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6 ローズとお呼びください
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それからシアンが帰って来るまでの間、キャナリィとロベリーは幾度もお茶会で同席した。
勿論クラレットやロベリーに侍っている令嬢が共に席に着くこともあったが、最近では令嬢達のキャナリィへの対抗意識が盛り込まれた会話に落ち着いてお茶が飲めないと、ロベリーが一人で誘いに来ることが増えた。
クラレットがいないときは必然的に二人きりでのお茶会になる。
立ち入りを禁止されているため普段全く分からない特別クラスで巻き起こっている恋愛劇の噂に、学園内──主に一般クラスは今その話題で持ちきりである。
特別クラスの面々は違った視点からその恋愛模様を見ていた。
──次期フロスティ公爵夫人という地位に就くことが約束されている令嬢が何故その様な軽率な行動をとるのか。
前年度の祝賀パーティーの折、噂を鵜呑みにした生徒が多数おり結果就職の内定を取り消されたということもあり、家に持ち帰りその噂の真偽を親に問う者もいたが、今回は他国の貴族が関わっていることもあり、答えは出ないままだった。
暫くしてシアンが領地から無事に帰ってきた為、三人ないしクラレットを加えた四人でお茶を飲むことが増えた。
それはシアンがロベリーとお茶をするときは必ずキャナリィを同伴するからだ。その逆も然り。
ロベリーがキャナリィ個人に近付くことはなくなったが、そんな様子から、シアンはキャナリィとの仲を見せつけ、ロベリーを牽制しているのではないかという憶測を呼び、キャナリィとロベリーが二人きりになることが無くなっても噂は一向に下火にならなかった。
それどころか、キャナリィが二人の男性を侍らせているかのような噂まで広がりだした。
「前にも思ったのだけれど、私がそのような人物に見えると言うことかしらね?心外だわ」
「キャナ様の言動を省みると今回ばかりは仕方のないことかと」
流石のクラレットも呆れたようで、その噂を聞き流していた。
ローズはロベリーのことを諦めてはいなかった。
誰にでも笑顔で優しいロベリーは常に令嬢に囲まれているが、カーマイン公爵家に嫁ぐための条件の一つである『語学力』に於いてローズの右に出るものがおらず、ローズが常に優位であると確信していたためだ。
ロベリーは女性の話にもついてこれる、これまで二か国で過ごしたこともあり機知に富んだ話術は同じテーブルを囲んでいても普通に楽しいのだ。
ある日ローズたちがロベリーを食後のお茶に誘うと、「先約があるから」と断られた。こういう時は決まってシアンとのお茶会だ。──もちろんキャナリィも同席する。
ロベリーをお茶に誘うには複数人である必要がある。何故ならロベリーはキャナリィ以外の令嬢とは二人きりになろうとしないからだ。
それはおそらく婚約者を探している令息ならではの予防線なのだと、ローズは思う。婚約者を探すためとはいえ、手当たり次第に不特定多数の令嬢と二人きりになるわけにはいかないから。
逆に言えば、二人きりでのお茶の誘いを受けてもらえないということは、脈がない、と言うことになる。
遠目にシアンとキャナリィ、そしてロベリーのお茶会の様子を見ていたローズは、不意にあの日キャナリィに言われた言葉を思い出した。
「あなた──ロベリー様のことは諦めなさい」
あの日のキャナリィの様子と自身の醜態に驚き記憶が曖昧だとはいえ、何故今まで忘れていたのか。
そして、シアン様の婚約者である彼女に何故そのようなことを言われなければならないのか。
まさか本当に二人を侍らせて楽しんでいる?
ローズはキャナリィに対し静かな怒りを覚えた──。
「フロスティ様」
ローズはある日、一人でいたシアンに思いきって声を掛けた。
「君は──ピルスナー伯爵令嬢だね」
私のことを知っていてくださった!
その事にローズは当初の目的を忘れ歓喜した。
「はい、オーキッド公爵の姪に当たりますの。ローズとお呼びください」
自身の思う最上の笑顔でシアンに答えた。
勿論クラレットやロベリーに侍っている令嬢が共に席に着くこともあったが、最近では令嬢達のキャナリィへの対抗意識が盛り込まれた会話に落ち着いてお茶が飲めないと、ロベリーが一人で誘いに来ることが増えた。
クラレットがいないときは必然的に二人きりでのお茶会になる。
立ち入りを禁止されているため普段全く分からない特別クラスで巻き起こっている恋愛劇の噂に、学園内──主に一般クラスは今その話題で持ちきりである。
特別クラスの面々は違った視点からその恋愛模様を見ていた。
──次期フロスティ公爵夫人という地位に就くことが約束されている令嬢が何故その様な軽率な行動をとるのか。
前年度の祝賀パーティーの折、噂を鵜呑みにした生徒が多数おり結果就職の内定を取り消されたということもあり、家に持ち帰りその噂の真偽を親に問う者もいたが、今回は他国の貴族が関わっていることもあり、答えは出ないままだった。
暫くしてシアンが領地から無事に帰ってきた為、三人ないしクラレットを加えた四人でお茶を飲むことが増えた。
それはシアンがロベリーとお茶をするときは必ずキャナリィを同伴するからだ。その逆も然り。
ロベリーがキャナリィ個人に近付くことはなくなったが、そんな様子から、シアンはキャナリィとの仲を見せつけ、ロベリーを牽制しているのではないかという憶測を呼び、キャナリィとロベリーが二人きりになることが無くなっても噂は一向に下火にならなかった。
それどころか、キャナリィが二人の男性を侍らせているかのような噂まで広がりだした。
「前にも思ったのだけれど、私がそのような人物に見えると言うことかしらね?心外だわ」
「キャナ様の言動を省みると今回ばかりは仕方のないことかと」
流石のクラレットも呆れたようで、その噂を聞き流していた。
ローズはロベリーのことを諦めてはいなかった。
誰にでも笑顔で優しいロベリーは常に令嬢に囲まれているが、カーマイン公爵家に嫁ぐための条件の一つである『語学力』に於いてローズの右に出るものがおらず、ローズが常に優位であると確信していたためだ。
ロベリーは女性の話にもついてこれる、これまで二か国で過ごしたこともあり機知に富んだ話術は同じテーブルを囲んでいても普通に楽しいのだ。
ある日ローズたちがロベリーを食後のお茶に誘うと、「先約があるから」と断られた。こういう時は決まってシアンとのお茶会だ。──もちろんキャナリィも同席する。
ロベリーをお茶に誘うには複数人である必要がある。何故ならロベリーはキャナリィ以外の令嬢とは二人きりになろうとしないからだ。
それはおそらく婚約者を探している令息ならではの予防線なのだと、ローズは思う。婚約者を探すためとはいえ、手当たり次第に不特定多数の令嬢と二人きりになるわけにはいかないから。
逆に言えば、二人きりでのお茶の誘いを受けてもらえないということは、脈がない、と言うことになる。
遠目にシアンとキャナリィ、そしてロベリーのお茶会の様子を見ていたローズは、不意にあの日キャナリィに言われた言葉を思い出した。
「あなた──ロベリー様のことは諦めなさい」
あの日のキャナリィの様子と自身の醜態に驚き記憶が曖昧だとはいえ、何故今まで忘れていたのか。
そして、シアン様の婚約者である彼女に何故そのようなことを言われなければならないのか。
まさか本当に二人を侍らせて楽しんでいる?
ローズはキャナリィに対し静かな怒りを覚えた──。
「フロスティ様」
ローズはある日、一人でいたシアンに思いきって声を掛けた。
「君は──ピルスナー伯爵令嬢だね」
私のことを知っていてくださった!
その事にローズは当初の目的を忘れ歓喜した。
「はい、オーキッド公爵の姪に当たりますの。ローズとお呼びください」
自身の思う最上の笑顔でシアンに答えた。
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