【完結】訳あって『王都の影』、やっています

Debby

文字の大きさ
16 / 17

16 諦めてくれ

 バンッ!
 レストがどこかのドアを開けたらしく、激しい音がした。
 しかしレストの両腕は今、シエルを抱えているため塞がっているはずだ。

(ま、まさかレスト様が蹴って開けたの!?)

 穏やかな彼らしからぬ行為に、そんなに怒らせてしまったのかと再び悲しくなってきてしまった。

「エッセさん!上の部屋、借りるよ」
「グレイ?ここは連れ込み宿じゃないぜ」
「バーカ、婚約者だよ!ちょっと秘密の話をしたいんだ」

 え、え、え!?
 ジャケットの向こうから聞こえる会話にシエルは耳を疑った。
 確かにこの優しい香りはあの紅茶店の香りだし、さっきの声は確かにエッセだった。

 しかし、だ。

(グレイ?グレイって何?)

 ジャケットを被せられて視界が奪われている間に『王族の影』に捕まったということだろうか。『影』とは言わなくても「秘密がある」と表現するだけでも駄目だったということなのか。
 ならばレストはどうなったのか。もしも自分の軽率な行いのせいで彼に何かあったら──!

 シエルがグルグルと色々なことを考えている間にも、グレイ?はシエルを抱えたまま歩みを止めずに軽々と進んでいく。

「おろすぞ」

 少し乱暴な言葉の後、シエルはゆっくりとソファーに降ろされた。ジャケットが取られ、視界が明るくなる。

「え・・・」

 目の前にいたのはレストだった。

「・・・エッセさんはグレイって」

 レストはシエルが座るソファーの背もたれに両手を当て、彼女が動けないように縫い留めると「そんなことは今どうでもいいから質問に答えろ」と言った。

 レストとグレイ──。
 シエルにとってはどうでも良くはなかったが、レストのその剣幕に押されて頷いてしまった──。

「俺との婚約自体は嫌じゃないんだな」
「は、はい」
「あんたの言う『話せないこと』って『影』のことか」
「そ、そうです」
「じゃぁ、『気になる人』ってのは誰だ」
「グレイで──あっ!」

 そこまで言って、ハッとする。

「よ、良かった──」

 シエルが口を押えるのとレストが崩れ落ちたのは同時だった。



 レストはシエルが『影』であることははじめから知っていた。任務でラフィーに近付いたことも。

 大司教がシエルに『彼女のフォローに回るのに適した人材があなただけなのですよ』と言ったのは『影』をしている同じクラスの女生徒がシエルだけだったからなのだが、ラフィーに第一王子がちょっかいを出していることが予め分かっていたため『王族の影』であるグレイことレストもその任務内容を把握していたらしいのだ。

 同じ頃スキル保持者誘拐事件が起こった。
 影はそれぞれスキルを持っているとはいえ万能ではないし、悪人の中にもスキル保持者は存在する。
 犯人の中になにかしら隠匿系のスキルを持っている人物がいたのか、中々アジトが突き止められないでいた。
 レストはシエルとアイスティーを飲んだ時のように積極的に、でもさり気なくスキルを使うことにより、犯人が自身を狙うように仕組み、アジトに案内させるためにわざと誘拐されたらしい。
 そうだ。ラフィーの気配を探った時は建物の中にレストの気配を感じたのに、何故か救出した被害者の中にいなかったので不思議に思ったのだ。
 そのあとすぐに気力の限界がきたし、翌日学園で会ったためすっかり失念していた。

 レストの方はあの時任務のための友人関係のはずのシエルが現れたので驚いたらしい。
 そしてあのわずかな関りでシエルに興味と好意を持ってくれたというのだ。
『影』であることは、家族、夫婦間でも秘密にしなければならないが、共に『影』である場合に限り秘密を共有できるそうなのだ。
 そのためシエルに話そうとしたのだが、どうも様子がおかしい。話した後に婚約がなかったことになっては守秘義務違反になってしまうため、言えずにいたらしいのだ。
 申し訳ないと、シエルは思った。

 けれどレストのスキルはアイスティーを冷やしてくれたもので、グレイのスキルは『身体強化』だったはずだ。

「俺はスキルを2つ持ってるんだ」

 レストが言う。
 シエルは『スキル』について聞いたことを思い出した。スキルの中には魔法といってもおかしくないようなものがあれば、一人で二つの『スキル』を持っている人もいるという話だ。おとぎ話の類いだと思っていたが、本当にいたとは──

『根』を自在に操り気配探知までこなす──魔法のような『スキル』を持っている自覚のないシエルは、もうひとつ気になって仕方のないことをレストに尋ねた。

「あ、あの、俺って・・・」

 さっきからレストがグレイ寄りなのが気になる。

「!ごめん、こっちが素なんだ。騙していたつもりはないんだが、『影』と『貴族令息』を使い分けないといけないもんでな」

 キョトンとしてしまったシエルにレストは言った。

「これでお互い『影』だって知られたことになる。こうなった以上、あんたは俺から逃げられないから、諦めてくれ」
感想 1

あなたにおすすめの小説

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。