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7 婚約破棄が成った暁には
しおりを挟む「はい、オーキッド公爵の姪に当たりますの。ローズとお呼びください」
ローズは学年が違うシアンが自分を認識してくれていたことが嬉しくて、とびきりの笑顔で微笑んだ。
やはり高位貴族の血統として、恥じぬよう日頃から所作などに気を遣っていることが功を奏し目に止まったのかもしれない。
「ピルスナー伯爵令嬢、私に何か?」
そう言ってローズを見下ろすシアンの背は頭二つ分高い。制服だというのに、あの日パーティーで見た時と比べても遜色のない見目の良さ。そして何より公爵家の後継だ。
公爵令息と言えばシアンの兄であるジェードがいる。彼も美しく勉学に関しては優秀ではあるが、心を動かされたことはない。それにローズは第二子で兄がいる。いくら自身に相応しい家柄であろうとも後継でない男に用はない。
仮に親が保有している爵位を賜ったとしても、平民に踊らされるような男性がその爵位に見合った働きが出来るとは思わなかった。
パーティーを途中退席したローズはジェードの婚約者が誰かは知らないのだが、ジェードに手を伸ばそうものなら彼の婚約者であるクラレット──メイズ伯爵家とジェード本人からの容赦ない報復が待っていただろう。
やはり自分にはシアン様かロベリー様しかいないのだ。
ローズはキャナリィをロベリーから引き離すためにシアンに諭して貰おうと声を掛けたのだが、無意識にシアンを選択肢に入れていることに気付かない。
「シ・・・フロスティ様はあの噂を聞かれていないのですか?」
思わず「シアン様」と呼びそうになり、あの日のキャナリィの静かな怒りを思い出す。
怒る権利を持ちながらも婚約者の居ぬ間に他の男性に思わせぶりな態度をとるキャナリィがローズにはどうしても許せず、怒りが再燃した。
「あの噂とは?」
シアンがローズに聞き返す。
隣国の学園に留学するにはそれなりに優秀でないと受け入れてもらえないと聞く。そんなところに留学していた彼の事だ。噂を知らぬはずはない。
噂は複数ある。どの噂か?と言ったところかしら。
もしくは、全て承知で敢えてロベリー様とのお茶会にウィスタリア侯爵令嬢を連れていき一緒に過ごすことで垣間見える二人の不貞の証拠でも集めようとしている段階・・・とか?
仮にシアン様がウィスタリア侯爵令嬢を好いていたとしても、不貞を働くような妻は公爵家に迎えるわけにはいかないだろう。
ならば、ウィスタリア侯爵令嬢を諭してくれるように頼むより、証拠集めに協力し、私の印象を良くしておくことの方が──
予定変更だ。
ローズは胸の内を悟られぬよう、シアンを心配するような表情を作った。
「フロスティ様が不在の間、ウィスタリア侯爵令嬢がロベリー様と二人でお出掛けされた、と言う噂ですわ」
「確かにそういう噂があるようだね」
「そ、そのように軽く考えて宜しいのですか?フロスティ様不在の間、お買い物やお茶会で頻繁に二人きりで過ごされているのは事実ですわ。
私、その様なことはやめた方がと進言させていただいたのですが、私にロベリー様のことは諦めろとおっしゃられるだけで──」
目を伏せ、力及ばず申し訳ありません──そう続ける。
きっと、シアンのために陰ながら動いた、健気な──そして便りになる令嬢だと映るに違いない。
「私が居るときは私がキャナを離さないからね。私が留守にしている時位しか隙はないだろう」
そう言ってシアンは何か思うところがあるのかクスリと笑った。
あぁ、この笑顔が私だけに向けられるためならば!
「お赦しになられるのですか?」
「そういう問題ではないんだよ」
あぁ、やはり。
赦す赦さないではない。その段階はとうに過ぎていると、そういう訳ですわね。理解致しましたわ。
「今のウィスタリア様はフロスティ様とロベリー様を両天秤にかけているようにしか思えませんわ。そのような方、次期公爵夫人に相応しいとは思えません。
私、フロスティ様に協力致します」
私はあなたの役に立ちます。だから婚約破棄が成った暁には、私の名前を候補にあげて欲しい。
そんなはしたないことをローズの口からは言えないが、
「では、ひとつ頼まれてくれる?」
魅力的な笑みを浮かべてそう言うシアンに、ローズは蕩けるような笑顔で頷いた。
ローズは学年が違うシアンが自分を認識してくれていたことが嬉しくて、とびきりの笑顔で微笑んだ。
やはり高位貴族の血統として、恥じぬよう日頃から所作などに気を遣っていることが功を奏し目に止まったのかもしれない。
「ピルスナー伯爵令嬢、私に何か?」
そう言ってローズを見下ろすシアンの背は頭二つ分高い。制服だというのに、あの日パーティーで見た時と比べても遜色のない見目の良さ。そして何より公爵家の後継だ。
公爵令息と言えばシアンの兄であるジェードがいる。彼も美しく勉学に関しては優秀ではあるが、心を動かされたことはない。それにローズは第二子で兄がいる。いくら自身に相応しい家柄であろうとも後継でない男に用はない。
仮に親が保有している爵位を賜ったとしても、平民に踊らされるような男性がその爵位に見合った働きが出来るとは思わなかった。
パーティーを途中退席したローズはジェードの婚約者が誰かは知らないのだが、ジェードに手を伸ばそうものなら彼の婚約者であるクラレット──メイズ伯爵家とジェード本人からの容赦ない報復が待っていただろう。
やはり自分にはシアン様かロベリー様しかいないのだ。
ローズはキャナリィをロベリーから引き離すためにシアンに諭して貰おうと声を掛けたのだが、無意識にシアンを選択肢に入れていることに気付かない。
「シ・・・フロスティ様はあの噂を聞かれていないのですか?」
思わず「シアン様」と呼びそうになり、あの日のキャナリィの静かな怒りを思い出す。
怒る権利を持ちながらも婚約者の居ぬ間に他の男性に思わせぶりな態度をとるキャナリィがローズにはどうしても許せず、怒りが再燃した。
「あの噂とは?」
シアンがローズに聞き返す。
隣国の学園に留学するにはそれなりに優秀でないと受け入れてもらえないと聞く。そんなところに留学していた彼の事だ。噂を知らぬはずはない。
噂は複数ある。どの噂か?と言ったところかしら。
もしくは、全て承知で敢えてロベリー様とのお茶会にウィスタリア侯爵令嬢を連れていき一緒に過ごすことで垣間見える二人の不貞の証拠でも集めようとしている段階・・・とか?
仮にシアン様がウィスタリア侯爵令嬢を好いていたとしても、不貞を働くような妻は公爵家に迎えるわけにはいかないだろう。
ならば、ウィスタリア侯爵令嬢を諭してくれるように頼むより、証拠集めに協力し、私の印象を良くしておくことの方が──
予定変更だ。
ローズは胸の内を悟られぬよう、シアンを心配するような表情を作った。
「フロスティ様が不在の間、ウィスタリア侯爵令嬢がロベリー様と二人でお出掛けされた、と言う噂ですわ」
「確かにそういう噂があるようだね」
「そ、そのように軽く考えて宜しいのですか?フロスティ様不在の間、お買い物やお茶会で頻繁に二人きりで過ごされているのは事実ですわ。
私、その様なことはやめた方がと進言させていただいたのですが、私にロベリー様のことは諦めろとおっしゃられるだけで──」
目を伏せ、力及ばず申し訳ありません──そう続ける。
きっと、シアンのために陰ながら動いた、健気な──そして便りになる令嬢だと映るに違いない。
「私が居るときは私がキャナを離さないからね。私が留守にしている時位しか隙はないだろう」
そう言ってシアンは何か思うところがあるのかクスリと笑った。
あぁ、この笑顔が私だけに向けられるためならば!
「お赦しになられるのですか?」
「そういう問題ではないんだよ」
あぁ、やはり。
赦す赦さないではない。その段階はとうに過ぎていると、そういう訳ですわね。理解致しましたわ。
「今のウィスタリア様はフロスティ様とロベリー様を両天秤にかけているようにしか思えませんわ。そのような方、次期公爵夫人に相応しいとは思えません。
私、フロスティ様に協力致します」
私はあなたの役に立ちます。だから婚約破棄が成った暁には、私の名前を候補にあげて欲しい。
そんなはしたないことをローズの口からは言えないが、
「では、ひとつ頼まれてくれる?」
魅力的な笑みを浮かべてそう言うシアンに、ローズは蕩けるような笑顔で頷いた。
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