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プロローグ
通常、罪を犯した者の行く先と言えば監獄や鉱山、国の四方に存在する砦での兵役などの労働が主である。それが貴族であれば領地での蟄居、修道院、生涯幽閉と罪の重さによって選択肢も増えてくる。
しかし100年ほど昔、まだ精霊の加護により魔法を使える者がいた時代、この国には加護持ち専用の犯罪者収容施設が存在していた。
ダンジョン──そこへ堕とされた罪人は二度と戻ってくることが出来ないと言われている、犯罪者たちを心身ともに捕らえる天然の監獄である。
そのダンジョンの最下層を埋め尽くし咲き誇るのは漆黒の百合の花。
「恋」や「呪い」といった花言葉を持つ地上に咲く黒百合と違い、この場に咲く漆黒の百合は純粋で無垢、そしてその大輪の花たちに埋もれ眠る、独りの魂の護り手でもあった。
黒百合と同じ漆黒の髪と瞳。漆黒のドレスを纏うその肌は白く、美しい──人々に「黒百合の魔人」と呼ばれる彼女が今、永遠の眠りから目覚めようとしていた──
*――*――*――*――*――*
「なんでダンジョンって、こんなにオドロオドロシイ場所なのよ~!」
「すべては冒険者ライセンスのためだ。耐えろ!ナナ!」
自分は大丈夫みたいにナナを叱咤するエイトだが、はっきりいってダンジョンを進む彼の足取りはナナと一緒で重く、腰は引けている。
それでもこの階層まで頑張って降りてきた。C級ライセンスの取得条件であるダンジョンの30階層踏破まであと少しだ。
ダンジョンには多数の魔獣が蔓延っており、何故かどんなに討伐しようと減ることもなければ増えることもなく、難易度も変わらない。そして階層を下れば下るほど魔獣のレベルは上がっていき、不気味さも増していく。だからって・・・
「だからって、どんなに強くったって人には得手不得手があるでしょう!?だってのに冒険者ライセンス取得試験の条件にダンジョンの階層クリアを盛り込んだのは一体どこのどいつだぁっ!!!!!!こんなのホラーが苦手な人には絶対不利じゃんかぁぁぁ!」
泣きながらナナが叫び、同時にその手に握った剣で立て続けに4匹の狼型の魔獣の首を切り落とした。・・・自棄になっているようにしか見えない。
二人は地上であればS級に届く実力があると自負している。しかし、ここは暗くて湿っぽい。道は入り組んでいて視界が悪く、いつどこから何が出てくるのか分からないのだ。
暗がりと未確認浮遊精神体、そしてサプライズが苦手な二人がこんなところで実力を発揮できるはずもない。
討伐した魔獣の素材を売れば十分生活出来るのだからナナたちはそれでよかった。
だけど冒険者ギルドに来る依頼の中にはライセンス持ちでないと受けることが出来ない依頼がある。それをナナたちに受けさせたいお偉方から圧力をかけられたらしいギルマスからライセンスを取るよう泣いて頼まれたのだ。ナナたちも泣いて断ったが最終的に哀愁漂う男やもめの涙に負けた形となった。
「お化けが出そうなんですけど」
「要らんことは言うな・・・」
『・・・その様子ではC級止まりだね』
「はぁ?あんた何言ってるのよ!夢は大きく!S級が私たちの最終目標でしょ!!」
さっきまで泣き言を言っていた人の台詞とは思えないが、二人はこのトライで何としてでもS級冒険者にならなければならないのだ。なぜならA級までは登録ギルドがある国の所属となるため指名されると基本的にどんな(に怖い)依頼も断ることが出来ないからだ。
しかしS級になれば国の管理下から外れる。すなわち受ける依頼を選べるのだ。
(怖い依頼を断れる。これ大事!)
仮に今回攻略を途中で断念して中途半端なライセンスを手に入れたとしよう。その日からどんな(に怖い)依頼も断れない、(冷)汗と涙と鼻水に濡れた冒険者人生が待っているし、それが嫌だからとS級ライセンスに再度チャレンジしようとすれば、再び怖い思いをしてここに来ることになるのだ。ここで諦めたナナたちを待つのは究極の二択。だから断固としてこの一度目のチャレンジで最下層まで攻略する必要がある。こんな責め苦、一度で終わらせないと精神が持たない。
しかしそれだけではない。上手く言えないが、ナナはこのトライで絶対に最下層まで行かなければならないと、何故かそんな気がしてならなかった。
「俺じゃない」
ナナの叫びにガタガタと震えながら、エイトが答える。
「え?あんたじゃなかったら誰だって言うのよ!」
『ほぅ、君たちは私の声が聞こえるのか』
「「ひっ!!!!」」
背後から掛けられた第三者の声に、逃げなければと思うけれど足が動かない。
「エイト。実はあたし、あんたのこといざという時便りになるって思ってたのよ(意訳=ちょっと振り向いて確認してよ)・・・」
「俺に嘘はつくな。──ぜっっったいに無理だ!」
「振り向いて確認すれば、他の冒険者の可能性があるかもしれないじゃなぃ・・・」
その可能性が無いことを知っているからか、言葉の語尾が小さくなる。ダンジョン攻略はライセンスの取得試験だ。公平に評価するため、入場は予約制で、一組だけと決められているのだ。
二人ともお互いに譲り合いながら声のする方を確認できずにいると『君たちに折り入ってお願いがあるのだけれど』と、未確認浮遊精神体が二人の前に回ってきてしまった。
「「◯✕△□~──!!」」
バタンッ。
「うわぁぁぁ!マジか!!おまっ、一人だけ楽になりやがってーーー!!!」
ナナは恐怖が閾値を越えたらしく、目を開けたまま気絶してしまった。エイトはそう叫んでナナを肩に担ぐと、一目散に逃げ出した。
しかし100年ほど昔、まだ精霊の加護により魔法を使える者がいた時代、この国には加護持ち専用の犯罪者収容施設が存在していた。
ダンジョン──そこへ堕とされた罪人は二度と戻ってくることが出来ないと言われている、犯罪者たちを心身ともに捕らえる天然の監獄である。
そのダンジョンの最下層を埋め尽くし咲き誇るのは漆黒の百合の花。
「恋」や「呪い」といった花言葉を持つ地上に咲く黒百合と違い、この場に咲く漆黒の百合は純粋で無垢、そしてその大輪の花たちに埋もれ眠る、独りの魂の護り手でもあった。
黒百合と同じ漆黒の髪と瞳。漆黒のドレスを纏うその肌は白く、美しい──人々に「黒百合の魔人」と呼ばれる彼女が今、永遠の眠りから目覚めようとしていた──
*――*――*――*――*――*
「なんでダンジョンって、こんなにオドロオドロシイ場所なのよ~!」
「すべては冒険者ライセンスのためだ。耐えろ!ナナ!」
自分は大丈夫みたいにナナを叱咤するエイトだが、はっきりいってダンジョンを進む彼の足取りはナナと一緒で重く、腰は引けている。
それでもこの階層まで頑張って降りてきた。C級ライセンスの取得条件であるダンジョンの30階層踏破まであと少しだ。
ダンジョンには多数の魔獣が蔓延っており、何故かどんなに討伐しようと減ることもなければ増えることもなく、難易度も変わらない。そして階層を下れば下るほど魔獣のレベルは上がっていき、不気味さも増していく。だからって・・・
「だからって、どんなに強くったって人には得手不得手があるでしょう!?だってのに冒険者ライセンス取得試験の条件にダンジョンの階層クリアを盛り込んだのは一体どこのどいつだぁっ!!!!!!こんなのホラーが苦手な人には絶対不利じゃんかぁぁぁ!」
泣きながらナナが叫び、同時にその手に握った剣で立て続けに4匹の狼型の魔獣の首を切り落とした。・・・自棄になっているようにしか見えない。
二人は地上であればS級に届く実力があると自負している。しかし、ここは暗くて湿っぽい。道は入り組んでいて視界が悪く、いつどこから何が出てくるのか分からないのだ。
暗がりと未確認浮遊精神体、そしてサプライズが苦手な二人がこんなところで実力を発揮できるはずもない。
討伐した魔獣の素材を売れば十分生活出来るのだからナナたちはそれでよかった。
だけど冒険者ギルドに来る依頼の中にはライセンス持ちでないと受けることが出来ない依頼がある。それをナナたちに受けさせたいお偉方から圧力をかけられたらしいギルマスからライセンスを取るよう泣いて頼まれたのだ。ナナたちも泣いて断ったが最終的に哀愁漂う男やもめの涙に負けた形となった。
「お化けが出そうなんですけど」
「要らんことは言うな・・・」
『・・・その様子ではC級止まりだね』
「はぁ?あんた何言ってるのよ!夢は大きく!S級が私たちの最終目標でしょ!!」
さっきまで泣き言を言っていた人の台詞とは思えないが、二人はこのトライで何としてでもS級冒険者にならなければならないのだ。なぜならA級までは登録ギルドがある国の所属となるため指名されると基本的にどんな(に怖い)依頼も断ることが出来ないからだ。
しかしS級になれば国の管理下から外れる。すなわち受ける依頼を選べるのだ。
(怖い依頼を断れる。これ大事!)
仮に今回攻略を途中で断念して中途半端なライセンスを手に入れたとしよう。その日からどんな(に怖い)依頼も断れない、(冷)汗と涙と鼻水に濡れた冒険者人生が待っているし、それが嫌だからとS級ライセンスに再度チャレンジしようとすれば、再び怖い思いをしてここに来ることになるのだ。ここで諦めたナナたちを待つのは究極の二択。だから断固としてこの一度目のチャレンジで最下層まで攻略する必要がある。こんな責め苦、一度で終わらせないと精神が持たない。
しかしそれだけではない。上手く言えないが、ナナはこのトライで絶対に最下層まで行かなければならないと、何故かそんな気がしてならなかった。
「俺じゃない」
ナナの叫びにガタガタと震えながら、エイトが答える。
「え?あんたじゃなかったら誰だって言うのよ!」
『ほぅ、君たちは私の声が聞こえるのか』
「「ひっ!!!!」」
背後から掛けられた第三者の声に、逃げなければと思うけれど足が動かない。
「エイト。実はあたし、あんたのこといざという時便りになるって思ってたのよ(意訳=ちょっと振り向いて確認してよ)・・・」
「俺に嘘はつくな。──ぜっっったいに無理だ!」
「振り向いて確認すれば、他の冒険者の可能性があるかもしれないじゃなぃ・・・」
その可能性が無いことを知っているからか、言葉の語尾が小さくなる。ダンジョン攻略はライセンスの取得試験だ。公平に評価するため、入場は予約制で、一組だけと決められているのだ。
二人ともお互いに譲り合いながら声のする方を確認できずにいると『君たちに折り入ってお願いがあるのだけれど』と、未確認浮遊精神体が二人の前に回ってきてしまった。
「「◯✕△□~──!!」」
バタンッ。
「うわぁぁぁ!マジか!!おまっ、一人だけ楽になりやがってーーー!!!」
ナナは恐怖が閾値を越えたらしく、目を開けたまま気絶してしまった。エイトはそう叫んでナナを肩に担ぐと、一目散に逃げ出した。
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