレストのスキルはアイスティーを冷やしてくれたもので、グレイのスキルは『身体強化』だったはずだ。
「俺はスキルを2つ持ってるんだ」
レストが言う。
シエルは『スキル』について聞いたことを思い出した。スキルの中には魔法といってもおかしくないようなものがあれば、一人で二つの『スキル』を持っている人もいるという話だ。おとぎ話の類いだと思っていたが、本当にいたとは──
『根』を自在に操り気配探知までこなす──魔法のような『スキル』を持っている自覚のないシエルは、もうひとつ気になって仕方のないことをレストに尋ねた。
「あ、あの、俺って・・・」
さっきからレストがグレイ寄りなのが気になる。
「!ごめん、こっちが素なんだ。騙していたつもりはないんだが、『影』と『貴族令息』を使い分けないといけないもんでな」
キョトンとしてしまったシエルにレストは言った。
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